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~勇者が行く~  作者: 創造主
第四部
130/196

【130】巨悪との遭遇

悪い予感が的中し、案の定車は大爆発。

事故るのはともかくなぜ大破なんだ。なぜ戦闘よりも移動の方が命懸けなんだ。


「ふぅ~…やれやれ、酷い目に遭っ…だ、大丈夫か盗子!?その潰れた顔は…!」

「生まれつきだよっ!顔が潰れてこんなピンピンしてる方がある意味大丈夫じゃないよね!?」

「すすすすみません先輩方!よ、良かれと思って付けた脱出機能がよもやの大惨事を…!」

「ったく勘弁してくれよ栗子。勢い余って現世から脱出しかけたぞ。」

「てゆーかアタシは屋根にしがみついてたんだよ!?生きてるの奇跡だよ!」

「ま、まぁいいじゃん二人とも。なんか村っぽい所までは来れたわけだし…ね?」


 賢二の言う通り、一同は運良く目的のチーキユ村付近まで辿り着いていた。

 全員無事だったことも含め、運がいいやら悪いやら。


「ったく…甘い奴め。お前を食う魔獣はきっと虫歯になるなぁ賢二よ。」

「や、やめてよなんか現実になりそうで怖いから…」

「それが賢二の…最期の言葉だった。」

「いや、変なナレーション付けるの冗談でもやめてくれる!?」

「…冗談?」

「へ…?」


 賢二の背後に巨大な影が。


「グルルルルルルゥ~!!」

「うひゃーーー!!えっ!?うひょーーーーー!!」


 賢二は謎の魔獣に頭部を掴まれプランプランしている。


「それが賢二の最期の言葉だった。」

「いや言葉になってないし!それにそんな最期じゃ死んでも死に切れ…なんでそんな冷静なの勇者君!?」

「どどどどーしましょ!?賢二先輩死んじゃう!?プチッと握りつぶされちゃったり!?」

「そうか?俺にはジャレてるように見えるが。」

「フザけすぎだよ勇者!どこの世界に頭を鷲掴みにするジャレ方があんのさ!ねぇ賢二!?」

「ペルペロスを…思い出すなぁ…」

「経験済み!?てゆーか今アンタ見てんの走馬灯!?」


 賢二はどこか遠くの方を見ている。


「チッ、仕方ない。ならば城で手に入れたこの剣の試し斬りといこうか。大した代物じゃなさそうだが足りない分は技でカバーだ。」

「グルオアアアアァ~!!」


 魔獣は勇者を威嚇した。

 だが勇者には効果が無かった。


「悪いな魔獣、そんな奴でも大事な…大事な…大事な?」

「そこはなんとか言ったげてよ!無理してでも何かを!」

「わ、わた!だだだ大事ですよ!け賢二先輩は、とっても大事な…一大事?」

「ハイそこ!言うなら言う!言えないなら黙っとく!」


「グオォオオオオオォ~!!」

「えっ!ちょ、わっ!?お、お助けぇーー!!」


 魔獣は賢二を掴んだまま飛び立った。


「うわぉ!ととと飛び去りやがりましたよ!?どどどっか行っちゃいますよ!?」

「賢二…無茶しやがって…!」

「アンタは無茶どころか何もしてないよね!?いや、まぁアタシもだけども!」


 みんな何もしてない。



そんな感じで鮮やかに消えていった賢二。

毎度のことだが、いつ見ても見事な消え方だな…などと考えていると、見知らぬ老婆が声をかけてきやがった。


「やれやれまた悪さかい…まったく飼い主に似て困った化け物だよ。」

「フン、出たな化け物…この俺がブッた斬ってやる!」

「そうそう化け物…って誰が化け物じゃ失敬な!ワシのことじゃないわっ!」

「フッ、気にするな。どうせもうじき死んで“そっち側”の世界に行く身だろ?」

「何を言うかい!アタシゃあと三百年は生きるんじゃ!」

「いや、それこそ化け物の仲間入りじゃない!?てゆーかお婆ちゃん、アンタ一体誰なのさ?」


 盗子が尋ねると、老婆は深いため息をついた。


「ふぅ…まったく、“新王”といい最近の若いモンはどうしてこう小生意気な…」

「シンオウ~?あっ、“王様”ってこと!?お婆ちゃん王族と知り合いなの?」

「んにゃ、先日村に来た時に少しだけ…ね。もう王都に戻ってしもうたが…何を考えてるか見えん子じゃったよ、まったく…」

「へ、変な王様なんですね。さささすがきょきょ凶死先生の故郷…的な?」

「なっ…凶死…じゃとぉ!?ヌシらまさか、“前王子”を知る者かね!?」


 栗子の口から出た意外な名に、驚く老婆。

 そして老婆の口から出た意外な肩書に、逆に盗子が驚いた。


「えっ、前王子って…先生ってば王族だったの!?じゃあその新王ってゆーのは、まさか先生の…!」


「ふむ、その名も『絞死コウシ』…失われし狂国を五歳にして蘇らせた、げに恐ろしき小僧よ。」


チッ、新たな『魔王』降臨か…!


 違うと言い切れないから困る。



チーキユ村で出会った婆さんが言うには、なんとこの魔国は先公の故郷なだけでなく、今は奴の落とし子が後を継いでいるのだという。

近寄らない方が得策だとも思うが、そう考えてると逆に出会っちまうのが世の常…ならばこちらから打って出るべきだろう。


「というわけで、乗り物を用意してみたぞ。」

「ギャーーーオ!!」


 勇者は謎の翼獣にまたがっている。


「えぇっ!?だ、大丈夫なのこれ!?てゆーかどこで見つけてきたの!?」

「さっきそこで捕まえた。空飛べそうだし使えると思ってな。」

「ずず図鑑でも見たことない品種…品種改良?あ、あの先生のお子さんならあり得ますですね…」

「ま、とにかく行こうじゃないか。聞けばまだ五歳…悪の芽は早めに摘んじまうに限る。」

「でででも先輩!ま、まだ悪者て決まったわけじゃないとかそうでもないとか…」

「俺は気にしない。」

「気にしようよ!そんな適当な感じで殺されたら誰もがたまんないよ!?明日は我が身なアタシは震えが止まんないよ!」

「まぁあの先公のガキだ、どうせタダ者じゃあるまい。フッ…楽しみだぜ。」


 誰も賢二には触れない。




そして、勢いに任せて魔獣に乗り飛び立った俺達だったが…大事なことを忘れていた。そう、クソ寒い。

ぬぉおおおおおおっ!こ、この俺としたことが、なぜもっと厚着をしてこなかっ…死ぬ…!

といった感じで生と死の狭間をさまよいつつも、なんとかギリギリで目的地が見えてきた。


「おぉ~、見えてきたね見えてきたねー!な、なんか…おっかない形のお城が…」


 盗子が指差した先…異形の城がそびえるその都は、“狂国”と称される魔国の王都『イラモ』。凶死の子、絞死によってつい最近蘇ったとは思えないほどの風格が溢れ出ており、栗子は震えが止まらない。


「おおおおっかないですね~!ふふ震えが止まらんですよぉ~!」

「フフフフッ、おおお俺には敵わんだろうがなななっ!」

「だ、大丈夫勇者!?なんか唇がありえない色になってるよ!?」

「お前の方がありえない。」

「なんでそんな時ばっか震え止まるの!?その気合いの入れ方はなに!?」

「よよよよし行くぞお前ら!もももうすぐ城だ、ととと飛び移るぞっ!」

「ととと飛び移るですか!?なななぜにそんな無茶な急ぎ方をば!?」

「さささ寒いからだ!」

「さささ寒いからですか!」

「そそそそうだ!」

「そそそそうですか!」

「うるっさいよっ!!もう敵地だって緊張感ないわけ!?」

「お前の方がうるさい。」

「だからどもれよぉーー!うわーーん!!」


 やっぱり盗子がうるさい。




ガッシャーーン!


「う…うぉおおおお!室内だー!あったかいぜチックショウ!ヒャッホーーィ!」


 勢いよく天窓をブチ破り、派手に城内へと侵入した勇者一行。

 すると当然のように兵士達に取り囲まれた。


「だ、誰だ貴様らは!?ここが魔国城だと知っギャーーー!!」

「チッ、だが隙間風が酷いな…。まったくフザけた手抜き建築だぜ!」

「いや、そりゃお前が天窓ブチ破っギャーーー!!」

「フン、雑魚に興味は無い。絞死とかいうガキを差し出すがいい人間ども!」

「え、なにアンタその人外な感じのポジション!?」

「ちょ、先輩方…!ううう後ろをば…!」


「やれやれ…なんですか騒々しい?抜き打ちパーティーか何かですか?」


 暗がりから教師によく似た銀髪の子供が現れた。

 金の兜を目深に被り、父と同じく目元は見えない。

 勇者らとは十歳近く違う少年に見えるが、突然の敵襲にも平然としている。


「ふむ、貴様が絞死だな?確かにあの先公に似た空気をまとっていやがる。」

「先公…ということは父をご存知の方で?」

「全く知らん。」

「そうですか、じゃあ死んでください。」

「無意味な嘘つかないでよ勇者!知ってるでしょうがむしろ忘れたくても忘れられないくらいにっ!」

「そうなんですか?じゃあ死んでください。」


 結局死んでください。


「まぁ焦るなよクソガキ、自分を殺す相手の名くらい知っておいて損は無いぞ。」

「アナタ方のことは知っていますよ。父の日記にあった通りですね、勇者さん?」

「日記?意外だな…。なんだ、『学園校の蒼き閃光』とでも書いてあったか?」

「困った生徒だと。」


 確かにそうだが日記に残すほどの情報でもなかった。


「じゃ、じゃあアタシは?盗子ちゃんについても何か書いてあったり…?」

「盗子という子だけは知らないと。」

「え、なんで名指しで否定!?それなんか矛盾してない!?」

「みたいな扱いでいいと。」

「そんな扱い代々伝承されても困るんだけど!?」


 そんな感じで盗子が大騒ぎしている隙に、勇者は栗子に小声で話しかけていた。


「栗子…お前は賢二を探して来い。俺の読みが確かなら、この城のどこかにいるはずだ。」

「えっ、まままマジっすか!根拠は何です!?」

「あの魔獣がホントに奴のペットなら、帰巣本能くらいあるだろう。道中に似た羽根が落ちてるのも見たしな。そしてなにより、賢二はここに来るのを心底嫌がっていた…となると、まぁきっといるだろう。」

「か、悲しい運命ですね…。まぁ先輩らしいですけど…」


 まったくもって想像に難くなかった。


「あ~、賢二さんをお捜しですか?確かにいらっしゃいますよ、地下牢に…ね。」


 絞死は特に悪びれる様子もなく答えた。


「そ、そそそんな…!こここんな極寒の地の地下牢にブチ込むとか…先輩かわいそう…!」

「いや、檻の中の方が安心できると。」

「せ、先輩らしいというか…もはや想像を超えてきたというか…」

「なんだか…緊張感の無い方々ですね。もしかしたらアナタ方が、最近動き出したという『大魔王』の一派かもと思っていたのですが、どうやら違うようです。」

「大魔王…?フン、俺に断りもなくそう名乗る輩が現れたってのか?生意気な!」

「じゃあもし誰かが断り入れに来たら承認できる立場なの勇者…?」


 そんな盗子の疑問はもちろん無視し、勇者は絞死に語り掛けた。


「とまぁ冗談はこのくらいにしよう。あの先公のことだ、さっき言ってた日記といい、死を予期して何かしら託してるに違いない。他にも何かあったろう?」


 想定外の勇者の問いに、絞死は一瞬表情がこわばった。


「…いいえ?特に無いですよ。いいからもう死んでください。」

「だってよ盗子?」

「なぜにこっち見る!?」

「とにかく…私には王として、国を守るという責務があります。不穏分子は排除するのみです。」

「まぁ安心しろ絞死、お前が言ってた『大魔王』とやらが何者かは知らんが、目立つ動きを見せるならいずれは俺の目にも留まる。その時に始末されることになるだろう。」

「アナタにその力があると?」

「無論だ。魔神亡き今、この俺に敵う者なんぞ…」


ガッシャーーン!


 その時、再び天窓をブチ破り誰かが降りてきた。


「う…うぉおおおお!室内だー!あったか…む?」


 なんと!麗華が現れた。

 その姿を見て勇者の笑顔がこわばったのを、絞死は見逃さなかった。


「敵う者なんぞ…?」

「フッ、いないでもない。」


 魔力も剣も無い現状ゆえ、勇者は強がる気も起きなかった。


「なんだよ麗華、妙な所で会うじゃないか。貴様も城攻めか?」

「むっ、勇者?なぜ貴様が…いや、それより凶死殿のご子息は?火急の用があるのだ。」

「私ですが何か?新聞、宗教、拷問器具なら間に合ってますが?」

「最後のも間に合っちゃってるの!?そんでなんでアタシを見んの!?」


 血縁的には疑う余地が無かった。


「おぉ、こんなにすぐ出会えるとは僥倖だ。そう言われればよく似て…じゃない、雑談は後だ!とにかく急ぎこの地を離れよ!」


 麗華は珍しくうろたえている。


「オイちょっと待てよ麗華、いきなりすぎて意味がわからん。ちゃんと説明を…」

「お前達も急ぐがいい。我がしもべ『人獣奇兵団』も…そう長くはもつまい。」


ガッシャーーン!


 そして三度、天窓が砕け…今度は傷だらけの男が落ちてきた。

 どう見てももう助からないだろう傷を負ったその男は、かつて麗華に敗れ、その配下となった『人獣奇兵団』の長…あの宿敵の兄である『強敵トモ』だった。


「ハァ、ハァ、す、すまねぇ姐さん…もう…限界みたい…だわ……」

「ちょっ、誰なのアンタ死にそうじゃん!こんな…こんな酷い傷…」


 その傷のあまりの酷さに盗子は絶句した。


「なぜみなさん天窓を割って…」


 絞死は絞死で絶句した。


「強敵!オイ強敵…!チッ、まずいな…仕方ない備えろ!来るぞ、“奴”がっ!」


ガッシャーーン!


 麗華が言うのと同時に、全ての天窓が砕け散った。

 そして―――



「おじゃましまーす。」



 凄まじく軽いノリで現れたのは、真紅のマントに身を包んだ少年。

 麗華は鋭い目つきでその少年を睨みつけた。


「やはり、そう簡単には逃れられぬか…『大魔王:救世主』!!」


 『大魔王』が現れた。

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