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~勇者が行く~  作者: 創造主
第四部
128/196

【128】序章

 勇者らの奮闘により魔神は倒れ、世界の平和は守られた。

 誰もが…そう思っていた。


「それではこれより、『皇女お披露目の儀』を執り行う。」


 そこは帝都にそびえる帝城『式典の間』。その荘厳な祭壇の上に立つのは、司祭と…身の丈に合わない豪華なドレスに身を包んだ盗子。

 盗子の逃亡未遂で一度は流れた、彼女を正式に『皇女』として迎え入れるための式典が、改めて催されることになったのだ。


「汝、天の子『塔子』よ。今さら沸いて出てきた汝でも『皇女』と認めてやるから超喜べ。」

「えっ、なにその驚くべき上から目線!?ホントに司祭なのアンタ!?」

「オケーイ!天も仕方なく認めたことにして、これで儀式はフィニッシュです!どうぞー!」

「ちょっ、もう終わり!?アタシまだ何も…てか“ことにして”って何!?」


「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 凄まじく適当な式典にも関わらず、なぜか湧き上がる大歓声。

 その時、同じく帝城の『展望の間』では、朝から姿が見えなかった勇者を賢二が見つけたところだった。


「あ、こんな所にいたんだね勇者君。凄い盛り上がりみたいだよ式典?」

「フン、暇人どもめ。俺は俺が主役の集まり以外に興味は無い。あぁ、あと姫ちゃんな。」

「でも変な気分だよね…。あの盗子さんが、末は世界の最高権力者なんだよ?」

「ん…?ふむ、最高権力…か…」

「あれ…?ここはいつもなら“そんなの認めるか!”ってキレるとこじゃない?」

「いいや、認めるよ。奴がトップ…それを国民が認めたなら好都合だ。」

「ゆ、勇者君…?」


「奴が相手ならば、奪うのは容易だ。」


 帝都に悪の魔の手が。




帝都を去ろうとして思いとどまってから数日後、なんともムカつくことに盗子の奴がホントに『皇女』になりやがった。人が終末から救ってやったばかりだってのに相変わらず世も末だとはこれ如何に。

だが正直、そんなことは今の俺にとっては些末な問題。気になることは他にある。


というわけでその夜、調べたいことがある俺は芋っこの部屋へと向かった。


「よぉ芋っこ、相変わらず芋臭い部屋だなオイ。」

「あ~お久しぶりね。先輩も式典見に来てたのね。あ、芋食べる?」

「残念だったなぁ。奴さえいなけりゃお前が玉座で威張り散らせたのにな。芋は要らん。」

「別に興味ないわ。ワタイは芋さえ食えれば問題ないし、むしろ面倒は御免。」

「だが『皇女』じゃなくなるんだろ?果たして今まで通り食えるかどうか…」

「早急に暗殺部隊を組織するわ。」

「その執着が国政に向けば、いい王になると思うんだがな…」

「ま、意外と問題ないわよ。皇女じゃなくても皇族は皇族だしね、権威としては十分じゃない?」

「フッ、そうか…それを聞いて安心したぜ。」

「やっぱりね、何か頼み事があるんだとは思ってたわ。で、何なの?何芋?」


「全国から『歴史家』をかき集めろ。『人神大戦』…その詳細を知る者をな。」


 決して盗子には頼らない。



そして数日後…。

俺が賢二と帝都の書庫で調べ物をしている所に、芋子の執事の老紳士が現れた。


「おぉ勇者殿、ここにいらしたか。探しましたぞ。」

「なんだ、遅かったじゃないか。歴史家集めの調子はどうだ?」

「そ、それが…残念なお知らせがあります。全国の歴史家、その全てが…惨殺されました。」

「なっ!?お…俺じゃないよな賢二?」

「なんで自信無いの!?無意識にやっちゃう行為じゃないよ!?」

「犯人は現在調査中です。ただ、全員が同じ日に…まず同じ一派でしょう。」

「チッ…だがどうやら俺の読み通りらしいな。恐らく敵はまた、旧世代の奴らに違いない。」

「そ、そんなぁ…やっぱりまだ終わってなかったなんて…」

「チッ、やれやれどうしたものか。情報が無いんじゃどうにも…」


「おやおや、お困りですかな勇者様?」


 勇者と賢二がが途方に暮れていると、どこからか洗馬巣が現れた。


「むっ…?そうか、そういや貴様は長寿の化け物の類だったな。その感じ…どうやら何か知ってるらしい。」

「あっ、まさか洗馬巣さんも当時戦ってたクチだったりするんですか…?」

「いえいえ、もう歳でしたので。」

「貴様は一体何歳なんだ。」

「で、何を聞きたいのですかな?詳しくは知りませんが、それでも良ければ。」

「ふむ。古代神…十二の神は、誰かが呼び寄せた可能性があると…俺達はそう考えているんだ。」

「らしいですねぇ。」

「えっ…アレレ!?なんか想像してた答えと違くない勇者君!?」

「オーケー、すまんが一分前からやり直させてくれ。今お前らは幻聴を聞いた。」


 勇者は恥ずかしくなってやり直しを要求した。

 だが洗馬巣は構わず続けた。


「確か…『覇王:欧剣オウケン』殿が黒幕だったとか違うとか。」

「欧剣?“十賢人最強”とか言われつつも魔神にサクッとやられたと聞いたが?」


「…いいや、生きていたのだよ。死んだように見せかけて…な。」


「なっ、貴様は…!」

「ひっ、ひぃいいいい!!」


 音も無く校長が現れた。

 相変わらず黒幕感が半端なく、賢二は軽くチビッた。


「おぉ、これはこれは理慈殿。その歳にしてそのツヤツヤ感、羨ましいです。」

「アナタも変わらないですな洗馬巣さん。怖ろしいほどに。」

「よぉ、霊山以来だな校長。何しに来たんだよ、遊びに来たわけじゃあるまい?」

「ふむ…かねてより不穏な気配のあった『メジ大陸』に、動きがあってな。」

「メジ大陸…なぜか歴代『魔王』の多くが城を構えるという謎の大陸か。」

「その不穏な動きって、具体的にどんなことがあったんですか校長先生?」

「築城だよ。誰の物ともわからん城の建造が、魔神陥落と時を同じくして完成したのだ。かつて作りかけで止まっていた、五百年前の城がな。」

「オイオイ城かよ…さすがの俺でも恐縮するぞ。」

「えっ、なんで自分用だと思えちゃうの?まぁ確かに似合ってはいるけども。」

「だが貴様のことだ校長、既に何かしらの対策は打ったんだろう?」

「ふむ。既に先遣隊は派遣してある。ここ数日連絡が無いのが…少々気がかりだがな。」



 その頃、校長の言う先遣隊が派遣されたメジ大陸のとある城内では、勇者の級友だった宿敵が大ピンチに陥っていた。


「くっ、僕らの部隊も残り二人…他はどうです?『風読師』の能力ならわかりますよね?こうなったら集結しないと…!」


 宿敵が話しかけたのは、三学年上の先輩にあたる美風。

 魔神討伐に引き続き、今回も校長の要請を受けて任務にあたっていた。


「オーケー、風を読んでみるわね………うん、全滅。ヤッバいわー。」

「ぜ、全滅ってそんな馬鹿な…!結構な大軍で押し寄せたのに!?」

「間違いないわね。周囲数キロ圏内の情報は、風が教えてくれるのよ。」

「じゃあカレンとかいう子とそのファン『歌憐隊』のみなさんは!?確か千人はいたかと…!」

「だ・か・ら・全・滅!大人数っていってもアイドルオタクの戦闘力なんて知れてるっしょ?」

「な、なら白って先輩は!?確か『もやし』とかいう謎の職業だとか…」

「早々に…」

「くっ、なんてことだ…!」

「だから今日は晴れだってあれほど…」

「え、太陽光で自滅!?逆によく今日まで生きてこられましたね!」

「てなわけで、先遣隊で残ってるのはもうアタシらだけよ。なんかもう美風さん諦めモード。」

「だ…駄目だ諦めちゃ!大丈夫、諦めなきゃきっとなんとかなりますから!」

「へぇ~前向きねぇ宿敵ちゃん。なんか根拠でもあるわけ?」

「ぼ、僕は今まで…死んだことがない。だからだっ!!」


 宿敵は全力で強がった。




 そして再び場面は帝都。

 校長は裏切り者とされる欧剣について、知る限りのことを話そうとしていた。


「あれは『勇者:救世主メシア』が、魔神を封じようとした時のこと。死んだと思われていた欧剣が現れ、救世主に襲い掛かったのだ。」

「魔神のあの咆哮を受けて生き延びれるわけがない。周到に用意し、事を進めたんだろうな。で、決着はどうなったんだよ校長?」

「残念だが私が見たのはそこまでだ。封印の際、巻き込まれぬよう島から飛び降りた直後の出来事だったのでな。」

「決着がわからんってことは…つまりどちらも戻らなかったってことか?」

「いいや、欧剣の死は確定している。術式完了直前に亡骸が降ってきたのでな。だが救世主…彼の方は行方知れずだ。術の発動以降、あの子を見た者はいない。」

「てことは、そいつも死んで海の藻屑と消えた感じか?」

「それはわからん。だが何年も探したよ、手は尽くした。」

「そうなのか。」

「指名手配もした。」

「じゃあそのせいだろ。」


校長によると、魔神封印時のドタバタを狙って救世主を仕留めようとした欧剣は、見事に返り討ちにあって死亡したのだという。

ということは、十二神を地球に呼び寄せた諸悪の根源はもう滅んだということになるのだろうか。

いや、まだわからん。万一の事態に備えて情報はもう少し集めておきたい。


「さて…では私はそろそろ行くとしよう。まだ用は済んでいないのでな。」

「ちょっと待て校長、その前に教えろ。全ての神どもの末路…知っている限りを話すがいい。まだ名前も知らん奴が何人かいるんだ。」

「ふむ…いいだろう。神へのトドメは、その能力ゆえ可能な限り錬樹が刺した。」

「あぁ、そういや自分で殺した奴だけ武具に練成できるって言ってたなぁ。どのくらい倒したんだ?」

「彼が倒したのは『破壊神』『鬼神』『風神』『雷神』…結果的に『守護神』もそうか。」

「んで『邪神』『暗黒神』『魔神』は封印され…八体だな。残りの四体は誰がやった?」

「『死神』は私だ。」

「わかってる。」

(今のはなんか意味が違うような…)


 賢二は勇者の真意に気付いたが触れるのはやめた。


「残る『竜神』『太陽神』『女神』は救世主が倒した。チリも残らぬほど、跡形も無く消し去ってな。」

「跡形も無く…?よくわからんな、ちょっと賢二で試してみてくれ。」

「え、なんでっ!?」




その晩。夕飯でも食おうと賢二と城下町へと出かけた俺。

するとそんな俺達の前に、クミルシティで会った謎の占い師が再び現れたのだ。


「あて無き道行く、彷徨える子羊よ。道が欲しくば授けよう。」


「よぉ謎のローブの占い師。前の占いはことごとく的中したよ、やるなぁ貴様。」

「あ、勇者君お知り合いなの?」

「時は来た。終わりの始まりが、世を混沌へと導くだろう。」

「うむ、さっぱりわからん。できればチョメ太郎語で話してくれ。」

「もっと難解にしてどうするの!?」

「西の大地を目指すがいい。そこで汝は、運命の選択を迫られるだろう。」

「西って…『メジ大陸』を指してるのかなぁ?さっきの話の流れだと…」

「まるで閉店セールが如く、盛大に別れが大バーゲンだろう。」

「なにその死亡フラグ!?そ、その特価品の中に僕はいますか!?ねぇ!?」

「チッ、やはり戦いが待っているんだな…。それも、魔神戦より大きな…」


「心して行くがいい勇敢なる者よ。終末は、すぐそこまで迫っているのだ。」



前回と同じく、また一瞬よそ見した隙に占い師は消えていた。

やはりタダ者では無さそうだが、面倒だし今は気にするのはやめよう。


「ふぅ…仕方ない、どうやら旅立つしか無さそうだな。運命ならば、どのみち逃げられまい。」

「僕も…なんだよね?ハァ~…。で、どうしよう?今回は誰を誘って行く?」

「例のごとく姫ちゃんは見当たらないしな…」

「もう習性と思って諦めようよ…。あ、でもこの帝都ならきっと強い兵隊さんとかいるよね?」

「…いや、帝都の民は信用ならん。皆には黙って、俺達だけで向かうとしよう。」

「え、どういうこと…?何か思い当たるフシでもあるの?」


 言葉の意味が分からず不安がる賢二。勇者は言うべきか悩んだが、賢二ごときに気を遣う方が面倒だと気付き、自分の考えを聞かせることにした。


「魔神戦に駆け付けた黒錬邪は、帝牢から逃げたって話だが…奴には『呪縛錠』が無かった。妙だとは思わんか?」

「あっ、そういえば簡単には外せないはず…!」

「起きたら牢の外にいたとか言っていたがそれも不自然だ。世界一と言われる牢獄から、そう簡単に単独で逃げ出せたとは思えん。」

「そ、それって誰かが手引きしたってこと…!?」

「わからん。だが今にして思えば、かつて五錬邪ごときが帝都を壊滅寸前に追い込んだってのも不可解だ。あの頃の俺達にとっちゃ厄介ではあったが、奴らそこまで強かったか?」

「確かに…。黒幕だった黄錬邪さんの洗脳も万能じゃなかったって話だし…あっ、じゃあその時いたっていう二代目黄錬邪さんが凄く強かったとか?」

「さっき帰り際に洗馬巣に聞いたが、そこまでじゃなかったようだぞ。それに攻め込んだ五錬邪の中で唯一死んでるしな。気になるのはそいつの強さじゃなく、奴らが仮面を付けていて…中身が誰かわからんってところだ。」

「ハッ!つまりそれって…二代目黄錬邪の中の人は実は生きてて、でもって帝都の内情を知る誰かってこと…!?」

「ああ、裏切り者がいる可能性がある。下手すると…かなり近くにな。」

「そ、そんな…!」


 そんな勇者の勘が、残念ながら当たっていたということを彼らが知るのは…少し先のこととなる。




「さて…と。」


校長らに話を聞いてから数日が過ぎた。

占い師の話も俺の憶測も、どちらも不確かなものでしかないが、じっとしていても仕方ない。

最悪の事態を考え、備えておいて損は無いだろう。


「よし、行くぞ賢二!相当な長旅だ、まずは膝の屈伸からー!」

「えっ、徒歩なの!?『飛行鳥』とか借りていけば、もっと早く安全に着くんじゃない…?」

「確かにそうだがそりゃ駄目だ。なぜなら今の俺には…むっ、上かっ!?」


 勇者は上空を見上げた。

 なんと、空から美風が降ってきた。


「あ、アナタは学園校の先輩の…美風さん!?」

「貴様は確か『風読師』…!人間のくせに風に乗って飛んでくるとは生意気な!」

「ゆ、勇者ちゃん…?良かった…ちゃんと…会えた~…」


 美風は今にも死にそうなほど血塗れだった。


「酷い傷…!どうしたんですか美風!大丈夫ですか!?」

「勇者ちゃん、大変…!宿敵ちゃんが…!」

「なっ!?ら、宿敵………って?」

「えっ!?」


 話の前提が違った。




 時を同じくして、場所は西の大地『メジ大陸』。

 勇者達の目的地となるその地に、一足先に乗り込んでいた黒い影があった。


「ふむ、懐かしいなこの空気…いつぶりだろうか。」


 影の正体は校長。長旅を覚悟した勇者とは対照的に、最短距離で噂の城へと攻め込んでいた。

 そこかしこに先遣隊の亡骸が転がっている。


「…で、いつまで見ている気だ?このままでは済まんのはわかるだろう、貴様ならな。」


 校長は暗闇に向かって話しかけた。

 すると奥から謎の占い師が現れた。


「私は旅の、しがない占い師…では通らないのでしょうね。」

「ああ、そこまで舐められていないことを祈るよ。まぁとりあえず…顔だけでも見せてもらおうか。」


 校長の姿が消えた。


「なっ!?早い…!」


 校長は占い師のローブを剥ぎ取った。

 なんと!正体は芋子の執事の老紳士だった。


「貴様は…!まさか帝都の内部に…かつての天帝の側近に、闇に通じる者がいようとは…ぬかったわ。」

「その様子だと、執事ではなく占い師としての私を追っていたようですね。やはりアナタがいる時に動くべきではなかった…。なぜ私が怪しいと?」

「魔神の撃破と同時期に、五百年手つかずだった城が完成…。ただの偶然であれば結構。だがもし仕組まれたものだとしたら…予知でもできねば叶わぬこと。魔神の復活を読んだ貴様だ、その実力は買っていたよ。」

「なるほど、つまりはただの野生の勘ですか。さすがは古き英雄…まったく怖ろしい人だ。」

「名乗るがいい。貴様の墓標に刻んでくれよう、罪名とともにな。」

「我が名は『夜玄ヨゲン』。ですが覚えていただく必要はありません。なぜならば、今より数刻の後…汝はこの西の大地で朽ち果てるのだから。」

「ほぉ、それは予言かね?」


「いや~、ただの予想じゃない?僕の力を知る人ならできる、当然のやつね。」


 校長の問いに答えたのは、真紅のマントに身を包み、赤い帽子を被った少年。

 髪を肩まで伸ばした中世的な見た目であり、歳は勇者達よりも下に見えるが、溢れ出る威圧感は校長のそれをも凌ぐほどだ。


「…やれやれ、黒幕は貴様の方だったか。この私を出し抜くとは、まったく大した小僧よ。」

「やぁ、よく来たね理慈さん。また会えて嬉しいよ。」

「正しかったのは欧剣の方だったというわけだな…口惜しい。私の代わりにあの世で詫びておいてくれ、かつての『勇者』…『救世主』よ。」


 また名前と対極のキャラが。


「あ~、欧剣さん…あの人は鋭かったね。僕の企みに気づいたのは、彼だけだったよ。」

「企み…神々を従え、世界征服でもするつもりだったのか?」

「え?いやいや違うよ違う。悪を倒し、正義の味方としてチヤホヤされる…そのためにさ。」

「咬ませ犬として…だと…?そんなことのために世界を窮地に陥れたのか。」

「別に窮地じゃないって。僕は負ける気とか無かったし。」

「フン、失敗しておいて何を言う。」

「んも~参ったよね。魔神封印の術も佳境って時に、変な泉に叩き落とされちゃってさー。」

「そのまま魔神ごと封印に…だから今まで姿を見せなかったのか。六本森の泉の精は嘘つきを許さんからなぁ。なるほど合点がいった。」

「ま、おかげでちょっと予定は狂っちゃったけど…また仕切り直すまでさ。他にも続々と集まってきてるよ、世界中の悪が…ね。」

「その口ぶりだと…そこの占い師だけではないようだ。つまり、『太陽神』と『女神』、そして『竜神』…。消したと見せかけ封印していたということか。」

「ご名答~♪『封印士』の封治さんは騙しやすい人だったしね、バレずに事を進めるのは簡単だったよ。さぁ、これからどう動くの理慈さん?」


 挑発するように微笑む救世主。

 漆黒のマントを脱ぎ捨て、その年齢に見合わぬ筋骨隆々とした肉体を露わにした校長は、救世主に向けて静かに教鞭を構えた。


「子供達の、平和な未来を守るため…今だけは優しさを捨て、鬼と化そう。」


 “今だけは”だそうです。




最後の力を振り絞って美風が遺した情報によると、美風を逃がすため一人残った宿敵を除き、先遣隊は全滅しやがったのだという。ならば宿敵も…もはや生きてはいないだろう。

敵の正体は未だわからんが、放っておいては『勇者』の名折れ。行くしかない。


「てなわけで、当初の予定通りメジ大陸へと向かうぞ賢二。だがその前に、俺に相応しい名剣を探す。結局帝城にはろくな武器が無かったしな。」

「あぁそっか、もう魔剣は使えないんだったね。武器を探しながら行こうってことだよね?」

「ああ、さすがに丸腰じゃ話にならん。軍隊を数個潰すのが関の山だろう。」

「相変わらず凄い自信だね…」

「どうせなら北を経由してグル~っと回って行ってみるか。より広く情報を集めたいしな。」

「北ってことは…『ナシ大陸』?確かに行ったこと無いから新しい情報もありそうだけど…」

「先公の故郷、『魔国』があるな。」

「行かないことを希望します!」

「そう言われたので却下します。」

「ど、ドSぅ~!!」



そんなこんなで目的地は決まった。ナシ大陸を経由してのメジ大陸…凄まじい長旅になる感じだ。

ふむ…やっぱりダルいな。適当に乗り物を乗り継いで行くことにしよう。適当にパクっていこう。


「さぁ行くぞ賢二、現世への別れは済んだか?この先は相変わらず…」


「ちょーーっと待ったぁー!またアタシを置いてこうって気!?させないよっ!」


 なんと、呼んでもないのに盗子が現れた。


「命の保証はもちらん無い。だが俺達二人が頑張るしかないんだ。」

「はいキター!スルー来ましたけど何か!?いいえ、特に何もっ!!」

「な、なんかフッ切れた人って無敵だなぁ…」


 賢二は思わず感心してしまった。


「…チッ!なんだよ盗子?連れてけとかアホか、自分の身分を考えろよ。」

「いーの!アタシはこっちの方が大事って言ったじゃん!身分とか知んない!」

「この家畜以下が!!」

「あ、あれっ!?下なの!?」



 そしてついに―――




「理慈さん…強い人だった。でも悲しいね、老いとは非情だよ…オヤスミ。」

「おぉ素晴らしい!我が予知に従い、待ち続けた甲斐がありましたよ救世主様!」

「ん~…いや、その名はもう捨てようと思うんだ。“正義の味方計画”は破綻したわけだしね。」

「では、今後は何とお呼びすれば?」

「ん~、そうだなぁ~…じゃあこう呼んでよ。」



「全てを統べる悪の大王…『大魔王』と。」



 最後の戦いが―――




「あーもういいや、めんどくせぇ!行くぞ野郎ども!!」

「オォーーー!!」



 ―――幕を開ける。




 ~勇者が行く~


 第四部:『大魔王降臨編』 始動。

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