【127】勇者が行く
魔神撃破の噂は即日各地に伝わり…名実ともに『勇者』として、俺の名は轟いた。
そして俺達は、世界を救った英雄として称えられるべく、帝都に集められたのだった。
だがしかし…その実質的な目的は、盗子を正式に『皇女』として迎え入れる式典だという噂を聞いた。そうなると話が変わってくる。
「というわけで賢二、なんかムカつくから俺はエスケープしてやろうと思う。」
勇者は旅支度が整っている。
「えっ、みんなの前で“感謝しろ愚民ども!”って偉ぶるんじゃなかったの…?」
「盗子の前座でか?フン、クソくらえだ。逆に名が汚れるとも言えよう。って、お前も旅支度バッチリじゃないか。」
「まぁ、なんとなくこうなる気がして…ね。」
「勇者君、どこ行くの?」
「おぉ、呼びに行く手間が省けたぜ姫ちゃん。」
「なんか姫さんも準備できてるっぽいけど、もしかして…」
「うん、絶好のピクニック日和だよね。」
「全然もしかしてなかったけど、まぁ姫さんらしいよね。」
「じゃあまぁ、メンバーも揃ったことだし…」
勇者が早速旅立とうとした、その時―――
「ちょぉ~~っと待ったぁーーー!!」
なんと!なぜか盗子が現れた。
勇者らと同じく旅支度が整っている。
「なっ、なぜ盗子がここに…!?貴様は式典の準備をしてるはずじゃ…」
「そんなんどーでもいいもんね!アタシを置いてこうったって甘いんだよっ!」
「で、でも盗子さん、やっと見つかった『皇女』がいなくなったら…」
「んー、大丈夫じゃない?きっとあの子がうまいことやるって!これまでみたく…芋食いながらさ!」
「なんだ盗子、お前これまでアイツがうまくやれてたと本気で思ってんのか?」
どう考えてもミスキャストだった。
「フンだ!いいんだよっ!アタシは『盗賊』の『盗子』なの!んで、ずっと…勇者達と一緒に行くのっ!」
「盗子さん…」
「おかえり盗子ちゃん。」
一歩も譲る気が無さそうな盗子。
賢二と姫は受け入れる姿勢を見せた。
「オイオイお前ら…正気か?頭おかしいんじゃないのか?」
「えっ、勇者が姫にまで暴言を!?」
「もちろん盗子と賢二に言ってる。」
「まぁ姫さんは年中正気か疑わしいけどね。」
「そんなに褒めると照れるよ賢二君。」
むしろ正気でコレな方がヤバい。
「チッ…フン、姫ちゃんがそう言うなら仕方ない。勝手にするがいい…クソが。」
「ほ、ホント!?ぃやったぁーーー!わーーい!!」
「え…いいの?勇者君にしてはやけにあっさりだね。」
「これ以上大騒ぎされると衛兵とか来そうだしな。いま斬って面倒なことになるくらいなら街を出てから斬る。」
「って結局斬んの!?『天帝』の血筋でも結局そうなの!?」
「でもさ、これからどうしよう?もう目的とか無いわけだけど、どこへ…?」
賢二の言う通り、古代神を打倒し魔王も亡き今、『勇者』が旅に出る必然性は無かった。
「ん~、そうだなぁ…まぁ強いて言うなら、“明日へ”…かな?」
「うわクサッ!それちょっとクサすぎじゃない勇者ぁ~?」
「安心しろ、お前には来ない。」
「それどーゆー意味!?」
「それにそもそも、『勇者』に行き先は要らん…誰かの悲鳴が俺を呼ぶ。」
「勇者君は基本“あげさせる側”だけどね、悲鳴…」
「まぁいいじゃん!今まで戦闘ばっかだったし、今回は楽しんで行こうよ☆」
「『修学旅行:エピソードⅢ~世界沈没絵巻~』だね。」
「いや、もうそのネタいい加減クドくない!?相変わらず縁起でもないし!」
「あーもう細かいことは気にすんな!とにかく行くぞ野郎どもっ!!」
「オォーーー!!」
「…と思ったが、やっぱ面倒だな。やめるか。」
「えぇっ!?」
盗子と賢二は思わず勇者を二度見した。
「ちょ、勇者…この流れで!?これからも壮大な冒険が待ち受けてる感満載の、物語とかなら最終回に相応しい今の流れでそうくる!?」
「んー。もとを正せば盗子を置いてこうぜ、って話だったのを忘れてたわ。結局連れてくなら急いで出ていく必要もないだろう。」
「そ、それはそうかもだけどさ…」
「それに、マオが抜けて今の俺は戦闘力が落ちてるのも忘れてた。せめて武器だけでも調達しないとまともに戦えん。罠とか騙し打ちだけじゃさすがに…なぁ?」
「それは確かにまともな戦いじゃないよね…人として。」
だが結構よく使う手だった。
「そうと決まれは善は急げだ、さぁ行くぞ宝物庫へ!」
「いや、武器屋じゃなくて!?あっ、わかった!今ちょうどアタシの式典準備でゴタゴタしてる隙を狙ってんだね!」
「ん?『勇者』が好き勝手に城の宝箱を開ける…どこにおかしなところが?」
「アンタよくそんな曇りない瞳でそれ言えるね…」
悪気が無いのがなおヤバい。
「よーし、じゃあ気を取り直していくぞ!作戦を発表する!」
「なんか…アタシは嫌な予感しかしないんだけど…?」
「うん、僕もね…」
「まずは盗子を人質に、賢二が衛兵の注意を引き付ける!」
「いや、それ僕的には“まずは”の次が“死”なんだけど…?」
「アタシも普通に返品される流れじゃん!もう旅立てなくなるじゃん!」
「そして姫ちゃんは…」
「私おなかすいたよ。」
「じゃあ腹ごしらえに!もちろん俺も一緒だ!」
「だとすると僕が衛兵の注意を引く意味は一体…?」
「アタシも返品され損じゃん!却下却下ぁーーー!!」
こんなやりとりが何度か繰り返され、そして―――
「なんか…面倒になってきたな、旅立つの。」
「えっ、なにそのまさかの結論!?アンタそれ『勇者』としてどーなの!?」
「だって…なぁ?よくよく考えたら、なんで俺が愚民どもを救って回らなきゃならんのだ?」
「でも勇者君、それ言い始めたらこれまでだって…」
「これまでは敵が縁のある奴らだったし、腕試しも兼ねてたからいいんだ。だが奴らが死した今、この俺がわざわざ出向いてまで倒すべき相手なんていないだろ?」
「まぁ確かに、今の勇者君より強そうな人って言ったら…親父さんと校長先生、あと麗華お姉さんくらい…?」
「ふむ、まぁ奴らが攻めてくるってんなら確かに旅立つしかないが。」
「それだと“冒険”じゃなくて“逃亡”だけどね…」
身内相手の反応とは思えないがわからんでもなかった。
「つーわけで…もう休もうと思う。俺らもう、十分頑張っただろ?」
「まぁ確かに、世界を救ったわけだしね…。僕らにしては出来すぎなくらい?」
「私もたくさん食べすぎたよ。でもまだいけるよ。」
「姫ちゃんも、治療やら爆破やら死滅やら色々と頑張ったよな。」
「アタシは何もしてないけどね…」
確かに盗子は何もしてなかった。
「じゃあとりあえず、姫ちゃんの望み通り腹ごしらえといこうぜ!」
「僕ちょっと詳しくないけど、帝都だし美味しいものたくさんありそうだよね。」
「カキ氷の煮っ転がしとかね。」
「煮っ転がせないから!それただの煮汁だから!アンタいつまでそんな…」
「あーもう細かいことは気にすんな!とにかく行くぞ野郎どもっ!!」
「オォーーー!!」
こうして、勇者達の長い旅は…終わりを告げた。
〔キャスト〕
勇者
賢二
盗子
姫
暗殺美
麗華
チョメ太郎
剣次
商南
スイカ割り魔人(秋臼)
無印
戦仕
武史
観理
奮虎
博打
霊魅
宿敵
鴉
黒猫
華緒
冥符
ソボー
ベビル(魔王母)
占い師
苦怨
血子
凶優
校長(理慈)
勇者義母(男似)
錬樹
春菜
冬樹
夏草
秋花
鬼神(ヤナグ)
守護神(マリモ)
暗黒神(嗟嘆)
邪神(バキ)
魔神(マオ)
魔王
太郎
下端
ライ・ユーザック
召々
亀吉
美咲
弓絵
余一
案奈
兄丸
ワルツ
ポルカ
女闘
キン太
ジョニー
忍美
那金
魔国王
金隠
銀隠
銅隠
相原
女医(冴子)
美盗
美風
白
昭二
剛三
芋子
紳士
洗馬巣
オッパイ仙人
鰤子
首無し族
左遠
央遠
右遠
ペルペロス
飛竜(リュオ)
オナラ魔人
墓夢
伊予平
姫盗観
ハリー
吸子
解樹
封護
教師(凶死)
勇者母(終)
勇者父(凱空)
その他の適当な人々
そう、終わった―――
全ては、終わったはずだった。
「やれやれ…にしても厄介な旅だったよなぁ賢二。一体何度死にかけたか…」
「だね…。“神”って呼ばれちゃう敵と戦ったりとか、ありえないよね…」
「フッ、だがそんな地球最大のピンチも、この俺が救ったわけだがな!」
「あ、でもさ、五百年前の大戦の方がもっと大変だったかも…って気もしない?」
「あ゛ん?何言ってんだ貴様?ったく、これだからろくに戦ってもねぇ雑魚は…」
「いや、だってさ…十二人もの強い異星人が、一斉に攻めて来たんだよ?」
「フン、俺だって強敵の十人や二十人…」
だがしかし―――
「すごい“偶然”だな~って、思ってさ。」
「ッ!!?」
「ん?どうしたの勇者君…?」
「ま…まさか…“誰か”が…!?」
〔ナレーション〕
オチの人
〔キャラクターデザイン〕
画家
毛皮屋
のっぽゴン太郎
〔キャラクター提供〕
テイル(ワルツ&ポルカ)
鳩尾(兄丸)
風雲(女闘)
正宗(忍美)
平八(キン太)
star(ジョニー)
柳瀬あき(美風)
こよまま(白)
〔スペシャルサンクス〕
珍獣
ルース
小烏丸
ルミナス
かすみ
張学
鎮音
勇者の中でとても嫌な仮説が立ってしまったその頃、帝都を一望できる高い塔の上には、シジャン城にて邪神を救い出して以来の登場となる…マジーンの姿があった。
「いよいよだな…。さて、“奴”はどう出る…?」
遥か西の空を眺めながら、マジーンはつぶやいた。
ゴゴゴ…ゴゴゴゴ…
マジーンが見ていた西の方角…その先にある『メジ大陸』のとあるほこらでは、真紅のマントに身を包んだ小さな影が良からぬ動きを見せていた。
邪神や魔神らを封じていたのと同じ紋章の付いた銀色の棺をこじ開け、今まさに何者かの封印を解こうとしているのだ。
「やぁ『ヒノテ』さん。久しぶりだね。」
少年が話しかけると、棺の中から気味の悪いドクロのような仮面を被った老人が起き上がってきた。
「…おやおや、お前さんかね。では全ては…順調ということかね?」
「んー、それがそうでもないんだよねー。なんとあれから五百年も経ってるっぽいんだ。」
「ほぉ、五百…。そりゃあなかなかの計算外だわな。」
「いや~参っちゃったよ。うっかり変な泉に落ちちゃって、そのまま魔神と一緒に封印されちゃうとかさぁ。しかも、やっと出られたと思ったら今度は変な赤髪の奴に空から叩き落されるし…もう散々だよ。」
話の流れから察すると、どうやらこの少年が、魔王が“魔神の真の正体”と勘違いした強者の正体のようだ。
「で、どうするね?“あの話”はご破算かね?」
「いやいや、何の問題ないよ。仕切り直そう。」
「ほほぉ。では…」
「うん。」
「時は来た。世界の…破滅の時が。」
〔制作・著作〕
創造主
~勇者が行く~
第三部:『第二次人神大戦編』
完