【120】魔神を討つ者達(8)
巨大化の影響かいつもの五分よりは随分と長かったものの、ついにシリアスモードの限界で力尽きた親父。一気に縮んで海の藻屑と消えた。
本気なら音速で飛べるって話の魔神だが、将が戦闘中だからか今の飛行速度はそこまでではない。とはいえ、放っておいたら数時間って単位で帝都まで届きそうな勢いではある。
「さぁ、来るがいい勇者よ。『勇者』の実力、とくと味わわせてもらおうじゃないか。」
「フン、お前にゃわかってるだろ?俺は魔力を失くした身だ、満足には戦えん。せいぜい気を散らす程度だろう。」
「ほぉ…意外にも身の程はわきまえてるらしい。そうとも今の貴様じゃブホッ!」
勇者の先制パンチ。
「いや、違うんだ将よ。蚊が。」
「ならなぜ“グー”だ!?」
「カマハハが抜けた今、雪山の将が一匹余ってる。はてさて…どうしたものか。」
その時、勇者が気にしていた『地獄の雪山』では…最後の将となる『将五』が、勇者の予想に反して思わぬ人物と戦っていた。
「ふぅ~…やるなぁ小娘。だが、戦法が不自然に多様すぎる。」
将五の前に立ちはだかったのは、勇者らと同じくらいの歳に見える少女。
「だが見ない顔だ。勇者の記憶にも貴様なんぞいなかった。貴様…一体何者だ?」
「…アタシ?」
少女はパッと見は勝ち気な姫といった容姿であり、姫と観理を足して二で割ったような髪色で、観理のように左右の瞳の色が異なり、そして盗子のバンダナを額に巻いていた。
「私は魔法〔三位一体〕で生まれた美少女戦士。名前は…『姫盗観』さんとでも呼ぶれすよ。」
なんと!姫のバクチは成功していた。
「ふぅ…やっと体が温まってきたな…。では改めて、いこうか黒錬邪。」
一方、一周回って学園校では―――
「ん、どこへ…?」
「いや、場所的な意味じゃなしに。」
相変わらず将一が苦労していた。
「むぅ…振る舞いのせいで台無しではあるが、『黒騎士』としてのその腕前はやはり本物…。お前ほどの男がどうして埋もれていた?」
「好きなんだ、砂場。」
「ホントに埋もれてたのか。しかも自主的に。」
「俺は冬…しんしんと降り積もる雪。熱くギラギラたぎるのは、ガラじゃない。」
「だからひっそり陰に生きてきたと?フン、名へのこだわりか…実にくだらん。」
「夏生まれ。」
「お前の親はもっとこだわるべきだったな。」
「特に執着の無い名前だが、貴様を倒し…最後にでっかく遺すのも悪くない。」
「フッ、言いやがる…ってお前も執着無かったのかよ。」
「食らうがいい魔神。この技を食らって生き延びた者は、今までいない。」
「ほぉ、面白い…!見せてみるがいい!」
「そんな技をたった今、編み出した。」
「そりゃあ死んだ奴もいないだろうよ!」
「それじゃあいくぞ。黒騎士槍術、必殺の突き…あー……『思い突き』をな。」
やっぱりこだわれなかった。
カマハハが置いてった将との戦い始めてしばらくすると、次第にかわし続けるのがキツい感じになってきた俺。
魔神の剣さえ抜ければ、自慢の剣技で華麗にブッた斬れる自信はあるんだが…まぁ無いものねだりしても仕方ない。誤魔化し誤魔化しやるしかないだろう。
「ハァ、ハァ…!フッ、軽く死にそうだとは意地でも言えん状況だぜ…!」
「ったく、相変わらずだなぁ勇者。ボケなのか弱音なのか、はたまた何か企みがあるのか…」
「フン、疑り深い奴は好機を逸するぞ?来るがいい将よ、返り討ちにしてやる。」
「いいだろう、挑発に乗ってやるよ。死ぬがいい!!」
将二は勇者に向かって突進した。
それと同時に、勇者は空を指差して叫んだ。
「馬鹿め!上だっ!!」
「ハハッ、舐めるなクソガキ!そんな手に乗る…うおっ!?」
なんと!本当に空から剣が降ってきた。
将二は間一髪で避けた。
「な、なんで空から剣が…!?クソッ、本当に作戦だったってのか勇者ぁ…!」
「なっ、なんで空から剣がぁ…!?」
むしろ勇者の方が驚いていた。
しかし、それも一瞬のことだった。
「だが、そうか…それしか考えられんな。“奴”だ!」
カチッ、カチカチッ…
「…そうか、なるほどな…“奴”か。」
どこからか謎の金属音が響く中、将二の方も何かに気付いた様子。
ガコンッ!
「さぁ来るがいい我が“武器庫”よ!シジャン城の時は裏切られたが、今日ちゃんと出てくれば許してやろう!」
ギュィイイイイン…!
「う、上かっ…!!」
「さぁ来い!我が忠実…ではないしもべ、チョメ太郎ーーー!!」
勇者はチョメ太郎を呼んだ。
「ポピュッパーーー☆」
破壊王が降臨した。
前回は不発に終わったが、今回は予想通り現れてくれたチョメ太郎。当然の如く武器を装備し(チュドォーーーン!)五百年も眠(ドンッ!)にとって(ガガガガガッ!)の武器の山はそれなりに恐怖だろう。
いや、なんかもう俺すら(ズドドドドド!)もない武器が(バキューン!)ら次へと…。
だが気を付け(ドッカァアアアアア「ぎゃあああああ!」アアアアアアアン!!)
…ふむ、死ぬかもしれん。
敵味方の区別は無い。
チョメ太郎による波状攻撃がようやく止み、少しずつ爆煙が晴れてきたが、そこに将の姿は無かった。
爆音の中で悲鳴を聞いた気がするし、逃げる隙も無かったはず…となると、消し飛んだか?
「ふぅ…よくやったなチョメ太郎。まぁ偶然にも俺は無事だからこそ言えるセリフだが。」
「プティペポプ。ペポプ。」
「で、お前は見てたか?奴はどうなった?」
「チュピポ。」
「死んだか?」
「パプーピポー!」
「あっはっは。やっぱりわから(ドスッ!)…なっ…?」
将二の拳が胸を貫いた。
「フッ、油断したなぁオイ。貴様ほどの強者が…こんなあっけない最期だとは。」
「き、貴様…!」
「馬鹿な奴よ。こんな…こんな、小生意気な小僧をかばうとはなぁ!」
「ちょぉ…マズったってゆ…かぁ~…」
義母が勇者をかばっていた。
「なっ、馬鹿な…カマハハ…!クソッ、チョメ太郎ぉーーー!!」
「ポピュッパーーーー!!」
ズドドドォオオオオオオオオン!!
チョメ太郎の連続攻撃。
その隙に勇者は義母のもとへ駆け寄った。
「き、貴様…なに勝手なマネを…!この俺に恩を売ろうってのかよオイ!?」
「超…参ったしぃ~…。終わっ…ちゃっ……」
「カマハハ…!」
「ドラマ…」
「ってホントに見てきたのか!それはガチだったのか!」
相変わらずフザけたノリの義母だが、その傷は見るからに深く、新手のドッキリでもない限りもう助からないレベル。
将二がチョメ太郎で手一杯な隙を突いて、“遺言モード”に突入していた。
「勇者ちゃんは…私が…オカマが育ての母とか…どうだった…みたいな…?」
「ん?いや、性別のせいにしてんじゃねーよ。お前はお前だろ?オカマとかそんなの関係なくウザかったよ。」
「関係ない…か…。姉さんもよく…そう言ってくれたー…ってゆーかー…」
「いや、それ意味大丈夫か?だいぶ曲解してないか?」
「もしぃー…もしまた…生まれ変われたらぁー…」
「ケッ、生まれ変わりか…血子と似たようなことを言いやがる。」
「また家族に…なれる…かなぁ…?またみんなで…そこに私も…いても…?」
「縁起でもない話だが、もし仮にそんな悲劇が繰り返されることがあるなら…是非ともいてくれ。親父に根っこ、あと魔獣…言いたかないが、今考えるとお前が一番まともだったわ。」
「姉さんじゃ…なくても…?」
「俺に母はいなかった。だが貴様らがウザすぎて、寂しく感じる余裕さえなかったよ。」
「そっかぁ…じゃあ…」
「おっと悪いなぁ、悲しい悲しい別れシーンもそこまでだ。」
義母の言葉を遮るように将二が現れた。
どうやらチョメ太郎は飽きて帰ったようだ。
「チッ、やはり生きてたかしぶとい奴め…!やはり俺がやるしか…むっ、なんだカマハハ…その体で起き上がる気か!?」
「…ま、な~んか超ハイな気分だしぃ~?最後にもう一暴れ~みたいなぁ~?」
なんと!瀕死の義母が立ち上がった。
「起きたのはいいがカマハハよ、何か策はあるのか?どう見ても死にかけじゃ…」
「あのね勇者ちゃん…この『三日月の鎌』ってぇ~、使い手の“男気”を…吸い取っちゃう武器なんだけどぉ~…」
義母の説明を聞いて、将二は何かに納得がいったようだ。
「むっ、その輝き…!なるほど、だからか。潜在能力は高そうな割になぜか力が感じられんと思っていたが、そうか武器に力を…」
「なっ!?じゃあカマハハはそんな状態で新黄緑錬邪を倒し、そして貴様とも善戦したっていうのか…!?」
「一度だけぇ~?その蓄えられた“男気”をぉ~逆にぃ~…?」
義母の体が怪しく光った。
「体に戻しっ、一撃に込める奥義があると聞いたぁああああああああ!!」
義母は急に劇画調の作画に変わった。
「うぉおっ!?な、なんだその今まで見せたことのない濃すぎなキャラは!?」
「俺は“母親”にはなれなかった…。ならばせめて、“漢”として…!」
「フッ、いいだろう。ならばこの俺も全力を尽くしてトドメを刺してくれよう!」
「やっちまえカマハ…カマオッサン!」
「うぉおおお!ど根性ぉおおおおおおおお!!」
ズゴォオオオオオオン!!
義母、必殺の一撃!
将二を撃破した。
義母は暑苦しく散った。