【012】二号生:芋園の魔人と体育祭
夏休みは終わりを告げ、新学期になった。
また命懸けの学園生活が始まる。
「みなさん、お久しぶりです。意外にも生存者多くて先生ビックリです。」
「アタシらはその感想にビックリだよ!」
もはや濁さなくなってきた教師に、無駄とは思いつつ一応突っ込んだ盗子。
だが案の定、教師は何事も無かったかのように本題へと移った。
「さて、では早速ですが…みなさんお待ちかねの秋の遠足、今年は『芋掘り』になりましたよ。」
春にゴップリンを倒したことで、当然だが秋の遠足は別のテーマに変わったようだ。
しかし思ったより平和そうな響きに賢二は逆に戸惑った。
「て、敵の想像がつかない…」
そう、これまでの傾向から考えると絶対に何かしらと戦うことになるからだ。
そのため一同は、ただの芋掘りではなく“芋掘り関連の魔物”を想像し始めた。
芋が好物の魔物なのか、もしかしたら『殺人芋』のような感じで芋自体が魔物なのか…どちらにしろなんとなくダサい気がするが、魔物は魔物。油断すべきではない。
「敵は『オナラ魔人』です。」
やっぱりいた。しかも想像以上にダサそうなのが。
先ほどの予想でいうと恐らくは前者の芋好きの魔物系だと思われるが、名前だけではやはり詳細はわからない。とりあえず今のところわかっているのは名付け親の悪意だけだった。
「実は彼、芋園を経営しているんですよ。」
先公の話によると、オナラ魔人なる魔物は自ら芋園を経営し、食べ、そして屁をこくという自給自足(?)の生活をしているのだという。
恐らくそこでアコギな商売でもしているのだろう。
単に力任せで暴れ回る奴よりは幾分マシなようにも思われるが、この手の頭の回る奴の方が実際は厄介そうだ。
「フッ、まぁいいさ。どんな奴であろうとこの俺が、華麗にブッた斬ってやる!」
「フフフ、いいですねぇ勇者君。その調子で頑張ってください。」
意気込む勇者を嬉しそうに褒める教師は、そのまま視線を全体に移し、そして笑顔で言い放った。
「たくさん奪って、たくさん食べましょう。」
果たして悪はどっちだ。
そして遠足当日…と繋がるのがいつもの流れだが、今回は事情により割愛する。
色々と法に触れそうなので詳しくは言えんが…簡単に言うと芋は盛大に焼いた(畑ごと)。
まぁとにかく、生きて遠足を終えることができ一安心…かと思いきや、なんと今年の秋にはもう一つの行事『体育祭』なるものがあるらしい。
毎年やらないのは恐らく、人数的にヤバいことになるからだろう。
ルールは状況に応じて毎回変わるらしく、今年は二学年を一組としてチームを作るのだという。
そう聞くと、一号生と六号生、二号生と五号生、三号生と四号生という組分けになると考えるのが普通だが、なんと俺達二号生は一号生がペア。
バランスを考えてないにも程があるようでいて、きっと考えた結果あえてこうなんだろうな…。
仕方なく俺は、学年を代表して賢二、盗子らと共に一号生の教室へと向かった。
戦力が乏しいのなら、綿密に作戦を練って対処するしかない。
「よーし、よく聞け貴様ら!俺が二号生代表(自称)の…」
「キャー!勇者先輩だー!キャーキャー☆」
勇者が名乗り終えるのを待たず、黄色い声援をあげる一号生のちびっ子女子。大きな瞳に髪は短いツインテール、髪留めが矢を模していることから弓関連の職業と思われる。
放課後になってすぐ来たにも関わらず、なぜか教室にはこの少女一人しかいなかった。
「オイそこ、やかましい!黙らんと上下の唇を縫い合わすぞ?」
「えっ、名前ですかぁー?照れちゃいますぅ~☆」
勇者に明らかな好意を寄せているように見える少女だが、言うことを聞く気はさらさら無いようだ。
「私は『弓撃士』の『弓絵』でーす!勇者先輩の大ファンなんですぅー☆」
何をどう見たらファンになるのかはさておき、やはり弓絵は勇者のことが好きらしい。嫌がる勇者をものともせず、腕にしがみついている。
入学当初から勇者とツルむことが多かった盗子としては、なんだか居場所を奪われそうでこの状況は面白くない。
「ちょ、ちょっとアンタ!初対面で馴れ馴れしいんじゃない?ウザッ!」
盗子は全力で喧嘩を売った。
勇者も冷たい目をして言い放つ。
「ああ、確かにウザいな。」
だが弓絵も負けてはいない。
「盗子先輩…ウザいとか言われてますよ?」
「アンタのことだよ!!」
「いや、お前のことだよ。」
「なんで!?」
盗子の居場所は元から無かった。
「ところでお前、他の奴らはどうしたんだ?まさかもう帰ったのか…?」
「そうでーす!土に還りましたぁー!」
「土に!?なっ…全員か!?」
衝撃の事実が発覚。なんと弓絵以外の一号生は早くも全滅らしく、さすがの勇者も驚いた。
今年は大勢消えたと聞いてはいたものの、まさか残り一人だとは思っていなかったのだ。
「やれやれ一人かよ…これで“二学年で一組”とか言われてもなぁオイ…」
「え?好きなタイプですかぁー?ズバリ勇者先輩でーす☆」
「だから聞いてないから!アグレッシブにも程があるから!なんなのアンタ服屋の店員なの!?」
一貫して強引なアプローチを続ける弓絵に対し、さらに嫌悪感を剥き出しにする盗子。そんな盗子を無視する弓絵、そして勇者。いい加減本題に進みたいところ。
「まぁいい、とりあえず作戦会議に入るぞ。賢二、プログラムを。」
「あ、うん。えっと…まずは『騎馬戦』、次は『打撃戦』…『肉弾戦』…あと『銃撃戦』…」
「あり得ない!そんな物騒な体育祭はあり得ないよ!」
「はっはっは。賢二、冗談は盗子の顔だけにしてくれ。」
「うわーん!なんでアタシなのー!?」
「冗談で済むような…学校じゃないよね…」
だから毎年はできない。
結局、特に話が進まなかった打ち合わせからの帰り道、廊下の隅から勇者を見ている少女がいた。
髪は黒いストレートのボブヘアで、印象はひと言で表すならクールな感じだ。
「む?なんだ『霊魅』、何を見てやがる?」
俺の顔を黙って見つめているコイツは、今年度から同じクラスになった『霊媒師』の霊魅。
そんな胡散臭い職業なんて本来なら一切信じない俺なのだが、なぜだかえも言われぬ本物感があり、心から疑えないでいる。
「どうしたさっきから?俺の顔に何か付いてるか?」
「え…顔に…?」
「なんだその“肩になら何か憑いてますが”的な目線は?お前が言うとなんか怖いからやめてくれよ。」
やはりダメだ、コイツ…表情を見ても冗談か本気かわからない。
姫ちゃんとはまた違った意味で謎が深い女だが、姫ちゃんと違って“わかっててやってる感”が滲み出てるあたりタチが悪い。
「気を付けてね勇者君…。そう遠くない未来に…アナタ半分こちらに来ますよ…」
「いや、まずお前の立ち位置が“どちら側”かを先に教えてくれよ。お前…生きてるよな…?」
勇者の問いには答えず、静かに振り返る霊魅。
「いずれわかりますよ…時が満ちた頃に…うふふ…」
そう言い残すと、霊魅は闇へと消えた。
ありがちな演出だが本来身内がやるやつじゃない。
そして数日後。ついに始まった体育祭。
まったく参ったことに校長の話が長すぎる。
これ以上続くと誰かしら貧血でも起こしそうだ。
「あうぅ~…僕、もうダメかも…」
勇者の予想通り、目の前の賢二が早くもフラつきはじめた。
「ちょっ…頑張んなよ賢二!こんな初っ端で倒れるなんて恥ずかしすぎだよ?」
額に汗は滲ませつつも、盗子はまだ大丈夫そうに見える。
「フッ、雑魚めが。日頃の精進が足らんからそういうことになるんだよ!」
十時間経過。
なおも立っているのは、もはや校長と勇者だけだった。
「で、あるからして~…」
「………」
パタッ
パーティーは全滅した。