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~勇者が行く~  作者: 創造主
第三部
118/196

【118】外伝

*** 外伝:春菜が行く ***


私の名は春菜、歳は十歳。

憧れの凱空先輩に誘われて始めた戦隊ヒーローの活動にもようやく慣れてきたという頃に、言い出しっぺであるはずの凱空先輩は忽然と姿を消してしまいました。

お兄ちゃんは何か知ってるような気もするけど、聞いてもわかる自信が無いです。


「ハァ、どこ行っちゃったんだろ先輩…」


 魂が抜けたように呆ける春菜。

 そこに現れたのは群青練邪こと夏草だった。


「よぉ、まだ落ち込んでんのかよ春菜?いい加減諦めろよ。待ってたって戻って来ねぇし、あの人の場合むしろ待ってない時に限って戻って来るぞ。嬉々として。」

「じゃあもう会えないのかな…私ずっと待ってるし…」

「…ったく、あんなののどこがいいかねぇ?」

「わかんない…。もしかして私、前世はハンマー投げのハンマーだったのかも…」

「それ振り回され過ぎだろ。しかも最終的に全力で投げられるってあんまりな末路じゃねーか。」

「でもホントなんでなんだろ…?私達も戦隊としての活動、やっと慣れてきたのになぁ…」

「慣れただぁ?敵に“やられ慣れた”の間違いだろ。あのまま続けてたら絶対死んでたぜ?良かったんだよ、その前に終わって。俺らは向いてなかった。」

「お…お、終わらないよ!終わらせないもん!五練邪が…この場所が無くなっちゃったら、ホントに先輩が帰って来なくなっちゃう!」

「つってもよぉ、あの人なしに扱える人らじゃねぇぜ?冬樹さんや秋花さんは。」

「秋花先輩は、ちゃんも話せばわかるもん!お兄ちゃんは…まぁ、うん。ねぇ?」

「妹がサジ投げるレベルってよっぽどだぜ?そんな人が今や唯一の戦力だっつーんだから…やっぱもう限界なんだよ戦隊としては。」

「で、でも…!」

「でもじゃねぇんだって。どう足掻いても無理だし、仮になんとか生き残れたとしてもあの人が帰ってくるなんて保証は…」

「やめてよなんでそんな酷いことばっかり言うの!?もう言わないで!」

「いいや言うね!そもそもあの人は昔っから…」


「だ・ま・っ・て!!」


「ハイ、かしこまりました。」

「へ?」


 『操縦士』として覚醒した瞬間だった。




夏草君とのやり取りで気付いた違和感…その正体に気付くまでにはしばらくかかりましたが、図書館の蔵書にそれらしい記述があり、やっと核心に至りました。

どうやら私には『操縦士』の才能があるようです。

『操縦士』とは、機械仕掛けの乗り物や、獣車用の魔獣などを操ることができる職業。でも言い換えればそれだけの職業。そんな『操縦士』ですが、とある本に興味深い実験結果が載っていたのです。


本の中では眉唾物扱いではありましたが、かつて獣車用ではない戦闘種の魔獣を従えることに成功したという実験結果が、わずかながら紹介されていました。

『魔獣使い』でも従えられなかった凶悪な魔獣をも従えたという記録、それに加えてこの前の夏草君の反応…。もしかしたら、この職業は更なる可能性を秘めているのかもしれません。


「この力がもし人間にも及ぶなら、もしかしたら…先輩のことも…」


 春菜は発想がヤバい感じになってきた。


バダァン!


 その時、突然部屋の扉が開いた。


「春菜…!大変だ!」

「お、お兄ちゃん…どうしたの?ここ図書館なんだから静かに…ハッ、まさか凱空先輩の居場所がわかったとか!?」

「いや、秋花が…今日の夕飯はカレーだと。」

「紛らわしいことしないで!確かにカレーは大好きだけども!」

「フッ、変われば変わるものだな。昔はカレーとか嫌いだったお前が…」

「だ、だって先輩が…黄錬邪はカレーの色だって言うから…。だから頑張って、好きになったの!とっても頑張ったの!」

「知ってる。」

「お兄ちゃんに何がわかるの!?私の努力を知ってるって言うの!?例えば苦手なスパイスの香りに慣れようと、無理して部屋中にバラ撒いたり…」

「知ってるさ。だって前にそれで…やらかしたじゃないか、“粉塵爆発”。」


 やっぱりかなりヤバい奴に成長していた。


「たった三回だもん!」


 しかもまだ成長途中のようだ。


「まぁ少し落ち着け春菜。待っていれば、アイツは元気に帰ってくる。あまり思い詰めると良くない。」

「…お兄ちゃんには何も言われたくない。あの日…起きてたのに先輩を止めてくれなかった、裏切り者には。」

「春菜…」

「わかったら出てって!いいから…出てってよ!!」


 それは司書のセリフだった。




そのまま結局、先輩が戻ることなく三年が経った頃…待望の知らせが飛び込んできました。

そう、凱空先輩と『四勇将』と呼ばれる四人の猛者達により、ついに『魔王』が撃破されたのだそうです。

これでやっと先輩の旅も終わり…と思ったのですが、その後何年経っても先輩が戻ってくることはありませんでした。

これまで全国各地に点々と残されてきた食い逃げ情報も急に途絶え、先輩は完全に消息を絶ってしまったのです。


私はというと、この三年の修練の結果…数千分の一くらいの確率ではありますが、本当に人間を操ることができるようになっていました。

ただ誰でも操れるというわけではなく、完全に操れるのは波長の合う限られた人達だけのようです。

それに、操っている最中は命を削っているような感覚があります。やはり多用すべき術ではないのでしょう。


そんな術の性質ゆえか、なんだか使えば使うほど心が黒く濁っていくようで…気付けば私は、だいぶ病んだ性格になっていました。


 三年前から兆候はあったが。



そして、さらに八年…先輩が私のもとを去って十年以上が過ぎ、私が二十一歳になった頃…一人の訪問者が。

それは赤い鎧を全身に纏った、中肉中背で隻腕の男。なんだか暑苦しい顔をしたその男は『途冥人トメイト』と名乗りました。聞かない名です。


 後の二代目赤錬邪である。


「噂に聞いているぞ、女。何者かにより秘密裏に集められた、覆面マントの集団…『五錬邪』のことはなぁ。」


 途冥人が言う通り、この数年で五錬邪は徐々に勢力を広げ、なんと数万人規模となっていた。春菜の能力によるところが大きい。

 だが五錬邪は特に目立った何かをするわけでもなかったため、世間では謎の変態集団として気味悪がられていた。


「貴様らの目的はなんだ?それだけの人数を集めて一体…貴様は何をするつもりなのだ?」

「ただのゴミ掃除ですが?」

「まさかのボランティア活動!き、貴様正気か…?」

「それが…先輩の望みでしたから。」


 遠い目をしながらつぶやく春菜に対し、途冥人が発したのは思いもよらぬ言葉だった。


「そうか、やはり幼少の頃からフザけた男だったのだな…『勇者:凱空』は。」


「なっ…なぜその名を…!?」

「奴にはこの左腕を奪われた恨みがある。色々と、調べさせてもらったよ。貴様のこともなぁ。」

「…これでも秘密裏に動いていたつもりですが…どこの組織の方ですか?」

「ま、死なずにいればいつかわかるさ。そんなことより…」

「そんなことより私が聞きたいのは、アナタと凱空先輩の関係です。もしかして最近の話なんじゃ…」

「ん?まぁそう昔でもないな。奴と一戦交えたのは三年前のことだ。」

「三年前…!一体どこでですか!?先輩は今、一体どこに…!?」


 長らく行方知れずだった凱空の情報に、春菜のポーカーフェイスが崩れた。


「フッ、そう簡単に教えると思うか?主導権を渡す気はない。あくまで俺が」

「話しなさい。」

「知っていることは、全てお話しします…」


 駆け引きするには相手が悪かった。




長年の修行により術の練度が向上していたこと、そして波長が合ったこともあり、瞬時に途冥人さんを操ることに成功した私は、彼が知ることを色々と聞き出すことができました。

とはいえ、先輩との一戦において彼は首謀者ではなく戦闘要員だったようで、本当に知りたかった居場所については残念ながら正しく把握してはいませんでした。


しかし、この件をきっかけに少しずつ情報が入り始め、知りたくないことも色々と知りました。そして何が正解なのか、わからなくなってしまったのです。


だったら一度、初心にかえるしかありません。



「諸悪の根源は誰なのか。誰が私から彼を引き離したのか…全てはそこへと帰着する。」



 そしてまた時は流れ、一年後の新星歴535年…勇者が生まれた年のこと。

 ついに決定的な大事件が起きる。そう、五錬邪による帝都襲撃事件だ。


「…というわけで、死んでください『天帝:皇子』よ。」


 正面から堂々と皇子の部屋に乗り込み、ナイフを向ける黄錬邪。

 そのあまりに大胆な登場に、当然皇子は困惑し慌てて後ずさりした。


「き、黄色いマント…!なぜ第三防衛線で倒されたはずの黄錬邪がここに…!?」

「それは二代目の黄錬邪ですね。私は初代…まぁどのみちアナタの味方ではないですが。」

「初代…じゃあまさかアナタが…!」

「おや、驚きですね。私についての情報があるとでも?」

「アナタが…カレーの!?」

「先輩ってば…」


 無いほうがいい情報だった。


「…まぁとにかく、残念ですが…アナタには死んでいただきます。凱空先輩にとって、アナタの存在は害でしかない。」

「害はアナタの方ですの!凱空の戦隊でこんな…凱空がどんな気持ちでその組織を作ったか、アナタにはわかりませんの!?」

「ええ、特に説明も無くて。」

「でしょうけども!そして多分ただの思い付きなんでしょうけども!」

「でもそんなところがたまらないんですよねー。」

「あ、うん。ねー。」


 報われない二人だった。



「そう、アナタも凱空のことを…。でしたら私を敵視するのはお門違いですの。むしろ誰よりも分かり合える同志ですの。」

「分かり合える?フラれ仲間だとでも?冗談はよしてください。アナタは平然としてるじゃないですか。」

「…まぁ、こんな出自ですもの。望む相手と結ばれないことは、物心ついた頃からわかってましたし。だからフラれてもなんとか耐えられましたが…でも『魔王』に負けたと聞いた時には、さすがに生まれて初めてヤケ酒しましたの。三日三晩。」


 天帝にあるまじき荒れっぷりだったという。


「カレーの人…本当はアナタもわかってるのでしょう?あの人は、追ったら捕まるような人じゃないの。私にも…アナタにも…あと飲食店の店主にも。」


 最後のは食い逃げ的な意味で。


「そして、あの人は…待ってたら帰ってくる人でもないの。」

「だから勝手に一緒にしないでください。私はアナタに邪魔さえされなければ、きっと…あと“カレーの人”は却下で。」

「ううん、きっと違うの。結局凱空は、私達のもとから去っていった…私達には彼を止められなかった…。それが答えだと思うの、カレーの人。」


 お互い色々と譲れないようだ。


「やはり、どう考えても分かり合えそうにはないですね。死んでください。」

「そうはいきませんの。いらして!」


 皇子が合図を送ると、部屋の奥から屈強な兵士が現れた。


「こんなこともあろうかと、一人だけ私兵を残しておきましたの。強さだけなら守護隊の隊長格…非戦闘員のアナタに勝てる相手じゃありませんの。それに、なぜだかとても…お疲れのようですし。」

「…チッ。」


 春菜は今回の襲撃にあたり限界以上に能力を使っていたたため、実はもう立っているのも厳しいような状態だった。


「ですが…いいのですか?天帝ともあろう者が、むやみに人を殺すなど…」

「この状況で“殺生は良くない”とか言うような人間に国を統べるとかできっこないの。さぁ、やっておしまいなの!」



ドスッ!



 兵士の攻撃!

 兵士の剣が皇子を背中から貫いていた。


「カハッ…!な、なん…で…」

「天帝…コロス。皇子…コロス。」

「あ…操られて…?じゃあカレーの人、アナタの…能力は…」

「まぁ知ったところで意味は無いんですけどね。アナタは今ここで、死ぬのですから。」

「その力で…凱空を…?ううん…きっと…それは無理なの…」

「でしょうね。それに、仮にできたとしても…そんな手段で手に入れても仕方ないですし。」


「…ハッ!こ、皇子様…!俺…お、俺…!」


 術が解けたのか、血に染まった両手を見ながら狼狽する兵士。


「い、いいんですの…ケフッ!何も…気にすることは…ないの…」

「いや、今日は定時で上がりたいなぁと。」

「やっぱり死ぬほど反省してほしいの!」

「さようなら天帝。地獄で会ったら…魔王によろしくお伝えください。」

「それは…無理なお願いなの…。地獄がお似合いなのは…アナタ…。それに、私にはまだ…使命が…」


ドスドスドスッ!


 兵士の剣が、再び皇子を貫いた。




 その後、攻め込んだ五錬邪のうち二代目黄錬邪は戦死が確認され、赤錬邪、黒錬邪、桃錬邪、群青錬邪の四人は投獄された。

 春菜の奮戦もむなしく、裏切り者の兵士の手によって皇子は命を落としてしまった…というのが、春菜が塗り替えた偽りの真実だった。


 そして数年後。勇者が三号生となった年の、ある冬の日のこと。

 深夜にひっそりとカクリ島に上陸したのは、春菜と魔王母の二人。


「ここがカクリ島…。なるほど、そこはかとなく危険な香りがする。」


 初上陸となる魔王母だが、勘がいいようで一目で島の性質を察したようだ。

 片や、秋に来たばかりの春菜は余裕の笑みを浮かべていた。


「手早く済ませ、早々に去りましょうか。先日の調査で目的地の場所は割れています。群青錬邪らが派手に暴れてくれたおかげで…ね。」

「まぁ危険は避けたいところですが、魔王様のためとあれば仕方ない。『魔神』の復活…そのためならば。」

「では向かいましょう。気を付けてくださいね、行き先は“学校”とは名ばかりの施設ですから。」


 後の魔神復活の鍵となる二人の目的地は、学園校の『極秘書庫』だった。

 魔神復活のため、先の大戦について記された『人神大戦記』を手に入れるべく手を組んでいたのだ。


「しかし…本当にいいのですか?魔神が復活すれば、アナタの想い人…『勇者:凱空』もチリと化しますよ?」


 魔神の復活を目論み、遥か宇宙の彼方から協力しにきた魔王母であったが、春菜が本当に信頼できる人間かはイマイチ測りかねていた。


「ええ。手に入らないなら、星ごと滅べばいい。そのための力…『魔神:マオ』復活に向けて、力を貸してください。」

「最終目的は真逆ですけどね。愛する夫と息子が魔神を討つ…それが私の望みですから。」


 ヤバい二人が手を組んだ。


「さて…では行きましょうか。陽動はお願いしますね。」

「うん!やっちゃうぞ?ベビルさんやっちゃうぞ!」

「ノリノリですね…。何かが乗り移ったように別人じゃないですか。まぁ身元が割れそうにないので好都合ですが。」

「さー!張り切って乗り込んじゃうぞー!ベビルさんワクワクしてきたぞ!」


 その結果うっかり死にかけることを、彼女はまだ知らない。

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