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~勇者が行く~  作者: 創造主
第三部
115/196

【115】魔神を討つ者達(4)

俺が入った“悪魔の部屋”には、今回の黒幕と思われる元黄錬邪の春菜がいた。

ギリギリ間に合ったと見るか、まんまと誘い込まれたと見るか…まぁ考えてもわからんので気にするのはやめよう。


「ったく、最初は帝都、次はカクリ島、そしてまた…雑魚ども操って三度目の大暴れか。懲りん奴だな貴様も。」

「全国各地でもっと暴れてるキミに言われたくはないですけどね。」

「フッ、人気者ってのは目立つから困る。」


 勇者も懲りないタイプだった。


「それに今回はほとんど操ってはいませんよ。力は魔神用に温存しておかないと…ね。」

「ほぉ、なら無理矢理リミッター外して…なんて手は無いわけだ、安心したぜ。」


「…甘いね。“忠誠心”に勝る力の源なんて、この世には無いんだぜ?」


 赤錬邪が颯爽と現れた。

 ビシッとキメたポーズがウザい。


「そしてその声…博打だったのか。西の小島ではよくもやってくれたなぁオイ。」

「マスターはビジーだ、俺が相手するぜ。今度こそこれが…ラストバトルだ。」

「フン、じゃあまずは脱げよその衣装。お前ごときがリーダー色ってのが気に食わん。」

「ん…?フッ、いいだろうブラザー。俺もやはり、トドメは本来の姿でブホッ!」


 勇者は脱いでる最中に殴った。


「イテテ…相変わらず卑怯だなぁ。ま、案の定…大して効かなかったがね。」

「チッ、参ったぜ。マオの半身と共に、力の大半が消えちまったと見える…。魔剣が抜けんのも恐らくそれが原因だろう。」

「そのようだね。まぁ『勇者』の力の大半が“魔力”ってのはどうかと思うが。」

「フン、まぁいいさ。貴様ごとき雑魚、この短剣で十分だ。」

「言ってくれるねぇ。なら早速いくぜ、必殺カード『フラッグ・ジャック』!」


<フラッグ・ジャック>

 敵の全身に計53本の旗が現れるので、術者は五分以内に好きな本数盗む。

 その旗に書かれた数字の合計が21なら、相手に大ダメージを与える。

 21に満たない場合、その差分×44のダメージを自分が受ける。


「さぁいくぜブラザー…って、いないっ!?」



 そして五分後。


「ぎぇええええっ!!」


 博打に924のダメージ。




俺が颯爽と便所に行ってる間に、なぜか博打は倒れていた。

誰か助っ人でも現れたのか、もしくは黄錬邪に裏切られたとか…?まぁどちらにせよ、敵は一人減ったようだ。


「オイこら博打。なんだ貴様、人の帰りを寝て待つとは礼儀知らずな奴め。」

「うぐっ…ぶ、ブラザー…この緊迫した状況下で、一体どこに…?」

「ん?ちょっと小便に…お前流に言うならアンモニアがスプラッシュしそうだったんでだな。」

「そ、そうか…俺ってそんなイメージなのか…」


 博打は急に恥ずかしくなった。


「まぁ何はともあれ、戦う手間が省けたようだなぁ博打よ。とっとと始末して次へ移るとしようか。」

「くっ、体が…ここまでか…!万事ティーポットか…!」

「いや、“休す”と“急須”は別物だが…まぁ気にすまい。死ねぇえええええ!」


「ま、待つべやぁー!ちょいと待っとくれぇーー!」


「むっ、その田舎者丸出しの口調は…!」

「ッ!!?」


 なんと、逃げたはずの奮虎が現れた。

 そして勇者にボコられた。



「ふぅ~…スッキリした。さて、じゃあ気を取り直して今度こそ博打を…」

「ぐふっ…だ、だから待つべ。そうはいかねぇ…それだけは、させねぇべさ!」

「む?解せんな、なぜ貴様がコイツをかばう?生き別れの弟でもあるまいに。」

「それは生き別れの…えっ、なんだべそのネタバレ!?」


 どうでもいい設定が明かされた。


「そうか、まさかお前らがそんな関係だったとはな…。だが悪いが俺には関係の無い話だ。そして興味も無い。」

「お願ぇだ勇者、弟を…見逃してやってほしいだ。そのためならオラは命も…!」

「な、なんのつもりだよリアル・ブラザー?俺は村を捨てた身…裏切り者だぜ?」

「そんなもんは関係無ぇべ。どこにいようと、オメェが弟なのに変わりは…ねぇんだ!」

「ッ…!!」


 奮虎の言葉に激しく狼狽する博打。

 とても演技には見えない。


「だども、一つだけ聞かせてほしいだ。なして…なして村さ出て行っただ?」

「んー、その方言じゃないのか?そのダサさはもうグレるに十分だと思うぞ。」

「いやいやいや!そげな小っさい理由で村に火ぃ付けて逃げるお馬鹿がどこに」

「う゛っ…」

「ここに!?んで今や勢い余って世界滅ぼしたくなるくれぇ荒んじまったと!?うわぉマジだべか!」

「す、すまねぇ…。一時の恥ずかしさに負けて俺…オラとんでもねぇことを…!」

「ま…まぁいいべ。漏れたウンコは戻らねぇ…過ぎたことは忘れたべよ。」


 奮虎はことわざっぽく最低に下品なことを言った。


「あ、兄者ぁ…!」

「弟よ…!」


 二人は暑苦しく抱き合った。

 その感動的っぽい光景に、勇者は反吐が出そうになった。


「ま…マジかよ博打?なんだこの茶番…もっとないのか?今の世の中とか人類に絶望した!みたいな、よくありがちな陳腐な…」


 博打の動機があまりにくだらなかったため、勇者は怒る気も失せてしまった。


「…チッ。あまりにくだらなすぎて興が醒めちまったぜ…。もういい、消えろ。」

「えっ…そ、それじゃあ弟は…!」



ズバシュッ!


 “消えろ”の意味が違った。



「そ、そんな…そんなぁ…兄者ぁあああああああ!!」


 勇者に斬られ、血まみれで倒れる奮虎を必死に助けようとする博打。

 だがどう見ても助かりそうにない。


「ゆ、勇者テメェ…テメェの血は何色だよこの悪魔がっ…!」

「流せる涙があるのなら、よく考えることだ。貴様がしようとしていたことをな。そしてその結果、何が起ころうとしているのかを…だ。」

「ッ…!!」

「世界滅亡を望んだ貴様に、そんなこと言う権利があると思っているのか博打?」

「くっ…!って、でもやっぱり兄者が斬られる理由は無い気が…!?」

「ふむ、そうとも言う。」

「ファック…!!」


 消えかけた博打の憎悪がまた増大しかけた。

 だがそんな時、瀕死の奮虎が口を開いた。


「…いつからだべ?」

「あ、兄者!喋っちゃ駄目だべ、大人しくしてねぇと…」

「や、やっぱ気付いてただな勇者…オラが敵に…操られてたってこと…」


 なんと!懐に隠した奮虎の手には毒の付いたナイフが握られていた。


「なっ、ホントだべか兄者…!?」

「さっきから、所々…意識が…。いつまた操られるかわかんね…だから…これで良かっただ…。危うくオラこの手で、弟を…。ありがとな勇者…」

「ほぉ、そうだったのか。」

「えっ……」


 奮虎は複雑な表情のまま旅立った。


「あ、兄者…ソーリー…。オラが…オラが馬鹿だったべ…」

「悲しむ必要は無いぞ博打。」

「そ、そうだなブラザー。今は悲しんでる場合じゃないな。こうなったら俺も…」


「今からお前も、兄と同じ場所に逝くんだ。」

「えっ……?」



ゴスッドゴンッズガガガガガガガンッ!!



 会心の一撃!(一撃?)

 博打を必要以上に撃破した。




くだらん茶番に付き合わされた腹いせに、俺は怒りの鉄拳で博打を血祭りにあげてやった。ったく無駄な時間を食ったぜ。

だが幸いなことに、黄錬邪の奴は血の入ったビンを手にまだ呪文らしきものを唱え続けていた。なんとか間に合ったか。


「よぉ黒幕、雑魚の手下は片付けたぞ。今度はお前と遊んでやるから喜べ。」

「ハァ~…困りましたね、もう少しなのに。見逃してはもらえませんか?」

「フッ、俺は他人の期待を裏切ることに生きがいを感じるタイプだが何か?」

「強大な敵にこそ燃える…というのが『勇者』の基本設定ではありませんか?伝説の『魔神』と戦えるのですよ?」

「フン、わざわざ面倒増やしてまで腕試ししようってほど俺は酔狂じゃない。諦めろ。」

「それは残念。どうやら私は『勇者』という存在を買いかぶっていたようです。」

「いや、それは親父の段階でまず気づけよ。」

「あの人はもうなんというか、“病気”ですし。」

「お前とはいい友達になれたのかもな…。ま、もはや手遅れだがっ!」


ゴスッ!!


 勇者の攻撃!

 賢二に200のダメージ。


「ぎゃーーーー!!」

「なっ、賢二…!?馬鹿な、なぜ貴様が…!」


 予想外の展開に驚く勇者。

 黄錬邪は得意げに説明した。


「先ほど部屋に入ってきたので…ね。お忘れですか?私の能力は」

「なぜ貴様が、まだ生きてるんだ賢二!」


 そっちが意外だった。



「ぐっ、う゛ぅうう…痛い…あれ?一体僕は…どうして…?」

「な、なぜだ賢二…?死んでドクロになるっていう誓いは、どうしたんだ!?」

「いや、なんで残念がってるのかよくわかんないんだけど…」

「あらら、もう解けちゃいましたか。もう少し本気で仕掛けるべきでしたね。」

「フン、強がるな。奮虎にも効きが甘かった…恐らく貴様も相当限界が近いんだろう?もしくは…魔神のために力の大半を温存していると見た。」


 見透かしたような勇者の問いに黄錬邪は答えず、代わりに意味深な質問を返してきた。


「…キミは、この世界に何を望みますか?」

「ん、なんだいきなり?人の質問に質問で返すとは生意気な。」

「そしてその希望が潰えた時、キミは何を思うでしょう?」

「フン、意味のわからん問答に付き合ってやる義理は無い。ブッた斬る。」

「ちょ、ちょっと待って勇者君!これはもしかしたら説得できる流れかも…!」

「説得?フザけるな!コイツのせいで今までに何人が不幸な目に遭ってると思ってるんだ?」

「いや、その理屈だと勇者君も…」

「俺は、いいんだ。」


 理屈じゃなかった。



「さて…とっとと貴様を拘束して、盗子の葬式の準備でも邪魔するとするかな。」

「ちょっと勇者君!お葬式なんて縁起でもな…しかも邪魔する気なの!?」

「あぁ、動かない方がいい。この棺の下…ここに魔神の核が眠っています。」


 春菜のすぐ後ろには、古びた銀色の棺が見えた。

 邪神が封印されていたものと形状が似ており、信憑性は高そうな感じだ。


「その棺を開けるには鍵が必要なはずだが…蓋が開いてるところを見ると、あとはその血をかけるだけのようだな。」

「ええ。だいぶ時間を要しましたが、ここまでは順調でしたよ。」

「だが復活されても貴様ごときには制御しきれまい?やめておいた方がいい。」

「…少し、昔話をしましょうか。この魔神が封じられた時の話です。」


おもむろに語り始めた春菜の話によると、魔神は大戦の折に『勇者:救世主』により核を五つに分断されたのだという。

分断されても魔神の力は凄まじく、“五将”と呼ばれた核の化身達は校長らを苦しめたというが、最後には全ての核を棺に封印され眠りについたらしい。


「まぁ他の棺は結局見つかりませんでしたが、きっと一つでも復活すればその力は伝播し…そして全ての将が蘇ることでしょう。」」

「つまり貴様が言いたいのはこういうことか?いくら魔神とはいえ、五等分された核ならいくつかは操れると…そう考えてるってことだな?」

「ご明察です。とはいえ、分断されても最強は最強…私の力だけで容易に操れるものではありません。そのために特別に開発した術式が…」


 春菜は棺に手をかざした。

 棺の内部が怪しく光った。


「たった今、組み上がったところです。時間稼ぎの長話に、付き合ってくれてありがとう。」


 ニヤリと笑う春菜。

 どうやら勇者達は、まんまとハメられてしまったようだ。


「そ、そんなぁ…!どどどどどうしよ勇者君!?」

「無駄ですよ。いくら戦闘要員ではない私でも、これだけの距離があれば攻撃が届くより先に…」

「ハハッ、甘いな!その油断が貴様の敗因だ!食らえぇーーー!!」


 勇者は短剣を投げた。


パリン!


 血の入ったビンが砕け散った。


「あ。」


 サイは投げ…た。

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