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~勇者が行く~  作者: 創造主
第三部
114/196

【114】魔神を討つ者達(3)

爆煙の中から現れたのはなんと、身の丈を超える大鎌を携えたカマハハだった。

あの親父と共にいるくらいだからタダ者じゃないとは思っていたが、旧魔王軍…?まさかそれ程の奴だとは思わなかった。


色々問い詰めようとも考えたのだが、状況が状況なのでやめた。今は奴に任せて先を急ぐとしよう。

盗子はどうでもいいが、魔神に目覚められたら厄介…。黄錬邪を探さねばならん。


タッタッタッ…


「ど、どこへ行くれすか!?行く当てはあるんれす!?ねぇねぇ!」


 校庭は義母達に任せ、なんとか校内に入ることができた勇者と観理。

 勇者は無駄な戦闘を避けるため、なるべく誰もいそうにないルートを選んで進んでいた。


「ったく、うるせぇよギャーギャー騒ぐな小娘!黙って俺に、ついて来やがれ!」

「えっ、なにそれプロポーズ!?一生添い遂げろ的な…!?オケーイ受けたぁ!」

「勝手に受けるな!解釈も違うし即答で快諾するのもおかしいだろ!」

「ってチョイと待つれす!あっちの角から人の気配がコンニチハ!」

「フン、気づいてるさ。姿を見せた瞬間に仕留めるぞ、さぁ出て来い雑魚がぁ!」

「わーー!ちょちょちょっと待って!僕だよ僕!」


 恐る恐る賢二が現れた。


ズゴンッ!


「ゴフッ!!」

「なんでれす!?」


 男に二言は無かった。


「いたたた…!痛いよ勇者君、なんで僕と認識したのに腕振り抜いたの…?」

「いや、なんとなく。」

「それで納得できちゃう自分が悲しいな…慣れって怖いね…」

「ところで賢二、お前…一人なのか?」

「あっ、そうだのんびりしてる場合じゃ…!盗子さんが…盗子さんが敵に連れられて奥に…!」

「チッ、やはりか…!」

「んで、結局どうするおつもり?フラフラと気の向くままにダッシュれすか??」

「フン、この俺が当てもなく走ってるとでも思ったか?大体の目星はついてる。」

「あ、『極秘書庫』だよね?前に侵入騒動あったのってあの場所くらいだし…」

「フッ、甘いな雑魚賢二。あれはベビルがわざと目立つように漁ったんだ。恐らく俺達にそう思わせるためだろう。」

「えっ、そんなキャラには見えなかったけど…?で、でもそれじゃあ…」

「あるだろ?俺達しか知らない…何を守ってるかもわからん…そんな場所が。」

「あっ…!」


 観理は何かを言おうとした。


「NGワード、“いうえお”。」

「な、なぜバレたっ…!」


 だが勇者に攻撃を封じられた。


「ん~?そんな場所なんて僕に心当たりは…って、ハッ!ま、まままさかっ…!」

「そう、かつて貴様が一ヶ月ほど閉じ込められたあの部屋…『秘密の部屋』だ。」


 賢二はトラウマが蘇った。



「そ、そんな…あの部屋が…ホントにあの部屋なの…!?」

「絶対何かあると思いつつ十年も見て見ぬ振りした部屋だ、これで違うだなんて許されん。つーか今回の件より秘密にすべきことなんてそうそう無いだろ?」

「で、でも…!」

「つーわけだ、行くぞ賢二!部屋の方向は静か…まだ間に合うやもしれん!」

「いやぁあああ!!い、イヤだよ絶対無理無理!食い散らかされちゃうよ!あのペルペロスだよ!?」

「安心しろ、多分奴なら骨も残さん。」

「“食べ物”なら本望だけど“人”としてはイヤだよ!というかなんで見殺す気満々なの!?」


 十年近く経った今でもまだ恐怖が残っている賢二は、必死の抵抗を見せた。

 だがそうも言っていられない状況だということを、これから知ることとなる。


「ちょいと質問れす!魔神さんの復活って、何か儀式的なのが必要だったり?」

「あー、えっと…確か“血”が必要だとか聞いた気が…」

「そう、血だ。そしてその状況で盗子がさらわれたとなると、もしかしたら…」

「と、盗子さんが危険だってこと!?でもなんで彼女が…何か理由でも…?」

「そうかお前は知らなかったか。信じがたいが盗子は…『天帝』の娘なんだと。」

「えぇっ!?じゃあ『皇女』ってこと!?世界で一番高貴な血を引く…あれ?じゃあ芋子さんは…?」

「お前にはアイツが本物に見えたのか?」

「まぁ改めてそう言われると確かにそうだけど…」

「もろもろ真偽は不明だが、もし本当の話なら肩書きだけはいっちょまえ…となると、盗子の血が使われる可能性は高い。奴が危険だ、急ぐぞ!」

「う、うんっ!」


無事でいろよ、魔神…!


 あくまでもそっちだった。



そして、そんなこんなで『秘密の部屋』の辺りまでやってきた俺達。確かこの奥のはずだ。


「よく見ると複数の足跡が見えるな…。チッ、どうやら先を越されたらしい。」

「えっ、もうここいられすか!?なんも見えない観理さんは裸の女王様!?」

「見てろ雑魚が。こことそっちの床を踏みながら、壁を3×3回ノックすると…」


コンコンコン、コンコンコン、コンコンコン…


 なんと、壁に入力装置が現れた。


「で、ここに九桁の暗証番号入れると扉が現れるんだよね?押さないけどね!」

「ああ、入学初日に偶然見つけた時には驚いたぜ。」

「偶然見つけれるレベルじゃねぇと思うれすが、それは観理さんの気のせい…?」

「さぁ押すぞ。俺はモタモタするのと盗子が大嫌いなんでな。」

「ちょ、ちょっと待ってよ勇者君!中にはあのペルペロスがいるんだよ!?」

「前門のペルペロス、後門の俺…どちらを選ぶかは貴様の自由だ。」

「よく知らんれすがどっちも死にそうれすね…」

「よし、じゃあ開けるぞ。」


 勇者は扉を開けた。


「ワォオーーーーーーン!!」


 勇者は大声を張り上げた。

 ビビッた賢二は泡を吹いた。


「うわぁああああ!なにいきなり煽るの勇者君!?信じらんないんだけど!?」

「やれやれ誰もいないじゃないか。どうしたんだあの犬は?番犬失格だなオイ。」

「おっとぉー!ちょいと見るれすよ、あっちの扉の方っ!アレアレ!」


 勇者は奥にある扉の方を見た。

 なんと、紫色の血だまりがあった。


「これはあの駄犬の血か?自分を傷つけ正気を取り戻す…例のよくあるパターンだな。一度は黄錬邪に操られたものの、自力で立ち直ったと見える。」

「じゃあペルペロスは奥に…つまりここにはいないってこと!?やったぁー!」

「よし、奥に向かうぞ。」

「だよね…」

「気を引き締めていけよ?ここから先…命の保証は無いと思え。」


 今に始まった話じゃなかった。




俺達が秘密の部屋奥にあった扉を開けると、そこには地下へと続く階段があった。

そして降りきった先には迷路のような道が張り巡らされ、歩くと炎が灯る謎のロウソクまで配置されており、その空間がかなりの年月をかけて準備されたものだというのがうかがえた。

こんなの勘でどうにかなるレベルじゃない。ここはペルペロスの血痕が導いてくれるのを期待するしかない。


「ふぅ、だいぶ歩いたな…。滴る血の様子から見るに、だいぶスピードが落ちてきたと見える。もうじき現れそうだなペルペロス…懐かしいだろ賢二?」

「あー…うん、そだね…」

「観理さん、“絶望”をここまでリアルに体現できる人にゃ初めて会ったれす。」

「盗子・黄錬邪・盗子・ペルペロスの順に始末するぞ。体力は温存しとけよ?」

「いや、無駄な戦いが二回も含まれてるけどいいの…?」


ベチャッ…


「へ…?なんだろこの岩の周りに、やけにペルペロスの血が…って、うっぎゃああああああああ!?」


 賢二は驚きのあまり腰を抜かした。

 なんと!岩だと思ったのはペルペロスがうずくまった姿だった。


「ひ、ひぃいいいい!出たぁああああああ!!たたた食べっ…食べられるぅうううううううう!!」

「落ち着け賢二、寝てるぞコイツ。血を流しすぎて限界がきたんだろう。死んじゃいないようだが、まともに動ける状態でもないはずだ。」


 ペルペロスは冬眠中かのように大人しくしている。


「まぁ良かったじゃないか賢二、コイツとやり合わずに済ん…おっと危ねぇ、俺も靴に血が…む?この色…人の血じゃないか…?」

「およ?なんかこのワンちゃん、何かを守るように身を丸めてるっぽいれすよ?」


 勇者は観理が指す方に目を向けた。

 ペルペロスの影に隠れるように、血まみれの何かが横たわっていた。


「なっ…」

「んー?なんかあったれすか…って、ギョッ!?ちょっ…!」

「そ、そんな…こんなことって…勇者君…!」



「と…盗子……?」



 返事が無い。

 ただの屍のようだ。




秘密の地下迷路の先で発見したのは、なんと物言わぬ屍と化した盗子の姿だった。

…いや違う。殺しても死なんような奴だ、きっと何かの裏技を使った演技に違いない。


「ゴキブリってのは敵を前に、時に死んだフリをするという。油断ならん奴め。」

「この状況でその技使うメリットをよく考えて!確かに勇者君はかなりの強敵だけども!」

「言いづらいけどポックリ逝っちゃってるれすよこれ…。まだ温かいけども…」

「まだ起きないか…よし、じゃあ試しに首でもハネてみるか。」

「それ“試しに”じゃ済まないれす!試した後に起きたら起きたで超おっかねぇれすし!」

「ちょっと勇者君、いい加減にしてよ!今くらいはフザけてないで真面目に」

「この状況でフザけてられるかよっ!!」


 真面目に言っててそれってどうなんだ。


「…ハァ、やれやれ。生きててもウザいだけだが、俺の手で始末するつもりだった奴だ。不本意ながら蘇生に入ろうと思う。観理、メス。」

「こっちは?」

「オス。」

「いや、『ヒヨコの性別鑑定士ごっこ』は後にしてもらえる!?急がないと…!」


「ふぅ、やっぱり恐れてた事態に…。あらあら困ったわねぇ~。」


 賢二が途方に暮れていると、校庭に残してきたはずの女医が現れた。

 どうやらこうなることを予期して追ってきたようだ。


「あっ、女医先生!ちょうどいいところにやっと適任者が…!良かったぁ…!」


 女医は急いで盗子を診た。

 だが表情が変わらないため、どういう状況かまったく伝わってこない。


「で、どうなんだ女医!?ヤブな判断しやがったらブッた斬るぞ!?」

「…なるほどね。とるべき道は二つに一つ…といったところかしら。どうする?」

「えっ、じゃあ何か手があるんですか女医先生!?」

「一体何があるんだ!?言えっ、その方法を!!」


「火葬と土葬、どっちが好み?」


 サジの投げ方が半端なかった。



「そ、そんな…もうどうしようもないんですか!?ホントに…ホントにもう…?」

「大量の血を抜かれてるの。今からじゃもう…あらあらホント困ったわね~。」

「だったらもっと困った感じ出してもらえません!?伝わらないんですけども!」

「なんとかならんのか!?〔死者蘇生〕みたいな便利な魔法とかなんとか!」

「そんなやりたい放題な展開は、編集部的にアウトらしいわ。」

「え、なんですその初耳な組織!?」

「チッ、手詰まりか…!?クソがっ…!!」


 打つ手が無い状況に、誰もが諦めかけた、その時―――



「そうは、させないよっ!!」



「なっ!?その声は、まさか…!」


 颯爽と姫が現れた。


「うぉーーーー!!無事だったんだな姫ちゃん、良かった!天空城から落ちて以来ずっと心配し」

「大変なことになっちゃったね、盗子ちゃん…。でも大丈夫、私が治すよ!」

「姫さん…でも、言いたくないけどシラフの姫さんには何の期待も…」

「いや、待て賢二!姫ちゃんが右手に持ってる“アレ”は…!」


「私に任せて勇者君。うまくいくかわからないけど…手は一つだけ、あるよ。」


アレは…『アルコール…ランプ』…!


 良い子は飲んじゃ駄目だ。




アレの中身で素敵に酔えるのかはわからんが、事実酔ってるっぽい姫ちゃん。

任せて大丈夫かは気にしても仕方ないので、思い切って任せてみることにした。

だが、観理の力も必要だというがどういう意味だろう…?まぁいい。今はとりあえず魔神復活を阻止すべく、奥へ向かうのが先決…仕方ない、急ぐか!


タタタタッ…!


「気をつけろよ賢二。あそこで血を抜いたってことは、魔神の核はもう近いに違いない。」

「でも、どうして事前に抜いたんだろ?普通奥まで連れてくと思うけど…」

「まぁペルペロスのせいだろうな。なぜかはわからんが、奴は盗子を守るように丸まっていた。だから下手に刺激して起こさんよう、血だけ抜いたと考えるのが妥当だろう。」

「やっぱりペルペロスも校長先生の指令で動いてたのかなぁ?」

「フン、さあな…おっと、そうこうしてる間に…見えたぜ。どう見てもアレだ。」


 明らかに怪しい三つの扉が現れた。


「各々に“ドクロ”、“鬼”、“悪魔”の絵…か。つまり“行き止まり”って意味か?」

「なんか…罠でもいいから“天使”とか用意してほしいよね…」

「まぁいい、悩んだって始まらん。ホントはもう一人欲しかったが仕方ない。開けろ賢二、予言の言葉にあった“地獄の扉”を…な。」

「えっ…どれを?」


 どれでも正解っぽい。


「ま、考えても意味ないか…よし、じゃあ俺は悪魔だ。」

「うん知ってる…ぐはっ!」

「そうじゃねーよ!俺が“悪魔の扉”を開けると言っただけだよクソがっ!」

「だ、だったら僕は…“ドクロの扉”かな…。数分後の自分っぽいしね…」


「そうか。じゃあ残る“鬼の扉”は、この俺ってことになるな。」


「なっ、貴様は…!」


 声のした方に目を向けると、そこには盗子の兄…武史が立っていた。


「そして盗子は、俺が守る!!」


 だが凄まじく手遅れだった。



もう手遅れなのも知らず、颯爽と現れたシスコン武史。まったくマヌケな野郎だ。

しかし今は人手が欲しい状況…死ぬほど落胆されても困るし、盗子の件は黙っておくことにしよう。


「よぉ、随分と久しぶりだなシスコン。さぁとっとと扉の先へ進むがいい。」

「フン、お前の指図を受ける気はねぇよ。俺はお前が、大嫌いなんでな。」

「フッ、気が合うな。俺も貴様の妹が大嫌いだ。」

「ちょっ…今は身内で争ってる場合じゃ…!」

「だ、誰が身内だっ!コイツを義弟にするなんてまっぴらゴメンだからな!」

「いや、そんな意味で言ったつもりは…」

「…まぁいい、盗子を助け出すまでの間だけだ。仕方なく手を組んでやるよ。」

「む?なんだよそれ…新手のプロポーズか?」

(違うから勇者君!“もう助からない=永遠に一緒”みたいな受け取り方は違うから!)

「む…?よくわからねぇが…とにかく急ぐぞ。盗子はきっと、怖くて震えてる。」

「いや、ピクリともしてないんじゃないか?」

「!?」

「わー!」


 賢二は心労が絶えない。


「さて…じゃあ入るか。貴様ら、もしアタリ部屋だったら責任持って戦えよな。」

「フン、言われるまでもねぇ。」

「死にたくないなぁ…」


 全員それぞれ扉を開けた。



~悪魔の部屋~


「ようこそ。やはりアナタが来ましたか。さすがは『勇者』…運命ですかね。」

「その声…黄錬邪か。フッ、どうやら俺がアタリを引いたらしいな。」


「ふふふ…アタリかハズレかは、身をもって味わってください。」



~鬼の部屋~


「その格好…テメェが新しい群青錬邪か?」

「残念だな武士の小僧、ここはハズレだよ。この『伊予平イヨヘイ』には誰も勝てぬ。」

「伊予平…S級首の『傭兵』じゃねぇか。だったら俺がブッ倒して、帝牢にブチ込んでやる!」



~ドクロの部屋~


「ケケッ!オメェごときがこの新黒錬邪様に、勝てるとでも思ってんのかぁ!?」

「いえ、まったく…」


 仲間外れを探せ。

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