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~勇者が行く~  作者: 創造主
第三部
113/196

【113】外伝

*** 外伝:男似が行く ***


俺の名は『男似ダンジ』。男の中の男を目指す硬派な三歳児。

職はまだ無い。男を極めるにあたり最も相応しい職は何なのか…考えても全然わからないからだ。

『勇者』『剣士』『武闘家』『戦士』…どれも魅力的で、色々考え始めたらキリが無い。

こういう場合は視点を変えて、敢えて形から入ってみるのもいいのかもしれない。


「よし、この店にするか…色々ありそうだ。」


思い悩んだ俺は、とりあえず防具屋に来てみた。

重厚な鎧、丈夫な胴衣、素敵な法衣、ゴスロリ、ミニスカ、ガーターベルト…


うん、いいかもしんない。


 男似は目覚めちゃった。



職選びのつもりがうっかり別の世界に目覚めてしまい、それから一年で全てが変わっていった。

豪快に変わり果てた俺は親にも見離され、仕方なく島を出た。こうなったらもう戻れない。

だが決まったのは方向性だけで未だ職は決まらず…。仕方なく俺は、場末のバーでバイトを始めることにしたのだ。


「よろしくねぇ坊や。私のこと、ホントのママと思ってもいいのよぉ~?」


新しいパパができた。


 普通のバーじゃなかった。




オカマバーで働くようになり一年が経った頃、お客から気になる噂を聞いた。それは『三日月の鎌』という、かつて伝説のオカマが操ったという強力な武器の話。

なんでも今はどこかに埋まっていて、オカマの中のオカマだけが引き抜けて、振るう度に持ち主の“男気”を食らう、呪われた武器なんだとか。


もう…戻れない。


 さっき抜いたばかりだった。



そしてさらにもう一年が経過。俺は六歳になった。

二年も働いていると、酒の絡む商売なだけに、しばしば困ったお客もやってきた。中には料金を踏み倒して逃げようとする輩もいたため、そんな時にはよく戦った。

自慢じゃなく強かった俺は、例の呪いの鎌を振るうことなく全戦全勝…そう、“あの日”までは。


「ハァ、ハァ…くっ、馬鹿な…!この俺が、こんな食い逃げ野郎に手も足も出ないなんて…!」


 ボロボロに傷つき、地面に膝をつく男似。

 そしてそんな彼を見下ろすのは、小汚いマントを羽織った同じくらいの背丈の少年。


「フッ、いい線いってるがこの俺に逆らうには十年早い。出直してくるんだな。」

「いや、お前が金持って出直して来いよ。」

「俺の名か?いいだろう、教えてやろう。」

「聞いた覚えは全く無いんだが…確かに気になるな、いいよ名乗るがいい。」


 すると少年は、若干フラフラしながらもマントを投げ捨て、そして偉そうに名乗った。


「ヒック、俺の名は『凱空』。基本的に…何もしない男だ。」


 金くらい払え。



「ふぅ、やれやれ…参ったな。常勝無敗のこの俺が、まさかこんなクソ野郎に完敗とは思わなかったよ。」

「お?いいねぇ、カンパーイ♪」

「いや、その乾杯じゃないし…ってまだ飲む気かよ文無しの分際で。」


 一時間後。勝負は凱空の勝利で幕を閉じ、男似は大の字で地面に転がっていた。


「ったく、こんなフザけた男が俺より強いとか…世の中間違ってるわ…」

「フン、まだわからんだろう?貴様はまだ力を隠し持ってる…俺にはそう見えたがな。」

「…へぇ、さすがだねぇ。やっぱりタダ者じゃないらしい。」

「いや、タダで済むならそれに越したことは無いんだが。」

「そっちの話じゃねーよ。会計の方はキッチリ済ましてから消えろボケ。」

「フッ悪いな、俺は店に金は払わん主義だ。」

「それは主義とかどうとかじゃなくて常識的な問題だよ!」

「と、まぁそういうわけだ。もう眠いから帰るぞ俺は。」

「ま、待て!負けたとはいえ、やはりスタッフとして見過ごすわけには…って、いない!?早っ!」


 後にSS級手配犯になる男だった。



人生初の敗北。負けたのも悔しいが、食い逃げされたのも悔しい。

次に会ったらどうしてくれようか…いや、よほどのアホでもない限りもう現れないだろう。

気にしても仕方ないし、気持ちを切り替えて仕事に戻るとしよう。


「…というね、困った奴がいたんですよ~。酷いと思いませんかお客さん?」


 バーに戻った男似は、やり場のない怒りを客愚痴るしかなかった。


「ふむ、まったくだな。」


 凱空は神妙な面持ちで答えた。


「ってなぜ貴様は何食わぬ顔で店に戻ってきてるんだ…!?」

「む?ここの子供酒はなかなかイケる。それに、リーズナブルだしな。」

「無銭飲食に安いもクソもないだろうが!ブッ殺…」

「やめておけ。中途半端な覚悟の者に、この俺は止められない。」

「なっ…!?この俺が、中途半端…だと…?」

「その言葉遣いがいい証拠だよ。お前はオカマに、なりきれていない。」

「いや、オカマにじゃなく女になろうとするのがオカマなんじゃ…」

「何を迷う?何をためらう?迷いある弱き者よ。」

「き、貴様…言わせておけば…!ぐぬぬ…!」


 思わず激情に駆られかけた男似だったが、なんとか怒りを抑えつけた。

 客商売で身に着けた自制心はさすがだった。


「…迷い、か。まぁそうか…。確かに、かつては男の中の男を目指した身…。未練があったのかも…な。」

「さーて、そろそろ帰るかな。ごちそうさ…むっ、なんだその大鎌は…?」


 男似は『三日月の鎌』を装備した。

 そして目を閉じて深呼吸し、カッと目を見開いた。


「だから見せてやるよ、この俺の男気の…最後の輝きを!っていないっ!?」


 凱空は空気を読めない。




その後、エリン大陸からギマイ大陸へと移り…そして三年が経った。

修行に励み、実力は並みの九歳児とは比較にならないくらい上がったはず。

いつの日か、奴との再戦に勝利するため…できる限り強くなっておきたい。


「…てゆー無銭飲食野郎がいたんですよ~。酷いと思いませんかお客さん?」


 打倒凱空に向け日々努力していた男似だったが、それだけでは食べていけないため、夜はこれまで通り場末のオカマバーで働いていた。

 今日の客は少女のようだ。男似より少し年上だろうその少女は、茶色の長い髪で美しい顔立ちをしていた。


「ま、気持ちはわかるね。」

「でしょう~?」

「アタイも、金は払わない。」

「え、そっち!?そっちがわかるの!?」

「その男とは気が合いそうだね、いつか会ってみたいもんだよ。」

「チッ…二度とそんな気が起きないようにしてやる。まずは名乗りな、アンタ。」

「ん?アタイかい?」


「アタイは『終』…アタイに逆らって、無事に済むと思うでないよ?」


「へぇ…面白い。」


 男似はボコボコにされた。



その後、何度となく店に来て、その度に私をボコッて無銭飲食を続けた彼女。

その傍若無人っぷりには、もう呆れたを通り越して、完全に負けたと思った。清々しいほどに完敗だった。


「どこにも居場所が無いだぁ?フン、だったらアタイがアンタの居場所になってやるよ。」


そんなこんなで気づけば私は、彼女を“姉さん”と呼び慕うようになっていったのだった。


店は潰れた。


 尋常じゃない被害額だった。




店が潰れて居場所が無くなった私は、なぜか姉さんの故郷である『ケンド村』で一緒に暮らすようになり、そのまま四年が過ぎた。

姉さんは私のことを“ダンディ”と呼ぶ。もう男らしさなんて全然いらないんだけど、姉さんに呼ばれる分には全く不快感は無かった。

姉さんは傍若無人な自由人のくせに、なぜか皆に慕われる不思議な人だった。


「終ネェちゃーん!ちょっと来てよーお願いだよー!」


 終の手を強引に引く五歳くらいの少年。

 終はとても面倒臭そうな顔をしている。


「ったくやかましい坊やだねぇ。上唇と下唇を本返し縫いで縫い合わすよ?」

「フフッ、さすがは姉さん、子供相手でも厳しいねぇ。」

「えーイヤだよアレ痛いしー!」

「ホントにやっちゃうあたりが特に。」


 終は何かにつけて規格外だったが、四年間の共同生活を経て男似は大抵のことには驚かなくなっていた。


「で、何の用だい『央遠オウエン』?くだらない話だったら酷いよ?嘘付いたら針五・六本飲ますからね?」

「いや、妙にリアリティのある本数だとガチっぽいから姉さん。」

「えーアレもイヤだよ痛いしー!」


 “ぽい”とかじゃなかった。


「んとさ、村外れの洞窟に変なほこらがあったんだよ!探検しようぜ五人でさ!」

「五人…?チッ、残りの二人も来たのかい…」


 央遠少年の背後から現れたのは、同じ顔をした別の少年。そのさらに後ろには、二人と同じ髪色で同じ額当てを付けた少女。

 少年の方は『右遠ウエン』で少女の方は『左遠サエン』であり、名前からも想像がつくように三人は三つ子だった。


「探検だぁ~?却下却下!悪いけどアタイはそんなに暇じゃないんだよ。アンタらだけで行ってきな。」

「無理だよぉ~、私達だけじゃ行けない高い所とかもあるんだよ~!」


 左遠は泣きそうな顔で終にしがみついた。


「ハァ~仕方ないねぇ…ダンディ、アンタ行ってやんな。アタイは家でゴロゴロするんだ。」

「え、なんで私が?てゆーか今さりげなく暇なの暴露しちゃってない?」

「ん~…まぁいっか。じゃあ行こうよ、おに…おね…うん、行こうよ!」


 左遠は正解がわからない。




姉さんの代わりに子供達に付き合わされるハメになった私。

十三歳にもなってガキと遊ぶのは疲れるけど、姉さんには逆らうだけ無駄だし…諦めるしかないね。


「もぉ~!央遠も右遠も早いよぉ~!どこぉ~!?」


 ケンド村の東にあるそのほこらは、大人達からは絶対に入るなと言われていた場所だったが、村人の半数が村祭りの準備で不在になるこの日を狙って子供達は行動を起こしていた。

 少年二人は猛ダッシュで奥へと駆け込んでいったため既に姿は見えず、男似と左遠は物音を頼りに後を追うしかなかった。


「ハァ…よくあんなに走り回れるもんだね~。超ダルいし…恨むよ姉さん…」

「オーイ!ちょっと来なよ左遠~!なんか変なのがあるー!」


 すると、奥から右遠の声が聞こえてきた。

 三つ子だけあって右遠と央遠は声もよく似ているが、口の悪い方が央遠でそうでもない方が右遠ということで大体の区別はついた。


「えっ、ホント右遠ー!?うわっほーい☆」

「変なのねぇ…。まったく子供ってのは変なもの大好きだよね~…」

「うっせーよオカマ!オメェの方が変だろーが!」

「オーケーお前殺す。」

「オニネェちゃんも早くー!」

「お前も若干殺す。」

「わ、私達も行こうよ、お…ネェちゃん…」


 左遠は気が抜けない。



兄弟の声がする方に行ってみると、そこには妙に禍々しい漆黒の石碑があった。

特に何がってわけじゃないけど、なんだかとても嫌な予感がする。ここは…近寄っちゃ駄目な場所だ。


「なんだか嫌な感じがするね…。やっぱ戻るよアンタら。この場所は良くない。」

「えーなんでだよぉー!?って、なんか字ぃ書いてあっぞ!見てみオニネェ!」

「ん?字って…?」


 央遠が指差した石碑には、こんなことが書かれていた。


『最凶の霊獣、ここに眠る。起こすなよ!絶っ対に起こすなよ!いやマジで!』


「オニネェちゃん、コレ…“前振り”だよね?“開けろ”って言われてるよね?」


 右遠は好奇心に満ちた目で男似を見ている。

 それは央遠も同じだった。


「なぁオニネェ、開けちまおうぜ!ここでやんなきゃ男がすたるぜ!だろ!?」

「いや、もうとっくにすたれてるし…って、え…?なにこれ、もう開いて…」


ブツン―――




「うっ…こ、ここ…は…?」


 急に意識が途切れた男似が目を覚ますと、そこはなぜか東のほこらではなく、ケンド村の中心部。

 だが村はいつもの穏やかな様子からは想像もできないほどの惨状と化しており、そこかしこに村人の亡骸が転がっていた。そしてほとんどの家は豪快に燃え盛り、まさに地獄絵図といった状況だったのだ。


「あっ、アンタら…!ちょっ、大丈…良かった、息はあるみたいだ。」


 煙のせいで気付くのが遅れたが、三つ子もすぐ近くに転がっていた。

 三人ともかなりの傷を負っているようだが、まだかろうじて生きているようだ。


「この状況は一体…もう何がなんだか…ハッ!」


 男似は妙な気配に気づいて振り返った。

 何か黒い影のようなものを見つけた。


「…アンタは、何?目の錯覚とかじゃなさそうだけど。」

「フッフッフ、我が名は『マオ』…霊獣マオ。どうだ少年よ、力が…欲しくはないか?」

「少年…?」


 怪訝な顔で返す男似。


「しょ…少女…?」


 マオは混乱している。



「フン、力が欲しいかって?何それ意味わかんない。私は危ない橋とか渡る気は無いし、それに今のこの状況…アンタが何かやらかしたんじゃないの?」

「ほぉ、察しがいいな。確かにこの惨状は…我らによるものだ。」

「“我ら”…?あっ!」


 ふいに感じた気配に男似が振り返ると、終の姿が目に入った。


「あ~、起きたんだねダンディ。寝覚めはどうだい?」

「んー、最悪だね。このマオとかいう…旧大戦の『魔神』みたいな変な名前の奴にナンパされてる最中だしー。」

「しかも多分本人だしね、それ。」

「本…えっ、アレが…!?てゆーか私が寝てる間に一体何が…!?」

「ほぉ…よくわかるな小娘。本来の姿とは似ても似つかんのだがなぁ。」

「フン。このアタイとタメ張るオーラ出す奴が、歴史上にそんな何人もいるわけないだろう?」

「ハハハッ!大した自信だ…だが言うだけの力を持っている。とても興味深い小娘だよ。敵であるのが残念でならんな。」

「フン、何さアンタ口説いてるのかい?アタイまだ十五だよ。」


 伝説の魔神相手に一歩も引く気配の無い終。

 だが次に終の口から出たのは、意外な言葉だった。


「でもまぁ…そうかい。じゃあアンタ、アタイと組むかい?」

「え゛ぇっ!?ちょっ、姉さん…!?」

「ほぉ、この小僧で手を打とうと思っていたが、更なる強者から名乗りが上がるとはな…。小娘、貴様何を企んでいる?」

「んー?なに、最近暇なもんでね。ちょいと世界征服でもしたいなぁ~と思ってたんだよ。」

「いや姉さん、暇潰しにしてはスケールが…!」

「オロオロしてんじゃないよダンディ!いいから黙って、アタイについてきな!」

「ね、姉さん…」


 終はマオに向かて両手を広げた。


「さ、とっとと入ってきな黒いの。アタイの名前は終だよ。」

「フッ、いいだろう終…稀に見る強き者よ。貴様に我の、力をくれてやる。」


 こうして『魔王』が誕生した。




 そして、三年の月日が流れた。


「ふむ、やっとここまで来たか…。もうこれ以上敵とは会いたくないもの…む?」


 メジ大陸にそびえる魔王城…魔王の部屋へと続く通路をひた走る凱空。

 そんな彼の前に現れたのは、一目見た限りでは女性としか思えない姿に成長した男似だった。


「ちょっとぉ~、勝手に入られたら超困るってゆーかぁ~?」

「お前はまさか、あのオカマバーの…?随分と印象が変わったが、何があった?」

「説明とか超ダルいんですけどぉ~。」

「なんだオイ、そんなこと言うと泣くぞオイ。」

「じゃあ死ねばぁ~?」

「うぐっ…!」


 凱空は振り回される側には慣れてなかった。


「ふぅ、やれやれ…そうか。前は握るのも躊躇していたその鎌…それのせいか。どんな心境の変化だ?」

「…ま、事情が変わったってゆーかぁ?なりふり構ってらんない~みたいな?」

「フッ…面白い。枷が外れた貴様の実力、見せてもらおうか。」

「ハァ~?超ウザ~。」


 男似は『三日月の鎌』を振りかざした。

 全ては『魔王』…終のために。

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