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~勇者が行く~  作者: 創造主
第三部
112/196

【112】魔神を討つ者達(2)

 勇者と奮虎が西の小島から出られずにいた頃、賢二達はなんだかんだで観理と意気投合し、ともに空からカクリ島を目指して飛んでいた。

 故郷が近づくにつれ恐怖の思い出の数々がフラッシュバックし、賢二らの表情が見る見る暗くなっていったのは言うまでもない。


「か、カクリ島…。見えてきちゃったね盗子さん…。とっても行きたくないけど、でも校長先生にああ言われちゃね…」

「魔神復活の地かぁ~。意味わかんないけど、今回の件で言う『魔神』って校長先生のことじゃないよね…?」

「だったらだったで僕は驚かない自信はあるけどね…」

「タイミング的に、新五錬邪が何かやらかしてると思っていい感じだよね…」

「全然いい感じの話ではないけどね…」

「で、でもホラ!あの放送聞いたんなら勇者や他の仲間とかもいっぱい集結し…」


ズガァアアアアアン!!


 凄まじい衝撃が船内を駆け抜けた。


「うわわわわっ!?えっ!ど、どーしたの何があったの!?」

「た、大変なのれすヤバいのれす!」


 大慌てで観理が飛び込んできた。


「い、一体何があったんですか観理さん?船尾の方に何かあったみたいだけど…」


「あのれすね、その…巨大な岩が…!」


 身内(勇者)の攻撃だった。




「チッ、外したか…。ならば次はもっとこう、直線的に破壊力のある感じで…」


 勇者の一投のせいで賢二らの飛行船は大変なことになっていたが、勇者の位置からは見えてはおらず、仮に見えていたとしてもきっと反省はしなかった。


「ま、待つべさ勇者!今の勢いで海竜に当たったら、捕らえるどころか死んじまうべ!」

「それはそれで面白い。」

「面白さは二の次で頼むべ!も、もっと他に何かいい案は無ぇもんだべか?」

「ふむ、じゃあこういうのはどうだ?さっきのような大岩にロープを巻き付け、もう片方を船に結び付ける。そしてその岩を貴様に投げつける。」

「遠くに投げるでなくなぜオラに…!?真面目に考えるべ!まぁオメェの場合、真面目に言ってそれなのかもしんねぇが…」

「だが前半まではいけそうな気がしないか?適当な船さえあれば…むっ?」


 勇者は手頃な獣車を見つけた。

 見たところ水陸両用タイプのようだ。


「おぉっ!?や、やったべよ勇者!あれなら安全に行けそうだべ!」

「だが俺は獣車なんか運転できんぞ?確かに“カクリ島”とは書いてあるが…」

「大丈夫、ありゃ道を覚えててくれるタイプの魔獣だべ。定期船なんかに使われるタイプだで。」


 思いがけぬ幸運を喜ぶ奮虎。

 だが勇者は何かが腑に落ちない様子。


「んー…なぁ奮虎、あんなのさっきからあったか?」

「そったらこと気にしてる場合じゃねぇべさ!今は一刻を争うはずだっぺ!」

「…ま、そうだな。よし、行くぞ!」


 勇者一向は海に出た。



 勇者らが島を出たのを確認すると、岩陰から島民達がわらわらと現れた。

 何かの儀式中なのか、皆が一様に怪しげな衣装に身を包んでいる。


「…やれやれ、やっと行ってくれましたねぇ。でも良かったのですか?我々も行かなくて…」

「フッ、行っても力にはなれまい。我々は我々の…できることをするまでだ。」


 島民Aの問いに答えたのは、今回の一件に深く関わる男、学園校の校長だった。


「校長、“魔法陣”の準備整いました。ですが術士の卒業生はまだ半分も…」

「構わん、すぐに始めるぞ。急がねばこれまでの研究が全て、徒労に終わる。」


 見るからに邪悪なその姿は、いつも通り“世界を滅ぼす側”にしか見えなかったという。




奮虎と共に獣車で海上を走ること小一時間。懐かしのカクリ島が見えてきた。

遠足の時など、この島を遠目から見る機会はたまにあったが、当然のことながらこれが魔神の本体だとは考えもしなかった。

いくら住むには小さな島だとはいえ、こんなのが動き出したらと考えるとゾッとするな。


「ふぅ全滅かよ…。敵の強さや規模は知らんが、まったく情け無い島民どもめ。」


上陸した俺達の目に飛び込んできたのは、まずまずの惨状だった。

港は焼け野原状態。こりゃあ結構ヤバそうだ。


「お、オイ勇者!生き残りがいるべ!息のある島民がいるっぺよ!」

「なにぃ!?チッ、なんてツメの甘い奴らなんだ!」

「ってオイオイ、オメェどっち側だべさ!?」


 勇者が歩み寄ると、瀕死の島民は声を振り絞るように話しかけてきた。


「ぐふっ…お…?おぉ勇者ちゃんか…大きくなったな…」

「む?なんだオッサン、この俺を知ってるのか?死にかけの分際で生意気な。」

「フフッ…この島で、お前さんを知らん奴ぁいないさ。なんたって親が…なぁ?」

「どっちの親を指すかによって意味は変わってくるが、まぁ理由はわかった。で?何があった?」

「行くなら…学校だ…。灰色の…謎マントの大群が向かった…校舎の結界も、長くは…もつまい…」

「…そうか。チョイ役ご苦労、安らかに眠れ|(ドスッ!)。よし行くぞ奮虎!」

「ちょっ、えぇっ!?何のためらいもなく!?」

「当然だろ、逃げてどうする?悪に臆して…何が『勇者』だっ!」


 そっちの話じゃなかった。




故・島民の助言通り、俺達は学校への道を急いだ。

すると途中で、なにやら宇宙船的な物体の残骸を発見。これは一体なんなんだ…?


「…と、凡人なら気になるとこだが急いでる俺は華麗にスルー。」

「急いでるにしちゃ落ち着きすぎでねぇか!?も少しパニックになってもいいくれぇだ!」

「シッ!騒ぐな奮虎、誰かいる…。状況的に敵の可能性も高いぞ。」


「う゛っ、うぅん…酷い目に遭ったれすぅ~…」


 瓦礫の隙間から観理が現れた。

 豪快に墜落した割に無事だったようだ。


「ゆ、油断すんじゃねぇべよ勇者?娘っこだからって弱ぇとは限らねぇべ。」

「フッ、安心しろ。俺は女だろうとグーで殴れる油断無き男だ。」

「それは違った意味で安心しづれぇけんども…まぁもうこの際諦めるべ。」

「さぁ小娘、名を名乗れ。もしくはほっぺにグーパンチだ。」

「むっ、アンタこそ何者れす?観理さん、見知らぬ人には秘密主義れすよ!?」

「OKカンリ、頬を出そうか。」

「バレちゃってる!?って、結果的に要望通り名乗ったのになぜ頬を!?冗談きっついれす!」


 決して冗談ではなかった。




「…とまぁ、そんなわけなんれすよ。どうよ今のわっかりやすい説明?参っちゃった?」

「つまり貴様は何も知らんと。」

「そーとも言っちゃう。」


学校手前で出会った小娘は、聞けば新桃錬邪なのだという。

そのため歩きながら色々他にも聞いたが、特に大した情報は持っていないようだ。

とりあえずわかったのは、こいつがちっとも“秘密主義”じゃないってことくらいか。


「やれやれ…。ったく、仲間に会えんどころかこんな妙な奴に会っちまうとはな。扱いに困るじゃねーか。」

「あぁ、そーいやホレ、あの犬っころみてぇなのはどうしただよ勇者?来てねぇだか?あのいつも泣きそうな…」

「賢二のことか?アイツなら敵にさらわれたよ。まぁ意外にしぶとい奴だからな、まだ無様に生きてるだろうが。」

「ケンジ…もしや魔法士の人れす?じゃああのうっさい盗賊っ子ともお知り合いだったり?」

「なにっ、貴様賢二を知ってるのか!?まさかアイツもそこの船に乗って…」

「うん…。けど急に飛んできた岩に撃墜されちゃって、気づいたら今れすよ。おっかない世の中れすわ。」

「まったくだな。」

「オメェが一番おっかねぇだよ…」


観理の話から推察すると、賢二や盗子は観理と行動を共にしていたのだが、飛行船が墜落したことではぐれてしまったようだ。

他に仲間が見当たらないことを考えると、賢二達はそいつらに連れていかれたと見るのが妥当だろう。行き先はわからんが…なんだか嫌な予感がする。


「で、どーなるれすか?結局観理さんは置いてけぼりっ子?」

「いや、連れてってやるよ。人質なりスパイなり使い道はありそうだしな。」

「それは本人に言うべき内容じゃねぇと思うれすが。」

「そんなことより…ほら、見えてきたぞ。あれが目的の地…学園校だ。」


 勇者は学園校を視界にとらえた。

 だが見たところ、“時すでに遅し”な状況。

 校庭のあちこちから煙が立ち上り、そこかしこに犠牲者が転がっていた。


「う、うへぇ~…こりゃ大惨事だっぺよ…。もう手遅れなんじゃねぇべか…?」

「いや、校庭の荒れ具合に比べりゃ校舎は軽い。結界で随分凌いだと見える。」

「酷いれす…なんちゅーことを…」

「お前の仲間がな。」

「他人にゃ厳しんだなや勇者…」

「んーー~…うん!やっぱこれ以上はもう無理ッスわ、もう仲間とかやめるれす!観理さんやっぱし暴力嫌いっ子さん!」


「へぇ…随分なこと言ってくれんじゃん。じゃあ今から敵ってことでいいんか?」


 待ち構えていたように、黄緑錬邪と愉快な仲間達が現れた。

 黄緑錬邪は声からすると男性のようだ。


「ふむ、そのサイズに声…やはり巫菜子じゃないか。そして仲間は約百…まぁ恐るるに足らんな。この程度でチビるんじゃないぞ奮虎?」

「フッ、そのセリフ…もうチョイ早く聞きたかったべ。」

「遅かったか…。なぜお前の括約筋はちっとも活躍しないんだ?」


「…だ、駄目だ逃げな…。雑魚はともかく、あの黄緑の奴は…マズい…」


 瓦礫の中から美盗が現れた。

 ボロボロに傷つき、かなり消耗している。


「む?貴様は盗子の…。もう虫の息じゃないか、ウザいからもう喋るな。」

「ヒャヒャッ!馬鹿かお前ら?逃がすわけねーじゃん!この『墓夢ボム』様がよぉ!」

「ボム…だと?その名どこかで…」


 かつて酒場の手配書で見た名前だった。

 職業は『爆弾魔』。懸賞金2200銀(約2200万円)のS級首だ。


「おっと、知ってる奴がいやがったか?ったく有名人は困るぜ。そうさ俺こそが」

「興味無い。」

「ブッ殺す!!」


 勇者の精神攻撃!

 黄緑錬邪は軽く傷ついた。


「やれやれ、面倒だし無視…といきたいとこだがそうもいくまい。いいだろう、この勇者様が相手してくれる!」

「ま、待って…あんな奴の相手より盗子を…盗子を助けてやっとくれよ…!」


 美盗は勇者の足にしがみつき、必死に訴えた。


「なにっ!?あの盗子がアレ以上どうにかなったってのか!?」

「ぐふっ…や、奴らの仲間に中に連れていかれた。あのままじゃあの子は…!」

「それは可哀相に。」

「なにさその我関せずな感じ!?」


 美盗は希望を断たれた。


「ウザいから喋るなと言ったろ?次に喋ったら…俺はヤル時にはヤル男だぞ。」

「ヒャハッ、悪ぃがそんな時は来ねぇよ!死にさらせやぁあああああ!!」


 黄緑錬邪は起爆装置っぽいものを取り出した。

 勇者の足元の何かがキラッと光った。


「あっ、思い出したれす!確かアイツは爆弾大好き『爆弾魔』で…」

「フンッ、そんなものが『勇者』に通じるかっ!見よ光魔法、〔卑劣分身〕!!」


 勇者は美盗を盾に使った。


ドガァアアアアアアン!!


「ぎゃあああああああ!!」


 勇者はヤル男だった。


「貴様…貴様よくも盗子の養母を…!俺は、許さんぞぉーー!!」

「ちょ、この人おかしいれす!自分の悪行を鮮やかに他人のせいに…怖っ!」

「いや、ホントに怖ぇのは“これが普通”ってとこだっぺよ…」


 勇者の思わぬ蛮行に動揺したのは味方だけでなく敵側もだった。

 だが黄緑錬邪はすぐに気を取り戻した。


「ヘッ、どーでもいーねぇ!どのみち全員、ブッ殺すつもりだしなぁ!」

「フン、甘いわ雑魚が!貴様に攻撃の機会など、もう二度と無いっ!!」


 勇者の一撃!

 だがなぜか魔剣が鞘から抜けない。


「な、なにぃ…!?」

「ど、どうしただその剣!?抜けねぇんだべか!?」

「くっ、よくわからんがとりあえず…逃げるぞ奮虎!ってもういない、だと!?」

「すんげー逃げっぷりれしたわ。」

「チッ、相変わらずか…!まぁどのみち戦力にはならんが…」

「ヒャッヒャッヒャ!さぁオメェらやっちまえ、俺が手ぇ出すまでもねぇや。」

「おぉおおおおおおお!!」


 黄緑錬邪の号令で兵士達が襲い掛かってきた。

 だが勇者に動揺は見られない。


「フン、俺も舐められたものだ…。謎の秘奥義、『ドロップキックドロップ』!」


ズゴォオオオン!!


「ぐわぁああああ!!」


「雑魚は消えて無くなれぇー!連続謎の秘奥義、『バックドロップキック』!!」


ドガァアアアアン!!


「うぎゃあああああ!!」


 どんな技なのかはアニメ化されるまで秘密だ。


「チッ、なんて小僧だ…!だがよぉ、これだけの爆弾相手なら、どうかなっ!?」

「甘いな、投げられねば貴様も危なかろう?誘爆しやがれっ、〔爆裂殺〕!!」

「なんちゅー無茶をぉおおおおおっ…!!」


チュドオオオオオオオン!!


 黄緑錬邪と勇者を中心に大爆発が起きた。

 敵兵は半分程度吹き飛ばされたが、魔法の衝撃波で弾いたようで勇者や観理は意外と無事のようだ。


「ケホッ、コホッ!まったく酷い目に遭ったれ…ハッ!アンタ平気れすか!?」

「うむ、とても晴れやかな気分だ。」

「それはそれで人として平気じゃないれすが何か!?」

「今ふと思い出したよ。奴はS級手配首、この程度で葬れたんなら安いもん…」


「ヒャハッ!甘ぇよ甘すぎだ!爆弾魔が自分の爆弾で死ぬかよぉおお!!」


 煙の合間から黄緑錬邪が現れた。

 両手に大量の爆弾を持っている。


「マジかよ…って一体いくつ隠し持ってんだ!?マズい、あれを広範囲に投げられたらさすがに…」

「死にさらせぇええええええええ!!」


 黄緑錬邪は爆弾をバラ撒いた。

 だが爆弾は全て空中で爆発した。


「なっ…ぬぁにぃいい!?この俺様の爆弾が…!?」


「あら、間に合ったようね。さすがにもう駄目かと思っちゃったじゃないの。」


 どこからか女医が現れた。

 口ぶりの割にいつもの飄々とした態度だ。


「いたのか女医!今のは貴様ごときの仕業なのか!?」

「あら、私が戦闘タイプに見える?奥で負傷者を治療してただけよ、私はね。」

「なにっ?じゃあ今のは一体誰が…」



 「はぁ~あ、まさかぁ~こんな面倒に駆り出されるとはねぇ~…」



 爆発により立ち昇る煙の中、こちらに歩み寄ってくる一つの人影が見えた。

 何か巨大な武器のようなものを携えている。


「い、今のはテメェがやりやがったのかよ!?この俺様の爆弾を…どこの誰だよテメェ!?」

「爆煙のせいでよくは見えんが、今の声はまさか…!」

「勇者君は知らないかしら?かつて旧魔王軍にこの人ありと謳われた、伝説の『大鎌使い』…それが、彼女よ。」


「チョーだるいってゆーかぁ~?」


 勇者義母が現れた。

 “彼女”と呼ぶべきかは微妙だ。

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