【111】魔神を討つ者達
校長から明かされた衝撃の真実。なんとあのカクリ島が、『魔神』の本体なのだという。
なるほど、『隔離計画』ってのは“マオを宿す者”…つまり俺や姫ちゃんを外界から秘匿しつつ軟禁する計画だと思ってたが、“島そのもの”を隔離するのが真の計画だったってわけだ。
つまり、錬樹の記憶で見たあの空飛ぶ島が…あの島自体が魔神の全身像だったということか。そう考えれば、“魔神は強いのか”という俺の問いに邪神が“見ればわかる”と返したのもうなずける。
いくら邪神や暗黒神が強かろうと、島一つブッ壊す破壊力なんてそうそう出せるもんじゃないからな…。そりゃ正面からぶつかる気も失せるわ。
「つーわけで、俺は行こうと思う。色々世話になったし一応礼は言っとくぞ解樹。死ね。」
「いやいや、こちらこそ。おかげで先祖の無念も晴れた。もうホント死ねよ。」
出会った時と同じクミルシティの酒場で、解樹に別れを告げる勇者。
カクリ島を目指すため、まずは賢二らと合流しようと考えていた。
「まぁもう会うことも…いや、金に困ったら首を獲りにくるぞ。覚悟しとけよ賞金首。」
「フッ、生意気なクソガキだ…あぁそうだ、これ持ってけよ。ウチの古い納屋にあった、多分錬樹の作品だ。」
勇者は『錬樹のグローブ』を手に入れた。
「なんだこの凄まじく胡散臭いのは?絶対呪われてるだろそれ?悪いが要らん、勝手に捨てといてくれ。」
「あ~、でも一応傑作らしいぜ?なんでも凄まじくモテるとか。」
「OKわかった、俺が責任もって処分しとこう。」
フッ、姫ちゃん…早く会いたいぜ。
もう呪いに頼るしかないのか。
その後、行きと同じく最強線を乗り継ぎ、俺は賢二らのいる相原病院へと戻った。
だが何か様子がおかしい。人っ子一人いないのだ。
いくら医師がアレだといっても、さすがにこれは妙だ。
「オーイ、誰かいないのかー?オーイ賢二、いるなら早くワンと鳴け…なっ!?」
勇者は血まみれの相原を見つけた。
「お、オイどうしたヤブ医者!?血だらけじゃないか!それに二人は…!?」
「ぐふっ!ふ、二人は…さらわれた…。すまない、私にヤル気があれば…!」
「じゃあ頑張れよ!ヤル気でなんとかなるレベルならなんとかしとけよ!」
「ど…どうやらキミ達の敵は、思いのほか強大らしい。油断…しないことだ…」
「ま、待てまだ死ぬな!死ぬなら知ってることを全て話してから死ね!」
「…わかった。では監督と役者、配給会社の手配を…」
「映画化するな!死にそうなほど血まみれでなぜそんなに余裕がある!?」
「いや…これは患者の血だが?」
「だったら逆にもう少し取り乱せよ!」
「急ぎなさい、少年。もはや一刻の猶予も…」
「誰のせいで手間取ってるかをよく考えた上で発言してくれ!ブッた斬るぞ!?」
勇者が全力で凄んだが、特に意に介する様子は無い相原医師。さすが教師の古い馴染みといったところか。
そんな相原は、自らが処方した謎の薬をゆっくり飲み干すと、やっと少し回復したようだ。
「…ふぅ~~…ふむ。さすがは私の薬だ、凄まじい効き目。」
「どうだヤブ医者、少しは落ち着いたか?」
「フッ…いや、残念ながらこの歳で嫁は…」
「そっちの意味で落ち着けとは言ってねーよ!俺はお前の親か何かか!?」
「すまないな少年。残念ながら今の私では、何の役に立てそうもない。」
「貴様なんぞ最初から当てにしとらん。ま、確かに味方は欲しい状況だがな。」
「…おぉそうだ、なら“彼”を連れて行けばいい。まだ隣の病室にいるはずだ。」
「ほぉ、この大荒れの状況で逃げんとは…。頼りになりそうな奴じゃないか。」
「おっと、買いかぶってもらっちゃ困るべ。チビッて動けなかっただけだべさ。」
「って弱っ!買いかぶって困るのはむしろこっちじゃないか…って、お前は…!」
声がした方に勇者が振り向くと、そこには懐かしの顔があった。
「フッ、久しぶりだべな…勇者!」
ウシロシ村のヘタレ、奮虎が現れた。
誰だっ…!?
薄情だが無理も無かった。
「というわけで、あまりに期待外れすぎてガッカリした俺は何も見なかったことにして立ち去ろうと思う。」
「ってオイオイオイ!触れてくれよ!二年ぶりくれぇの再会でねぇか!」
「つーか見るからに村人だろ?こんな戦力外を薦めるとはどういうことだ?」
勇者は相原を睨みつけた。
「いや~、風邪の治療は終わったのに、宿が無いからと居座られてしまってね。」
「面倒を押し付けるなよ!こっちはこれでも急いでんだぞ!?」
「わかっている。“魔神復活の地に集え”…さっき我々を襲った彼らもそう言っていたな。」
「そこまでわかっててなぜ無駄に邪魔する!?」
「凶死君に…頼まれていてね。」
「何をだっ!!」
「まぁ落ちつくべ勇者、焦っちゃ危険だっぺ。敵の正体もわからねんだべ?」
「俺はお前が誰かもわからんがな!」
「少しでいい、事情を説明してくれんかね?何か…力になれるやもしれん。」
「フン、時間の無駄だ。貴様がどれだけ使えん奴かってのは既に…むっ!?」
勇者は上を見上げた。
なぜか空中に校長が映し出されている。
魔法〔生中継〕の効果のようだ。
「な、なんだべ!?暗黒神と同じ魔法…まさかコイツが噂の魔神だべか!?」
「ふむ、あながち間違っちゃいないな。」
「さぁ教え子達よ。時は来た、再び我らが学び舎に集うのだ。さもなくば…」
続きは聞くまでもなかった。
「そうか、凶死君から軽く聞いてはいたが…ついに解き放たれたか…。どうやら急がねばならんようだな。」
「だからさっきからそう言ってんじゃねーか!って、さっきも名前が出たが…貴様先公の知り合いだったのか?」
「彼がまだ幼い頃、命を救ったことがあってね。それが正解だったのか否か…今でもたまに迷うよ。」
医者が言っていいセリフじゃないが気持ちはわかった。
「まぁ安心しなさい、そういうことなら力になれる。さぁこの薬を飲むといい。」
相原は謎の薬を取り出した。
「神速で断る。」
「そうそう神速で…って、えぇっ!?なぜかねこの非常時に!?」
「もっと一大事になるからだよこの非常識!そんな得体の知れんもの飲めるか!」
「これは〔帰郷〕の能力を込めた魔法薬だ。飲んだ者と手を繋いでいれば複数人でも移動できる。大丈夫、今回のは実験済みだよ。」
〔帰郷〕
賢者:LEVEL1の魔法(消費MP60)
対象とそれに触れる者を、一瞬で故郷に帰す魔法。失敗すると天まで還る。
「なっ、そんな魔法薬が開発されてたのか…!?だが、元の魔法がかなりリスクがありそうな魔法…そして作ったのは貴様…ふむ、飲む理由が無いな。」
「だがいいのかね?こんな短時間で辺鄙な島に、大層な戦力が集まるとも思えんがねぇ。」
「フン、舐めるなよヤブ医者?さっきの校長の放送で集まるさ、屈強な卒業生どもが…」
「卒業生が?」
「いれば…」
基本的に卒業できてない。
「チッ、そうなるとやはり俺が行くしか…つまりコレを飲むしかないのか…!」
「飲みづらいならシロップもあるが?」
「そういう問題じゃねーよ!味でそこまでゴネるって何歳児だよ俺は!?」
「すまねぇが飲んどくれよ勇者。でも安心するべ、島にはオラも付き合うべさ。」
「あん?村人風情が何を言う?お前は村の入り口で村の名前だけ言ってろ。」
「そうはいかねんだべ。男には…行かなきゃなんねぇ時があるんだべさ!」
「ほぉ…それはアレか?俺に粉微塵になるまで切り刻まれるとしてもか?」
「そ、そこまでされる筋合いはわかんねぇけど…それでもだっ!」
「…ふぅやれやれ。まぁ弾除けくらいにはなるか…。いいだろう、ついて来い!じゃあ行くぞ!!」
勇者はシロップを飲み干した。
激しい吐き気で目を覚ますと、なんとなく覚えある空気を感じた。
ここはどこだろう?というか俺…死んでないよな…?
「げふぅ…こ、ここはどこだ…?少なくとも場所は移動したように見えるが…」
勇者が苦しそうにしていると、先に目覚めていたらしい奮虎が気付いて寄ってきた。
「おぉ勇者、起きたべか。随分ぐったりしてたで心配してたべさ。」
「つーかお前は誰だっけ?いい加減答えやがれ。」
「オメェこそいい加減思い出すべよ!奮虎だべさ!エリン大陸のウシロシ村の!」
「こんな林の中じゃわからんな…まずは平地に出るか。」
「反応しとくれよ!聞いといてスルーってそりゃあんまりだべ!」
「安心しろ、思い出したからもう黙れ。これ以上思い出すと飯が食えなくなる。」
「人との思い出を汚ぇモンみたく言わねぇでくれよ。まぁ心当たりは多いが。」
むしろその印象しか無かった。
「おっ!見ろよ奮虎、道っぽいのがあったぞ。これを辿ればどこかに出そうだ。」
「あぁ~やめとけ。さっき見てきたら村はあっただが…もう滅んでたべよ、壊滅的に…。まるで、戦争でもあったみてぇに…な…」
「か、壊滅…だと…?」
そうか、『ニシコ村』か…。
単独犯(チョメ太郎)の犯行だった。
奮虎の言う林を抜けた先には、予想通りニシコ村があった。
かつて大量発生した巨大昆虫群ごと、チョメ太郎が滅ぼした村…。そうか、枯れた大地は変わらずか。
ここからならばカクリ島はそう遠くない。ヤブの薬にしてはまずまずの成果と言えよう。
「つーわけで俺の故郷はすぐ近くだ。この吊り橋越えて川沿いに下りゃあ海が…」
「海ったって…船もねぇのにどうすんだ?まさか泳ぐとか言わねぇよなオイ?」
「考えちゃいないが気にするな。基本的に俺に不可能は無い。」
「ふぅ…まぁいいべ。あぁそうだ!まだ聞いてねかったが、敵の心当たりは?」
「校長が言ってた予言の一節、“二つの花が狂い咲き”から考えると…ま、ここまできたら“アイツ”しかいない…って感じだな。」
「おぉ、なんか知ってんだなや!どげな奴なんだ?」
「臆することはない。能力は厄介だが、魔神の脅威に比べりゃクソみたいな…」
「…フフッ、言ってくれるぜ。」
背後からいきなりの攻撃!
勇者は咄嗟に避けたが、先ほどのシロップの副作用でか足元がおぼつかず、バランスを崩してしまった。
「チッ、この俺の背後を取るとは何者だ貴様ぁああぁぁ…」
「ゆ、勇者ぁーーーー!!」
勇者は谷底に消えていった。
「フッ…まずは一人。」
そう呟いた攻撃の主は、奇妙な仮面に赤いマント…かつてシジャン城で倒したはずの、『赤錬邪』だった。
少し話は遡り、勇者が谷底に落とされる数時間前。
拉致られた盗子は、宇宙船的な乗り物に連れ込まれていた。
「ふんぬぅーー!はぁーなぁーーそぇいっ!」
盗子の攻撃。
兵士に20のダメージ。
「ぶへっ!も、桃錬邪様!なんとかしてくださいこの小娘…イタタタタッ!」
「えぇ~めんどっちぃ~。そんなんが桃さんの仕事とは聞いてねぇれすよ?」
すこぶる面倒臭そうに現れたのは、少女サイズの桃錬邪。
体格からしてどう見ても別人なので、二代目だと考えてよさそうだ。
「はぁ?フンだ何が桃錬邪だよ!ニセモノでしょアンタ!?だって本物はもう…」
「な…なぜわかったれすかっ!?もしやエスパー!?もしくは…エスパー?」
「思いつかないんなら“もしくは”とか言うなよ!エスパーとか全然違うし!」
「…どーやらバレちゃってるようれすね。だったらこんなん要らんれすよっ!」
桃錬邪は覆面とマントを脱ぎ捨てた。
その正体は、かつて宇宙で邪神と行動を共にしていた『観理』だった。
「そう!何を隠そう…?」
「だから聞くなよっ!そっから先はアンタが衝撃の事実を告げるとこだよ!?」
「な、何かを隠そう!観理さんは『時魔導士』の、その名も…!」
「いや、“カンリ”だよね!?先に言っちゃってるの気づいてる!?それに“何かを”て!」
「…もーいいれす。」
「えっ!?ゴメッ、ちょ待っ…つ、つまりアンタは新しい五錬邪の一味ってわけ…なんだよね?」
「そーなのれすよ。あ、他にもいるれすよ?六人揃って…五錬邪ぁ!」
「数おかしいし!!あー…でも確かに全色揃ったら六色かぁ。ややこしいな~。」
「けど観理さん正直この格好あんま好きくないからもう着ないれす。さよなら桃ちゃんれすよ。」
「んで?これからアタシらはどこに連れてかれんの?」
「“魔神復活の地”とかなんとか聞いたれす。お名前は確か…パクリ島?」
「えっ、も、もしかしてカクリ島のこと!?なんであの島が関係してんの!?」
「難しいことは知らんれす。」
「え、でもアンタ幹部なんじゃないの?」
「う~ん、でも春さん…黄色い人はあんま教えてくれなくて…」
「そっか、やっぱり敵は…黄錬邪さん達なんだね。勇者君の読み通り…敵だったんだ。」
賢二が普通に現れた。
真面目に監禁する気は無いのか。
「あっ、賢二!無事だったんだね!さっきの話聞いてた?カクリ島が…!」
「うん…わかってるよ盗子さん。」
「逃げよう、大陸に。」
賢二はブレてなかった。
赤錬邪らしき奴に襲われ、川に落とされた俺。あの野郎生きて…いや、どう考えても別人か。
まぁ新たに動き出した“新五錬邪”が今回の黒幕と見るのが妥当なんだろう。
「ゲホゲホッ!チッ、となると首領はやはり黄錬邪か…。さっきはああ言ったが、実際のところ奴の能力もなかなかに…侮れんなぁ。」
「オーイ勇者ぁー!大丈夫だべかー!?」
川から這い上がった勇者のもとに駆け付けたのは、なぜか無事っぽい奮虎。
てっきり無残な姿になって川上からドンブラコしてくると思われただけに、勇者は納得がいかない様子。
「むっ、奮虎か…?なんだお前、あの状況で無傷とは何がどうなった?」
「あぁ、なんでか知らねぇけども見逃されただ。舌打ちして帰ってっただよ。」
「なるほど、相手にするだけ時間の無駄だと。」
「反論できないだけに傷つくべよ…。と、ところでどーすんだべさこれから?」
「かつてベビル…魔王の母は学校へと忍び込んだ。何かの鍵がある可能性は高いだろう。」
「ん~よくわかんねぇけども、とにかくその学校さあるとこを目指すんだべな?」
「ああ。だがまぁ今のカクリ島の戦力で、守りきれていればの…話だがな。」
「撃てぇー!撃って撃って撃ちまくれぇー!!」
そんな勇者の予想通り、学園校はかなり大変なことになっていた。
ズドンッ!ズドォオオオオン!
結界に守られた学校を取り囲み、ありったけの砲撃を浴びせる五錬邪軍。
少年少女の教育施設にしてはあり得ない防御力を誇る学園校だが、さずがにこれ以上続くとどうなるかわからない。
「チッ、マズいね…まだ応援は来ないのかい!?ぼちぼち結界も限界だよ!」
多勢に無勢といった状況の中、必死に応戦するのは盗子の育ての親『美盗』。
「困ったものね。学校には大して戦力割けてないし…いっそ死んでみちゃう?」
余裕ありげにあしらう女医『冴子』。だがもちろんただの空元気だ。
「んな気軽に死ねるかっ!アタシの人生まだまだこれからだっつーの!」
「あら、じゃあどうするの?今ここにいるのは非戦闘員ばかりだけど?」
「フン、やったるさ。元『帝都隠密部隊長』の底力…侮ってもらっちゃ困るよ!」
「…みたいな状況になってるに違いない。急ぐぞ奮虎。」
「え、なんだべオメェ…盗聴でもしてるだか…?」
そんなわけでカクリ島へと急ぐべく海岸へ出た勇者達だったが、船の一隻も見当たらず途方に暮れていた。
どうやら以前の巨大昆虫の一件で村が廃村になって以来、長らく島の機能は停止してるようだ。
「つーわけで、船に乗ってもないのに暗礁に乗り上げたわけだが。」
「いや、無駄にうめぇこと言ってん場合じゃねぇべ!とっとと何か考えねぇと…」
「何かって言われてもなぁ。今からイカダ作るとか勘弁…むっ、なんだあれ…?」
勇者は沖合いを見た。
なんと!海竜らしき生き物が見えた。
「いいもの発見!よし、捕らえるぞ。まずは攻撃で気絶させ、泳いで乗り込む。」
「と、捕らえるったってよ、あんな遠くの奴にゃ攻撃のしようもねぇべ?」
「フッ、やれやれ…これだから田舎者は困る。おっ、これなんかちょうど良さそうだ。」
「ん?この小屋みてぇにでっけぇ大岩がなんだべ?」
「投げろ。」
「無茶言うなっぺ!こんなもん持てもしねぇべよ!」
「安心しろ奮虎。実はこれは『錬樹のグローブ』といって、とってもモテる魔法の手袋でな。」
「いやいや、そのモテるとは意味が違ぇだろよ!そりゃ洒落たデザインだからであってだなぁ…」
「やれやれ…これだから田舎者は困る。こんなダサい手袋が洒落てるだと?」
「だ、だども、こげなグローブでこげな大岩が…」
岩は軽々持ち上がった。
…えぇっ!?
勇者の方が驚いた。