【110】呪いを解く旅(6)
マオが要らんことをしやがったせいで、人類滅亡の確率がまた上がっちまった。
というか剣でどうにかできそうに無い分、むしろこっちの方がタチ悪い状況かもしれない。
ゴゴゴ…ズゴゴゴゴ…!
「さて…誰か名案は無いか?特技が“噴火抑止”の奴、いたら手を挙げろ。」
「いや、どんな特技だよ勇者。活かせる場面がそうそうねーよ。」
勇者だけでなく、魔王も当然お手上げのようだ。
「やれやれ、人がちょっと外してる間に…とんでもねぇことになってんじゃねぇかよ。」
そんな最悪な状況の中、冷や汗を浮かべながら解樹が現れた。
「おぉ、いいところに来たな解樹。この世界呪われてるぞ、なんとかしやがれ。」
「いやお前、なんでも呪いってことにすりゃ祓えるわけじゃねぇからな?だが一つだけ可能性があるとすれば…なぁ、アンタはどう思う?」
解樹は勇者の背後の何かに向かって尋ねた。
「え?“アンタ”って…誰に言ってんの?」
「ハァ?なんだよ冷てぇ根っこだな、ここまで一緒に上がって来た仲だろ?」
「霊的な!?いや、見えないし!怖いからそういうジョークやめてくれる!?」
「…ほうほうは、あるよ。そのかぶとを…かこうになげいれて。」
「って何か聞こえたぁーー!?何かそれっぽいこと言い始めたーーー!?」
「むっ?その声…そうかそういうことか。いいだろう、貴様の案に乗ってやる。」
「へ?ダーリンの知ってる人…なの?」
「ちきゅうはおわらない。まーが、まもるから。」
『守護神:マリモ』が現れた。
「そうか、解樹の野郎が最初から見えてる見えてる言ってた霊はコイツのことだったのか…。だがホントにやれるのか?」
錬樹の記憶でマーの実力は見ていたものの、今回の相手は世界規模の破壊力だけに半信半疑の勇者。
しかし、校長はなんとかなると判断したようだ。
「かつて奴らの一味だった程の者だ、信じる価値はある。それに、もしもの時は血色草…お前にはわかるだろう?」
「ッ!!!」
「む?血子がどうかしたのか?」
「良き手駒に恵まれる…優れた『勇者』が持つ必然なる力だ、大事になさい。」
「フッ、よくわからんが照れるぜ。」
「けどよ爺さん、火口へは誰が行くんだ?この状況じゃかなり危険だと思うが…。あ、もちろん俺は無理だぜ?」
解樹の問いに、校長はニヤリと微笑み…勇者の肩に手を置いた。
「行ってこい小僧。『勇者』がこの程度の危機を救えんでどうする?」
「なっ!?いや、“この程度”とか言うなよ!普通に世界滅亡の危機だろ!」
「やってこい勇者!世界を救え!」
「いいセリフだが『魔王』が言うな!」
「そういうことなら俺はもう…」
「ってさりげなく逃げるなマオ!せめて魔神らしく堂々と去ってけよ!」
ズゴゴゴゴゴゴォオオオオ…!!
「チッ、言い争ってる時間は無い!こうなったら平等に、ジャンケンで…!」
勇者に決まった。
ジャンケンで豪快にストレート負けし、結局俺が火口に行くハメになっちまった。
だが魔王が遅出ししたような…いや、いいんだ。『魔王』に世界を救わせてどうする。
「ハァ、ハァ…よし、もうじき火口だ!急ぐぞ血子、しっかり掴まってろよ!?」
「うんっ☆死ぬまで離さないかんねっ☆」
「いや、それは困る。」
「そんな冷静に返されても!怒ってもいいけど無表情はちょっと…!」
「俺は凄まじく長生きするんだよ。そんな先までまとわりつかれてたまるか。」
「じゃ…じゃあさダーリン?この戦い終わったら…デート、しようよ。ダメ…?」
「なにぃ?貴様、この俺に親のスネを貪り食うだけの怠惰な人種になれと!?」
「いや、『ニート』じゃなしに!ただちょっと、二人っきりで遊びに…ってさ…」
「はぁ?そんなんでいいのか?ん~…ま、今後の働き次第ってとこだな。」
「えっ、ホントに!?じゃあ超頑張っちゃうよっ!デートかぁ~キャハハッ☆」
血子は豪快に死亡フラグを立てた。
「さぁ火口が見えたぞ血子。チッ、さすがにクソ暑ぃな…前に商南からパクッといた『冷却符』が無かったら死んでるぞ。」
「うまくいくかなぁ?その兜だけで、噴火…止まると思う?」
「フン、そりゃコイツ次第さ。さぁ『守護神』と呼ばれた程の力…見せてみろ!」
ピカァアアアアア…!
勇者が呼び掛けると、守護神の兜が光り輝いた。
なんと!マーの姿が鮮明に浮かび上がった。
「うわっ、ハッキリと見えるようになった!別れ際の粋な演出ってやつ!?」
「おわかれだね、ゆうしゃ。おにぃちゃんのつぎに、きらいじゃなかったよ。」
「今まで世話になったな…我が兜よ。トレードマークを失うのは残念だが、まぁ仕方ない。」
「がんばって、かってね。あと、あのこ…しあわせに、したげてよ?」
「む?フッ…言われるまでもない。彼女は我が生涯をかけて、守ってみせる!」
「あのとうぞくの…」
勇者は兜を投げ入れた。
守護神の兜を投げ入れたら、本当に火山は大人しくなった。あの小娘…やるじゃないか。
そんな働きに免じて、去り際の意味不明な発言は聞かなかったことにしてやろう。
「こうして俺は世界を救ったのだった。めでたしめでたし。さ、帰るぞ血子。」
「いや、これからが本番だかんね!?魔神の件あるの忘れちゃってない!?」
「フッ、なぁに問題無い。もろもろの呪いから解放された今の俺にとってはな。」
「そ…そうだよねっ!ダーリンがいれば魔神なんて…」
ゴ…ゴゴッ……
ズゴゴゴゴゴゴゴゴォ…!!
突如、轟音と共に火山活動が再開した。
「えっ…どどどどーゆーこと!?終わったんじゃなかったの!?じゃないと…」
「復活しやがった!あの役立たずめ…!チッ、もう終わりだってのか…!?」
さすがの勇者もどうしようもない状況。
血子も絶句している。
「仕方ない、とりあえず戻るか?いや、戻ってどうなるってわけでもないが…」
「…あ、あのさダーリン、ウチら血色草は『氷の妖精』の一種って、知ってた?」
「む?まぁ出会いが雪山だったしわからんでもないが、今はそれどころじゃ…」
「あ、うん…。でね、特に子供の血色草は、その力が強いんだって。だから…」
「ああ、高く売れたぞ。」
「売られたっけねそういえば…って、そうじゃなくて!だから、その…!」
「お前…お前まさか、死ぬ気か!?火口に身を落とし、火を鎮めようと…!」
「…うん、行くよ。だから…サヨナラだね、ダーリン。」
シリアスモードに突入した。
「まさかお前に託すハメになるとはな…。見送るしかない自分が歯がゆいぞ。」
「…血色草にはね、もう一つ特性があんの。種の存続に重要な“求愛”の力。」
「む?求愛…孔雀は求愛時に広げる羽根が綺麗な方がモテるとか違うとか。」
「ん~、近いのかなぁ?ウチらのはね…“抜いた人の運命の人に似ること”。」
「あぁ、抜かれたら結婚するか食うって掟だったか。なら都合いい能力かもな。」
「そう、都合いいはずだった。イケると思ったのに…あ~あ、ツイてないな~。」
「ん?何がツイてないって?」
「だって…もう出会っちゃってたなんてさっ。さすがに本物には勝てないよ~。」
「お…オイちょっと待て血子。なんとなく察したが訂正を要求する。訂正しろ!」
「あのさダーリン、血子が最初“アタシ”って言った時のこと…覚えてる?」
「だから訂正しろってば!俺は笑えん冗談と“アイツ”が大嫌いなんだぞ!?」
「もしさ…もし生まれ変われるとしたら、次は人間の子がいいな。そしたら…」
血子の足が崖を離れた。
「そしたらさっ、今度こそ結婚したいな!絶対また出会って、また恋して…」
「ちょっ、待て血子…!」
「…バイバイ、ダーリン!大好きだったよ…!」
「ち、血子ぉーーーー!!」
ヒュゥウウウウ~…
「訂正しろぉおおおおおおおおおお!!」
そして火口は一瞬だけ白く輝き、全ては凍りついた。
吹き上げてきた風はとても冷たく、勇者の目に染みた。
血子のおかげで、火山は完全に沈黙した。あれだけ凍ってればもう大丈夫なはず。そんな働きに免じて、去り際の意味不明な発言は聞かなかったことにしてやろう。
それに、くだらんことを気にしてる暇はない。
まだ終わりじゃない…むしろここからが正念場なんだ。
「というわけで戻ってきたんだが、他の奴らはどうした?」
勇者は一人残っていた解樹に話しかけた。
「おぉ勇者…って、なんだその赤い眼帯は?さっきまでそんなの付けちゃ…それに嬢ちゃんの方はどうした?」
「…いいから質問に答えろ。他の奴らはどうしたと聞いている。」
「あ~…帰ったよみんな。確かスーパーの特売日だとか。」
「それは俺の持ちネタだ!つーかどう考えてもそんなメンツじゃないだろ!?」
「ハハッ、冗談だよ。黒い実態の無ぇのは飛んでった、爺さんもそれを追って消えた。」
「魔王は?」
「スーパーに。」
「ってそこはガチなのかよ!なんでこの状況でスーパーなんだ!」
「それがさ~、墓石ってどこに売ってる?とか聞かれちまったもんでよぉ。」
「いや、どんだけ無駄に品揃えいいんだよそのスーパー…つーかお前も魔王相手にいい度胸してるな。」
「フッ…あ、爺さんからはこんなん預かってんだわ。読んだらすぐ動けってさ。」
「むっ、手紙…だと?あの校長からの手紙…爆発とかしないよな?まぁ、読むしかないか…」
勇者は恐る恐る手紙を開いた。
『親愛なる勇者殿へ。お元気ですか?そうですかそれは良かった。』
「ってなんだこの書き出しは!?奴のキャラじゃないし自己完結してるし!」
「あ、すまん。俺が足しといた。」
「足すなっ!その行為の目的は何だ!?」
『魔神封印の地…お前にも話しておこう。用が済んだらすぐに来るがいい。』
「来いったって、確か魔神って海に封印されたんだろ?そう簡単に海底には…」
『そう考えるのが素人なのだよ。海といっても、“海底”を指してはいない。』
「いや、突っ込むなよ読み手に!やっぱ普通の手紙じゃないのかこれ!?前にあの先公にも似たようなことされた記憶があるが…」
『なぜならその海はそう深くはなく、そして魔神は…とても巨大だったからだ。』
「ふむふむ、浅い海に巨大な物が…ってことは、まさか…!」
『外界から閉ざされし異形の島…人々はその地を、“カクリ島”と呼んだ。』
その頃―――
「隊長殿、準備が整いました!いつでも出陣できます!」
そこには数十名の屈強な兵士が集まっていたが、“隊長”と呼ばれたのは少年だった。
そんな彼は呼びかけに振り返ることなく、少し不満げに答えた。
「オイオイ待てよ、俺のことは“ジェネラル”と呼べって言ったろソルジャー?」
「は、ハッ!すみません!以後気をつけます、ジェネラル…博打様!」
「フッ、OKだ。それにしても懐かしい…また来ることになるとはな、この島…カクリ島に。」
そしてクライマックスへ。