【011】二号生:巨大昆虫を駆逐せよ
遠足後も大変なことは色々あったが、なんとか乗り越えて明日から夏休み。
今から宿題のテーマが発表されようとしている。
きっと今年もろくでもない宿題が出されることだろう…やれやれだ。
「えー…今年の夏休みの宿題ですが、去年の『魔物かかってこい』は少々危険すぎたので、今年は『昆虫採集』に変更ですよ。」
昨年の辛さもあってか、教師の発表に沸く生徒達。
「いや待て、そんなうまい話があるわけない!気づくんだ貴様ら!」
浮かれる生徒達の中、今回もまた勇者は気を緩めなかった。
賢二と盗子もそれに続く。
「そういえば最近…西の小島で『巨大昆虫』が大量発生してるとか…」
「あ~、そのせいで村が壊滅の危機だってやつ?」
二人の話を詳しく聞くと、西の小島にある『ニシコ村』を中心に、突如として巨大な異常発生し島民達を困らせているとのこと。
そのどう考えても命懸けっぽい話に、生徒達は口々に“やっぱりか”という諦めの言葉を口にし、教師は逆に想定外の言葉を口にした。
「そうなんですか?じゃあそれで。」
賢二と盗子は皆にボコられた。
放課後。一人でやるには面倒そうなので、俺は仲間を募り宿題攻略の作戦を立てることにした。
集めたのは賢二、盗子、姫ちゃんの三人。他の奴らはまだ実力も人となりもわからんので却下だ。
「というわけで、だ。やはり『勇者』としては全昆虫を駆除するべきだと思うんだが…盗子、お前はどう思う?」
「えぇっ!?無理!絶対無理!」
「あぁ、俺もお前は無理。」
「わーん!別に告ってもないのになぜかフラれたーー!」
そして翌朝。昨日の話し合いの結果、夏休み初日に早速旅立つことにした俺達。
どうせやらねばならんのなら、早めに済ますに越したことはない。
一番に港に到着した俺が、待つこと三十分…ようやく他の三人が到着。
姫ちゃんはともかく賢二と盗子…雑魚の分際でこの俺を待たせるとはいい度胸だ。
「やっほー!勇者おまたせー!」
「ごめんね勇者君、僕もちょっと遅れちゃって…」
「死ねばいい。」
勇者は虫を見るような目で言い放った。だが姫に対してはもちろん違う。
「自転車に乗り遅れちゃった。ごめんね勇者君。」
「それは大変だったな。許しちゃう。」
「やっぱり扱いが違…ってゆーか自転車には乗り遅れないよ!?」
そんな恒例行事のようなやりとりを経て港を後にした勇者一向は、一路昆虫群がいるという西の小島へ。
盗子と賢二は例の如く不安げだが、勇者は逆に自信ありげだった。
「まぁみんな安心しろ。デカいとはいえ所詮は虫…俺のこの武器さえあれば何も心配は要らん。」
今回の武器は前回のゴップリン戦のものを凌ぐ業物と豪語する勇者。
しかし盗子はまだ信じない。
「でもさ、また前みたく親父にリュックいじられてるなんてことが…」
「フッ、大丈夫だ。そうならぬよう親父には昨夜、一服盛っておいた。今朝見たらピクリとも動いてなかったから大丈夫だ。」
「いや、それ大丈夫じゃなくない!?ピクリとはすべきじゃない!?」
「てなわけで、今回は準備万端な…俺の武器コレクションを見よ!」
満面の笑みでリュックを開ける勇者。だがその笑顔は一瞬で凍りついた。
なぜなら武器でもお菓子でもなく、今度は“謎の生物”がリュックからひょっこり顔を出したからだ。
「…ポピュ?」
その謎の生物は白く短い毛で覆われ、目は糸の様に細く、常に微笑んでいるような顔。全体の雰囲気としては二足歩行の犬か何かのように見えなくもない。大人の膝丈くらいの大きさで、赤い帽子と同色のマントに包まれている。
パッと見は愛らしい小動物。だがこれまでの負の経験から、賢二と盗子は震えが止まらない。勇者も硬直していたが、やっと我に返り言葉を絞り出した。
「な…なんでお前がいるんだ!?『チョメ太郎』!!」
持参してきただけに当たり前といえば当たり前だが、勇者はコレが何者なのかを知っていた。
「コイツの名前はチョメ太郎…図鑑によると『チョメチョメ』って種族の魔獣らしいからそう名付けた。まぁ平たく言うなら俺のペットだな。気付いたら家にいたから随分長い付き合いだが…未だに全然言うことを聞かんし行動も読めん。」
「だ、だろうね…。だから今まさにこうなんだよね…」
説明を聞いて一応敵では無いとはわかったものの、一定距離内には近づかない賢二。情けなくもあるが賢明な判断ともいえる。
「にしても、勇者にこんなペットがいたなんてね…。ほら、父親しか見たことないじゃん?」
そう盗子に言われ、初めて気付いた。確かに俺は家のことについて深く話したことは無かったかもしれない。
まぁ別に隠すような話でもないし、暇潰しくらいにはなるだろう。
「ふむ…ウチは俺と変人の親父とこの珍獣チョメ太郎、あと謎のオカマの三人と一匹暮らしだ。母親は死んだと聞く。」
なにやら内訳の大半が普通じゃなかった気がしたが、触れない方がいいと判断した賢二は代わりに自分のことを話し始めた。
「えっと、僕んちはさ、僕が『秘密の部屋』の件で行方不明になってる間に、なんか僕が死んだと思って…親はショックで引っ越しちゃったみたいで。今は一人暮らしなんだ…」
五歳児の境遇としては随分とヘビーな話過ぎたので、今度は勇者が聞かなかったことにして話題を変えた。
ちなみに気遣いではなく面倒だからだ。
「そういやお前、『賢二』ってことはやはり…?」
「え?あ、うん。なんか上にいるらしいよ『賢一』って。少し歳が離れててさ、今は旅に出ちゃってるとかで僕も会った記憶は無いんだけど…ね。」
更なる情報で思ったよりも賢二が天涯孤独だったことを知ってしまい、盗子はさすがにスルーできなかった。
「そうなんだ…。で、そのお兄ちゃんの居場所にも心当たりは無いわけ?」
「お兄ちゃん…?」
「お姉ちゃん!?」
それ多分“旅”じゃなくて“家出”だ。
そのままくだらない雑談をしている間に船は進み、特に解決策も無いまま俺達は西の小島へと到着してしまった。
大発生と聞いていたため警戒していたのだが、見たところ港に昆虫の姿は無い。
恐らく壊滅的被害という噂の『ニシコ村』にでも陣取っているのだろう。
まずは情報収集を…とも考えたが、虫ケラごときに屈しているような島民に聞く話も無いということで、俺達はそのまま目的の村へと向かうことに。
そして歩くこと数十分…とりあえずニシコ村が視界に入る丘までやってきた。
すると案の定、村周辺には奇怪な出で立ちの巨大な昆虫どもがウジャウジャと…。
しかもありえないほどに、デカい!
「盗子ちゃん…」
「だ、大丈夫だよ姫!怖がんなくていいからね!」
「そろそろお弁当かなぁ?」
「やっぱちょっとは怖がる努力しようよ!そーゆー空気読むのも大事だよ!?」
「うるさいぞ盗子、敵に気付かれる。しかしどう攻めたもんか…。俺には背負ってた『ゴップリンの魔剣』しか無いし…」
勇者は剣に手をかけたものの、動くに動けなかった。
予想以上に巨大な敵が、予想以上の数いたのだからそれも仕方ない。
「な、なんか集団行動だね…あれじゃ攻め込んだ瞬間にリンチされちゃうよ。」
当然、賢二もお手上げ状態だった。
「でもさ、あれだけの数を一気に倒す方法なんて…無くない?」
なんともムカつく話だが、確かに盗子の言う通り一度に倒す術は無さそうだ。
地道に一匹ずつ始末するしかないのかもしれない。
「フッ、どうやら長い戦いに…なりそうだな。」
ジャキン!
「ジャキン!?」
突如聞こえた謎の金属音に、慌てて身構える勇者達。辺りに緊張が走る。
「な、何の音だ!?もしかして…敵かっ…!?」
ガコン!カチッ!
チョメ太郎は武器を構えた。
・対空迎撃用ミサイル
・対戦車用バズーカ
・32連発ロケットランチャー
「どっから出したーーーー!!?」
予想外の事態に驚く勇者達を気にも留めず、チョメ太郎は独特の鳴き声と共に豪快にそれらをブッ放したのだった。
「ポピュッパーー!!」
チュドーーーーーーーーン!!
昆虫群は滅んだ(村ごと)。