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~勇者が行く~  作者: 創造主
第三部
109/196

【109】呪いを解く旅(5)

 勇者が夢の世界へ旅立っている間に、外の世界の状況は変わっていた。

 星になったはずの魔王がダッシュで帰ってきて、校長に再戦を挑んでいたのだ。


「ゼェ、ゼェ、どうだジジイ!?形勢逆転間近なんじゃねぇか?戻ってきた甲斐…あったぜ…!」

「ふむぅ、やはり邪神を倒したほどの力…この老いぼれの手には負えぬか。」


 魔王は息も絶え絶えの様子だが、校長もなぜか攻めあぐねているようだ。


「ど、どーしちゃったのセンセ!?さっきまでの殺人的なパワーはどこに!?」

「いや、そりゃ無理だぜ根っこの嬢ちゃん。あの『教鞭』ってのもまた…呪いの武器なんだわ。」


<教鞭>

 超ド級の攻撃力を誇るが、それだけに大きな制約のある呪いの武器。

 一日三回以上振るうと体罰問題に発展する。


「さすが教員武器…って二回までなら許されるのはそれはそれでどうなの!?」

「ま、具体的にどうなるのかまでは知らんが、死に相当するペナルティかもしんねぇな。」

「じゃ、じゃあ校長センセはもう…」

「殺せん事情があるなら、どのみち本気じゃ打てねぇしなぁ…手詰まりか。」

「そんなぁ…!」


「さぁ死にやがれ過去の英雄よ!素手のジジイなんぞ、この魔王の」

「フンッ!!」

「ぶべらっ!!」


 素手でもメチャクチャ強かった。


「クソッ、痛ぇ…!だが…貴様もだいぶ参ってきたんじゃないか?」

「フン、恐ろしきはその血か才か…。ともあれ、残念ながらここまでのようだ。」

「ほぉ、潔いじゃないか。さすがは長寿、死に際はわきまえていると見える。」

「フッ…いやいや、老兵は消え去るのみよ。後は…若き世代に託すとしよう。」

「あん?貴様何を言って…」


「おはようだ魔王。いい夢見れたぜ、次は貴様が覚めない夢を見るがいい。」


 寝ていた勇者が復活した。


「だ、ダーリン!ホントにダーリンなの!?中の人とかじゃなくて!?」

「黙れ根っこが。ブッた斬るぞ貴様?」

「ダーリンだぁ~☆」


 さっきと何がどう違うのか。


「さて…では私は本来の用に戻るとしよう。あとは任せられるか勇者よ?」


 校長は何か心配事でもあるのか、急ぎこの場を去ろうとしている。


「ん?あぁ好きにするがいい。解樹ももう帰ってもいいぞ。」

「オイオイ、まず礼ぐらい言えよ…と言いたいとこだが、な~んか先祖が苦労かけてそうだしなぁ、チャラにしとくわ。」

「じゃあさダーリン、呪いは解けたってこと?体はもうバッチリになった?」

「左手はな。目はまだだが…じきに戻るだろ。まぁもう慣れたし問題は無いが。」

「じゃあオッケーだね!片目でもいいよ、むしろアウトローっぽくて素敵だし☆」

「“隻眼の勇者”か…確かに悪くないな。よし、帰ったら特製の眼帯を発注だ!」

「あっ、そーゆーと思ってホラ、眼帯♪血子の髪を編んで作ってみたんだぁ~♪」

「おぉ!そりゃキモい!」

「なにその喜んでる風な罵倒!?」


 どうやら勇者は、無事戦える状態に戻った模様。

 だがそうこうしている間に、魔王の息も整ってしまったようだ。


「おいコラ貴様ら、この俺を無視してのんびりしやがって…!ブッた斬るぞ!?」

「フッ、焦るな魔王。急いだところで結末は変わらんよ…貴様の死はなぁ!!」


 気を取り直した両者が踏み出そうとした、その時―――



 「だ~れも知らない知られちゃいけ~ない~♪」



 どこかで聞いたような声の歌が聞こえてきた。

 まったくもって今の状況に合っていない。


「ってオイッ!!だ、誰だこのいい感じに緊張感張り詰めてる時に…!またお仲間の登場かよ勇者!?」

「むっ、なんだこの声は…?確かに以前、どこかで聞いたような…」


「ベビルさん~がだ~れ~なの~か~♪」

「ベビルか!!」

「なぜわかった!?」


 なぜか変なのが来た。



なぜここで?ってタイミングで現れたのは、懐かしの『怪盗:ベビル』。

あの時は拷問器具『悪夢の虜』で眠らせて森に放置したのだが、そういや知らぬ間に消えてたと聞いた気がする。

なぜ今こんな所に…?折角いい感じでクライマックスな雰囲気だったのに台無しじゃないか。早々にブッた斬ってやろう。


「ったく、まだ生きていたとはなベビル。てか貴様ごとき雑魚がこんな山に何の用だ?」

「い、言わないぞ!?『怪盗』らしくお宝を盗みに来ただなんて言わないぞ!?」

「言ってる言ってるよアンタ!罠かってくらい言っちゃってるけど自覚ある!?」


 相変わらずのベビル。

 だが初めて見る魔王はもちろん意味が分からない。


「オイ勇者、なんだこの妙なチンチクリンは?いいとこで邪魔しやがっ…」


ゾクッ…


「ぬぁっ!?な、なんだ、この妙な寒気は…また理慈のジジイか!?」


 なぜか背筋が凍った魔王が慌てて辺りを見渡すと、校長が鬼の形相で戻って来るのが見えた。

 勇者はまだ気づいていないようだ。


「ほぉ、宝とは興味深いこと言うじゃないかベビルよ。だがこんな辺鄙な山奥に何がある?“伝説の山菜”的な何かか?」

「山菜とか全っ然違うぞ?ベビルさんのお目当ては…」


 その時、やっと勇者は戻ってきた校長の姿に気付いた。


「むっ?どうした校長、別の用事はどうした?」

「いかん…!二人とも、そやつから離れ…」



「フッフッフ、宝…それは最強の力…最悪の魂…『魔神:マオ』。」



 ベビルの声色が変わった。

 同時に両腕がギューンと伸び、それぞれ勇者と魔王の胸に突き刺さった。


「なっ…!?」

「う、うわーー!ダーリーーーン!?」

「大丈夫、私の力は盗むだけ。傷は一切残りませんのでご安心を…魔王様。」

「チッ、動けん!体に力が…って、テメェの関係者なんじゃねーか魔王…!」

「そ、そうか…!その兜…見覚えのある『邪眼』の紋章…どうりで悪寒が走るわけだぜ…!」


 着ぐるみのようだったベビルは本当に着ぐるみだったようで、いきなり真っ二つに割れ、中から大人の女が現れた。

 その女は魔王と同じ真紅の髪を風になびかせながら、魔王の前にひざまずいた。


「フフフ…お久しぶりです、魔王様。」


「お…お袋…だとぉ…!?」


 なんと!魔王母が現れた。




「やれやれ、口惜しいな…まんまと裏をかかれたわ。」


 ギリギリで間に合わなかった校長は、悔しそうに溜め息を漏らした。

 そんな校長とは対照的に、魔王母は不敵な笑みを浮かべている。


「『怪盗』に盗めぬものはない。人の目を盗むくらい造作もないことです。」

「怪しい動きを見せる者の噂は聞いていた。それゆえに私が直々に探っていたわけだが…そうか、全ては繋がっていたということか。」

「オイ校長、なんの話をしてやがる?俺にもわかるように…」

「二つの花が狂い咲き…か。かの予言…“花”を“女”の隠語と取るなら、これが破滅への序曲と考えるべきやもしれん。」

「チッ、説明する気は無しか…。じゃあ今度は貴様に説明してもらおうか魔王。コイツの目的は一体何だ…?」

「なぜここにいるのか俺にもわからんが…不本意ながらコイツは俺の母親だ。笑いたきゃ笑えよ。」

「安心しろ、俺も笑えん側の人間だ。」


 むしろ仲間意識が芽生えそうだった。



「さぁいらっしゃい魔神マオ。そして我が胎内で一つに交わるがいい。」


「バ、バカ母が!何をする気だ!?貴様なんぞが受け入れられるわけがない!砕け散るぞ!?」

「全てはアナタ様のため。そのためならばこの身など、惜しくはないのです。」

「お、俺のため…だと…?」

「最強を倒してこそ、真の『魔王』かと。」

「ありがた迷惑だ!!」


 歪んだ愛情だった。


「ハァアアアアアアアア…!!」

「や、やめろお袋ぉーーーーーーー!!」


 魔王母は二人に突き刺さった両手を引き抜いた。

 勇者と魔王の体から何か黒い物が盗まれた。


「ぐっ…!」

「うぐっ…!」


 勇者と魔王は膝をついた。


「だ、大丈夫ダーリン!?って、そうだ!マオが抜けたってことはダーリンに何か変化が…!?」

「ギャーギャー騒ぐな血子!ブッた斬るぞ!?」

「うっわ全然無い!えっ、その性格は魔神とか関係無かったってこと!?」


「フゥ…まぁよい。本体の“核”は封じてある、中身が放たれたとて戻ることは叶わん。」


 想定外の事態をどう収拾したものか考えていた校長だったが、結局済んだことはどうしようもないという結論に至ったようだ。


「ぐふっ…も、問題は、無い。核のありか…おおよその見当はついている。」


 だが魔王母の計画は、更にその上をいっているようだ。


「核の封印は“彼女”により、程なくして解かれ…魔神は復活するだろう。」

「彼女…校長が言ってた予言の“二つの花”の、もう一輪ってことか?状況的に恐らくは黄錬…」


 勇者が言いかけたその時、魔王母の体が張り裂けんばかりに膨らんだ。

 やはりマオを受け入れられる器ではなかったようだ。


「よ…蘇える最悪の者…そしてそれを討つは魔王様…☆あぁっ、魔王様に、栄光、あれっ…!!」


「お、おふくろぉーーー!!」


 魔王母は粉微塵に消し飛んだ。



「おふくろ…大嫌いな奴だったが、今にして思えば…ヤベェやっぱ何もねぇ!」

「同時期に両親を亡くすとは…不憫な奴め。」

「フッ、気にするな父のカタキ。」


 勇者には良心が無い。


「オイ校長、何やら不吉なこと言い残して死んでったが…平気なのか?」

「今動けばまだ間に合うやもしれん。先ほどの口ぶり…まだ若干の時は残されていよう。」

「そうか、ならば急いで…」


「おっと、そうはいかん。貴様らにはこの山で、死んでもらうのだからなぁ。」


 勇者達は声のした方を見上げた。

 黒い影のようなモノが偉そうに浮いている。


「フン、出やがったなマオ。だが今の貴様に何ができる?霊体のみでは無害な分際でほざくなよ。」

「確かに普通の場所なら、な。だがここのような高位の霊場ならば…話は違う!」


ゴゴゴゴゴゴゴ…!


「チッ、なんだこの揺れは…?ま、まさか…!」

「山を刺激し、火山活動を活性化させた。この山はもうじき大噴火するだろう。」

「なっ!?馬鹿なっ、このメルパ山がそんなことになったら…」

「ハッハッハ!そうさ勇者、噴火したが最後…噴き出した溶岩は一瞬で山を覆い、世界中を蹂躙し、そして…!」


「お前も死ぬが?」

「そういえば!!」


 “魔神復活”以上のピンチが。

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