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~勇者が行く~  作者: 創造主
第三部
105/196

【105】呪いを解く旅(3)

痛恨の推理ミスにより、赤っ恥をかかされた俺。呪術師の解樹…許せん男だ。

だがこの手配書の顔…どう見てもコイツの顔じゃない。何か秘密がありそうだ。


「き、貴様が解樹…なのか?だったらなぜ手配書がマスターの顔なんだよ?」


 解樹と呼ばれたその男は、ウグイス色の髪に口髭アゴ髭を不精に生やし、パイプを吹かしている。歳は三十路くらいだろうか。

 確かに手配書の顔とはまったく違った。


「えぇっ!?あっ、ホントだ!ちょっとイジッてあるけど私だ…!」

「あぁ、差し替えてもらったんだよ。職業柄、政府には顔がきく方でね。」

「でもなんで私の顔に!?というか、そんなことが可能なら手配ごと無効に…」

「フフ…なぁに、日頃の礼さ。店の宣伝になればと思ってね。」

「なるかっ!いや、確かにハンターは増えそうですけどね危険な意味で!」


 よく見るとハンター達は店主をガン見している。


「ところで坊主、お前俺を知ってるようだが、何か用かい?」

「ん?ああ、察しの通り“呪い”の件でな。少々困ってるんだ。」

「フッ…だろうねぇ。」

「なんで血子を見て言うの!?」

「特に左手が不便でな。太古の『魔神』の呪いだ、張り合いのある獲物だろ?」


 勇者は簡単に状況を説明した。

 だが解樹から返ってきたのは意外な言葉だった。


「魔神…?いいや違うな、その腕は…魔神のそれじゃない。」

「な、なんだっ…て?」

「なんでダーリンまで血子を見んの今のタイミングで!?」

「ふむ、さすがはじゅじゅちゅ師…何か色々知ってるようだな。話すがいい。」


 例のごとく上からの勇者。

 しかし解樹は特に気にする様子もなく話し始めた。


「錬金の武器を生み出すにゃ誰かの“体の一部”と“魂”が必要なんだ。だが魔神は封印された…つまり生きてるってこった。この意味がわかるか?」

「フッ、華麗にわからん。」

「つまりだ、その剣は魔神の角と“別の者の魂”から練成されてるってこった。」

「なるほど、さっぱりわからん。」

「かつて神々レベルの武具を練成できる異能の者が、ただ一人だけいたという。」

「ほぉ…やっぱりわからん。」

「目には目を、魔神には魔神を…その剣は、魔神を倒すためだけに作られた。」

「なにっ!?じゃ、じゃあ…わからん。」

「魔神の死を一心に祈り、呪いの秘術により、“自分自身の魂”を…その剣に込めたのさ。」

「んー、結局よくわからんが…お前が妙に詳しいのはわかった。なぜなんだ?」


「そいつの名は『錬金術師:錬樹レンキ』」、俺の…祖先にあたる男だ。」


ふむ…よくわからん。


 勇者は結構酔ってる。



話を要約すると、どうやら俺は魔剣を作った『錬金術師』に呪われてるんだとか。

オイオイ、今度は人間かよ。なんで俺のもとにはあらゆる呪いが寄って来るんだ。


「ハァ…まさかこの俺が、人間ごときの呪いで腕を封じられてるだなんて…」

「弱ぇくせに無理矢理力を引き出そうとしたんだろ?仕方ない代償だろうよ。」

「なにぃ!?この俺が弱いだと!?フザけるなよ貴様…マスター、ロックで!」

「違うよダーリン!お酒の度数の話じゃないよ!?」

「魔神を倒そうって程の剣だぜ?命懸けで作ってんだぜ?舐めんじゃねって。」

「舐めてなんかない!飲んでるんだ!」

「今の話じゃないよ!?てゆーか一回吐いてこようよ!ね!?」

「俺なら呪いは解けるよ?けど今のお前じゃ、どうせまた同じ目に遭うだろう。」

「あん?てことはなにか?今の俺じゃ…どうせまた同じ目に遭うとでも!?」

「そう言ったよね!?聞き返すまでもないくらい言い返せてるよね!?」

「剣に認められることだ。そうすればお前は、魔神を討つ力を手にするはずだ。」

「そうか、剣に認めっぷ!う゛ぇー!」


 勇者はそれどころじゃない。


「ハァ、ハァ…き、気持ち悪い…まさか盗子がいらいろにこんら気分になる日が来るとは…。おいマスター、便所を。」

「いや、行ってくださいよ!持ってこられませんてば!」

「てゆーか水飲もうよダーリン!『子供酒』は水飲めば一発で覚めるんだから!」

「やれやれ情けない坊主だ。そんなんじゃそりゃ呪いにも負けるわ。」

「で?剣に認められるってどういう意味ら?話して答えるもんれもあるまい?」

「応えたから力を得られた…違うか?通じるさ、彼は今も剣の中で生きてる。」

「…オイ魔剣…いや『錬樹』とやら、聞いてるか?俺が貴様のご主人様らぞ。」


 勇者は魔剣に呼び掛けた。

 だが返事は無かった。


「俺を信じろ錬樹よ、この俺が魔神を超う゛ぇえええ!!」


 そして魔剣は大変なことに。



「ぐぉおおお!痛い超痛い!なんだ、左手が締め付けられるように…!」


 ゲロ的なもので魔剣が悲惨な状況になったと同時に、激痛に襲われた勇者は左手を押さえてうずくまった。


「そ、そりゃゲロぶっかけりゃキレられるわな。ったくどんだけ要領悪いんだ…」

「俺は悪くない!気持ち悪いんだ!」

「それは言い訳としてどうなのダーリン!?」

「ま、これでわかったろ?その剣には意思があるんだ。」

「ふむ、なるほど…じゃあ印象良くせんとまずいわけだな。少し緊張するぜ。」

「いや、今より下は無いから安心しとけ。」

「で、俺はどうすりゃいいんだ?地道に語りかけて口説いてきゃいいと?」

「んにゃ、それじゃ一方通行だ。お前らは…“話し合い”する必要があんだよ。」

「話し合い…?でも剣と話し合いってどーやんのさ?」

「いにしえの霊山…『メルパ山』。そこでなら、それも可能かもしんねぇなぁ。」

「メルパ山…ニュグラ島にあるっていう火山か。危険極まりない地じゃないか。」

「確かに“噴火したら世界が滅びる”とか言われてる山だが…なぁに、もうずっと休んでる火山だ、ビビるこたないさ。」


いや、山とかじゃなくて。


 邪神が待ってる。




翌朝。俺達三人は『メルパ山』へと向かうべく、まずは港を目指して歩いていた。

何の因果か、俺が目指すべき地は『邪神』が向かうと言っていた島。まぁどのみち行くつもりではあったんだが、この体のまま行くのは少々不安だ。


「うーむ…だがまぁ仕方ないか。面倒が起きる前にソッコーで解いてくれよな。」

「ん?ああ心配すんな。業界一と言われたこの俺に、解けん呪いは無ぇよ。」

「でもさ、おっちゃんはなんでそんな色々教えてくれんの?お金なら無いよ?」

「フッ、まぁ“利害の一致”ってやつさ。俺にも利がある、金なら要らんよ。」

「利害の一致…?どういう意味だ?」

「呪術師の祖先が人を呪ってるとか聞こえが悪いだろ?ずっと探してたんだ、その剣。」

「先祖の尻拭いってやつか?」

「ったく、ケツの汚ぇ先祖がいると苦労するぜ。ま、お前にゃわかるまいがな。」

「いや、痛いほどわかるぞ。」


 親は『魔王』と『賞金首』だ。


「んでさ、その島にはどーやって行くの?港に行けば連絡船があるとか?」

「んにゃ。目指すは人も寄り付かん離島だ、一般の交通機関なんざ無ぇさ。」

「OKわかった、じゃあ船の手配は俺に任せてくれ。これでも腕には自信があるんだ。」

「えっ、なんで腕ずく限定なの!?」

「ここらの海は海獣達の巣窟だからな…まぁ遠回りして三日の旅ってところか。」

「三日…いや好都合だ。その間に色々聞かせてもらうぞ、この剣のこととかな。」

「ん?ああいいぜ。色々話してやるよ、見たとこ他にも憑いてるようだしなぁ。」

「フッ、コレクションだ。」

「そこは胸張るとこじゃなくない!?」

「けどまぁ俺も行くのは何年ぶりかの山だ、迷ったらゴメンよ。」

「まぁ気にするな。生死のかかった旅でもないしな。」

「さて、どの方角だったか…」

「そっから!!?」


 結局十日かかった。




解樹のせいで予想より長くなった船旅の末、俺達はやっとニュグラ島に到着した。

霊山があるせいか噴火の恐れがあるからか、人が住むような島ではないらしく、町どころか人っ子一人見当たらない。なんとも薄気味の悪い場所だ。


「ふむ…凄まじく人気の無い場所だな。確かに霊山っぽい雰囲気バリバリだ。」

「あ、でもダーリン、あそこに人いるよ?やっぱ人が住んでんじゃない?」


 血子が指した方向には、確かに人影のようなものが見えた。

 だが解樹によると人ではないようだ。


「いや、ありゃ霊だ。」

「ウッギャー!化け物ぉーー!!」

「喋る根っこが言うなよ。だがもう出たのか…早速だな。」

「呪いをかけるにゃさ、こういう年中薄暗い霊場が一番なんだよ。」

「俺は呪いを解きに来たんだがそこんとこ大丈夫か?」

「…フッ、もちろんよ。」

「マジで大丈夫か!?」


 解樹は「ヤベッ」と言いそうな顔で遠くを見ている。


「まぁ心配すんな、なんとかなるさ。四人で力を合わせれば!」

「増えてない!?ねぇなんか増えてない!?」


 解樹は遠くを見ている。



それからしばらく道なりに進み、だいぶ頂上に近づいてきた俺達。

最初のうちは解樹の嫌がらせの線も捨てきっていなかったが、どうやらこの山は冗談抜きに霊が出るようだ。これだけ具現化されては疑う方が難しい。

だが登るにつれ、段々とその数も減ってきた。何か理由があるのだろうか。


「俺は一応『霊媒師』絡みで霊に理解はある方だが、おぼろげとはいえ目で見える程とは少々驚いたな。」

「まぁ安心しな、ふもとにいたのは弱い霊だけだよ。上まで来られるのはよっぽどの奴さ。」

「ふ、不安にさせないでくれ。つい先日悪霊になった知り合いがいるんだ。」


 勇者は教師と暗黒神の顔が脳裏をよぎった。


「登るほどに場の霊圧も上がる。だから霊を武器から締め出すにゃもってこいなのさ。」

「なるほど、そういう理由でこの山なわけか。ちょっとは信憑性が出てきたな。」

「だがその代わり熊とか野獣が出るんだが…まぁ三人いりゃ大丈夫だろ。」

「あ、やっといなくなったんだ!良かった~☆」


 血子は“人”じゃない。



その後、もうじき頂上ってあたりで解樹とは一旦別れた。解呪の場を作るかららしい。

準備には少し時間が要るということなので、時間を持て余した俺は邪神の様子を見に行ってみることにした。


「ふむ、邪神がいるのはこの塔だな?他に待ち合わせできるような場所もないし、まぁ間違いないだろう。」


 そびえ立つその塔は、随分と古い建物のように見えた。


「ね、ねぇ本気で入る気なのダーリン?邪神て敵さんだよね?殺されちゃうんじゃない…?」

「奴とは休戦協定を結んでいる。共通の敵がいる間はなんとかなれ。」

「語尾が願望になってない!?ホントに大丈夫!?」

「ま、多分だが嘘じゃないさ。魔神はあの暗黒神が恐れた程の脅威だしな。邪神とて一人では勝てんと思っているのは確かだろう。」

「けどさ、なんで二人とも魔神をそんな気にすんの?まだ復活してないのに。」

「長年封印されてた邪神、暗黒神が相次いで蘇った。懸念するには十分だろう。」

「でもダーリン、いっつも好戦的だから心配だなぁ~。上手に取り入るとかできないっしょ?」

「知ってるか血子?子供の血色草には不思議な力があって高価らしいぞ。」

「えっ、手土産!?血子ってば手土産!?」

「まぁ心配するな。呪いを解くまでは俺も無茶でき…」


ガシャーーーーン!!


 突然、ガラスが砕ける音が激しく響いた。


「むっ!?なんだっ、上か!?」


ドサッ!


 そして何かが降ってきた。


「ッ!!?」

「えぇっ!?だ、ダーリン、この人って…!」



「じゃ…邪神!!?」



 返事が無い。

 ただの屍のようだ。



「ば、馬鹿な…死んでる…だと…!?」


塔の上から降ってきた『邪神』。かなりの傷を負わされ、既に事切れていた。

コイツほどの強者をこんなにできる奴なんて、そうはいまい。一体どこの誰が…?


「ど、どどどどどーすんのダーリン!?逃げるの!?もしくは…逃げるよね!?」

「俺は逃げも隠れもせん。今はただ…なぜかとっても走りたい気分なんだ。」

「素直じゃないにも程があるけどオッケェエエエ!とりあえず逃げよっ!」

「ッ!!離れろ、血子!」

「えっ、なんで!?」

「ウザい。」

「自分で言うのもなんだけど今に始まったことじゃなくない!?」

「来るっ…!!」


ガッキィイイイイン!


 再び上から人が降ってきた。

 勇者はかろうじて剣で弾いた。


「…チッ、そういうことか。貴様がやったってんなら納得できんでもない…か。」

「こ、こ、こ、この人って…まさか…!」



「連戦か…ちょいとキツいな。」



 なんと!魔王が降臨した。

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