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~勇者が行く~  作者: 創造主
第三部
102/196

【102】呪いを解く旅

目が覚めると、俺は見知らぬ浜辺に打ち上げられていた。ここは一体どこなんだ?

命からがら天空城から脱出した後、定員オーバーの脱出船は海面に激突。俺はなんとか脱出したわけだが…


「誰も…いないか。どうやら散り散りになっちまったようだな…やれやれだ。」

「アーーーーッ!勇者だ!勇者だー!ぃやったぁー!会えたよ嬉しいよぉ~!」


 盗子が大喜びで駆け寄ってきた。


「姫ちゃんが心配だ…いや、彼女なら無事なんだろうが、しかし…」

「って無視しないでよ!この際無事を喜んでとは言わないからさぁ!」

「なんで…お前なんだよ…」

「だからってそれはあんまりだよ!」

「で、他に生き残りは?潮の流れから見るに、他にもいてよさそうな感じだが。」

「あ、うん!賢二には会えたよ!でも、他のみんなは…見つかんなくて…」

「三人か…少々心もとないが仕方ない。すぐに向かうぞ、飯にする。」

「えっ、食事行くのに何の不安要素があるの?って、まさか…襲う気?」

「いや、食いきれるかなと。」

「どんだけ食う気だよ!食い尽くす勢いで臨む必要性がどこにあんの!?」

「馬鹿野郎!丹精込めた料理を残されたら、店主も浮かばれんだろうが!」

「やっぱり襲う気なんじゃん!襲う前から故人扱いかよ!」

「まぁ細かいことは気にするな。よし、行くぞ!賢二を連れてこい!」



 三十分後。賢二と合流した勇者達は、近くの村にあった一件の料理店にいた。

 事前の話では襲うようなことを言っていた勇者だったが、店の雰囲気があまりに普通とは違ったためまだ様子見をしていた。


「ふむ…世の中広いな。まさかこの俺が気圧される内装の飲食店があるとは。」


 店内は、なんというか色々と常軌を逸していた。


「そ、そうだね…。獣の毛皮とか剥製とか置いたお店はたまに見るけど、あんな粘液出てそうなのは普通は置かないよね…」

「メニューの中に、完成イメージが浮かぶのが一つも無いのはアタシだけじゃないよね…?」

「興味深いと言えばそうとも言えるが、深入りしたくもないな…いや、だが敵前逃亡は勇者の名折れ!店主を呼べぃ賢二!」

「えー…、やめようよ無駄に難癖つけるの…。まぁ止めても無駄だろうから呼ぶけど…」


 賢二は仕方なく店主を呼んだ。

 現れた店主は、パッと見は何の変哲もないオッサンだった。


「いらっしゃいませお客様。何かご用でしょうか?」

「って普通かよ!そこはお前、もっと奇抜な格好で奇声でも上げながら来てくれんとちょっとガッカリだろうが!」

「アンタ何を求めてんの!?もっと普通な店にしろって言うために呼び出したんだよね!?」

「え、普通…?普通な店とは…例えばどのような?」


 店主は困った顔で勇者を見つめている。


「ん?そうだなぁ…とりあえず便所には路上で謎の職人が書いてそうな無駄に前向きなポエムとか貼っておけ。筆で殴り書きしたやつな。」

「いや、あるけど!確かにそんな店あるけども!でもそれを“普通”の基準にするのは違くない!?」


 その後も勇者のイチャモンは続いたが、店主はどうにもピンときていない様子。盗子のツッコミだけが空しく響いた。

 仕方なく勇者は方向性を変え、自身の考えを伝えるのではなく店主の主張を聞いてみることに。


「では聞くが店主、この“毒マムシ丼(毒増し)”とかいうイカれた料理は?」

「ほぉ…お客様、これに目を付けるとはお目が高い。」

「いや、見間違いだと思いたくて聞いてんだよ!抜けよ毒は!増すな!」

「な、なるほど…増さずに抜く、と。」

「メモを取るなメモを!聞いてピンとこねぇならメモってもきっと駄目だよ!」


 やっぱり普通の店主ではないようだ。


「じゃあこの“サラダの踊り食い”とかいうやつ…これは踊るのはどっちだ?食う側がって意味か?」

「ほぉ…その発想は無かったですね、実に面白い。」

「こっちにはサラダが踊るって発想がねーんだよ!じゃあもういいよ持って来いよコレ!実物見ながら説教してやるよ!」

「あ、ハイ…わかりました。少々お待ちください。」


 店主は厨房に戻り、そして数分後…料理を持って戻ってきた。


「えっ、ダーリン!?」

「ってテメェか血子!!じゃあ踊れるわスマン店主!」


 勇者は思わず素直に謝った。



「キャー!ダーリンだ!ダーリンだー!ぃやったぁー!会えたよ嬉しいよぉ~!」

「だ、抱きつくな血子!せめてその全身のドレッシングを拭ってからにしろ!」

「そーだよ離れろよ!なにさキャーキャー騒いじゃってさ!ウザッ!超ウザッ!」

「さっきのお前と丸カブりだしな。」

「ぐっ、ぐぬぬ…!」


 盗子にブーメランが刺さった。


「ところで…血子さんはなぜここに?確か商南さんが『宇宙便』で宇宙に売り飛ばしたって聞いた気が…」

「あー…うん、まぁ色々あってね…。頭にパンツ被った末期的な変態に買われたんだけど、そいつの家で『移食獣』に食べられちゃって、気づけば地球に…」

「末期的な変態ですか…。僕も一人知ってますけど、そんな人が何人もいるなんて世も末だなぁ…」


 幸か不幸か同一人物だった。


「やれやれ…まぁいい、とりあえず飯にするぞ。腹が減ってはなんとやらだ。」

「えっ、食べてくの!?この猟奇的な環境でどうやって食欲を保てと!?」

「無理にでも食わねば回復できんだろ?魔法やら回復符やらで致命傷じゃなくなったとはいえ、まだまだ全快とは言えん。食ったら適当に宿を見つけて休むぞ。」

「でも勇者君、お金は…?」

「金…?賢二お前、この俺を誰だと思ってるんだ?」

「勇者君こそお店を何だと思ってるの…?」


 勇者はキョトンとしている。




そして夜が明けた。だが光は右からしか差し込まん。片手だと飯もうまく食えん。

どうやら左目と左腕を失っての生活は、思っていたより面倒のようだ。早急になんとかせねばなるまい。


「ぐっ…!」

「ど、どうしたの勇者!?目が痛むの!?」

「ああ。左腕は感覚が無いが、左目は時々痛みやがる…。というわけで、機能を失った左目と左腕をなんとかしたいと思う。何か案は無いか賢二?」

「ん~…やっぱり病院かなぁ?お医者さんなら何かわかるかもしれないし。」

「ひねりが無い。」

「えぇっ!?ボケとか必要なとこなの!?」

「じゃあさじゃあさ!血子が愛のパワーで奇跡を巻き起こし、でもその代償に血子は…」

「後者だけ採用。」

「えぇっ!?無駄に死ねと!?」

「盗子は黙っとけ。」

「えぇっ!?」


「やれやれ…仕方ない、病院を探すか。」


 賢二は納得がいかない。



「つーか賢二、今さらだがここはどこら辺なんだ?確かあの時の天空城はシジャンの上空にいたはず…」

「ごめん、僕にもわからないんだよ。シジャン王国ってタケブ大陸の入口だから、ギマイ大陸側ってこともありえるよね。」

「んー、じゃあギマイ側に行くべきか?“技術大陸”って言われるくらいだ、医療もあっちの方が進んでいるやもしれん。行くか。」


無難でつまらんが、他に案も無いため普通に病院に向かうことにした俺達。

昨日無かった金が今日あるはずもないのだが、そこら辺はまぁ経験でカバーだ。


「というわけで、俺の体をとっとと治すがいいヤブ医者めが。」


 数日歩いて見つけた病院で、相変わらずの上から目線で医師を威圧する勇者。

 だが医師の方も臆する様子はない。


「誰がヤブ医者かね初対面の…おや?キミ、以前にどこかで会ったかな?」

「フン。そんなコテコテの口説き文句じゃ、お茶くらいしかご馳走にならんぞ。なぁ血子?」

「意外とその気じゃん!って、そもそもナンパじゃないしね今の!?」


 その時、遅れて入ってきた賢二らが医師の顔に見覚えがあることに気付いた。


「あれ…?アナタは確か、女医先生のお知り合いの…相原先生?」

「あっ、ホントだそうじゃん!アンタ今はこの病院に勤めてんの?」

「あぁ、少し前に友人の治療で呼ばれてね。ついでに色々と見て回っているところなのだよ。」


 第二の死神が現れた。


「ふむ、どうやら記憶は戻ったらしいな。良かったじゃないか、蒼き少年。」

「む…?そうか猿魔の頃に会っていたということか。まぁそんなことはどうでもいい、死にたくなくば早く診るがいい。」

「記憶が蘇ったというより…“封印が解かれた”の方が相応しいようだな。」

「あ、そういえばあの時の勇者はホントは勇者じゃなかったんだよね。」

「いや、今の方が『勇者』らしくない気がするがね。」


(だ、大丈夫なの勇者?コイツかなりのヤブ医者だよ…?)

「フン、まぁ診せるだけ診せて駄目なら他をあたれば済む話だ。さぁ診るがいいヤブよ。」


 勇者は相原医師のヤバさを知らない。


「ふむ、漆黒の腕か…これは興味深い。よし、とりあえず何か注射してみよう。」

「ちょっ…!ちょっと待て!寄るなクソ野郎!ブッた斬るぞ!?」

「やれやれ情けない。その歳で注射が怖くて『勇者』がやっていけるのかね?」

「そうじゃねーよ!何よりも引っ掛かってるのは“とりあえず”と“何か”だ!」

「これはどうやら、詳しく調べる必要がありそうだ。その左目も同じ状態かね?」

「ああ。いつからかまぶたも上がらん状態だ。視界が悪くてたまらんぞ。」

「腹も?」

「腹は黒くねーよ失敬な!」

「あらかじめ言っておこう。私の治療費は法外だが…大丈夫かね?」

「ん?ああ、何の問題も無い。お互い様だ。」


 勇者の支払いも法外だ。



そして治療は始まった。ヤブとはいえ医者…生意気にも考えは色々あると見える。


「まずはとりあえずレントゲンを撮ろうか。さぁ好きなフレームを選んでねっ。」

「どんだけファンシーなレントゲンだよ!どこのメーカーだブッ潰してやる!」

「だ、ダーリン!血子も!血子も入るぅ~!」

「ちょっ、フザけんなよ!勇者とのツーショットはアタシが…!」

「いや、写るの骨だよ…?」


 賢二は早くも諦めた。


「よし、次は電気を流してみよう。」

「ちょっと待て!なんで病院にこんな拷問器具まがいのものがあるんだよ!?」

「“まがい”とは失敬だねキミ。」

「だったらアンタが失敬だよ!」


 盗子も見限った。


「よし、押しても駄目なら引いてみよう。」

「俺は扉か何かかよ!なんだその思いっきり間違った発想の転換は!?」

「若干飽きてね…」

「こっちが引くわ!」


 血子はドン引きした。


「ふむ…風邪かな?」

「ブッ殺す!!」


 勇者は暴れ狂った。




結局、ヤブ医者は何の役にも立たなかった。一瞬でも期待した自分が恥ずかしい。


「やれやれ…散々付き合わされた結果がこれかよ…。貴様ホントに医者か?」

「いや、私が医学で解明できないということは…つまり“病”ではないのだ。そうに違いない。」

「あん?オイオイ、自分の力が通じないからって適当なことを…」

「恐らくは“呪い”。その溢れ出る魔力…心当たりが無いわけではなかろう?」


 まるで何か知っているかのように、医師は勇者を見つめた。


「チッ、またなのか…。ったくなぜ俺の人生にはこうも呪いが付きまとうんだ。」

「だ、大丈夫だよダーリン!いつか全ての呪いから解放される日が来るって!」

「じゃあ消えてくれよ。」

「えぇっ!?血子もそっち側!?」


 盗子は念のため迂闊なことは言わないようにした。


「呪いかぁ…どうしようか勇者君?また色々旅しながら情報集めて回る?」

「いや、なんだか胸騒ぎがする。早々に治さんとヤバくなりそうな予感が…な。」

「んー…じゃあ南へ向かうといい。私は専門じゃないが、“彼”ならあるいは…」


 医師の口からそれっぽい情報が飛び出した。


「彼…?なにやら心当たりがあるようだな、ヤブ。」

「『呪術師』の『解樹カイキ』…あの男なら、何かわかるやもしれん。」

「ほぉ、じゅじゅ…じゅちゅ…フッ。」


呪術師…か。


 勇者はうまく言えない。



「目指すは南か…。だがギマイ大陸まで戻るとなると、結構かかりそうだなぁ。」

「なぁに、『電列車』で行けば近いものさ。ちょうどつい最近、今は『クミルシティ』にいるという噂を聞いた。まぁ行けるのは…キミ一人だけだが、ね。」


 医師の目が怪しく光った。


「…あん?それはなぜだ?」

「50銀になります。(約50万円)」

「ってやっぱ今回も金取んのかよ!アレで!?あの体たらくで!?しかもメッチャ高いし!」


 盗子は全力で抗議したが、医師は悪びれる気配すら無い。


「大丈夫、ちゃんと働いて返せるシステムになっている。」

「そんなシステムがあるほど日常茶飯事なんですね…」


 賢二は弓絵を売った過去を思い出した。


「ところでキミ達、前にあげた丸薬はどうしたかね?まぁ飲んでたら生きてはいまいが。」

「そんな物騒なモノをよこすなよ!その頃のことは俺は知らんが!」

「あぁ…確かアレ飲んで、確か猿魔は一瞬真の姿に戻ったっけね…。そんで酷い状況に…」


 盗子は群青錬邪戦での惨事を思い出した。


「だが今回のは自信作だ、持っていきなさい。きっと何かの役に立つだろう。」

「何の役に立つかをあらかじめ説明してくれ!薬ってそういうもんだろ!?」

「まぁ困った時に飲みなさい。きっと、何かが起こる。」


 “武器”としてならアリかもしれない。




結局、賢二らはヤブ医者に拉致られちまったので、仕方なく今回は俺だけで発つことになった。久々の一人旅だ。

『電列車』ってのに乗るのは初めてだが問題なく乗り込めた。

このまま順調に行ければいいのだが…という俺の期待は、残念ながら車内アナウンスに早速ブチ壊されることになる。


「ようこそ『最強線』へ。早速みなさまには、殺し合いをしてもらいます。」


 急にふるさとの香りが。



車内アナウンスによると、俺が乗った電列車の名は『最強線』。各車両につき一人だけが生き残れるシステムなのだという。

これだけ上等な乗り物がなぜ流行ってないのか疑問だったが、そうかこのシステムのせいか。

まぁいい、どうせ道中の予定も無かったしな。いい暇潰しと考えることにしよう。


「さぁ早速やろうぜぃ!まぁ勝つのはこのワシだがなぁ!」

「ハハッ、言うねぇ爺さん!けど悪いね、勝つのは私だよ!」


「うぉおおおおおりゃあああああああああ!!」


そうこうしている間に、車内では雑魚どもが一斉に戦いを始めた。

俺はというと、子供だからかターゲットから外されているっぽい。

舐められるのは好きじゃないが…まぁ数日前には神と戦った程の俺だ、今さら人間ごときに剣を振るうってのも興が乗らない。

しばらくは弱者のフリして身を潜め、最後の一人を華麗に仕留めるとしよう。


「ハァ、ハァ、あの小僧以外では…お前さんで…最後じゃ!死ねぇーー!!」

「死ぬのは貴様であぁーーーる!!」


ザシュッ!


「ぐふっ!あ…相打ち…か…!」

「む、無念…!」


バタバタッ


 勇者の出番は無かった。



「ふぅ、やれやれ…興覚めだぜ。」


様子見してる間に雑魚どもの潰し合いは勝手に完了してしまい、自動的に俺が勝ち残った。面倒はごめんたが、少しは楽しめると思っていただけに少々ガッカリだ。


その後しばらく飯を食いながらのんびりしていたが、到着にはまだ時間が掛かりそうでかなり暇。仕方ない、他の車両の様子でも見に行くとしよう。

何人いたところでどうせ雑魚だ、茶でも飲みながら余裕で殲滅しようじゃないか。


ガラガラガラ…


 扉を開けた先の車両で、勇者が見たのは―――



「…む?」



 ―――シジャン城で倒したはずの、『邪神:バキ』の姿だった。


うぉーーーー!?


 勇者は鼻から茶を噴いた。

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