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~勇者が行く~  作者: 創造主
第三部
100/196

【100】天空城の戦い(13)

終わったかと思いきや、第二第三の秘策を次々と出してきやがる暗黒神。まったくしつこい奴だ。

帝都の件は思いっきり裏をかかれていたわけだが、意外にも親父がなんとかしたらしい。ったく危ないところだったぜ。


さて、これ以上引っ張っても結果は同じな気がするし…ぼちぼち始末してやることにしようか。


「チッ、クソ親父め…生意気にも俺より目立ちやがって。今度会ったら殺すか。」

「おぉ!?その声はまさか勇(プツッ)」

「さてと…オイ先公、とっておきの残虐技で奴を地獄に送ってやるがいい。」

「おや、いいんですか?キミが最後の見せ場を人に譲るとは珍しい。」

「フン、決着は俺がつけた。誰がトドメを刺そうとも、俺の手柄は揺らぐまい。」


 大の字に倒れた暗黒神を見下ろしながら、勇者は言った。

 暗黒神の方もこれ以上は打つ手が無いように見える。


「ふぅ、まさかこんな…取るに足らねぇ小石どもに、負けることになるとはな。」

「いいえ。マオの強さに心を折られ、逃げに回った時点でもう…負けていたんですよ。復活前に本体を叩くのではなく、復活させてから討つ…くらいの気概が欲しかったですね。」

「…フッ、なるほどな…確かに昔の俺の方が、強かった気もするわ。…殺せ。」


 暗黒神は観念したように目を閉じた。


「さぁやれ!やってしまえ先公!全国の子を持つ親から苦情が来るほど残虐に!」

「なんてゆー注文の付け方だよ!ホントに何かあったらどーすんのさ!?」


「…おかしい、この男がこんな…ハッ!逃げますよみなさん、手遅れになる!」


 何かに気付いた教師は、慌てて子供達に脱出を促した。

 その様子を見て高笑いを浮かべる暗黒神。


「…ハハハッ!やはりさすがだよお前!だが、少しばかり遅かったようだな!」


 暗黒神は怪しげなスイッチを押している。


ゴゴゴ…ゴゴゴゴ…!


「こ、この流れ…この揺れ…完全に“自爆パターン”じゃん!もう切り札多すぎだよぉー!」

「チッ…!オイ盗子、乗ってきた船は無事なんだろうな!?連絡つくか!?」

「あ、うん!案奈が待ってるから、こっから大声で叫べば気づ…か、無い!?」

「無い!船が無いさ!ななななんでさ!?」

「ゆ、勇者君…。言いにくいんだけど、なんか変態さんのメモっぽいモノが…」


『我が大いなる野望のため、お友達の船はもらっていきます。ウヒヒ。』


「…賢二。今回の責任と、今後もし“何かあった時”の責任はお前が取れよな。」

「そ、そんな…!」


「それにしてもマズいね…。この高度じゃ、飛行船無しではまず助からないよ。」

「いえ、希望はありますよ宿敵君。こういう施設には『脱出船』がある可能性が高い。」

「そうとわかれば善は急げだ。とりあえずそれっぽい場所を目指して走るぞ!」

「ちょ、ちょ待っ…!」


 走り出そうとする勇者を、商南が引き止めた。


「ゆ、勇者!えと…冥符なんやけど、その…一応ウチの命の恩人やし…なぁ?」

「…フン、まぁ敵残党の話が聞けるやもしれんしな。オイ賢二、おぶってやれ。」

(いいなぁ…)


 暗殺美は自分で足を傷付けようかと悩んだが堪えた。


「あとは…弓絵かぁ。寝てちゃいつも以上にお荷物だよまったく。どうしよ姫?」

「わかってるよ。“滅びの呪文”…だね?」

「何をどうわかったんだよ!いろんな意味で危険だからやめてってば!」

「…んっ、うにゅ~~…わっ!も、モンスター!?」

「誰がだよ!寝起きからウザいって最悪だよアンタ!?でもいいタイミングで起きたね、行くよホラ!」


ゴゴゴゴゴゴゴゴォオオ…!


「おっと、かなり揺れが増してきやがったな。急がねば…」


 「凱空の子、勇者よ!心して聞くがいい!」


「!?」


 勇者は声の方へと振り返った。


「死ななけりゃいつか必ず、貴様は魔神とブチ当たるだろう。それは宿命!」


 なんとか首だけ起こした状態の暗黒神がこちらを見ている。


「奴の力は俺の比じゃねぇ。その時お前がどう足掻くか…楽しみだな…」

「フン、その時は貴様との違いを見せつけてくれよう。だから安心して死ね。」

「…フッ、頼んだ…ぜ……」


 暗黒神は力尽きた。


「サラバだ暗黒神…。貴様の往生際の悪さ、忘れな…ホントに死んでるよな?」


 勇者は念のため何度か刺した。




色々と長引いたが、やっとのことで暗黒神は倒した。

あとは無事脱出できるかだが…考えてもわからん。動くしかない。


「よし!さぁ行くぞ野郎ども!目指すは脱出船のある部屋だ、必死に探せ!」

「おぉーーー!!」

「おっと盗子、貴様は“財宝探し”だ。」

「ってなんでだよ!?イヤだよ財宝よりも命が大事だよアタシは!」

「馬鹿が。考えてもみろ、“神”の本拠地だぞ?『盗賊』の血が騒ぐだろうが?」

「ああ、メッチャ騒ぐな☆」

「なんで商南が騒いじゃうの!?自分が『商人』って自覚ある!?」

「手ぶらで帰っちゃ『勇者』の名折れだ。お前がここで頑張らんでどうするよ?」

「なんでそんなんで名が折れるんだよ!無茶だよ時間も無いしやたら広いし!そもそも脱出船の場所だって…」

「看板どおりに行けばいいよ。」

「あるかよバカ姫!どっかの観光施設じゃないんだから…」


 『非常口⇒』


「って意外としっかりしてたぁーーー!」


 防災設備は確かだった。



我らが姫ちゃんの大活躍により、脱出船は簡単に見つかりそうな予感がしてきた。

元々は奴自身の脱出用だったはずなので、嘘じゃない可能性が高いと見ていい。


タッタッタッタッタッ…!


「おっ、見えてきた!あの扉の先に脱出船はあるに違いない、みんな急げ!」

「ありがとう!ありがとう姫!おかげで死なずにすみそうだよ~!」

「別にいいよ盗子ちゃん、こんなの夕飯前だよ。カレーがいいよ。」

「OKわかったよ!無事帰れたら美味しい夕飯ごちそうしてあげるからねっ!」

「そうこうしてる間に着いちゃったさ。問題は誰が扉を開けるかさ。」


 走ること数分で、思いのほか簡単に“非常口”と書かれた部屋まで辿り着けた一行。

 だがこれまでの展開が展開なだけに、ここにも何かがありそうだと尻込みするのは自然な流れだ。


「私が開けます。何が飛び出るかわからない、皆さんは下がっていましょうね。」


 教師は扉を開けた。

 なんと!意外にも問題なく『脱出船』を発見した。


「チッ、二つだけか…まぁいい、無いよりはマシだ。あとは動くかどうかだな。」

「勇者君はそちらの船を調べてください。私はこの船を…よし、いけそうです。」

「こっちもいけそうだ。定員は四人らしいが、まぁ全部で十人だから五人ずつなら無理矢理なんとか…」


ズゴォオオオオオ…!


「…え゛?」


 教師の方の脱出船がシレッと出ていった。

 誰もが油断していた。


「う、嘘だって言ってよぉーー先生ぇーーーー!!」」

「くっ、残りの船は一つ…仕方ない、俺と姫ちゃん以外は諦めろ!ここで死ね!」

「なんでだよ!四人ならともかく定員割ってる意味が全然わかんないよ!」

「みんな一緒がいいよ。九人でおしくらまんじゅう…燃えるね。」

「よーし乗り込め野郎ども!俺が無理矢理押し込める、なんとか全員入れ!」


 勇者は気合いで詰め込んだ。


「アイタタタ!死ぬ!死んじゃうよ苦し…い…よ…!」

「さ、騒ぐなさ盗子…!そんな些細な振動すら…キツい状況…なのにさ…!」

「さぁ賢二、残るはお前と俺だけだ!一応容積的にはまだ入る、いくぞ!?」

「えっ!いや、でもこんな隙間じゃせいぜい一人が限界だよ!とても二人は…」

「よく聞け賢二。お前の前世は『折り畳み自転車』だ。」

「ちょっ、前世が生物じゃな…っていうかそもそも前世は関係…ギャーーー!!」

「よっしゃ入った!じゃあ行くぞ!地に降りるまで全員、死ぬ気で生き残れ!!」


 勇者は“発進”ボタンを押した。

 船は悲鳴にも似た音と共に、動き出した。




残った船に無理矢理全員詰め込み、なんとか爆発前に出ることができた俺達。

だが“飛んでる”か“落ちてる”かというと後者っぽい。やはり人数に難ありか。

それに船内もまたとんでもない状況に…。最終的に何人かは死ぬかもしれん。


「ぬぐぅ~!は、離れろ盗子!つーか姫ちゃん以外はみんな邪魔だ、降りろ!」

「む、無茶言わないでよ空の上だよ!?文句なら後で先生に言ってよ!」

「勇者せんぱーい!弓絵にもっとくっついてくださーい!『魔人合身』ですぅ!」

「どんな暗黒の儀式だよ!それに同一人物になっちゃってどうすんだよ!」

「だ、大丈夫かい賢二君?なんかありえない位置にキミの足が見えるんだが。」

「お…折れる…折れちゃうよ宿敵君…。まさかこんな形で最期を迎えるなんて…」

「だ、だ誰に許可とってこんな密着してるさ!たまんないさ!(幸せで…☆)」

「おっしく~らま~んじゅう~♪押っされってワンッ!」

「鳴くなよ!せめて泣こうよ姫!う゛ぅ、騒ぐと呼吸…が…!」

「姫ちゃん、そんな所に…!俺としたことが、完全に位置取りに失敗したぜ!」

「う゛っ…ん?ここは…ってハニーがこんな近くに!?なんて幸せな状況だ!」

「あー起きたんか冥符。まぁアレや、全てはもう片方の脱出船で…一人逃げよったあのセンセが悪いねん…」

「んっ、なんだってハニー?よくわからないから一生添い遂げて説明してくれ。」

「どんなタイミングのプロポーズやねん!もう一つの脱出船の話をしてたんや!」


「もう一つ…?いや、あの城には脱出船…一つしか無いぜ?」


「へ…?」


 冥符の口から語られた、意外な真実。


「えっ、それってどーゆー…」

「ってことはあの野郎、まさか…!!」



ゴゴゴ…ゴゴゴゴゴゴ…



ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…!!



 今にも爆発しそうな程に激しく揺れる天空城。

 勇者達が乗った脱出船があった部屋…そこに広がる血溜まりの中に、静かに佇む教師の姿があった。

 暗黒神から受けた傷、凶優に貫かれた胸の穴…先ほどまではなぜか気にならなかった数々の致命傷が、今はよく見て取れた。



「フッ…まだまだですねぇ…」




「せ、先公ぉーーーー!!」



ドガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!




 悪魔は魔界に帰った。

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