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~勇者が行く~  作者: 創造主
第一部
10/196

【010】二号生:ゴップリン討伐(4)

盗子が珍しく活躍したことにより、なんとか使えそうな武器が手に入った俺。

だが正直、まだまだ断然こちらの分が悪い。

やはり最初の頭突きをもらっちまったのが悪かった。


一応姫ちゃんの回復魔法で少しは回復できたものの、まだ全快じゃない。

とはいえ彼女の行動はビックリ箱感がハンパ無いため、これ以上頼むのもためらわれる。


「はてさてどうしたのか…ゲフッ!チッ、またぶり返してきたか。」

「ちょ、勇者大丈夫!?まだ傷が治ってないんじゃ…」


 盗子が気付くと同時に、姫もまた勇者の吐血に気が付いた。

 その姫の表情を見た勇者は何かを察して震え上がった。


「勇者君、私が傷を治すよ!そのための『療法士』だよ!」

「い、いやちょっと待ってくれ姫ちゃん心の準備が…」

「おっと!そうはさせるかぁーーー!!」


 すると回復を阻止すべく、何も知らないゴップリンが二人の間に割って入った。


「えっと、回復回復…むー!〔死滅〕!!」


 そして案の定、姫は豪快に間違えた。


〔死滅〕

 魔法士:LEVEL50の魔法(消費MP70)

 敵一体を死に至らしめる高等魔法。だが熟練の術士でも成功させるのは難しい。


「なっ…!?グッ、グヘェエエエエエエエエエエ!!」


 ゴップリンはとばっちりを受けた。

 勇者は脂汗が止まらない。



「えっ…い、今のは…まさか…〔死滅〕…?」


 瀕死の状態からなんとか目を覚ました賢二だったが、起き抜けにとんでもないものを見せられて混乱していた。


「なんで『療法士』の姫さんが、『魔法士』の…しかも高等魔法を…?」

「不思議なこともあるものだね。」

「いや、そんな他人事のように…」


 皆が混乱する中、絶命系魔法を食らったにも関わらず、しぶとくも再び起き上がろうとしているゴップリンがいた。

 やはり姫がうっかりで成功できるような魔法ではなかったようだ。


「ぐっ…!な、なんてことだ…!この俺が…これほどの深手を…!」


 だがさすがにかなり効いている様子。

 思わず期待に胸が膨らむ盗子。


「か、勝てる…勝てちゃうよね勇者!?」

「あん…?いや、そう甘くもないさ。地雷にバズーカ、姫ちゃんの殺人魔法…情けない話だが、これだけやってようやく五分だろう。」


 勇者は冷静だった。それは決して弱気からくるものではなく、冷静な状況分析。あくまで勝つ気なのは変わらない。


「どうだ?そろそろ『勝負は次の一撃で決まるターイム』だと思わんか?」


 勇者のその問いかけに、一瞬口元が緩んだゴップリン。勇者も同じく微笑んでいる。

 どうやら二人とも、この戦いを楽しみ始めているようだ。


「フッ、いいだろう。我が…“好敵手”よ。」


 そして静かに構える二人。しばらく微動だにしない時間が続く。


「こ、これって…よくある“先に動いた方が負ける”みたいな…?」


 ポツリと呟いた盗子の言葉に、普段なら聞こえていても絶対に無視する勇者がなぜかわざわざ反応した。


「フッ、その通り。一歩でも動いた時…それがコイツの死ぬ時だ。」


 どうやら挑発して決着を早めるのが目的のようだ。

 すると、そんな勇者の意図を汲んでか汲まずか敵も乗ってきた。


「ほぉ…面白い。だがこうも言うだろう?“先手必勝”となぁ!!」


 ゴップリンが先に動いた。


カチッ


 そして地雷を踏んだ。


「え゛っ?」


ズッガァアアアアアアアアン!!



「フッ…だから言ったろう?」


 爆風に巻き上げられ、黒こげのゴップリンが宙を舞う。

 その姿は見るからに重傷だが、勇者は追撃の手を緩めない。


「うぉおおおおお!!食らえダメ押しの一撃!おりゃあああああああああ!!」


ズバシュッ!!


「ぎゃあああああああああああああああああああ!!」


 強烈な一撃を食らい、膝から崩れ落ちるゴップリン。

 勇者は勝利を確信したように呟いた。


「終わったな…今度こそ…」


「…という油断を俺はしない!オイ盗子、灯油を。」


 なおも追撃の手を緩めない勇者。


「いや、鬼かよアンタは!?もういいってば!やりすぎだってば!」

「甘い!こういう時に逆転されるのが世の常…」


「もう…もういい…負けだ…」


 二人の言い争いを制止したのは、なんと他ならぬゴップリンだった。

 そして、思いつめたような表情でポツリと漏らした。


「報いかもしれんな…この敗北は…」


ゴップリンは自分の過去をおもむろに語り始めた。


聞けば、こう見えてコイツは人間と仲良くしたかったらしい。

だが魔人というだけで怖がられ、絶望し、そして支配を…。


「弱かったんだ…人間よりも誰よりも、俺の…俺の心が…!」


「ゴップリン…」


 思わず同情してしまった盗子と賢二。

 さめざめと泣くゴップリンの声は、次第に大きくなっていく。


「うぅ…うわぉおおおおおおおおん!!」


 そしてついには泣き崩れた。

 そんな彼をしばらく無言で見下ろしていた勇者だったが、やれやれと言わんばかりに溜め息をつき、視線を外した。


「チッ、もういい。興醒めだ。」

「え…勇者…?」


コイツはコイツで辛かったのかもしれない。そう思った。




ザシュッ!!


 でもトドメは刺した。




こうして、俺達の…いや、主に俺と姫ちゃんだけの活躍により、魔人の魔の手から解放されたゴップリン島。

島民どもは安堵し泣きじゃくっていたが、俺ら学園校生徒はとてもじゃないがそんな気分にはなれなかった。


酷い怪我をした者、心に傷を負った者、仲間を失った者…そんな中、一人のメンバーも失わなかった俺の班はだいぶ皆にもてはやされたが、それでいい気分になってやるほど俺は単純じゃない。


活躍した俺と姫ちゃんはいい。基本的に雑魚だったが一応防御で粘った賢二、最後に魔剣を奪った盗子もまぁ許す。



だが宿敵、貴様はダメだ。



 その後、学園校で彼を見た者はいない。

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