【001】誕生
そこは、とある分娩室。
今まさに生まれようとする我が子のために、必死に闘う母親がいた。
「ぎゃああああ!もうダメェーー!死ぬぅううううう!」
しかし、かれこれ十時間にも及ぶ格闘…。肉体的にも精神的にも、とうに限界を超えていた。
多量の汗をかき、貧血のため真っ青な顔をしたその母親は、鬼の形相で必死に痛みに耐えている。
ここまできたらもう、助産師も励ますことしかできない。
「そんなこと言わずにほら奥さん!頑張って!ハイ呼吸法!」
「ヒッ、ヒッ、フォオオオオオオ!!」
「いや、旦那さんは黙っててください!」
「ヒッ、ヒッ、うっふぅ~~ん☆」
「奥さんは妙な色気出さないで!」
――― ん?なんだここは…?
「む、無茶言うな!愛する妻の初出産なんだ、黙っていられるか!」
「アタイなんか見知らぬ男の前で股ぁ開いてんだよ?色気出さずに何を出せってのさ!」
「子供を出してください子供を!!」
そうか…俺はついに…生まれるのか…。
腹の中から聞いていた。
両親がこの俺に、どんな男に育ってほしいのかということを。
二人が俺に、『勇者』としての人生を…期待しているのだということを。
「ハーイ、生まれましたよー。」
「うぉおおおおおお!ラブリィイイイイイ!!」
いいだろう!ならばなってやるぜ『勇者』に!
そしていつの日か、俺が世界を救ってやる!!
「よくぞ生まれてきた我が息子よ!お前の名は…『勇者』だ!」
えっ、“名前”が…?
勇者が誕生した。