第2話―最強の忍 王都に入る―
洞窟の出入り口の近くの壁を背に当て印を結んだ。
“土遁 岩隠れの術”
背にある壁にチャクラを流しそれを取り込むことで壁に入り込み姿をくらます術、術中外の状況を見たり聞いたりすることが出来る。その少し後、さっき話しかけてきた赤髪の少女がやってきた。少女は暗くなった空を見上げそのまま山を降りて行った。
(女子に見られるとは不覚だったが理解できてない様子ゆえ問題はなさそうだ)
赤髪の少女が見えなくなるのを待ち、岩隠れ(いわがくれ)の術を解いた。
(あとは明日だな・・)
と思い奥の格子状の扉のある部屋で寝た。その時、夢で屋敷が爆破された時の夢をみて朝目を覚ました。
(夢・・か・・)
頭を覆面の上から手を当てて思った。そのあと外へ出てかすかに水の音が聞こえた。
(水でも浴びに行くか・・音の感じからしてそんなに遠くないしな・・)
音の聞こえる方に走って向かった。そこには浅いが人が入るにはちょうどいい感じの小さい滝があった。
(まずは・・)
周辺に紐とクナイなどで罠を作り、その後、忍び装束を取り水の中に入った。
(そう言えば何人か人を見たが髪の毛が黒い者がいなかったな・・異国の人間か?)
と思いながら体を伸ばしていた。少しそのままでいた後、水から出て褌のまま太陽の光を浴びながら体を乾かした。
(今日は賊を殺した戦利品が何かを調べてみようか・・あとは賊どもの死体をなんとかしないとな・・)
と思い忍び装束を身に纏った。そのあと仕掛けた罠を外して回り、洞窟に戻った。術で塞いだ壁に手を触れ壁を開け金貨の入った袋から3枚出し懐にある小物の入った袋に入れ壁を塞いだ。その後、洞窟を出て印を結んだ。
“忍法 変幻の術”
賊の男の顔を少し変え髪を村で見た男の髪型と服装をイメージし、その姿に変幻した。
(これでいいな・・まずは近くに町があればいいが・・)
と思いながらとりあえず歩いて山を下りた。適当に歩き、道行く人に近くの町の場所について尋ねながら歩いて行くと大きな街に着いた。
(ここが東のおうとエ・・エル・・エルなんとかとかいうところか)
と思いながら街の門の前に立っていた。門の下のところに関所があった。
(困ったな・・通行手形を持っていない・・)
そう思い少し引き返し、ちょうどいい感じの崖があったのでそこから街を見下ろした。
(夜まで待って塀から入るか・・塀の高さは大体※0, 15丈くらいか)
そう思いながら街を見ていた。その街は門が1つ(ひとつ)あり街を高い塀が周りを囲うようにある。※0, 15丈=約45mほど
(夜まで結構長いな・・)
日の動き具合から大体※1, 未の刻だとわかった。※1, 今で言う13時から15時頃
(未の刻か・・)
そう思いながら空を見上げ、そのあと街の周りをぐるっと回って見た。
(ここからなら入れそうだな・・)
警備が手薄そうな民家みたいな建物の多いところで足を止め、変幻の術を解き、茂みの中に身を潜めた。
(※2, 申の刻か・・もう少し時間がかかりそうだな・・)
そう思いながら持っている道具の確認と※3, 兵糧丸を一つ口にし、そのままじっと時が来るまで潜みながら待った。※2, 現在でいう15時から17時頃 ※3, 2日間眠らなくても行動や戦闘できるようにする秘薬
(まずは塀の中に入るが警戒されていることも考えに入れ変幻で姿を変え群衆に紛れるのが得策か・・入ってすぐに人がいる可能性がある・・警戒しながらゆっくり入るとしてチャクラの無駄遣いは避けたい・・中に入っていきなり窮地にたったら困るからな・・だが仕方あるまい・・)
街を葉と葉の隙間から覗く形で見たが見えなかったので茂みから出て崖の先端にしゃがみながら近づき街を見た。
(そう言えば変幻の時・・旅の行商人の格好をしていたがなぜか反応がおかしかったな・・格好が変だったか?旅人は大体あんな感じだったと思ったが・・)
と思いながら声をかけた人たちの顔を思い返していた。
(旅人が珍しいのか?いや・・そんな感じではなかったな・・初めてみたみたいな・・そんな感じだ・・)
そう考え崖から下にいる人を見た。門の近くにいる者や並んでいる者を見ると服装が違っていた。
(なるほどな・・あれでは道を尋ねた者たちが不審がって然るべきだな・・俺の知ってる事と明らかに違っている・・身長も大きい者が多い・・俺の知っている身長でも高くても※4, 5尺4寸ほどだがここにいる者は明らかにそれよりも大きい・・突然変異か?)
と思いながら声をかけた人や見た人たちを思い出した。※4, 5尺4寸=今で言う162㎝ほど
(急に俺以外が大きくなるはずないしな・・※5, 5尺3寸の俺が※6, 童と間違えられたしな・・)
そう思いながら空を見ていた。※5, 5尺3寸=今で言う159㎝ ※6, 童=今で言う子どものこと
(そろそろ※7, 刻限か・・)
思い返している間に辺りは薄暗くなってきていた。※7, 刻限=時間のこと
(さてと・・行くか)
そう思い塀を一気に登って行き、てっぺんから塀の中間辺りまで降りて行った。そこからはゆっくりと地面まで降り回りを見渡したが人気はなく印を結んだ。
“変幻の術”
さっき思い返した違いを修正し、イメージした。
(こんな感じか・・それにしてもやたらと明るいな灯篭や蝋燭の火ではなさそうだな・・)
そのまま人気のある方へ歩いて行った。
(これ少し歩きにくいな・・自分本来の身長とまったく違うからか・・)
そう思いながら大通りに出た。そこにはさっきいた場所よりも道や部屋の明かりが明るかった。
(こ・・これはどうなっているんだ・・な・・何故夜なのにこんなにも明るいんだ・・ありえない・・城下町ではないのか?狐にでも化かされているのか?そう言えばさっきまで考えもしなかったが何故言葉がわかるんだ?知らないことが多くあるのに言葉がわかるのか・・村の時は日本には巨人の住む村があると噂で聞いていたからそこまで考えなかったが・・どうなっているんだ・・)
そう思いながら辺りを見渡した。その光景は常識にない光景だった、鉄の柱の上には火では出せない灯りがついておりそれが道に均等に置かれ、石で組み上がった建物の中の部屋にも火ではない灯りが灯されており道も土ではなく石畳みになっていた。
(暗くてわからなかったが裏路地も石畳みだったのか・・)
そう思いながら振り返り、後ろの道を見た。
(そんなことよりもこの金について誰かに聞かないとな・・)
辺りを見渡した時だった、右の方から6人の鎧を着た人たちが慌ただしく走って前を通り過ぎた。
(俺のところを通り過ぎたってことは侵入が悟られたわけではなさそうだ・・)
そう考えたが何事なのか気になったこともあったので兵士をつけてみた。
ざわざわざわ・・・
そこには人だかりが出来ており、兵士は人を押し退け進んで行った。その後ろについて行き、人だかりの奥にたどり着いた。そこには2人の頭に獣の耳を付けた見窄らしい身なりの子どもが怯えた目で座っていた。
(なんだあの童たちは・・頭になにかついて・・※8, 物の怪か?)
その子どもたちをみて考えているときだった。※8, 物の怪=妖怪の類いのこと。
「お前らそこの物を盗んだんだろ!」
「違います!さっきぶつかった人が落としたので拾って渡そうとしただけです!」
「貴様!口答えするか!」
そう言うと兵士たちは腰の武器を抜き子どもたちに向けた。
(変なところに出くわしてしまったな・・かと言って戻れないしな・・)
と思いながら横目で後ろを見ると人だかりがすごく通れそうにない。
(前の裏路地を使えば離れられるかな・・それにしても誰も止めないのだな物の怪の童とは言えまだ小さいではないか・・)
兵士と子どもたちの奥には裏路地の入り口を見ながら思った。
(仕方がないあの童たちに話しを聞くのがよさそうだな・・)
そう思い懐にある袋から※9, 鳥の子を1つ取り出した。※9, 鳥の子は忍の使う道具の1つ(ひとつ)強い衝撃を与えると濃い煙を発生させるテニスボールくらいの大きさの玉。
(この範囲なら1つ(ひとつ)で良いな・・)
クナイを投げるように鳥の子を兵士の足元に投げた瞬間兵士の1人が武器を振り上げそのまま振り下ろした。そのまま走りだすと鳥の子が弾け、辺りを煙で覆い子どもたちを抱え裏路地に入り建物の壁を上に向かって走り屋根を蹴り飛び上がり囲っている壁を走って上がりそのまま飛び降りた。その間子どもたちは感動の声や叫び声をあげていた。地面に着き金を隠している場所に走り出した時には2人とも気を失っていた。
(童はこんなことで叫ぶから苦手だ・・)
と走りながら思っていた。洞窟に着き2人を下ろし、その場に腰を下ろした。変幻したままなことに気が付き変幻を解いた。
(そう言えば知らないこいつらの言葉も普通にわかったが何故だ・・もしかしたらここは俺がいたところとは異なる世界なのか?ずっと日本のどこかとか思っていたが・・発展し過ぎている街があるしこの物の怪の童もいるし俺の知る日本とは明らかに違う・・ここがもし海の向こうだとしたら言葉が通じるのもおかしい話しだしな・・)
と思いながら夜空を見た。
(少しチャクラを使い過ぎたな・・)
そのまま横になり眠ってしまった、またも夢の中で屋敷が爆破されたときの夢を見て起きた。
(またあの夢か・・寝てしまっていたのか・・)
そう思いながら辺りを見渡すと物の怪の童が2人身を寄せ座りながらこっちを見ていた。
「おいらたちをどうするつもりですか!?」
「助けてやったんだ礼の一つでも言ったらどうだ・・俺は人攫いではないからな」
「大丈夫だよお兄ちゃん・・この人いい人だよ」
「そうなのか?」
「うん・・確かに顔が隠れてて怪しい感じだけどわたし達をどうこうしたかったら簡単だろうし」
「どう言うことだ?」
「わたし見た人の戦闘能力がわかるの」
「それがシーシャのスラッシャーの魔眼だぜ!すげぇだろ!魔眼使いはこの世でも5人しかいないんだぜ!」
「スラッシャー?」
「スラッシャーは大昔に実際にいた伝説の英雄の一人でシーシャはそいつと同じ魔眼だからそう言われてるんだよ」
「それでシーシャこの人の戦闘能力はどれくらいなんだ?」
「えっと・・わたしもこの数値は見たことないから正確かは・・」
「そんなに高いの?」
とシーシャは強く頷いた。
「おいらと比べると?」
「ちょうど2万倍くらい・・」
「はぁ!?騎士団総大将でもおいらの1千倍くらいだったろ?」
「う・・うん・・この人騎士団の誰よりも強いってこと・・」
「それは確かにおいらたちをどうこうするんなら一瞬かー」
と二人はこっちを見たりしながら話しをしていた。
(話しについていけんな・・)
そう思いながら洞窟の方に向かった、童たちは後をついてきながらなにやら話しをしていた。洞窟の前に何人か鎧を身に纏った人と見たことのない着物を身に纏った少女がいた。
(なんだあの者達は・・)
と思い歩みを止めた時だった。
「あれは王都エルティアの騎士団いや・・あの紋章はフェリス直属の親衛隊それにあのこは王都エルティアの第三皇女フェリス・エルティアじゃねぇか!」
「なんでこんなところに皇女様が!」
「そんなこと知らねぇよ!」
「皇女の中でも強い者好きで欲しいモノはどんな手を使っても手に入れようとするヤツだぞ」
「そんな皇女様が気に入りそうな人って」
そう言い二人はこちらを見た。
「あー・・いた」
「そうだね」
二人はなにやら納得したようだった。そのまま洞窟に向かった、洞窟の入り口の辺りで呼び止められた。
「おぬしか黒衣の覆面男か・・どうじゃダーチェ」
「どうと言われましても私にはスラッシャーの魔眼はないので見ただけではなんとも言えませんな」
そう言い少女の横にいる男は前に出て剣を抜いた。