美味しそう
お父さんの呼び掛けと共に、回転寿司の準備が行われた。
回転寿司は、お父さんが生み出した。
万人が楽しみながら食事をすることができる画期的な食事方法。
敷いたレールの上を、お皿に乗った料理が周る。
お皿の上には、米の上に生の魚の切り身が置かれたもの。
パンの上に、肉が置かれたもの。
果物の上に、別の果物が置かれたもの。
色とりどりでたくさんの種類がある。
お父さんは邪道だと言っていたけど、どうしてだろう。
あ!あれは僕が好きなチョコケーキ。
あれ食べたい。レーナにお願いしよう。
「あえあえあい」
「ああ、あれね。チョコケーキ好きだったよね。食べたいの?」
さっすがレーナ。
以心伝心ばっちり。
「あい!」
「ユキ。あなた今、赤ちゃんになってるの分かってる?」
「ううう!?」
そうだ、僕は赤ちゃんだった。
「あと8ヶ月以上は待って」
「あーい」
そんなに待つのか。
だから気だるげな返事が出てしまった。
チョコケーキ食べたかった。
「その間は、私で我慢してね」
「うえあ!?」
「ぽんぽんがすいたらいつでも言ってね」
レーナはそう言って、僕にウインクした。
僕は現実逃避するため、回転寿司を眺めた。
おいしそう。食べたい。むしゃぶりたい。頬張りたい。
本当に無念。
「レーナちゃん。それとユキ」
黒いストレートの髪の女性が歩いてきた。
「アイリス姉さん」
僕のお姉ちゃんだ。
「ユティがユキって本当?」
「そうですよ。三三七拍子を披露してくれました」
「三三七拍子!?」
軽く目をパチパチさせ、僕に近づく。
そして僕の腕をプニプニ。
プニられていると、次第にお姉ちゃんの頰が赤く染まる。
目もなんだかおかしい。息も荒い。
「ユキ可愛くなったな。これは、プニラーの私も満足だ」
相変わらず、お姉ちゃんが時々何を考えているか全く僕には分からない。
僕が小さい頃は、頭をひたすら撫でて、撫でラー冥利に尽きるとか言っていた気がする。
他にも僕を抱いて、抱きラーとして誇りに思うとかも言ってた。
「これからもプニプニで壮健でな」
向こうに歩いて行った。
本当によく分からない。
この後、たくさんの知り合いに囲まれて挨拶された。
親友たちに、依頼で関わった方たち。
みんな僕のことをとても心配してくれたみたい。
僕は幸福感と後ろめたさに満たされた。
だけど、何十人かプニっとしたのは何故だろう。
たくさんの人と会っていると、赤ちゃんになっているためなのか、眠くなってきた。
そのまま、眠気を許しているとまぶたがゆっくりと下がった。
目覚めると、レーナに抱かれていた。
「おはようユキ」
「おーあ」
「たくさん寝てたね」
外の明るさが、窓から差し込んでいる。
今は、朝なのかな。
次の日になるくらい眠っていたみたい。
「今日は新婚旅行よ」
「あう?」
「ユキが、亡くなって行けなかったからね」
とても悲しい顔をした。
「まぁ、その分10倍で行きましょう」
今度は華やかな笑顔。
「じゃあ、ユキ朝ごはんね」
にやついた顔になった。
「あうう」
「恥ずかしがりやさんめ。ユキが、生まれてから全部お世話してるんだから、今さら恥ずかしがらない」
最終的に強かな顔。
後ろめたい気持ちを持ちつつ、飲んでみたら美味しかった。
今まで飲んだ中でも、一つ飛び抜けて美味しい。
それに、体の芯から温かくなりのを感じる。
もっとほしい。
「ふふ、気に入っちゃった?」
「ううう」
朝食を終えると、着替えさせてくれた。
何から何までお世話になります。
「ユキのことは全部やるから」
う?レーナ疲れない?大丈夫?
「心配してくれてるの?私は大丈夫!」
レーナには苦労掛けっぱなしだ。
僕がもっと成長したら、恩を何倍にもして返したい。
「楽しみにしてるね」
さっきかから、普通に話しているみたいだ。
不思議。
「実際、ユキが思ってること分かるよ?」
「あえ?」
「ユティが覚醒してユキになってからかな。その時からほんのすこしずつだけど、違和感を覚えてね。昨日の回転寿司のころからは、ユキの思ってること理解できるようになったよ」
「ううううううううううう!」
やった!話が通じる!
あれ?でも、待てよ。考えてること分かるって、恥ずかしくない?
変なこと考えたらどうしよう。
「食事のとき、すごかったもんね」
うわああああああああああああああああ!
やってしまった!恥ずかしい!
「前は男の子だったもんね。でもユキ、今は女の子なんだから、慣れてかないと大変だよ?」
「う?」
「だって、何もかも女性用を普段から利用することになるんだよ?」
「ああああ!?」
「楽しくなりそうね!」
この時、見上げてた僕の目に入ったレーナの表情は、輝かしく眩しすぎてずっと見ていられなかった。
誤字脱字等なにかありましたら、ご指摘いただけると幸いです。
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