娘になりました
ここ最近、僕は幸せだった。
僕は大好きな彼女のレーナにずっと包まれている。
彼女の声が聞こえて、匂いがして、肌で触れて僕を安心させてくれた。
そんな幸せ体験をしていると彼女の声が聞こえた。
「ユキが亡くなって一年経つけど、ユティは長生きしてね」
彼女の綺麗な声に僕はうっとり。
んえ?ユキ?亡くなった?一年?ユティ?長生き?
疑問が湧いた瞬間思わず声がこぼれた。
「あうっ!?」
なんだこの幼い声は!?
僕の声だと、こんな声出せないし出ない。
いやまて慌てるな聞き間違いだ。
「あうあう」
ひゃーやっぱりだ。
どうなってんだこれ。
まともに話せない。
とりあえず助けを求めよう。
レーナ助けて。
「えーああうええ」
「ん?どうしたのかな?いつにもなく元気だね」
「えーあ!」
「お腹すいたのかな?」
だめだこりゃ。
意思の疎通がとれない。
そうだ!文字で助けを求めよう。
紙とペンを取らないと。
起き上がれなくて声が漏れた。
「んあっ」
手や足にもまともな力が入らない。
動いたとしてもレーナの抱く力であまり思うように動けない。
うっそ!いつレーナの力がこんなに強くなったの!びっくり!
というかレーナ前よりもでかい。
これまたびっくり!
「ユティどうしたの?どこか痛いの?」
「あうえ!」
もしかして僕の方を見て、今レーナはユティって言った!?
ユティは僕じゃない。
僕とレーナの間に生まれてくる娘に付けようと思っていた名前。
ひんやりしたものが僕から溢れ出す。
ある考えが頭の中を駆け巡る。
パパ、亡くなった、一年、ユティ、長生き。
巡るごとに、だんだんと体が震えてくる。
まさか!そんなはずない!
ありえない!
だって!だって!だって!だって!
僕はっ!
すると突然、僕の周りに白い光が溢れ出した。
白い光は僕を包み身体的、精神的にも回復してくれる。
光が消えると共に僕はとても落ち着ける。
「とりあえず回復魔法かけたけど、ユティ大丈夫?」
いやー!だめですー!おちつけない!
おかしい。大丈夫じゃない。
やっぱりレーナは僕のことをユティって呼んでる。
どんどん体が冷えていく感覚を覚える。
どうやら僕は自分の娘になったみたい。
そう気づいたときには声をあげていた。
「あううううううううううううううう!」
僕の叫びを聞いたレーナは、目を見開き慌てだした。
原因がわからないレーナは、僕にいろいろ声をかけるが
何と言っているか聞き取れなかった。
なんとかしてレーナに、僕がユティになっていることを伝えたい。
でもまともに話すことができない。
これ詰んだ!?
いや、待てよ。あれがある。
我が家直伝のあれだ。
それしかない。
レーナの目を見て僕は試す。
「あう、あう、あう。
あう、あう、あう。
あう、あう、あう、あう、あう、あう、あう。
あう、あう、あう。
あう、あう、あう。
あう、あう、あう、あう、あう、あう、あう」
伝われ我が家直伝、三三七拍子!
どうレーナ!
僕の三三七拍子を聞くとレーナはぽっかり口を開けて固まった。
しばらく待つと、レーナの口が動きだした。
「こわれた?」
破れたり三三七拍子。
もうだめだ。
僕、娘のユティとして生きていきます。
「もしかしてユキ君?」
レーナは訝しげに僕に問うてきた。
「あい!」
驚喜の咆哮として、思わず大きな声が出た。
歓喜のにんまり笑顔付きで。
さっすがレーナと心の底で乱舞した。
レーナは僕の勢いの返事で、
目を瞬かせると、顔をこすりつけるように僕の頭にあてた。
「会いたかった」
その言葉と共に、僕の頭にぽとぽとと暖かいものがあたる。
レーナ?
「生まれてきたユティはね、あなた同じ白い色の肌に髪。
鼻の形はね、あなたとそっくり綺麗な鼻筋。
耳もねあなたとそっくりなんだよ」
「私はね、ユティを見るたびにあなたを思い出すの。
毎日毎日一日だって思い出さない日は無かった」
「人ってね、いつも一緒にいると気づかないけど、
いなくなったときに、分かっちゃうことがあるんだ」
「どんなに、大事で大切で貴重だったか。
何者にも変えがたい、時間で温もりで存在だったのかをね」
「だけど、そう気づいたときにはもう何もないの。
隣を見てもいない。どこにもいない。」
「いっそのことこんなにも辛いなら、私もいなくなろうって思ったんだ。
でもね、私の中にユティがいるって分かってね。
もう少しだけ頑張ってみようと思ったの」
「生まれてきてくれてありがとう。
おかえりなさいユキくん」
言い終えると彼女は声をあげて泣いた。
彼女の声でしんしんと僕に愚蒙が積もった。
誤字脱字等なにかありましたら、ご指摘いただけると幸いです。