結末の行方
悲鳴と歓喜の声、そして歓声が入り混じっていた。最後に残ったのは響の賭けた13番のペアだけとなり、その13番の男は追っ手2人を倒している強者だ。成金の賭けた2番が意外な方法で殺されたこともまた興奮を呼んでいた。見るからに体の関係があった2人だったが、所詮はそれだけの関係だと証明された。血みどろの男を見捨てて逃げた女によって2人とも爆死したのだから。やはり逃亡中にそういう行為をしたペアは生き残れないらしい、そう全員が感じとっていた。2番の生き残りに賭け、さらには裏工作まで講じていた成金は呆然としながら顔を青くしていた。2番のペアを最後まで残せと言ったはずなのに、富岡はそれを無視してペアを殺害した。こんなことまでしたのは今回が始めてであり、富岡に対しても破格の報酬を提示していたのに。そう、全ては響を出し抜くためだった。響がああも破格の掛け金を提示しなければこんなことはせずに純粋にゲームを楽しんでいたはずだ。
「こんな・・・・馬鹿な」
そう呟くのがやっとの成金に数名が残念だったなと声を掛けるが耳には入らない。目の前の現実を受け止めることができなかった。
「これで残るは13番かぁ」
どこかでそう声があがる。過去類を見ない初めての偉業を達成するかどうかまでが加わり、このゲームの興奮は最高潮を迎えようとしていた。生き残れば響が史上最高額の金を手にする。いや、それだけではない。もしも13番のペアが最後の鬼を殺すことがあれば、それこそ前代未聞、史上初の快挙となるのだ。ますます盛り上がりを見せる中、シートに埋まるようにしている成金は指揮所に行く気力も失ってただ呆然とモニターを見つめていた。富岡が動く気配がないために画面は数秒おきに島のあちこちを映し出していた。そのどこにも13番のペアの姿はない。よほど上手く隠れたのか、それともカメラのない部分を移動しているのか。そんな画面を見つつ表情もない響は自分の位置からでも見える落ち込んだ成金へと目を移すのだった。
*
朝日が昇った。島での最後の6時間が幕を上げたという印にも思えるその明るい空を見つつ、地下の空洞から顔を出したエイジはレーダーの反応もないことを確認するが、ここへきてこのレーダーの信用性も疑うようになっていた。運営側も2つのレーダーが奪われた事実は認識しているはずだ。それでもなお機能をそのままにしているというのはこれが戦利品である、そういう認識を持っているからだと思っていた。残りが6時間程度になり、おそらく生き残っているペアもほとんどいないと考えられる。これは勘だったがその確信もあった。このゲームを自分が運営していたならば、生き残れば1人1億も支払うということからして支払えてもせいぜい1ペア、もしくは生存者なしが望ましい。これだけ大規模なゲームには運営費も管理費もかさむだろう。どんな人間が運営しているかはわからないが、それでもろくでもない人間だということはわかる。そんなやつらが自分たちに金を支払うとは思えず、エイジはレーダーすら信用できないと考え始めていたのだ。廃墟に隠れていたはずの健也たちの反応ももうなくなっている。そこから逃げたのか、あるいは死んだのか。それともレーダーの能力が制限されたのかはわからないが、とにかく移動し続けるしかないと判断していた。一箇所に留まることは危険を伴う。特にあの廃墟などはマークされているはずだ。穴を出たエイジは周囲に気を配りつつ晴子を引っ張り上げると真剣な目で気配をさぐった。地下を出る前に晴子には話をしている。とにかく逃げる、それだけだと。そして何があっても冷静に行動しろとも告げていた。パニックになって離れてしまえばそれで確実に2人は死ぬ。どちらかが冷静になれば最悪でも1人は生き残れるはずなのだ。いや、晴子は自分が守る、そう決めていた。だから目覚めてから再度サブマシンガンの扱いを伝授し、もし自分が助かりそうもない状況になった場合は相手もろとも自分を撃てとも話している。勿論、それは最後の手段だ。晴子は一応頷いていたが、銃を持ったことはおろかそれを使って人を殺そうなどと考えたこともない女子高生にそれが出来るとは思わない。それでも、そういう覚悟はして欲しかった。エイジは廃墟を背にする形で移動した。レーダーに反応はない。だがそれに頼らず、常に気配を探りつつ進む。そして2時間、複雑に入り組んだような藪と木の間に身を潜めて休憩を取った。残りは4時間ほどだろうが、この2時間でさえ随分と長く感じられた。終盤に来て疲労感も半端がない。なにより精神的にかなり疲れを感じていた。晴子もかなり疲労感が顔に出ている。かといって移動速度を落としたり隠れたりするという選択肢はなかった。晴子もそれは理解している。そう、晴子はエイジを信用していた。そういう信頼もあり、何よりここまで生き残ってこれたのはエイジのおかげだと思っている。エイジは顔と体に大怪我を負いながらもこうして自分は無傷なのだから。
「レーダーの反応が消えた」
エイジがそう言い、端末を操作するが何の反応もない。バッテリーが切れたのかとも思えるが、そんな予兆もなかっただけにおそらくは接続を切られたと考えるのが正しいだろう。エイジはそれを遠くに投げ、移動を開始した。もしあの端末に何かしらの発信機が付いていたとしたら持っているだけで危険になる。2人は深い森を選んで歩き続けた。これだけ歩いても他のペアに遭うこともなく、そして死体すら見つからない。あの折り重なった死体を見ているだけに回収されているとは思えず、晴子は疑心暗鬼に陥ってしまっていた。そう、数組を除いて既に解放されているのではないのか、そういった風に。
「敵の裏をかく、そんな案に乗るか?」
突然エイジがそう提案をしてきた。その意味がわからないといった風に顔に出した晴子に対し、エイジはサバイバルゲームでの勝ちパターンを説明し始めた。時々自分が使う戦法なのだが、チームが自分1人だけになった時に時々使う戦法があった。それは残り時間を計算し、敵軍のアジト付近に潜伏する、そういうものだった。相手が3人でこちらがエイジ1人の際、敵のアジト近くに潜伏して時間を待つ。サバイバルゲームは制限時間内に生き残った人間が多い方が勝ちになる。つまりエイジ1人に対して敵は3人いる時点で勝利は決まったようなものだ。そんな余裕はアジトに戻って時間を待つ、そういう感じになることが多い。そこでアジトにもどって油断をしている敵を急襲して全滅させるのがエイジの戦法だった。だが今のこの戦いはそういう感じではない。あくまで敵の裏をかく、そういったものだった。わざと本部付近に潜伏し、敵の動きを待つ。もしもそこに現れた場合はこちらの行動が筒抜けである可能性が高く、そうでなかった場合は逃げ切れる可能性は高い。敵もまたわざわざ本部の近くにいるとは思わないはずだ。だがそれは運営側があくまで公正な動きを見せていた場合に限る。そうでないのならば、それは窮地に陥ることに繋がるのだ。だからこれは賭けである。それも命を賭けた大きな賭けだ。
「やろうよ」
「リスクも高いぞ?」
「それでも、信じる」
エイジを信じる、本気の目でそう言った晴子にエイジも頷いた。だいたいの地図は頭の中にある。本部のある建物まではここから2時間もかからないはずだ。とすれば、そこで2時間ほど潜伏すればいいことになる。敵を迎撃するために隠れることは逃げることではない。エイジはそう判断して島の中央に向かった。晴子もまた黙ったまま歩く。完全に日が昇ったためにくっきりとした影を落とす中、2人は黙々と島の中心部に向けて森の中を進むのだった。
*
指揮所では富岡が持っている以外の端末の接続を切り、富岡のレーダー範囲を広げる処置を施した。これは残りが4時間を超えてから行ういつもの処置でしかない。成金の介入というイレギュラーがあったものの、今は平常どおりの運行に戻っていた。そう、成金の介入はもうない。そう思うだけで指揮官の心は平穏を取り戻していた。これまでのゲームでも成金の介入は時々あった。その分、大金ももらっていたが、運営を任されている以上、変な動きは不正を調査されて自分も抹殺されかねない。成金の介入は自分の賭けたペアをなるべく最後まで残らせることなどが多かったが、今回のように勝たせろというのは初めてのことだった。おそらくは響のせいだろうとは思っていたが、その響が不正を暴くために動いていたとは思わなかった。トレードマークのあごひげをさすりつつ、自分もまた処分されるのではないかという恐怖心もある中、ただ平常どおりにゲームを進めることに集中するのだった。
*
最初に立った丘に伏せていた。ここから壁に囲まれた建物がよく見える上に今いる丘に近づく者すら確認できるからだ。だが、今はその近づく者すらいない。あとわずかに迫った終了時間を待ちつつ、エイジは痛む胸の傷と戦っていた。化膿はしていないと思う。理恵に処置をしてもらったこともあって少しはましになっていると思うからだ。だがここへきて疲労と緊張感からか、その痛みは増しつつ再び熱も帯びてきていた。ただ左目の傷はまだましで、痛みも随分と減っている。息も荒くなってきたエイジだが、それを晴子に悟らせまいとなんとか平静を装う。そんなエイジの異変に少なからず気づきつつ、晴子もまた何も言わないでいた。今、エイジを気遣うことは油断に繋がる。とにかく今は2人で丘の半分ずつをカバーしつつ周囲を警戒しているのだ、あと少しの我慢だと自分に言い聞かせた。あと少しですべてが終わる、そうなれば家に帰れるし普通の生活が待っている。エイジが自分に会いに来てデートをする、そういう時間が待っているのだから。だが、その考えが見事に砕け散る。
「おいでなすった」
静かにそう言い、エイジは晴子の手を引いて本部の建物の方へと駆ける。丘の上にその姿を見た富岡もまたマスクの下の表情を笑みに変えてその後を追った。レーダーの範囲が広がったおかげで本部近くに2人がいることがわかったが、まさかこうも上手くいくとは思わなかった。相手の心理を読み取り、一か八かでここへ来たのが功を奏した。残り時間は16分、まさかの大逆転である。ここで見つからなければもうダメだと思っていたが、殺された2人の怨念が自分を呼んだのかもしれない。そう思いながら2人を追う富岡は腰から銃を抜くとエイジに狙いを定める。そして足元を狙って引き金を引くが、エイジと晴子はギリギリのところで木の陰に隠れて難を逃れた。それでも場所は把握している。富岡もまた森に下り、そして背中の剣を抜いた。
「出て来いよ。2人を殺した腕前、見せてくれ」
挑発するようにそう言うが2人は出てこない。やれやれといった顔をしつつ富岡が腰の銃を抜いた時だった。突然、真横の木からエイジが飛び出してきた。角度的に銃は不利だと舌打ちをしつつ、その銃を手放すと斬りかかってきた刀を剣で迎撃してみせる。火花を散らす刃をすれ違いさせ、2人は素早く間合いを置いた。
「なるほど、2人がやられるわけだ。お前は戦いの何たるかを熟知している」
褒める富岡の言葉も涼しい顔で受け流すエイジの右目がじっと相手を見据えていた。
「いい目だ。片目なのが惜しいがな!」
そう言い、富岡が駆けた。そのまま剣を左から振るい、エイジは死角をカバーしようと顔ごとそっちへ向ける。だが富岡は同時にもう1本の剣を抜いてそれを突き出すようにしてみせた。刀で迎撃したのは左からの剣だけで、やはり視界の範囲が狭いせいか反応が遅れていた。そのため刀は切っ先から三分の一ほどのところで折れてしまい、さらに突き出された剣がエイジの右肩を貫通する。痛みに表情を歪ませながら、それでもエイジは刀を捨てて腰から銃を抜くとそれをためらいなく撃った。しかしそれを予測していた富岡は突き刺した剣を引き抜いてすでに木の陰に隠れていて当たりはしなかった。
「やるなぁ」
それは嫌味でもなく、皮肉でもない。心からの賞賛だった。このゲームが運用された当初から鬼を務めているが、こうまで歯ごたえのある相手はいなかった。富岡は姿勢を低くしながら木の陰から出て走る。銃を構えたそのエイジの手を下から蹴り上げると、衝撃からエイジは銃を離してしまった。そのままエイジも腰の剣を抜くが、一瞬早く富岡の剣がエイジの腹部を刺し貫いた。
「惜しかったな」
「そうだな」
腹部を刺し貫いているその剣を握る富岡の腕を両手で押さえ、エイジもまた相手の動きを封じにかかる。そのエイジの目が自分の後方に向けられていることに気づいた富岡はハッとなってその腕から逃れようと必死になった。
「あぁぁぁぁぁ!」
絶叫しながら木の陰から飛び出し、晴子がマシンガンを構えた。エイジが教えた通りに両手で低めに構えて体ごと目標に対して正面を向く。その構えを見た富岡の背中に冷たいものが走った。
「かまうな!撃て!」
そう叫んだエイジが身を屈めるようにしてみせた。晴子からは富岡の背中でエイジが見えなくなる。
「撃てるものかよ」
敵ごと自分のパートナーを撃つなどありえない。ましてや相手は女子高生だ。それを撃てば敵もろとも味方をも撃つような行為ができるはずもない。3日間一緒に過ごした相手にそんな芸当が出来るはずもないと思っていた。
「撃つさ」
エイジが笑う。その顔を見た富岡は自分に隠れるようにするエイジを見て背筋を凍らせた。こいつが何故2人の鬼を倒せたのかがわかった気がする。そう、こいつは鬼を狩る修羅だ。自分の命を捨てる覚悟がある者は強い。かといってそう簡単に死なないという信念もそこにある。生き残るために最善を尽くす人間は強いことを戦場で知っている富岡にとって、この2人の生きようとする信念は恐怖でしかなかった。そう、その恐怖は本物だ。その証拠に晴子は引き金を引いていた。途端にサブマシンガンが火を噴き、無数の弾丸が富岡の背中に直撃する。晴子は反動を抑えるように手に力を込めつつ固定し、目標を正面に捕らえ続けた。やがて弾を全て撃ちつくした晴子はエイジが言ったように素早くマガジンの交換に入る。
「狙いが正確すぎて助かったぜ」
口から血を吐きつつそう言った富岡がエイジの腹部を蹴りつけた。エイジは吹き飛び、刺さっていた剣が折れる。そのせいで傷口が広がって血が噴出していた。
「三島君!」
叫ぶ晴子がマシンガンを構えるが、すぐ目の前に来た富岡がそれを蹴り上げたたために晴子の手から離れて岩の向こうに消えた。晴子は恐怖に全身を震わせながらもキッと富岡を睨んでいた。それはこの2人が何故ここまで生き残ってこれたのかが分かる顔つきだった。この女子生徒もまた今まで出会ったどの女とも違っている。
「お前はラスト1分で殺してやる」
血で染まった口元を歪ませた富岡はマスクを脱ぐとそう言い、晴子を無視して起き上がろうとしているエイジの方へ移動する。放置していても20メートル以上は離れられないためにあえてそうしたのだ。晴子はマシンガンの飛ばされた方を見やるが、どうやってもエイジから20メートル以上の位置にあって取りに行く事は不可能だ。かといって自分にはもう武器がない。思考も麻痺する中、富岡がエイジに迫るのを見ることしかできない自分を歯がゆんだ。
「ベストがなけりゃ、死んでたよ」
そう、背中に背負った剣の鞘やナイフのおかげで致命傷は避けられた。それでも深い傷を負ったが動けないわけではない。強化された繊維を使ったベストや服、何より狙いが正確すぎたことが逆に幸運だった。残りは10分ほどになり、なんとか立ち上がったエイジを見た富岡が笑みを浮かべた。
「お前らは強かったよ。過去生き残ったことがあるのは2ペアだけだったが、皆、時間切れで逃げ延びただけだ。そんな連中よりもお前らは強かった。ただ、運がなかったな」
もう武器もなく、立ち上がっただけのエイジは肩で息をしつつ右手で腹部の傷を押さえる。右肩と胸の傷の出血も酷く、顔の半分もまた血に染まっていた。半身を真紅に染めながら、それでも右目の光は消えていない。それが気に入らない富岡が腰からナイフを取り出した。失血死が目の前に迫った男の目ではない、それがどこか不気味だ。だが、勝利は目の前にある。
「さくっと一突きだ。それで終わりだよ」
そう言い、エイジの前に立った富岡はナイフを振り上げてさっき剣で刺した右肩にナイフを突き立てた。エイジは唸るような声を上げつつもその痛みに耐え、崩れ落ちそうな膝を必死で堪えている。
「悪い、わざと間違えた」
それはエイジにもわかっていた。ナイフの軌道をしっかりと目で追っていたからだ。そんなエイジを見つつ、あざ笑う富岡がナイフを抜きかけた時だった。
「そうやって遊んだ自分を呪え」
そう言い、エイジはニヤリと笑って左拳を富岡の右頚動脈部分に横から叩き付けた。
「がうぁ・・・」
途端に声にならない声が上がった。エイジの左手が血に染まり、そしてダラダラと流れるその血が富岡の上半身を染めていく。富岡は突き刺していたナイフの柄を離してエイジの左手を振りほどこうとそこに手を添える。だがエイジは力を込めてその左拳に持ったものを富岡の首の奥へと突き進めるようにしてみせた。血が噴出していたのはエイジの左手だけではなかったのだ。そう、富岡の頚動脈が断たれたために流れた血でもあったのだ。富岡は残る力を振り絞ってエイジを蹴りつけ、エイジは地面を転がる。その顔に浮かんでいたのは満足そうな笑みだった。富岡が首から生えているその異物に触れれば、それが折れた刀の先だと分かる。さっき折れたそれを拾い、起死回生の一撃に変えたのだ。そう、エイジはこれを待っていた。運が良かったと思う。富岡が遊ばないで心臓か脳天をを突き刺していれば、この反撃はなかったのだから。最後の最後で鬼に見つかったが、運は自分に味方したのだ。富岡は突き刺さった刀を抜いた。途端に勢い良く血が噴出し、富岡はくるくると回りながら拳銃を構えると上半身を起こしていたエイジ目掛けてそれを撃つ。でたらめに撃ちながらも1発の弾がエイジの右胸を撃ち抜いた。エイジは血を吐き、そのまま仰向けに倒れて動かなくなった。
「三島君!」
悲壮な叫びをしつつ晴子が駆ける。そんな晴子に銃口を向けた富岡だったが、彼の意識はそこで飛んでいた。倒れこみ、その場に血溜まりを作って動かなくなった。彼は死んでいた。エイジはこの瞬間、3人の鬼を全て倒した伝説を打ち立てたのだ。そしてそれは晴子の生存を意味していた。そう、エイジはこうなった場合、死んでも晴子を守るつもりだった。晴子さえ無傷ならそれでいい、そう思っていた。だからか、空を見上げるようにして倒れているエイジの顔はどこか安らかだ。全身を血に染め、無事な右目は虚空を見ていた。口から血泡を吐きつつ浅い呼吸を繰り返している。
「三島君!しっかりして!」
晴子はエイジの脇に座り込むと腹部と胸に手を当てて止血しようとするが効果はない。座り込んだ足も真っ赤にしつつただエイジの名を呼び続けた。
「こら!奢ってくれるんでしょ?デートするんでしょ?三島エイジ!反応しなさいよ!」
自然と涙がこぼれてくる。泣きじゃくりながら傷口を押さえ、必死に言葉を口にする。だがエイジは何の反応も見せず、虚ろな目から光も失われそうになっていた。
「死ぬなっ!死なないで・・・お願いだから・・・・・私だけ生き残っても仕方ないじゃない!後味悪いじゃない!2人で笑って島を出ようよ!」
泣きじゃくりながら懸命に止血を施そうとする晴子は建物から現れた大勢の人間に気づかない。車両も登場し、晴子はエイジから引き剥がされるようにするとそのまま装甲車のようなものへと連れて行かれる。
「なによあんたら今頃出てきてぇ!三島君を・・・助けなさい!早く・・・・早く・・・お願い・・・」
勝手に自分たちをこんなところに連れてきた連中にお願いをしていた。誰でもいいから彼を助けて欲しかった。そんな晴子が装甲車に乗せられる中、エイジもまた担架のようなものに乗せられていた。晴子を乗せた車はすぐに扉が閉じられ、本部へ向けて動き出す。それでも晴子はただエイジの名を呼び続けた。