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死の島の鬼ごっこ  作者: 夏みかん
第一部 SURVIVE
6/18

2人の関係

大きな熱気の中、その異常事態に気づいた者だけがやや沈黙していた。今はもう真っ暗になったモニター画面だが、ついさっきまでは死闘が映し出されていた。そう、マスクに取り付けられた映像がリアルタイムにその戦いを映してきたのだ。その画面が赤く染まり、今はもう4つに分割されたモニターに13番の男は映っていなかった。逃げる男女、残った最後の1人の鬼からの映像などがそこにある。追っ手がまた1人倒されたが、今は賭けに勝った響たちのことで盛り上がっており、渋い表情をした成金はどす黒く変色したその顔をモニターに向けた状態でその熱気を感じていた。賭けに負けたことよりも響が指名した13番のペアがまたも追っ手を撃破したことがかなりの問題である。現在、生き残っているのは7組、それを鬼1人で24時間以内に全てを片付けられるのかが問題だったが、その最後の1人である百戦錬磨の鬼、富岡が残っていれば大丈夫だろうとは思う。かつて4時間で10ペアを抹殺した実績は大きい。だが、面白くはない。そんな風に思う成金は大勢に囲まれる響を見つつホールを後にした。そのまま通路を進み、右側にある部屋に入った。そこはゲームを管理している部屋であり、いわゆる司令塔だ。島の各部や鬼に取り付けられたカメラからの映像の切り替え、端末の操作などを一手に引き受けている。本来であれば出資者は公正を規すためにここに入ることはできないのだが、特殊なIDカードを持つ成金にすれば自由に出入りも可能だ。いや、自分だけの特権だといってもいい。このゲームを始めて7年だが、もう随分前から金に物を言わせて出入りをしているのだった。指揮を任されているヒゲ面の男が立ち上がり、無数の小型モニターを見つめる成金に近づいてきた。


「どうなっている?」

「南の廃墟に3組います。その近くの茂みに1組、海岸に1組ですか」

「富岡は?」

「すでに廃墟へ向けて移動しています」

「13番は?」

「2番のペアと接触したようです。2組とも廃墟とは正反対の方向ですので、半日は安泰でしょう」


その言葉に成金の表情が曇る。自分が賭けた2番を優勝させようとここへ来たが、もしこのまま2番が13番と行動を共にすれば2番だけを見逃すことは他の出資者たちに不信感を与えかねない。そうなると内部調査が行われて自分の立場は危うくなるのだ。


「富岡に細かいデータを送り続けろ。もちろん他の出資者に気づかれないようにな」

「わかりました」

「それと、13番の男、データはあるか?」

「ありますが、これといった経歴はわかりません。当然ながらランダムに選定していますので」


その言葉に舌打ちをするが、1人目を殺した機敏さ、そしてついさっき2人目を殺した際に見せた落ち着きと強さは何かを感じさせるものがあった。剣を2本も選んでいたことから剣術か何かを会得しているように思えるし、何より瞬時に銃を扱ったのもまた驚きだった。


「何者なんだ?」


そう呟く成金はとにかく2番を逃げ延びさせろと告げ、部屋を出て行った。そんな成金を見つつ冷たい目をした指揮官は指示を出しつつも成金との関係を終わらせる算段を練り始めるのだった。



突然現れた2人と接触したエイジと晴子は、共に近くにある複雑に入り組んだ石で出来た何かの跡地へと来ていた。血まみれのエイジに肩を貸してくれたのは2番のペアの男である里崎健也であった。晴子は地下まであるこの跡地に座り、食料と水を2番のペアの少女である笹村理恵と分けているところだ。エイジは石のベッドに寝転び、手に入れていた救急セットのおかげで傷の消毒や手当てを理恵から受けていた。看護学校を目指している理恵は高校3年生だがすでにかなりの知識を持っており、またその手際もよかった。左顔面にガーゼを当てたエイジは理恵の髪留めのゴムを利用して眼帯状にしており、胸の傷には薬を塗って包帯を巻いていたが、まだ出血は続いている。赤く染まった包帯が痛々しいが、エイジは片目を鋭く光らせながら健也に2人目の男から奪ったレーダーについてのレクチャーをしていた。


「2人も倒したの?」

「うん」


驚く理恵の顔を見ればそれがいかに凄いことかがわかる。健也と理恵は森をさまよっている中で戦闘の音を聞き、身を潜めつつ近づいてきたのだ。そして戦闘終了の直前にエイジの助太刀をしようと健也が動いたが、もう終わった後だった。


「これなら生き残れそうだよ」


にっこり笑う健也に優しく微笑んだ理恵とはまるで恋人同士のような空気を持っている。お互いに信頼し合っている、そんな感じがしていた。そのせいか、晴子の表情は暗い。そう、自分はエイジを信じられなかった。あんな死体を見たせいだが、かといって男子がみんな女の子を襲うと思った自分が情けない。あの時、エイジの指示に従っていれば、エイジはこんな大怪我を負う事はなかったはずだ。少なくとも奇襲をかけられて先手を取れたと思う。運もあってエイジが勝ったが、この怪我ではもう同じような戦いを繰り広げることはおろか逃げることすら難しくなったのだから。


「しばらくはここにいよう、そうした方がいい」

「敵はあと1人だが、残りが何組かわからない以上、こういった場所は危険だ」


健也の意見にそう言い、エイジは身を起こす。そんなエイジに寝ておくよう指示する理恵だが、エイジの傷が深いことを理解しつつこれ以上どうしようもないことに歯噛みした。人を助けたくて看護師を目指しながら、エイジの傷を塞ぐことはできない。胸も顔も縫うしかないのだが、今の理恵には道具もなければそこまでの知識も技術もないのだから。患部が熱を帯びており、エイジ自体にも熱があるかもしれない。それでもここに留まるのは危険だと主張するエイジに理恵と健也は顔を見合わせた。


「残るのは1人だ、4人でかかれば勝てるんじゃないか?」


健也がそう言い、理恵も頷く。晴子も少し表情を和らげたが、依然としてエイジは思いつめた表情をしたままだった。


「多分、2人を殺したことでマークされたはずだ。最後の1人はもう最初から殺す気で来るだろう。撃てる位置から撃ち、確実に殺しに来るはずだ」

「遊びはない、ってことか?」

「俺ならそうする」


エイジはそう言い、右目だけを光らせた。かといって4人なら奇襲をかけるなり対応策も広がる。そう考える健也は自分が柔道2段の腕前だと明かし、接近さえすればどうにかなると告げた。そんな健也に尊敬の眼差しを向ける理恵だったが、エイジは小さなため息をつく。


「相手は銃を所持している上にその扱いはプロ。しかも多分元兵士だろう」

「なんでそこまでわかる?」

「でなきゃ、ああまで簡単に人は殺せない」


その言葉に黙り込み、それでも健司はにこやかな顔でエイジを見つめた。


「けど、勝機はある」

「根拠のない自信は身を滅ぼす。お前、人を殺せるのか?」

「気絶させておけばいいさ」

「甘いんだよ」

「そうかな?」

「でも、気絶させて縛っておけばいいよね?」


理恵もそう言うが、何故か晴子はそれに対して素直に頷けなかった。本当にそんなことで生き延びることが出来るのだろうか。相手は殺しのプロ、エイジの言うように甘い考えのようにしか思えない。


「なら、好きにしろよ。俺たちは別行動を取る」

「まぁ、いいけど・・・もう少し休んでからにしろよ?」


その言葉に頷いた晴子がエイジに近づく。エイジはのっそりと寝そべると石でできた天井を見上げた。冷たい石の感触が服越しにも感じられる。火照った体が落ち着くような感じがしていた。


「しかしレーダーとは・・・こっちに分が悪いなぁ」


エイジと同じようなことを言いつつ端末を触る健也はその場に座り込んでそれをいじり続けた。そんな健也を見つつ、理恵は晴子を誘って今隠れている地下の広間のような空間の隅っこに移動した。そこで壁を背にして並んで座る。


「彼って、頼りになるの?」


整った顔が自分を見ていた。モデルのような美しい顔には汚れがないほどに、この島で恐怖を感じなかったのか清潔感に溢れていた。自分も可愛いという自負もあったが、今の疲労感と土の汚れもある自分とは大違いだと思う晴子だが、それでも冷静に頷いていた。


「彼がいなかったら、死んでたから」


呟くようにそう言うが、信じられなかった自分もいることを思い出して顔を伏せる。何らかの事情を察した理恵だったが、何も言わずに健也を見つめた。


「里崎君も、頼りになるよ。水や食料を分けてくれたり、励ましてくれたり」


晴子は今の言葉の中に恋愛感情のようなものを感じ取った。自分たちにはないその感情が羨ましくもあり、また邪魔だとも思う。その感情は錯覚なんだと、そんな風に思う。こういう状況だから頼れる人に好意を抱くのだと、そう思っていた。


「里崎さんのこと、信じてるんだ?」

「うん」


満面の笑みでそう言う理恵を眩しく感じた。だが、どこか嫌悪感も抱いてしまう。自分がエイジに対して持っているのは罪悪感だけだ。自分のせいで大怪我をしたという、その感情しかない。恋愛感情もなく、興味もない。信頼はあれど、それは自分が生き残るための最低限のものしかなかった。


「生きて島を出たら、再会する。付き合うの。私は長野で彼は静岡だし、まぁ、近いっちゃ近いしね」

「そうなんだ?」

「あなたは?どこから?」

「千葉」

「彼は?」

「知らない」

「聞いてないんだ?」

「必要ないから」

「・・・そう」


晴子の素っ気無い言葉にそれ以上何も言う気になれず、2人はしばらく黙ったままだったが、ほぼ同時に船を漕ぎはじめる。そんな2人を見て微笑む健也に対し、寝転んだままのエイジはこの後どう動くかを考えた。まだあと20時間もある。残る敵は1人だけだが、2人を殺した自分はブラックリストに載ったとみてまず間違いないだろう。となれば、運営側も本気で自分を抹殺に来るはずだ。いや、それとも純粋にゲームを楽しむならば放置か、とも思う。しかし1億もの大金をそれこそ生き残った数が多い全員に送るとは考えにくい。ならば数を減らしにくるだろうし、そうなれば真っ先に狙われるのは要注意人物である自分だ。そう考えるとやはり身の危険は感じられた。あと1時間ほどでここを出よう、そう考えるエイジはじっと天井を見据えていた。


「彼女も可愛いじゃないか」


不意にそう話しかけられ、エイジは目だけを健也に向けた。その健也は頭をぶつけ合うようにして眠っている2人へと目を向けていた。


「そうか?」

「ああ。理恵が美人なら、彼女は可愛い系だな。どっちも好みだよ」


その顔はエイジからは見えないが、いやらしい顔をしているのはわかる。こいつもその系かと思うエイジは天井へと視線を戻した。


「お互い、いいパートナーに恵まれたな」

「かもな」


素っ気無い返事に健也は冷たい目をエイジに向ける。その視線を感じつつも天井を向いたままのエイジはこの健也と組むという選択肢は完全になくなったと悟る。こういう考えをこの状況で持つなどありえない。それは隙につながるだろう。


「今夜はもっといい隠れ場所で彼女とヤる。最後の夜は燃えるんだ・・・我慢した甲斐がある」

「そうか」


健也にすればエイジよりも優位に立とうとするための言葉だったが、エイジにしてみれば戯言にすぎない。下衆の考えだ。だから何も言わずにただ天井を見つめていた。


「なんなら連れてってやるぞ。お前も楽しめよ。残りは1人、絶対に見つからないって。動いたほうがヤバイ」

「俺は俺のやり方で動く」

「ま、勝手にしな。その傷じゃ、もう満足に戦えないだろうしさ。彼女もかわいそうになぁ」


理恵の目がないと本性を表すのか、健也は出会ったときとは全く違う性格になっていた。あえて紳士ぶっていたのは分かるが、エイジは嫌悪感も抱かず、ただそっと右目を閉じた。


「彼女は守る、死んでもな」


そのエイジの言葉に健也がそっちを見るが、エイジは目を閉じている。健也は卑しく笑い、それからレーダーの端末いじりに戻るのだった。

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