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死の島の鬼ごっこ  作者: 夏みかん
第一部 SURVIVE
2/18

ゲーム開始

正面にあるのは20ブロックに分割された巨大なモニターだった。まるで小さな映画館のような状態で席もあり、そのゆったりしたシートの1つ1つに小型のモニターまでも設置されていた。ふんわりした感触の椅子に腰掛けているのは皆スーツを着た男性ばかりだった。40代から60代まで幅広い男性が席に着き、テーブル脇にワインやビールを置いて正面のモニターを見つつなにやら楽しそうに話をしていた。そんな中、長めの前髪をした精悍な紳士といった風貌の男が足を組みながら森の中を逃げる男女や川べりに座り込むペアを映した画面を見据えていた。それらは島のあちこちに隠されるようにして設置されたカメラからのライブ映像だ。


「さて皆さん、本日のゲームの賭け金を提示願います」


さっき晴子たちにゲームの説明をしていた仮面の男がモニターの前に現れると高らかにそう告げる。すると20分割された画面に20人の男の顔が表示され、その下に番号と金額が表示されていった。それらは今ここにいる20人のスーツの男たちの顔だ。大半がゼロと数千万を表示する中、一番右上の太った男の顔の下に2番に1億という数字が表示されたためにどよめきが巻き起こった。


「2番のペアですか・・・確かに選んだ武器も妥当だし、男も強そうだった。女も顔はいいしねぇ」


紳士な男の横に座る皺とほくろの多いがりがりの男がそう呻き、自分もまた目の前のモニターに指で数値を入れていく。すると左端のモニターにゼロと5千万が提示された。


「ま、今回も誰もいないでしょう。過去2組いましたが、まぁ、あれも時間切れに救われたみたいなものだし」


そう言う男の横で、紳士な顔つきの男が綺麗な指さばきで数値を入力する。すると真ん中に表示されている自分の顔の下に表示された数字は13と10億だ。大きなどよめきが巻き起こる中、全員が13番のペアの情報を開示させた。ただの男女であり、なんの武術経験もない感じが出ていた。それに選んだ武器も剣が2本にサブマシンガンと予備のマガジン、そしてただの銃だ。ありふれた装備の男女にこの破格の賭け金は異常だと思う。だが紳士な男は薄い笑みを浮かべているだけだ。ガリガリの男も驚く中、やたらと太った男が下の方で立ち上がり、紳士な男性へと体を向けた。


ひびきさん!あんたヤケでも起こしたかね?10億の損失は大きいですぞ?」


ぶよぶよと顔の肉を揺らしながらそう言う男は太った体を大きく揺らしながら大笑いをする。しかし響と呼ばれた紳士な男は小さく微笑むと太った男を侮蔑の目つきで見やった。


成金なるかねさんも、2番のペアとは見る目がない」

「あんたほどじゃないがね」

「まぁ、楽しみましょう。最近は面白味にかけていましたからね」

「それには同意するよ」


成金はニヤニヤとしながら席につくとますますその嫌な笑みを濃くする。


「確かにここ4回ほどは呆気なく終わったがね・・・だからといってコレか?」


心底バカにしたようにそう呟くとほとんどがゼロと数千万を表示させた画面を見つめる。つまり、ほとんどの者が全員死亡に賭けたということだ。成金は響の画面を見て笑みを消した。


「2番の男は柔道家だ、度胸もある・・・女もまた役に立つスキルを持っているんだ。裏の情報を知る私に勝てるのかねぇ」


ほくそ笑んだ成金はグラスを持つと中のワインを一気に飲み干した。ここにいる20人の中で、プレイヤーたちの素性を知るのは自分だけだ。裏取引をして多額の金を使ったが、それでも回収できる見込みは強い。それにこのゲームの出資者の中でも自分は一番の古株だ。もう18回目を迎えるこのゲームの中、6回前から参加した響よりも見る目はあるという自負もあった。


「あと20分か・・・待ち遠しいねぇ」


成金はそう呟くと近くをうろうろしているボーイを呼び、ワインのおかわりとステーキをオーダーする。そんな成金を上の方から眺めつつ、響は苦笑を漏らしてから画面へと目を向けるのだった。



丘の上に出た晴子はそこからの眺めを見て戸惑った顔をしていた。疲れもあるが、それが吹き飛ぶほどだ。そこから見える景色は島の半分程度が見渡せた。壁に囲まれた建物に森や川もある。そして海岸線の向こうは何もない海だ。そう、本当に何もない島だった。右側に大きな岩山があるのでその向こうは見えないが、結構な広さを持っていると思う。そんな晴子をよそにエイジはリュックの中身を確認していた。ペットボトルの水にカロリーメイト、そしてウィダーインゼリー。食料の他は小さな懐中電灯と包帯が1つだけ入っているだけでそれ以外は何もなかった。


「地図もなしか」

「で、こんな見晴らしのいい場所に来てどうするわけ?」


座り込んでいるその前に仁王立ちした晴子を見上げつつ、エイジは岩山へと顔をめぐらせる。それから立ち上がり、リュックを背負った。


「岩山は危険だ。逃げられる可能性も高いが難易度も高い。森は最終的な逃げ場所だ。川べりも危険。つまり、どこも危険なわけだ」

「ここよりましだと思うけど?」

「ここは見晴らしがいいからな。鬼が建物から出てくるのも見える。敵の動きを見てからこっちも動くさ。夕方になれば優位度は五分になるはずだし」


そう言われた晴子はさっき自分たちがいた建物を見下ろした。確かにあそこから鬼が出てくるのであれば、ここからはそれが良く見える。言い換えれば向こうからも見えるわけだが。


「動きを見たらすぐに行動を起こす。ただセオリー通りに動く」


エイジはそう言うと地形を確認するようにしてみせた。晴子は疲れもあって座り込み、リュックから水を取り出す。


「水は大事にしろ・・・始まる前から飲むな」


その言葉にカチンと来た晴子は対抗心から水をリュックにしまう。いちいちムカつく言い方だと思う反面、それは正論だとも思えた。


「そういや、どれぐらい逃げるのかとか説明なかったね。3日って言ってたけど時計もないしさ」

「それも含めてこれから、だろうな」

「なんで?」

「あいつは俺たちを逃がしたかったようだしな」

「はぁ?」


逃がしたいとはどういうことか。この島から、というわけではないことぐらいは分かる。


「心理戦は始まってたんだよ」


そう言い、エイジは説明を始めた。こちらは40人で相手はたった3人だ。しかもこちらにも武器はもらえる。それならば徒党を組めば多少の犠牲はあれど3人を殺して勝利を掴むことは造作もない。だが、あの男はやたら逃げればいいと言っていた。つまり、逃げれば1億だよという風に刷り込んだのだ。戦うという選択肢を与えないようにするために。現に不良と思しき連中も逃げることしか考えてなかった。そう、極限の精神状態の中、逃げ切れば1億ももらえるのだ、そういう認識しかなくなったからだ。晴子もまたそうだった。戦うという考えは微塵もなかった。


「生き残るには運もいる。だが、一番確実なのは鬼を倒すこと」

「そっか・・・それでさっさと建物から出して遠くに逃がすようにしたのか」

「ルール説明は開始直前だろう」

「どうやって説明すんの?」

「この島は虫も動物もいないと言った。つまり人工的に整理された島だということだ。人工島なのか、薬剤によって処理したのか知らんが・・・だとしたら川の水も飲めないだろうし、食い物は他にない。そんな島にスピーカーなんかを仕掛けるのは簡単だろう」


自分たちに与えられた食料はごくわずかだ。つまり、逃げることはおろか生きることさえも困難になる。その上でこのブレスレットの存在。当たり前のことだが逃げる側にかなり不利だと思う。


「俺たちを生かす気はないんだろう」

「・・・じゃ、何の目的で?」

「さぁなぁ・・・金持ちの道楽か、それこそゲームか」


エイジはそう言うとその場に寝転がった。時計も携帯も奪われたようで時間もわからない。だが、もうそろそろ最後のペアが出て2時間が経つ頃だ。日も少し傾いてきているためにそう思う。


「そういえば、私の鞄とか、ない!」


今更そこに気づいた晴子を無視してエイジは目を閉じた。今後の動きをシミュレーションしつつどう戦うかも考える。サバイバルゲームではいつも生き残った。天性の勘と行動力、そして運をもって。だが、今回は本物の生死を賭けた戦いだ。しかも晴子というお荷物まで背負い込んでいる。エイジは目を開いてブツブツ文句を言っている晴子を見やった。横顔でも美人と分かる。エイジはそんな晴子から目を逸らし、再度目を閉じた。



突然、島中に鳴り響くサイレンの音に全員が驚き、そして緊張をした。けたたましく鳴り響くサイレンがようやく終わると、今度はさっきの男と分かる声が響き渡った。エイジもまた身を起こし、晴子は恐怖で身を固まらせた。


「みなさーん、いよいよゲーム開始です!準備はいいですかぁ?ではその前にルール説明しまーす!」


男はさっきと変わらぬ陽気な声でそう言い、逆に島には緊張が走った。晴子はエイジの言った通りになったためにエイジを見るが、そのエイジはいそいそと寝転び始めている。うつぶせになったエイジは晴子にもそれを促し、恐怖心もあった晴子は言われた通りにエイジに寄り添う形で地面に伏せた。


「期間は3日後の正午まで。サイレンでお知らせします!その時点で生き残った人が賞金を手に入れられますよ!もし、片方が死んじゃった場合、移動するときも死体を連れて逃げてください。もしくは腕を切り取ってブレスレットを持って逃げるか。そうしないとドカーンなので注意してくださーい!」

「確実に2人とも殺す気でよく言うぜ」


吐き捨てるようにそう言ったエイジの言葉に震える晴子は恐怖心で呼吸すら満足にできないほどだった。どうしてこうも冷静にいられるのか不思議でならない。もしかしたらこの殺人ゲームを仕込んだ連中と知り合いなのかとも思う晴子だったが、今は放送に注意を向けていた。


「現在、1日目、午後3時です。では開始しまーす!逃げ延びれば1億、捕まれば死。死と恐怖の鬼ごっこ、開始します!」


その瞬間にまたもサイレンが鳴り響いた。その音がさらなる恐怖心を植えつけて晴子は逃げ出したい衝動に駆られてしまった。これもまた相手の心理攻撃だと理解しつつもどうしようもなく怖い。


「さて・・・出て来い」


静かにそう言うエイジを見て、晴子もまたエイジの見ている建物へと顔を向けた。すると自分たちが出てきた場所から3人の黒い人間が姿を現す。体をビクつかせる晴子は顔を伏せて見つからないようにするが、エイジは顔を上げて3人の動向を注意深く見つめていた。すると3人は3方向に分かれて動き出す。正面の森、左側の川沿い方面、そして岩山のある方だ。やはりこっちには来なかったかと思う反面、慣れているとも思った。


「予想通りすぎて怖いな」


エイジはそう呟くと丘を降りるぞと晴子に告げた。敵が向かったのは主に島の左側だ。この丘を下って海岸線を迂回すれば島の右側に出られる。少なくとも1日は敵から逃げることができるだろう。エイジは震える晴子を立たせながら丘を下った。晴子はもう何も言う気もなく、ただエイジにくっつくようにして歩くだけだった。



死んだような目をした女が自分の下で揺れている。金髪の男は原形を失ったお下げの髪を掴みつつただ腰を振っていた。男女共に下半身はむき出しで、ただ性行為に没頭している状態だった。荒い息遣いが周囲にこだまする中、突然その息遣いが止まる。離れた場所で落ち葉を踏む音を聞いた男はそのままの状態で銃を握った。女は涙でぐちゃぐちゃになった顔をしたまま虚空を見つめているだけだった。少女はゲームの開始前に大木の陰に隠れた途端にペアとなった男に襲われていた。抵抗もしたが体格の差で押さえ込まれ、そして今に至っているのだ。ただ普通に過ごしていただけだ。誰に恨まれることなく生き、多くの友達もいた。好きな人もいたのに、その普通の生活は一瞬で崩れ去った。自分が何故こんなところに連れてこられたのかもわからない。こんな殺人ゲームに無理矢理参加させられ、恐怖の中で逃げていた。それなのに生きるためにペアを組んだ男に犯されている。これが地獄と言わずに何を地獄と言うのか。夢であれば覚めて欲しい。悪夢はもう終わって欲しい。そう願う少女の目の前で男の首が飛んだ。噴水のごとく舞い上がる血しぶきを全身に浴びながらも何の感情も沸きあがってこない。ただざまあみろと思うだけ。そして早くその薄汚い体をどけろと願う。


「災難だったな」


くぐもった男の声を聞いたのが最期の言葉だった。犯されたことが災難なのか、島に連れて来られたことが災難なのか理解できないままの少女の胸を一突きにした剣が心臓を破壊する。だが、血泡を噴く少女の顔に浮かんだのは笑みだった。少女の胸を刺し貫いたマスクの下の顔はその表情を見て何を思ったのか。血のついた剣を男の制服で拭き取ると、マスクの男は少女の死体の上に覆いかぶさる首のない上半身を見ずにその場を立ち去った。



銃声がこだまする。その音に敏感に反応する晴子をよそに、夕焼けに染まった海を横に見つつ無言で歩くのはエイジだ。


「遠い」


銃声のした場所を言ったのか、エイジはそうとだけ言いながら歩みを止めなかった。一体どこへ向かっているのかもわからず、晴子はただ並んで歩いている状態だった。のども渇いたが水には手をつけていない。エイジはそんな晴子を見ずに岩でゴツゴツした波打ち際へと向かう。


「ここを登って迂回する。海に落ちるなよ」


季節は5月、海に入るにはまだ寒すぎる。ここは無人島だが、さほど暑さは感じないために南ではないと思えた。エイジは波打ち際ギリギリの場所からその崖ともいえる場所を進み始める。ベルトに日本刀を挿し、片手に剣を持った状態で器用に岩を掴んで進んでいった。晴子はマシンガンをリュックに入れて両手を自由にしながら進んでいった。時々波しぶきが顔にかかるなどするが、今は逃げることが先決である。とにかく3日間逃げ延びない限り命はないのだから。そうして岩場の中ほどまで来たところでエイジが上を見上げた。どうやら少し上に窪みがあるようだ。そこまで登っていくと体を休められそうな入り組んだ岩の洞窟が出来ていた。


「鬼がここを知っていたらアウト、か」


呟きながら必死で上がってくる晴子を見たエイジはそのまま奥に進む。そうすればゆったり座ることができる形になった岩の洞窟にたどり着いた。晴子に手を貸してそこに身を潜め、荷物を置く。ぜえぜえと息をつく晴子にここで休憩を取ると言ったエイジはペットボトルを取り出すと少しだけ水分を補給した。それを見た晴子もまた水を飲むが三分の一も飲んでしまい、自己嫌悪に陥った。少しのつもりだったが、どうしようもない喉の渇きに負けたのだ。


「5時ってところか・・・」


薄暗くなった空を見てそう言ったエイジはヘバっている晴子を見つつ今夜をどうするかを悩んだ。敵の武装はマスクをしていたことから暗視カメラを装備している可能性もある。つまりは夜の行動も可能だということだ。こちらの人数に対して鬼の数は3人、そういった装備でさえもハンデにはちょうどいいかもしれないと思うエイジは下手に動けないと判断していた。


「1時間程度したらここを出る。今晩休む場所を確保しないとな」

「ここでいいじゃん」


緊張と疲労でクタクタな晴子はそう言ったが、エイジはこの場所で夜を迎えることは危険だと判断していた。まず、場所的に敵の察知が遅れる。しかも入り口は一箇所で進入されれば逃げ場はない。よしんば逃げられたとしても崖に海となればやられるのがオチだ。それに海風に体温が奪われてしまう。死ぬまでは至らないが、体の動きは格段に落ちてしまうだろう。


「水・・・・あと3日ももたないよぉ」

「途中で死体でもあれば、望みはあるかもな」


その冷たい言葉に息を飲んだ。青い顔をした晴子を横目に、エイジはごつごつした岩を背にもたれるようにしてみせた。


「それって・・・」

「死んだやつらの荷物が残っていれば手に入るってことだ」

「そんな・・・」

「お前、誰も死なずに済むと思ってんのか?」


その冷酷な言葉に怒りさえ湧いてきていた。理不尽に連れて来られた者ばかりでこんな殺人ゲームをさせられているのだ、全員が死なずに生き残る、そう思うのは普通のことだと思う。そんな晴子の視線を無視し、エイジはそっと目を閉じた。


「あのな、このゲーム、最初っから俺たちが生き残る確率なんかないんだよ」


頭の後ろに両腕を回したエイジは少しくつろぐような体勢を取った。それでも注意は常に入り口へと向いていたが、晴子にしてみればそれはまったりしているようにしか見えない。いや、そんな態度もだが、今の言葉も気に入らなかった。言葉と態度が正反対なために余計にそれが面白くない。


「なんでよ?武器までくれたのよ?」

「ああ、鬼に武器が行き渡るようにな」

「はぁ?」


思わず素っ頓狂な声を上げたが、意味がわからない。そんな晴子を見ることなく、エイジは続きを口にした。


「武器を持った相手を鬼が殺す。すると残った武器は鬼の物。弾も銃も、血のりで斬れなくなった剣も」

「でも、反撃されたら・・・」

「相手は殺しのプロ。こっちは平和ボケした高校生。ためらいなく人を殺せる連中と一緒にできるか?銃も撃ったことなく、人を刺したことさえない人間が殺しのプロに勝てる?」


晴子は言葉を失った。だが、言われてみればそうだ。殺されると分かっていても、頭で理解していてもためらってしまうかもしれない。だが、相手は何のためらいもなく殺しに来るのだ。


「島の大きさや地形から俺たちがどう逃げるかも把握してるさ。過去の統計から行けば、俺でも分かる。だから3人で40人を殺せる。いや、正確には20人でいい」

「どうして?」

「半分は女だ。殺す手間もくそもない」


それは女性に対する偏見だとエイジを睨むが、エイジはそんな晴子目掛けて突然飛び掛った。晴子は体を硬直させ、恐怖で動けない。馬乗りになったエイジが怖かった。声も出せず、思考も働かないでただ震えることしか出来ないのだ。


「こういうこと」


そう言い、エイジは晴子から離れた。そのまま元の場所に戻ると目を閉じる。


「恐怖で体が動かない相手は物と同じ。男さえ殺せば、その恐怖で女は動けなくなる。動けたとしても逃げるだけ。恐怖に駆られて逃げて、20メートル離れてドカンさ」


実に冷静にそう言うエイジに恐怖が芽生える。人の死をそんな風に表現できる人間だとは思わなかった。晴子はじりじりとお尻でエイジから離れるように動き、入り口のすぐ横に張り付くようにして座った。そんな晴子を見つつ、エイジは小さくため息のようなものをついた。


「お前はパニックになるなよ?なっても、すぐに冷静になれ。死を意識するな、生を意識しろ」

「なによ偉そうに・・・たかがサバイバルゲームしてただけのくせして」

「一度、とんでもないやつらとゲームしたことがある。っても、このゲームほどじゃないけどな」


そう言い、エイジは壁から離れた。また襲ってくるのではないかと警戒した晴子をよそに、エイジは少し深刻そうな顔をして地面を見つめていた。


「そいつらの銃は改造されてて、プラスチックの弾ですら人間を撃ちぬけるほどに威力を増してた。そんなやつらとは知らずにゲームをして2人が重傷を負った。死ななかったのが不思議なほどだったよ。霊が出るっていう廃病院でのことだったけど、霊よりそいつらの方が怖かった。一度本気で殺し合いをしたかった、あいつらはヘラヘラ笑ってそう言った」


エイジはそう言い、鼻でため息をつく。そんなエイジを見た晴子は警戒を緩め、困った顔をするしかなかった。


「その時に得た経験だ。死を覚悟した際に人間はパニックになる。けど、生きたいと思えば思考も働くし体も反応するんだ。だから俺はあいつらに勝った」


実体験は言葉に重みがあった。エイジは数十回とゲームをし、全てを生き残ってる。そうすることで命を実感している変人だと自分でも思うが、だらといって今回のゲームは別だ。生き残ることすら奇跡に近い。


「もし鬼と遭遇したら、俺は戦う。お前はどこかに身を潜めるか、援護しろ」

「ど、どうやって?」

「あのマシンガンは腕さえ固定すれば狙いは付けやすい。教えてやる」


そう言ったエイジが立ち上がり、晴子は身を固まらせた。そこでハッとなる。これがダメなんだと気づいたのだ。意を決して立ち上がるとリュックを下ろしてマシンガンを取り出した。それを見たエイジは微笑み、そして晴子の背後に立った。銃を構えさせ、安全装置の解除やマガジンの交換方法を伝授していく。そして撃ち方を教えたエイジに晴子は今疑問に思ったことを質問してみた。


「でもなんでそんなに銃に詳しいわけ?サバイバルゲームで使うのってモデルガンとかでしょ?」


その言葉に晴子から離れたエイジが苦笑を漏らし、困った顔をした。


「俺、銃マニア・・・だからそういうの調べるの好きなんだよ」


初めて見せた笑顔は子供のような無邪気なものだった。呆れた顔をした晴子だったが、今はそのオタクな知識が役に立っている。それはありがいことだ。


「野蛮なオタクね」


その言葉に苦笑し、エイジは睨むようにして微笑む晴子に笑みを返すのだった。

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