死の縁にて
第二部開始です。
恋人を殺された男の復讐劇!
死の島に乗り込み、鬼を殺すことこそがその復讐!
果たして、男の復讐は成就されるのか!
雨が顔に、全身に当たる。ここまで走り続けたがもう全てが限界だった。体力的にも精神的にも、もう余力は無い。逃げに逃げ、走りに走った。生き抜くため、生きて家に帰るためにただひたすら逃げた。だが、もうそれも叶わない。追っ手は2人、それも武器を所持している。自分の武器は既に失われており、弾が切れた銃はただの荷物にすぎない。息をするのも辛いほど疲弊した体力の回復も望めず、松島咲夜は愛する人の顔を思い浮かべた。イケメンとは言いがたいが、それでも咲夜にとっては一番のイケメンだった。不器用ながらも愛情を表現し、そしていつも自分を優しく包んでくれたその人に会うことはもうないだろう。ひんやりとする地面の感触を背中で感じる咲夜は右側へと顔を向けた。少し先に倒れている制服姿の男がボロ雑巾のごとく転がっており、微動だにせず雨に打たれていた。雨に濡れたその男の真下には赤い水溜りが出来上がっていた。それは自分も同じかと薄く笑う咲夜は感触のなくなった左足を動かそうとするも、それが動く気配が無い。痛みも何も感じないその違和感すらなく、咲夜は茂みを掻き分けてやってきた異様な姿をした2人組へと顔を向ける。絶望はもう感じない。生きようとする意志すら失った。左足は血を流し、腹部も同様に赤く染まっている。それはこの2人組が発砲したことによる致命傷だった。あと9時間逃げきれば家に帰れるはずだったのに。そう思うが、そもそも相手にそんな気はない。果たしてこの無意味な鬼ごっこから生還できたという3組の話も疑わしいことこの上ないと思う。黒い服に迷彩のベストを着込み、SF映画で見るような変わった形のヘルメットで頭全てを覆った1人が銃を片手に迫ってくる。残る1人は周囲を窺いつつ木にもたれるようにしてみせた。
「死ぬんだ、わたし」
それが咲夜の最期の言葉となった。自分に向けられた銃口を見つめ、咲夜は微笑んだ。何故笑ったのかはわからない。だが、その笑顔を見た黒づくめの人物は明らかにヘルメットの下の表情を曇らせていた。それでも引き金を引いたのはその人物が殺しのプロだからだろう。愛する人の顔を思い浮かべたまま、咲夜は額を撃ちぬかれて絶命した。口元の笑みをそのままに。




