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天然石に愛された娘  作者: 月森杏
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第8章

 

 瑠璃が日課の水やりをしていると、今日も今日とてタマが足にじゃれついてきた。

「もうタマったら、急に足元に来たら危ないでしょう!気がつかないで踏んじゃったら大変なのに!」

 瑠璃がそう言ってメッと怒ってみせると、タマはそんなことにはならないとばかりに、サッと避けて近くにお座りした。

 目を細めて「ミャゥ」と鳴くタマが可愛いので、近寄って頭を撫でるとタマの首もとに目がいった。何か金色のものがキラッと光っている。

「タマ、何付けてるの?見せて」

 瑠璃が目を凝らして見てみると、それはどこか見覚えのある天然石だった。

「これって、ルチルクォーツと水晶だわ。玉木さんに作ったブレスにそっくり……」

 タマの顔をじっと見ると、どこか気まずそうに顔を背けた。

「玉木さん?」と小さく呼んでみると、タマは「ニャッ」と答えた。

「フフフッ、まさかね」

 瑠璃はちょっと笑うと、タマをひと撫でして水やりに戻った。


「月人さん、タマが玉木さんのブレスとそっくりな首輪してたんですよ」

 店に戻った瑠璃が月人に報告すると、月人はどこか気まずそうに顔を背けた。

『えっ、タマと同じ反応!』

「タマって玉木さんの飼い猫なんですか?」

「まあ、そうとも言えるかな」何だかいつもの月人っぽくない曖昧な言い方だ。

「じゃあ、タマがしていた首輪ってやっぱり……」

 瑠璃が複雑な気持ちでつぶやくと、月人が慌てて口を開く。

「いや、それは……」


 その時、急に前庭の木々がざわめいて、窓ガラスや扉がガタガタ鳴った。突風が吹いたようなすごい音だった。綺麗に咲いていた花も吹き千切られて風に舞っている。

「な、何が?」瑠璃が動揺していると、扉が「バターン!」とすごい音をたてて開いた。

 開いた扉の前には、怒りの表情を浮かべた綺麗な女の人が立っていた。

「月人、どう言うことなのよ!」

 その人は、ブルーグレーの長い髪を風になびかせながら、端正な顔をひきつらせて叫んだ。

 つかつかと店の中に入って来ると、瑠璃のことなど目に入ってないように月人と向き合った。

 瑠璃はただただ二人の様子を見つめるしかなかった。


 女の人から有り得ないくらい睨まれているのに、月人は無表情だった。

『何、これ?修羅場ですかぁ……』瑠璃はオロオロするしかなかった。

「で、何の用?」月人がやっと口をきいた。

「はあ?『何の用?』ですって?ふざけないでよ!こんなに長い間仕入れに来ないで!」

 その女の人は癇癪を起こしたように「 何で?」と叫び続けた。

「お前、ちょっとうるさいぞ!」と言って、女の人を無理に作業テーブルの椅子に腰掛けさせた。

「少し落ち着け!」と言いながら、月人がバックヤードに向かうのを瑠璃は唖然として見送った。

 きっと珈琲を淹れに行ったのだろう。


 瑠璃も慌てて月人のあとを追おうとしたが、「待ちなさい!」とその女の人に呼び止められた。

「はい!」反射的に返事をして振り向くと、女の人は瑠璃のこともすごい顔で睨んだ。

『ひょえ~怖いよお。何で私まで睨まれてるの?』

 瑠璃は思わず立ち竦んで、その女の人をまじまじと見つめてしまった。

 よく見るとその人の瞳が、深い湖のような蒼色だったので驚いてしまった。

『えっ?髪の色といい、外人さん?でも普通に日本語喋っているし……』

「何?ガン飛ばしてるの?」

「ち、ち、違います!お、お綺麗だと思って!」

 瑠璃がどもりながら否定すると、その人は「フンッ、当たり前だ!」と言うように鼻で笑った。


「こらっ!ルーナ。瑠璃さんに失礼なこと言うなよ!」

 月人が戻ってきて3人分の珈琲をテーブルに置く。

「瑠璃さんもどうぞ」と勧めてくれたので、瑠璃はそっと月人の隣に座った。それを見て、ルーナと呼ばれた女の人が瑠璃をギロッと睨んだ。

『う~ん。やっぱり怖い……』瑠璃は思わず下を向いた。

「だから睨むな!」

 月人が、仕方ないなあと言うようにため息をついた。

「で、本当に何の用があってこんな所まで来たんだ?」

 月人がきつい口調で尋ねると、ルーナは大きな蒼い瞳を潤ませた。

「だ、だって、こんな長く月人が仕入れに来ないなんて、今までなかったじゃない。何かあったのかもって心配してたのに、それなのに、お店に女がいるからだって噂になってる」

『な、な、なんですってぇ?』瑠璃は心の中で絶叫した。


 瑠璃が「違う、違う」と大きく手を振っている横で、月人は黙って珈琲を飲んでいた。

「因みに誰情報だ?」

 月人が冷静に尋ねると、ルーナは瑠璃を睨みながら答えた。

「タマだけど……」

『えっ?タマ?タマって玉木さん?』

 瑠璃が混乱していると、月人が「また、あいつか……」と、低くつぶやいた。

「何故信じたりするんだ?いつもからかわれてるじゃないか」

 月人に呆れたように言われて、ルーナがぐずぐずと泣きは始めた。よく見ると、思ったより若いなっと瑠璃は思った。

「で、でも、実際に来たら、この人がいたし!」

 ルーナに指を差されて、瑠璃は反射的にビクッとしてしまった。瑠璃よりはずっと年下に見えるが、美人は迫力がある。


「瑠璃さんは少し前からここで働いて貰っている。慣れるまでは、ひとりでお店を任せられないだろう?それに前回はいい石が揃っていたから、いつもより多めに仕入れたじゃないか?こんな所まで来たことを知ったら、お祖母さんに叱られるだろう?」

 月人に指摘されて、今度はルーナが体をびくつかせた。

「それなら、前みたいにお店を休みにしたり、タマに頼めばいいじゃない!今までひとりでやってたのに、何で今さら人なんて雇うのよ!」

 瑠璃には耳の痛い言葉だった。瑠璃はまだ月人の役にたてていない。

 月人は瑠璃のことを少し窺いながらもキッパリと言った。

「瑠璃さんは石に呼ばれてこの店に来たんだ」


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