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天然石に愛された娘  作者: 月森杏
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第7章

 


 瑠璃はだんだんと『ブルームーン』で働く毎日に慣れていき、初めての接客もこなし、毎日を楽しんでいた。

 取り敢えず5日連続で働いて、連休を取り、また5日働くというシフトだ。

「瑠璃さんがお休みだと、つまんないんだよね。俺!」そう言って、玉木がテーブルに突っ伏した。

「お前は関係ないだろう?」月人が呆れたようにつぶやく。

「むしろお前は来すぎだろう。ちゃんと仕事してるのか?」

「俺、ここに来るといいアイデアが浮かぶんだよ。もちろん瑠璃さんがいる時限定な」

「瑠璃さんの邪魔をするな」

 月人に冷たく返されてちょっと剥れる玉木に、紅茶とお持たせのケーキを出しながら瑠璃が言う。

「今日はダージリンです。いつもお土産をいただいて、ありがとうございます」

 最近、瑠璃も紅茶を淹れさせて貰えるようになった。珈琲はまだだけど、瑠璃は頑張ろうと思っている。


「ん~、ダージリンかあ。いい香りだね」

 玉木が満足そうに目を細める。

「でも、本当に玉木さんはお仕事の方は大丈夫なんですか?」

『こんなにここに入り浸っていて……』と瑠璃は心の中で続けた。

 一体何の仕事をしているのだろう。

「そこが勤め人じゃないとこのメリットだからね」

 玉木はふんわりと笑った。

「まあ、お前くらい勤め人に向かないヤツはいないからな。朝は起きないし、勝手気ままで時間は守らない」

「う~ん。これでもちゃんと時間通り起きるようになったんだよ。瑠璃さんのおかげで」

「私のですか?」瑠璃が驚いたように声を上げると、玉木が意味深に微笑んだ。

『何のことだろう?』瑠璃は意味がわからず首を傾げた。


「今日は瑠璃さんに石を選んで貰って、ブレスレットを作って欲しいんだけど」

 玉木はティータイムが終わるのを見計らって、ブレスレットの注文をしてきた。

「玉木、お前、今までブレスに興味持ったことなんてないだろう?どうしたんだ?急に……」

 月人が呆れたように口を開く。

「ちょうど新しい仕事が入ったし、瑠璃さんが選んだ石ならいいかなって思って」

「まあ、そう言う時に作るのはいいとして、何で俺じゃなくて瑠璃さんなんだよ」

 月人が不満そうにそう言うので、瑠璃は慌てて口を挟む。

「そ、そうですよ。私なんてまだ全然石のことがわからないのに。月人さんにお任せした方が、素敵なものを作って貰えますよ」

「それは気分の問題だよ」玉木がふふんと笑った。


 結局、玉木の希望で瑠璃が石を選ぶことになった。

「玉木さんは何色がお好きですか?」」

「う~ん、黒かな!」即答する玉木に、『ですよね~』と瑠璃は心の中で突っ込んだ。

 初対面の時から、玉木はいつも黒コーディネートだ。今日は仕立てのいい黒シャツと細身の黒のパンツに黒のショートブーツ。店に入ってきた時は、黒の帽子も被っていた。

「あ、でもオニキスは好きじゃないから止めてね」

「……はい。じゃあ、黒じゃないんですけど、ルチルクォーツはいかがですか?」

 瑠璃が棚から持って来ると、玉木は手に取ってじっと見つめて、「金運?」と聞いてきた。

「仕事運もあるかと……」

 瑠璃が自信無げに月人の方を見た。月人は無言でうなづいた。

「インスピレーションを高める効果があって、斬新なアイデアををもたらしてくれるそうです。本の受け売りですけど……タイガーアイも効果的にはいいかなって思ったんですけど、何となく玉木さんには似合わない気がして」

「確かにタイガーアイもちょっとなあ」

 玉木は渋い顔で考えていたが、「決めた」と言って瑠璃に向き合った。

「ルチルクォーツにするよ」


 瑠璃は小さくうなづいて、ルチルクォーツをテーブルの上のトレイに載せた。

「後はルチルクォーツで一種類にするか、水晶と組合せるか、他の天然石で合わせるか。私は違う石と合わせるなら、色的にロシアンアマゾナイトと合わせるのも素敵かなって思いますけど」

 瑠璃が試しにそれぞれの組合せをトレイに並べると、玉木は少し悩んでから「これかな」と指差した。

「ロシアンアマゾナイトとの組合せもいいと思ったけど、俺はやっぱり水晶との組合せにするよ。シンプルな方が飽きがこないからね」

「じゃあ、この中からいいと思う石を選んでくれ。同じルチルでも一粒一粒違うからな。金色の針の入り方で雰囲気が変わる。よく見て自分で選べ」

 月人が玉木の前にトレーを置くと、玉木は慎重に選び始めた。


 瑠璃がルチルクォーツと水晶のブレスレットを作って玉木に渡すと、玉木は満足そうに手首に嵌めた。

「うん。いいね。シャツの袖からチラッと見えるのがいい」

 満足そうな玉木を見て、瑠璃も嬉しくなった。

「ほんとは瑠璃さんのブレスレットを見て、いいなって思ってたんだよ。ターコイズでお揃いにしようかとも思ったけど、ちょっと微妙でしょう?絶対、月人が文句を言うと思ったから」

 玉木がチラリと月人のことを窺うと、面白くなさそうな月人と目が合った。

「お前のはムーンストーンだろう。すごく綺麗な石だと思うけど、その石って女の人に相性いいんだろう?」

「まあな。でもこれは誕生石でもあるし、好きな石でもあるからな。俺は気に入っている」

 月人が自分の手元を見ながら言った。

「じゃあ、月人さんは6月生まれなんですね。いつ見ても青いシラーが綺麗です。私も好きです。ムーンストーン」

 瑠璃には日に日に好きな石が増えていく。


「では月人様、お支払いは社員価格でお願いします!」

 玉木がおどけて言うと、すかさず月人が反撃する。

「お前、社員じゃないだろう?」

「じゃあ、お友達価格で!」

「かりにも売れっ子作家なんだから、ちゃんと払え!」

 そう言いながらも月人はおまけしてあげている。

『玉木さん、売れっ子作家さんなんだ~すごい!何か納得!だから自由人なんだね』

 玉木はブレスレットを着けた手を、ぶんぶん振りながら帰って行った。



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