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天然石に愛された娘  作者: 月森杏
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第27章

タイトル変更しました。

 

 辺りは白い霧に包まれていた。

 ここはいったい何処なんだろうと、瑠璃は首を傾げた。

 頭がずきずきと痛むし、ものすごく寒かった。

 このまま倒れ伏して眠ってしまいたいのに、何故かそうしてはいけない気がして瑠璃は歩き続けた。

 何か大切なことがあったはずなのに、どうしても思い出せなかった。

 いったい何処まで進めばいいんだろう。

 瑠璃は道なき道を歩き続ける。


 霧の向こうからオルゴールのような綺麗な音色が小さく聞こえてきた。

 これは何の音だろう。

 その音色が心地よくて耳を澄ます。

 瑠璃はその音が聞こえる方に歩き出し、ハッとして足を早める。

 そうだ!これは石たちの歓迎の声。親愛の声。

 誰かが瑠璃を呼んでいる。こっちにおいでと呼んでいる。

 瑠璃は呼び掛ける。私を呼んでいるのは誰ですかと。


 寒い、寒い。体の芯から凍えてしまう。

 歩いているのに一向に暖かくならない。

 むしろ足元から這い上がってくる冷気で、ますます体が冷えていく。

 誰か助けて!瑠璃が叫んでも、その声は寒々しい空間に空しく響くだけで、誰の耳にも届きそうにない。

 寒い、寒いわ。

 あまりの寒さに、瑠璃はついに膝をつき、その場に蹲った。

 もう寒くて一歩も歩けそうになかった。


「……瑠璃さん」誰かが瑠璃を呼んでいる。懐かしく感じる声がする。

 その声は優しく瑠璃を包み込んだ。

 この声は月人さん?瑠璃は思わず口角をあげる。

 月人さんは無事に『竜の洞穴』に辿り着いたかしら?その姿を思い浮かべれば、フワッと温かい空気に包まれて、じんわりと体が温まっていく。

 瑠璃はそのまま心地いい眠りに落ちていった。

 今は眠っても大丈夫。何故かそう思えた。




 チチチチチッ小鳥の囀りで瑠璃は目を覚ました。

 よく眠ったせいか頭がすっきりとしている。

 ここは何処だろうと起き上がってみると、瑠璃は『水晶の森』に横たわっていた。

 見上げると空が低く、分厚い雲のようなもので覆われている。

 太陽の光は通しているようだが、圧迫感があって息苦しい。

「私、どうしたのかしら?みんなは何処?」

 瑠璃はボンヤリとした記憶を辿る。

「……えっと、マールたちと森に来て。それから、石たちから歓迎されて、キラキラと降る金色の粉が綺麗で、それで私は……私は?」

 それから後のことが瑠璃には思い出せなかった。


 こうしていても仕方がない、とにかく村に帰ろうと思って立ち上がると、足元がフラフラした。

 おかしいと思うけど、何故か足腰に力が入らない。

 近くの木に寄りかかって様子を見ると、自分の体に力が足りないことがわかった。

「そうだわ。私、石たちに力をわけて貰うために、マールたちと森に来たんだわ」

 瑠璃は思い出せてホッとした。

 何気なく手首に目をやると、見慣れたブレスレットがそこにあった。

 あれ?これは月人さんに渡したはずなのにっと、瑠璃は小首を傾げた。

「おかしいわね。やっぱりこれって夢なのかしら?」

 そんなことを思いながらも、取り敢えずは、森の石たちに力をわけて貰おうと、目を瞑って意識を集中させるけれど、何故か石たちの声が聞こえない。

 それどころか、森の中に石たちの存在すらも感じられないのだ。

 ブレスレットの石の力だけは感じられても、水晶もターコイズも沈黙したまま瑠璃に答えてはくれない。


 ここは『水晶の森』ではないのかと、周りを見回してみても、六角柱に聳える石の柱も、木の根もとに群集する水晶の結晶も、木の実のような赤い石も見覚えのある森の風景だった。

「何だろう。まるで全ての森の石が力を失ってしまったみたい」

 そんなことを考えてしまって、瑠璃は怖くなってブルリと体を震わせた。

 その時、何か気配を感じて後ろを振り返ると、黒い鱗をつやつやと輝かせた石の精が、瑠璃の目の高さにパタパタと浮いていた。

 マールたちと似た姿なのに、瑠璃をじっと見つめる瞳の色はルビーのように赤かった。

「何だ、お前!こんな所まで迷って来たのか?あまり体から離れると、戻れなくなるぞ!もっとも体が目覚めなければ同じことか」

 黒い石の精は皮肉たっぷりな言い方をした。


 そんな黒い石の精の様子を、瑠璃は不思議そうに見つめた。

「あなたは、ブラックトルマリンの石の精なんですよね?」

「あ?ああ」と不信そうに顔をしかめるブラックトルマリンの石の精に、瑠璃は躊躇うことなく一歩近づいた。

「ねえ。あなたは、どうしてそんなに淋しそうな、傷ついたような顔をしているの?」

 瑠璃のその言葉を聞いて、黒の石の精はその真っ赤な目を大きく見開くと、怒りのためにブルブルと体を震わせながら、ぶわっと一回り大きくなって瑠璃を威嚇した。

「な、何言ってるんだ。お前!」

 その真っ赤な瞳は、今にもレーザー光線とか発射しそうな勢いで怒りに煌めいていた。

「そんなふざけたことを言っていると、いくら精神体だとは言え、木っ端微塵に吹き飛ばしてやるぞ!」


 瑠璃はそんな風に怒り狂っている黒の石の精のことが、何故か全く恐くなかった。

『何故かしら?体の中に何か共通の力を感じるのよね。向こうはすごく迷惑そうだけど』と心の中で思う。

 どうしたら話を聞いて貰えるのかと、瑠璃が悩んでいると、「話す必要なんてない!」と怒鳴られた。

『う~ん。もう少し落ち着いてから話すべきかしら?』

「これ以上、余計なことを話しかけてくんな!」

『でも色々と聞きたいことがあるんだけど……』

「俺にはない!」

『あれ?何か話が通じてる?声に出していないのに?』

「煩いぞ!とっとと自分の体に戻れ!話が通じるのは、お前の今の状態が精神体で、ここのマイナスエネルギーと共鳴しているからだ。わかったか!もう、気がすんだだろう!早く、俺の前から消えてくれ!」


 そう言われて瑠璃は自分の体を見下ろした。

「何だか、丁寧に答えて貰ってありがとう。でも、精神体って?」

 言われてみれば、見下ろした自分の体が、何となく薄く透けているような気もする。

「えっ、ウソ?これって幽体離脱?」と黒の石の精をじっと見つめると、イライラした様子で返された。

「嘘じゃない!」

「でも、どうしてこうなったの?記憶にないんだけど……」

 瑠璃の問いかけに、黒の石の精はますます苦々しく顔をした。

「俺だ!俺がお前の意識を、マイナスエネルギーで体から弾き飛ばしたんだ。これ以上何かされたくなかったら、さっさとここから立ち去るんだ!」


 黒の石の精は、そう言って片手を前に突き出して、口の中で何かを唱えた。

 それを途中で止めて、何かに気がついたように瑠璃をじっと見る。

「お前、そのブレスレットはどうした?前はそんなものしていなかったよな」

「えっ?ああ、そうなのよ。月人さんに預けたはずなのに、目が覚めたらしていたのよね……不思議よね」

 ボンヤリと自分の手首のブレスレットを見つめる瑠璃を、黒の石の精がまた睨む。

「ふん、惜しかったな。あの時、それだけの力を持っていたら、俺の攻撃を避けられたかも知れないのに。まあいい!お前は、もう、自分の体に戻れ!」

 そう言って片手を振り下ろすので、瑠璃は強い魔力の衝撃を予想して身を竦めたが、予想に反してそれは春風のように温かい魔力だった。

 それは瑠璃を捕らえて、何処かに連れて行こうとする。

「あれ?痛くないわ。ねえ、待って、待って!あなたの名前を教えて欲しいの!」

 瑠璃が最後の力を振り絞って懇願すると、黒い石の精は深いため息をついた。

「仕方がないな。……俺の名前はノワールだ。もう会うつもりはないから、呼ばれることはないがな」

「……ノワール。私は瑠璃よ」

 瑠璃は薄れる意識の中でつぶやいた。


 薄暗い部屋の中に温かい風が吹き抜けた。

「……瑠璃さん、瑠璃さん!」

 ラパンが繰返し瑠璃の名を呼ぶ。

 ベッドに横たわる瑠璃を、じっと目を細めて見つめると、フッと笑みをもらした。

「瑠璃さん、戻ってきたんですね」

 横たわる瑠璃の顔色が少しだけよくなっていた。


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