第25章
タイトル変更しました。
月人は混乱していた。瑠璃は『天然石屋』にいるはずなのに。
「何故、森に行ったんだ……それは本当なのか?」と月人は呆然とつぶやいた。
「瑠璃さま、瑠璃さま」と月人にしがみついて泣くターキーとルチル。
男たちも突然もたらされた悪い知らせに、戸惑いおろおろしていた。
ルーナーは無表情な顔で、ただただ立ち尽くしていた。
その場にマイナスエネルギーが満ち溢れていた。
そんな混乱状態をスピネルが遮った。
「月人!何をしてる!ボンヤリしている場合じゃないだろう?ここにいても何もできないし、情報も少ない。お前はともかく瑠璃さんの元に飛べ!」
スピネルの声に我にかえった月人は、胸ポケットから瑠璃のブレスレットを取り出すと、魔力を放って瑠璃の元へ飛ぼうと目を閉じる。
「待って、待って。僕たちも行くよ!」
ターキーとルチルが慌てて月人が持つブレスレットに触れた。
月人の周りを白い光が包んで、一瞬の後にその場から月人たちの姿が消えた。
「行ったか……」スピネルは何処か遠くを見つめた後、振り返って力強く言った。
「俺たちも行くぞ!気を引き締めていけ!」
月人たちが瑠璃の気配を辿って行き着いた場所は、村のすぐ側の森の中だった。
月人が目を開けると、目の前に瑠璃がうつ伏せで倒れていた。マールたちは、瑠璃に取りすがるように顔を伏せて泣いている。
月人は駆け寄って膝をつくと、瑠璃の手を取った。
「瑠璃さま~!」そう叫びながらターキーとルチルが月人の後を追った。
「何が合ったんだ?マール!」
月人の低い声にマールたちが体をびくりと震わせた。
「あ、あいつが、黒い石の精が急に現れて、瑠璃さまの力をあっという間に奪っていった。僕たち、何もできなかった……」
マールは悔しそうにそう告げると、クリスティとロージィがいっそう激しく泣き出した。
森にはキラキラと降り積もる、親愛の力が満ち溢れていると言うのに、瑠璃からはいっさいの魔力が感じられなかった。むしろ、その体にはマイナスのエネルギーが満たされていた。
「これはいったい……」と月人が呻いた。
月人は、瑠璃のように体に魔力を溜めることが出来る人間に、今まで会ったことがなかった。
『天然石屋』で別れた時には、あれほど穏やかな力に満ち溢れていたと言うのに、何故、今はこれほど禍々しい力に包まれているのだろう。月人にはいくら考えてもわからなかった。
瑠璃の握りしめた手も、触れた柔らかい頬も冷たくなっていた。微かに呼吸はしているけれど、呼びかけても意識は戻らない。
「『天然石屋』に戻ろう。瑠璃さんをこのままにはしておけない。マール、先に戻って、今のこの状態をセレスさんに伝えてくれ」
月人は、「うん。わかった!」と言って飛んでいくマールを見送った後、瑠璃を抱き上げると、村に向かって歩き出した。
『天然石屋』に戻ってみると、セレスが部屋の準備をして待っていてくれた。『天然石屋』は二階が居住スペースになっていて、その客間が瑠璃のために整えられた。
月人がベッドに瑠璃を横たえると、「後は任せて」と村のおかみさんたちが後を引き取った。
部屋を追い出される形になった月人は、所在なく階段を下りて、居間のソファーにボンヤリと座った。
石の精たちもそこでしょんぼりと固まっていた。
そこに村でただひとりの医者を案内したセレスが居間に戻ってきた。
「瑠璃さんの容態は?」
月人の問いかけに、セレスが暗い顔をして首を振った。
「瑠璃さんは、身の内の魔力を全て奪われて、代わりに強いマイナスエネルギーを注ぎ込まれているわ。魔力を奪われただけなら、人間である瑠璃さんに影響はなかったはずだけど、その後、マイナスエネルギーを受けたことで、瑠璃さんの本来持っている生きる力が奪われている。瑠璃さんの意識は深く深く眠らされていて、いつ目覚めるのかはわからないそうよ」
月人は手が白くなるほど握りしめて、苦悩に満ちた顔をふいに上げた。
「瑠璃さんの側についていてもいいですか?」
「ええ、側にいてあげて。瑠璃さんも体の中で戦っていると思うから……」
月人は静かに立ち上がると、二階の客間に向かって歩いていった。
その後を石の精たちも静かについていった。
セレスも居間を出ようとしたところで、ガヤガヤと男たちの声が近づいてきた。
「瑠璃さんは大丈夫ですか?」
スピネルが声をかけてきたので、セレスはわかる範囲で事情を説明した。
「瑠璃さん……」
客間では月人が意識のない瑠璃と向き合っていた。
月人はそっとベッドに近づくと瑠璃の手を取って、預かっていたブレスレットを瑠璃の手首にはめた。
「このブレスレットには、すごく助けられましたよ。おかげで無事に戻ってこれました。それなのに……」
ベッドの側に置かれた椅子に腰かけると、月人は握った瑠璃の手を自分の額に押し当てた。
「瑠璃さん、ごめん。こんなことになってしまって、俺はどうしたらいいんだ……」
月人はそのまましばらく動かなかった。
そんな様子を、石の精たちは黙って見守っていた。
階下では、セレスとスピネルたちが話し合っていた。
「これからどうしたらいいんでしょう?瑠璃さんのことも、この村のことも。ブラックトルマリンの精が現れたのは確実ですし、我々はどう対処したらいいんでしょう?」
「そうね。ほんとうはその石の精と会って、話し合いができればいいんでしょうが、それは無理なんでしょうね。マールたちは敵意を感じたと言っていたし……」
そう言って一同を見回したセレスは、そこにルーナの姿を認めて驚いた。
「ルーナ、あなたは今まで何処に行っていたの?」
ルーナが俯いて答えないので、スピネルが庇うように答えた。
「ルーナは俺たちを心配して『竜の洞穴』まで来てくれたんです。もちろん洞窟の中には入っていないので、ご心配なく……」
セレスがそんなスピネルの言葉を遮った。
「あなたは何て危険なことを!みんなの足手まといになると思わなかったんですか?」
いつもは温厚なセレスの強い言葉に、その場はシンと静まり返った。
その時、ルーナが場違いにフッと微笑んだ。
「お祖母ちゃんはいつだって、私のことを未熟者扱いして邪魔にするけど、私だってみんなの役に立てるんだから!」
「ルーナ……邪魔になんてしてませんよ。あなたがいつも修行の途中で逃げてしまうだけで……」
「お祖母ちゃんは立派でみんなからも尊敬されているけど、私だって、ここ『天然石屋』の血を引き継いでいるのよ。何にも出来ない訳じゃないわ!」
ルーナが激昂して立ち上がると、部屋の中に風が巻き起こって窓やケースのガラスがガタガタ鳴った。シャンデリアの水晶もシャラシャラと大きく揺れた。
「ルーナ、ルーナ!落ち着いて!風を止めなさい!」
セレスの制止の声に、やがて風が小さくなっていった。
「そう言うところです。ルーナ。あなたの力は確かに強いかも知れない。でも、その力をあなたは制御できていないでしょう?それはとても危険なことなのよ。あなたにとっても、周りのみんなにとっても」
セレスに説得されても、ルーナは納得のいかない顔をしていた。
「そんなことないわ。私はみんなを助けられる」
そう言ってルーナはいったん言葉を切ると、セレスとスピネルたちを見回して、徐にニヤリと笑った。
「だって、私はマイナスのエネルギーを集めることが出来るんだもん」




