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天然石に愛された娘  作者: 月森杏
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第24章

タイトル変更しました。


本日2回目の投稿です。

 

 暗い場所から飛び出すと、黒い岩壁に丸く囲まれた青空が見えた。そこは火口のようにすり鉢状になっていて、底面にはブラックトルマリンの結晶がキラキラと輝き、その中央に六角柱のブラックトルマリンが、塔のようにそびえていた。

「こんなことって……」

 ルチルがその光景に絶句した。

「これじゃあ、石の精の姿になっても不思議じゃないよ」

 ターキーが月人の腕の中で震えた。

「何だ!このマイナスのエネルギーは……」

 月人が口をおさえて呻いた。

「ここにブラックトルマリンの石の精はいるのか?」

 スピネルがルチルに確かめる。

「今はいないわ。早くここから出ましょう!」

 ルチルが泣きそうになりながら首を振る。

「早く!ここは危険だよ!」

 ターキーが飛び上がりながら、月人の袖を引っ張った。


 月人は少し戸惑った後、瑠璃のブレスレットを取り出して空に掲げた。

「スピネル、ここの結晶をひとつでもいいから持ち帰るんだ!俺が防御する!出来るか?」

「もちろんだ。みんな、いいな!」

「おう!」男たちはつるはしで足元のブラックトルマリンを掘り出す。

 月人はブレスレットの魔力で周りに守りの壁を築く。

「ターキー、ターコイズの石を使う!力を貸してくれ!」

「わかった!」ターキーは月人が握りしめたブレスレットに手を添えた。


 ルチルが月人の周りを焦ったように飛び回った。

「ねぇ、まだなの?」そう言って男たちの手元を覗き込む。

「いつもの魔力を込めたつるはしを使っているのに、何で掘り出せないんだ!」

 スピネルの声にも焦りが滲む。

「ちょっと貸してくれ!」

 月人がスピネルの持つつるはしの持ち手に瑠璃のブレスレットを添える。

「頼む!」月人が目を閉じて強く念じると、辺りが眩く輝いて、何処かでパリンッと硬質な音がした。

「やったか!」

「ああ!月人、撤収だ!」


 ブラックトルマリンの結晶をリュックに詰めて、いっせいに走り出す。

 ある程度距離を走った後、リュックを背負ったスピネルが苦しそうに膝をついた。

「大丈夫か?スピネル!その石を背負っているのはツラいだろう?俺が変わるよ」

 月人が手を出すと、スピネルは座り込みながら首を振った。

「大丈夫だ。持って来た水晶の力で、マイナスのエネルギーが漏れないように防御する。この結晶は思ったほど力が強くないようだ。あの強烈なマイナスの力は、やっぱりあの六角柱の柱から放出されていたんだろう。みんなは大丈夫か?」

 スピネルに声をかけられて、男たちも座り込みながらうなづいた。


 月人は自分の腕の中で震えているターキーとルチルに声をかけた。

「大丈夫か?ツラい思いをさせて悪かったな」

「ごめんね。僕たち、役に立たなかったよね」

 ターキーが声を震わせながら言うと、月人は「そんなことはないよ」とふたりの頭を撫でた。

「でもでも、あんなに結晶が育ってしまったら、森にも多大な影響が出るわ。月人、どうしよう」

 ルチルが月人の腕にしがみついて泣いた。

「村に戻ってから、みんなで相談しよう。その時はルチルが知っていること、全部教えてくれ」

 月人がそう言うと、ルチルは泣きながらも大きくうなづいた。

「さあ、急いで戻ろう!」スピネルが立ち上がった。


 萎えた足を叱咤させて立ち上がると、一行はひたすら洞窟の外を目指した。

 行きは長く感じた道のりが、帰りは呆気ないほど短い時間で外の光が見えてきた。

「魔法がかけられていたのかも知れないな」

 月人の呟きに、スピネルが「そうだな」と同意した。

 一歩洞窟の外に踏み出すと、グニャリと周りの景色が歪んだ。

「入る時は気がつかなかったけど、すごい防衛魔法だ!」

 月人は呆然と洞窟を振り返る。

「とにかく、村に戻るぞ!月人、この水晶でみんなを回復させてくれ。洞窟の外なら使えるだろう……」


 みんなの力を回復させて、いざ村へ帰ろうと言うところで、月人の視界に何かが映った。

「誰だ!」鋭く問いただす。この洞窟の主かも知れない。

 それぞれが油断なく辺りを窺う。一行に緊張が走った。

「ま、待って。私よ……」

 見知った声がかけられて、大きな木の陰からルーナが現れた。

「ルーナ!」みんなが焦って駆け寄った。

「何故こんな所にいるんだ!危ないじゃないか!」

 月人に怒鳴られて、ルーナはビクッと飛び上がった。


「だ、だって……」と肩を震わせてルーナが泣き始めた。

「だって、私だってみんなの役に立ちたかったんだもん」

 しゃくりあげるルーナにターキーとルチルがパタパタと近寄った。

「泣かないで、ルーナ」

「そうよ。ここは危険な場所だから、月人は心配したのよ。とにかく早く村に戻りましょう」

 ルーナは涙に濡れた瞳で、パタパタと自分の周りを飛んでいる石の精たちを見つめた。

「そうだぞ!勝手なことをして!セレスさんだって心配しているぞ」

 言葉とは裏腹に、スピネルはルーナの頭を優しく撫でた。ルーナは村のみんなの娘であり、妹みたいな存在なのだ。

「怒鳴って悪かった。でもここは、ほんとうに危険なんだ。さあ、行くぞ!」

 月人は気まずそうに謝った。


 ルーナはしばらくグスグスと泣きながらも、一行の後をついて行った。

 その隣を月人が黙って歩いた。我が儘な物言いで困らせられることはあるが、月人にとってもルーナは可愛い妹分だった。

「セレスさんには許可を貰って来たのか?」

 月人が問いかけると、ルーナは不満げに月人を見上げた。

「お祖母ちゃんに言ったら、許してくれるはずないもの」

「わかっててやってるんだな?全く困ったやつだ……セレスさん、心配しているぞ」

「そんなことない!」とルーナは苦しそうに顔を歪めた。

「だって、お祖母ちゃんもみんなも『あの人』に夢中だもの……」


 月人はいつもの無表情でルーナを見下ろした。

 そう、月人は昔から無表情だった。滅多に笑わないし、怒らない。それなのに『あの人』が『ブルームーン』に来てから変わったのだ。

 タマもそう言っていたし、実際ルーナも見た。あんなに優しく笑う月人を見たことはなかった。

『どうして!』ルーナは心の中で叫んだ。私の方がずっと前から月人のことが好きなのに……


 黙り込んだルーナに月人が目を向ける。

「『あの人』って瑠璃さんのことか?」

 ルーナはムスッとして答えない。

「俺には、何でルーナが瑠璃さんに突っかかるのかわからないな」

 月人がため息をつくと、ルーナはプイッと横を向いて、前を歩くスピネルの隣に行ってしまった。

 周りの男たちは『何でって』と、鈍い月人のことを呆れたように見ていたが、もちろん鈍い月人はそんなことにも気づいていない。


 だいぶ村に近づいて一行が少し気を緩めた時、突然ゴォーッと言う突風が吹き荒れ、木々の葉を吹き飛ばしていった。辺りの空気がキンッと張り詰め、それは耳に痛いほどだった。

「何があった!」と足を止めると、ターキーとルチルが月人にしがみついてきた。

「た、大変!大変だよ。瑠璃さまが大変だ!」

「瑠璃さまが、瑠璃さまがぁ~」と慌てるふたりを月人が押し留める。

「いったい何があったんだ。瑠璃さんは無事なのか?」

「も、森で黒い石の精と会っちゃったみたいなんだ!」

 オロオロするターキーに月人が呆然とつぶやいた。

「何で森に……」


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