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天然石に愛された娘  作者: 月森杏
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第21章

 

 それぞれが、クリスティが告げた言葉の意味を考えていた。

「それって、石たちから力を奪っている何者かがいるってことでしょうか?」

 クリスティの泣き声だけが響く中で、瑠璃がクリスティの頭を撫でながら震える声で口にした。

「ああ、そう言うことだろう」

 月人も暗く同意した。

「しかし、最初の被害にあったこの『天然石屋』も村の加工場も、扉には鍵がかかっていてそうそう入ることが出来ないし、森の採掘場だって、不審な者の侵入はそれこそ石たちが許さないだろう?そんなことが出来る奴がいるのか?」

 スピネルは信じられないと言うように首を横に振った。


 それまで黙って成り行きを見守っていたセレスが口を開いた。

「そもそも、こんな風に石から力を奪える者がいるのかしら?あなたたちは何か聞いたことはない?」

 セレスが石の精たちに問いかけると、しばらく考えてからルチルが戸惑いながら話し始めた。

「そう言えば、私がまだこの姿を取れなかった頃、その時のルチルクォーツの石の精に聞いたことがあります。ずっとずっと昔、マイナスのエネルギーを持つ石の精がいたと。その者なら、もしかしたら石たちからエネルギーを奪えるかも知れません。ですが、その者は遥か昔に滅したと聞いています」

「そんなことがあったんだね。僕、全然知らなかったよ」

「ルチルの一族は『水晶の森』の歴史の伝承を担っているからね」

「マイナスのエネルギーなんて、恐ろしいよね」

 ルチルの話に石の精たちは不安そうに顔を寄せる。


 そんな石の精たちの声を月人が焦ったように遮った。

「ルチル、それは何の石の精だったかわかるか?」

 月人の問いに、ルチルは「え~っと……」と少し考えた後、「確かブラックトルマリンだったと思うわ」と答えた。

「……ブラックトルマリン。黒い石の精か……」月人がそうつぶやくと、部屋の中がざわついた。

「最近、森の中でブラックトルマリンの結晶を見かけた奴はいるか?」

 そんなスピネルの問いかけに、部屋にいた男たちはみんな首を振った。


「ターキー、黒い石の精を見かけたのはどの辺りだ?」

「えっと、えっと、あれは森の境にある『竜の洞穴』の近くだったよ」

「えっ、ターキーは何でそんな森の外れに行ったんだ?あそこは、君の居場所からはすごく遠いだろう?」

 マールが不思議そうにターキーに尋ねた。

「ああ、あの時はね。『竜の洞穴』の近くにいるターコイズ一族のおばあさんに、具合が悪いって言われて様子を見に行ったんだ。何だか力が安定しないって。ずいぶん長生きのおばあさんだから、力が弱まってきたのかと思って僕の力を分けてあげたんだよ。そしたらずいぶん元気になったよ」

「もしかして、『竜の洞穴』でブラックトルマリンの結晶が育っているとしたら、そのおばあさんも影響を受けていたのかも知れない」

 驚いて目を見開いたターキーを、慰めるように月人は言い足した。

「もちろん、調べてみないとはっきりしたことは言えないから、これから調べに行こう!」


 月人の言葉を聞いて立ち上がった男たちに、セレスが声をかけた。

「気が急くのはわかるけど、取り敢えず食事をしてから行きなさい。月人も瑠璃さんも、まだお昼も食べていないでしょう?あなたたちは食事したのかしら?」

 セレスに言われて、男たちも気まずそうに首を振った。

「すぐに準備しますから、居間で待っていてちょうだい。お腹が空いていたら、解決できることもできなくなってしまうわよ」

 セレスの言葉に、「確かに……」とみんなでうなづいた。


 みんなで居間に入っていくと、お土産に持ってきた『ラパン』のパンと熱々のミネストローネ、キノコとチキンのサラダがテーブルに並べられていた。村のおかみさんが何人か、料理を手伝ってくれていた。

「私も手伝います」そう言って瑠璃がキッチンに向かうと、月人も後からついてきた。

「じゃあ、二人はお茶を淹れてちょうだい。人数が多いから大変だけど」

 そう言いながらセレスが周りを見回した。

「それにしても、ルーナは何処に行っちゃったのかしら?いつもはもう少し役に立つ娘なのに……」

 セレスが困惑ぎみにつぶやいた。


 食事を終えてから、月人たちは『竜の洞穴』に向かう準備を始めた。

 強い力の石を揃えて、ヘルメットを被って、スピネルたちは特殊なつるはしのような物を持っていた。

 危険なことはないのだろうかと、瑠璃は内心はらはらして落ち着かない気分になった。

「ターキーとルチルも、俺たちと一緒に来て欲しい」

 月人がそう言うと、ターキーとルチルが困ったように顔を見合わせた。

「瑠璃さんと一緒にいたいのはわかるけど、お前たちの助言が必要なんだ。頼むよ」

「私からもお願い。こちらの事は、私、頑張るから!」

 瑠璃にも頼まれて、ターキーとルチルはうなづき合うとパタパタと飛び上がった。

「瑠璃さま、僕たちが戻るまで待っててくださいね」

「私もみなさんのお力になれるように、精一杯頑張ります!」


 瑠璃はターキーとルチルの小さい手をぎゅっと握った。

「ありがとう。気をつけてね」

「「はい!」」

 ターキーとルチルは瞳をうるうるさせて瑠璃を見上げた。

 そして瑠璃は月人の側に駆け寄ると、「これを……」と言って自分のしていたブレスレットを差し出した。

「私にはあまり実感がありませんが、このブレスレットにはたくさんの石の力が込められていると、月人さんは森で仰いました。もしかしたら何かのお役にたてるかも知れません。持って行ってください」

「いや、しかし……」と月人が慌てたように首を振る。

「これは瑠璃さんのお守りだから、肌身離さず持っていた方がいい。あなたを残していく方が心配なのに……それに力を失っている石に力を戻すのにも、このブレスレットは手元にあった方がいいと思う」


 頑固に首を振る月人に、瑠璃は困惑したように眉根を寄せた。

「大丈夫だよ!瑠璃さまには僕たちがついているんだから。この子たちに力を戻すにしても、瑠璃さん自身に宿った力も僕たちの力も使えるんだし。そのブレスレットは瑠璃さまが言うように、月人が持っていた方がいいと思うよ」

 マールが瑠璃からブレスレットを受け取って、月人に手渡した。

 月人はその水晶とターコイズのブレスレットをじっと見つめて、大きくうなづいた。

「わかった。瑠璃さん、お預かりします」

 そう言って月人は、自分の手に嵌めるには小さい瑠璃のブレスレットを胸ポケットにしまった。


 瑠璃はその様子を見て、ホッとしたように息を吐き出した。

「それじゃあ、いってきます!」

 月人がそう言って瑠璃の両手を握った。そして、セレスや石の精たち一人一人に目をしっかり合わせてうなづいた。

「気をつけ行ってきてください!」

 瑠璃は震える声でそう口にすると、握られた手をぎゅっと握り返した。

 月人はそんな瑠璃にちょっと驚いたように目を見開いた。

 スピネルたちも口々に「いってきます」と言って扉から出ていった。

 瑠璃たちも扉から出て、みんなの姿が広場を抜けて森に消えていくまで見送った。


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