表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天然石に愛された娘  作者: 月森杏
21/34

第20章

 

 月人がスピネルに詰め寄った。

「瑠璃さんに頼るのは止めてくれ!そんなの都合が良過ぎるだろう?瑠璃さんは違う世界の人間なんだぞ」

「でも他に方法がないんだ!実際に今、その石の力を取り戻したじゃないか!」

 スピネルが必死の形相で叫んだ。

「お願いです!この村を助けてください!」

「お願いします!」

「この村は石でしか生きていけない村なんです」

 膝をついた男たちが口々に叫ぶ。


「あなたたち、もうお止めなさい!瑠璃さんが怖がっているわ」

 セレスが瑠璃を庇うように声を挙げた。

「しかし、セレスさん。我々にはもうなす術がないじゃありませんか。せめて原因がわかるまで、力をなくした石を回復させないと……」

 スピネルが声を限りに訴える。

「……あの、私」と瑠璃が恐る恐る口を開いた。そこにいた全員が瑠璃の方を振り返ったので、思わず体がビクリと跳ねた。

「わ、私、もし出来るのであれば協力します」


 瑠璃がそう口にすると、スピネルたちが飛び上がった。

「本当ですか?」口々に叫びながら近寄ってくる男たちに恐れをなして、瑠璃はセレスの後ろに隠れた。

「もちろん、協力したい気持ちはあるんです。ただ、自分でもその力のことがよくわからなくて……さっきのことも、あの水晶の力が戻って欲しいって祈っただけで、具体的に何をしたって訳じゃないんです」

 だんだん瑠璃の声が小さくなった。不安そうに月人とマールの方を見ると、マールがパタパタと瑠璃の前まで飛んできた。

「瑠璃さまの力は確かにあります。僕を信じてください。瑠璃さまの負担にはなりたくないけど、お願いします!力を失ってしまった、あの子たちを助けてください」

 瑠璃は目の前で手を合わせて懇願するマールを抱き締めた。

「私も頑張るけど、マールたちも力を貸してね」

「もちろんです。瑠璃さま」マールが瞳をうるうるさせながら大きくうなづいた。


 月人は困ったような、嬉しいような複雑な顔をした。

「瑠璃さん、本当にいいのか?実際、大変なことだと思うぞ。協力して貰えるのは正直嬉しい。でも、ここにあなたを連れて来てしまった責任を俺は感じている」

「大丈夫です。月人さん、私、精一杯頑張ってみます」

「ありがとう、瑠璃さん」

 月人が思わずといった感じで瑠璃の手を取るので、こんな時なのに瑠璃はドキドキしてしまった。

「月人も協力してくれるのか」そう声をかけるスピネルに月人はうなづいた。

「ああ、俺が反対していたのは瑠璃さんのことが心配だったからで、瑠璃さん自身が納得して協力してくれるなら問題ない。元々、瑠璃さんを送って帰ったら、ここに戻ろうと思っていた」

 月人の言葉に、スピネルはホッとしたようにうなづいた。

「お前が向こうの世界の人間になっちまったのかと思ったよ……」

「そんな訳あるかよ」と月人は小さく笑った。


 月人とスピネルのそんな様子を見ていたら、瑠璃のドキドキも収まってきて、何だか嬉しくなってしまった。

『月人さん、ほんとうは協力したかったんだぁ。良かった。何だかホッとしちゃった』

 瑠璃がそんなことを考えていたら、月人は表情を引き締めて、これからの事を話し始めた。

「じゃあ、石の力の回復は瑠璃さんと石の精たちに任せるとして、問題はそうなった原因を突き止めるってことだな。瑠璃さんのことはお前たちに任せていいな、マール!」

 月人がマールの方を振り向くと、マールは大きくうなづいてキラキラした目を月人に向けた。

「もう、みんなに連絡したよ。もうじきここまで飛んで来る。クリスティも来るって言ってる。瑠璃さまのことは僕たちに任せて!」

「ああ、任せたよ。スピネル、原因について何かわかっていることはないのか?」

 スピネルが難しい顔をしながら、仲間と顔を見合わせた。

「一ヶ月の間、いろいろ調べてみたんだが、発生する場所も時間も不規則で共通することがない。最初は『天然石屋』の倉庫にある結晶ひとつだったのが、だんだんに量が増えていった。一昨日には森に置いてあった採掘したて石まで被害にあった。外部からの侵入は考えられない。最近ここに来たのはタマくらいだし。まあ、あいつも少し悪戯していったけどな」

『ああ、玉木さんたら……』と瑠璃は心の中でつぶやいた。


「手掛かりなしか……」月人が天を仰いだ。

「マール、森で変わったことはなかったか?」

「う~ん。僕は感じなかったけど、他のみんなが来たら、もう一度聞いてみて」

 マールがそう言った時、『天然石屋』の厚い扉をすり抜けて、石の精たちが次々に入ってきた。

「瑠璃さま~!」とクリスティが嬉しそうに飛びついてきた。

「クリスティ!もう森から離れても大丈夫なの?」

「はい!瑠璃さまのおかげでパワーをいっぱいいただきましたからぁ」

 嬉しそうにウフフと笑うクリスティは、やっぱり女の子みたいだなっと瑠璃は思った。


 その様子を微笑ましそうに見ていた石の精たちも、瑠璃の近くに寄ってきた。

「瑠璃さま、私たちもお役にたちたいです。私はルチルクォーツの石の精でルチルと言います」と鱗に入った金色の模様が美しい石の精が、持ち上げた瑠璃の手にちょこんと触れた。

「私はローズクォーツの石の精です。ロージィとお呼びください」と薄桃色の鱗を持った石の精が、はにかんだように微笑んだ。

「僕はターコイズの石の精です。瑠璃さま、ブレスレットに選んでくれてありがとうございます。ターキーって呼んでください」と水色の鱗をした石の精が、嬉しそうに瑠璃の前でクルリと回った。

「みんな、来てくれてありがとう。すごく心強いわ。ルチル、ロージィ、ターキー、よろしくね」


 石の精たちに囲まれて嬉しそうに微笑んでいる瑠璃を、月人がテーブルの方に呼んだ。当然、石の精たちもついてきた。

「おまえたち、来てくれてありがとう。取り敢えずこのテーブルに座ってくれるか。ちょっとお前たちに聞きたいことがあるんだ」

「お行儀が悪いわよね」と言いながらも石の精たちがテーブルにちょこんと座った。マールは月人の肩に乗っている。

「最近、森で変わったことはなかったか?どんな小さな事でもいいから教えてくれないか?」

 石の精たちはお互いに顔を見合わせて、首を傾げた。


「特には……」とルチルが言いかけた時、ターキーが思い出したように言った。

「あっ、僕、黒い石の精を見たよ!初めてだったんで、挨拶しようと思ったら急に消えてしまったんだ」

「黒か……」と低い声で月人がつぶやいた。

「今現在、この森には黒の鱗を持つ石の精はいないはずなんだけど……だいたい黒は滅多に現れない。千年に一度くらいしか……」

 マールが首を捻ると、「でもほんとうだよ」とターキーがマールの近くまで飛んできた。

 そんなターキーに、マールがわかったよっと言うようにうなづいた。

「黒の石の精って、そんなに珍しいの?」と瑠璃が問いかけるとみんなに揃ってうなづかれた。

「この『水晶の森』自体に黒い石が少ないんです」

「そうなんですか……」そう言いながら、黒の石って何があったかしらっと瑠璃は思った。

「黒の石の精については後で詳しく調べてみよう。他には何かないか?」

月人の問いかけに、しばらく沈黙が落ちた。


後で瑠璃がマールから聞いたところ、石の精たちは滅多に自分の場所から離れないそうで、今日のように石の精たちが集まっていること自体が珍しいことなのだ。離れていても思いの力で意志の疎通は図れるという。だから自分たちの知らない石の精の存在は有り得ないとマールは言った。

「今日みんなが集まったのは、瑠璃さまに会いたかったからで、ほんと特別なことなんです。特にクリスティはこの姿を取れるようになったばかりだし」

マールが月人と話しているクリスティの方を見た。

「それじゃあ、クリスティ。この水晶から何があったか聞いてくれないか?」

 月人が握っていた水晶をクリスティに渡した。

「この子が……」クリスティはそうつぶやいて、恐る恐るそれを受け取ると、ぎゅっと両手で握り締めた。


 しばらくして小さな鈴の音のような音が瑠璃の耳に響いた。

『これがこの子の声?』

 瑠璃がじっとクリスティを見つめて耳をすませると、クリスティが大きく息を吐いた。その瞳には涙がいっぱい浮かんでいた。今にもこぼれ落ちそうだった。

「この子が言うには、急に辺りが暗くなって、何故だかわからないけど、どんどん力が奪い取られていったと言うことです。ただとても怖かったと……」そう言ってクリスティは涙を流した。

 周りに重苦しい空気が流れて、瑠璃はクリスティをそっと抱き上げた。

 それからしばらくは、クリスティの涙が止まることはなかった。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ