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天然石に愛された娘  作者: 月森杏
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第19章

 

 月人は『天然石屋』の倉庫の部屋まで戻って大きく息を吐いた。

「瑠璃さん、すみませんでした。俺の考えが甘かった」

 顔をしかめる月人の頭を、パタパタと近づいたマールが撫でた。

「月人が予測できなかったのも無理ないよ。僕たちだって驚いてるんだから……」

「月人さんも、マールも、何に怒っているんですか?みなさん、まだ何か話があったみたいですよ。聞いた方がいいんじゃないですか?」

 瑠璃が困ったような顔をすると、月人とマールは顔を見合わせた。

「あいつらは、瑠璃さんに頼ろうとしているんだ。俺が瑠璃さんをこの世界に連れて来なければ、存在すらも知らなかったのに」

 月人がポツリとつぶやいた。

「俺のせいた……」


 月人とマールが、自分の為に怒っていることはわかったが、どうしたらいいのか瑠璃にはわからなかった。

「もし、私にできることがあるなら、私、頑張りますよ。せめてお話だけでも聞いてみましょう?」

「ありがとうございます。瑠璃さん」

 そんな瑠璃の言葉に、セレスの柔らかい声がかけられた。

「ね、月人。お話だけでも聞いて貰えないかしら?」

 月人もセレスには弱いようで、しぶしぶうなづいた。

「さあ、こちらにお掛けになって」とセレスは小売りスペースの横のテーブルセットに案内した。

「スピネルたちが言いたいことは、わかっているつもりです。瑠璃さんの力を借りたいってことですよね」

「そうね。そう言うことなんだけど、少しこちらにも事情があるのよ」

 セレスが困ったように顔をしかめて、力なく椅子に腰を下ろした。


 セレスのそんな表情を見て、月人も話を聞いてみる気になったのか、テーブルの椅子に腰かけた。それを見て瑠璃もマールを抱えて腰をかけた。

「事情って何かあったんですか?」

「あなたは今、『水晶の森』に異変が起きているのを感じてはいないのよね?」

「えっ?異変ですか?瑠璃さんの影響で森に力が満ちているのは感じましたけど、その事じゃないんですよね?」

「ええ、その事じゃないわ。ここ1ヶ月くらいのことなんだけど、採掘された石の力が抜けて無くなってしまう事が度々あって、村の方でも商品にならなくて困っているの。まるで石の力を魔力に変えて使いきってしまったような状態で、魔力の強いものに見て貰っても、森に戻しても全然力が戻らないの。せっかく森に採掘させて貰ったのに……石たちも可哀想で……」


 セレスは立ち上がると、近くの箱から手のひら大の水晶の結晶を持ってきた。

「これなんだけれど……」そう言って月人に渡した。

 月人はそれを受け取ると、光に翳したりマールに見せたりした。

「そうですね。確かに石の力が全くない。こんな状態、初めて見ました。持ってる力を極限まで魔力で使ったとしても、この状態にはならないと思います。おかしいな……」

「えっ!何でこんなことに?これじゃあ、この子、死んじゃったみたいだ!ひどいよ。誰がこんなことしたの?」

 マールがその水晶をぎゅっと抱き締めて、耐えられないと言うようにポロポロと涙を流した。

「マール……」瑠璃が慰めるように、その水晶ごとマールをそっと抱き締めた。

 マールは瑠璃の腕の中でしばらく泣きじゃくっていたが、瑠璃がフッとマールの方を見ると、マールの手の中で、その水晶が蛍のように弱い光を点滅させているのに気がついた。

「光ってるわ」瑠璃がつぶやくと、月人とセレスが水晶を持つマールの手を見た。


 マールは信じられないように自分の手の中にある水晶を見ると、「瑠璃さま……」と言って、震える手で水晶を瑠璃に渡した。

 瑠璃はマールにうなづくと、水晶を両手で握って祈るように目を閉じる。

「どうか、力が戻りますように……お願い!みんな、力を貸して!」

 祈り続ける瑠璃の手の中で、弱々しく点滅を続けていた水晶が突然光を消した。マールも月人もセレスも体を強ばらせ、顔に悲壮感を漂わせる。

 マールが涙をいっぱい溜めた瞳を瑠璃に向ける。

「瑠璃さま……光らなくなっちゃいました」

 瑠璃がゆっくりと目蓋を開けて、握り締めた自分の両手を開く。

「月人さん。この水晶、温かく感じます。もしかしたら力が戻ったんじゃ……」

 そう言って瑠璃が月人の方を見ると、月人は慌てて瑠璃の手のひらごと水晶を握り締めた。


 月人の目が信じられないと言うように見開かれた。

「……力が戻っている。マール、もう大丈夫だ!」

「……!」

 マールが泣きながら、嬉しそうにくるくる回った。

「やったぁ~!瑠璃さま、ありがとうございます!」

 セレスも嬉しそうに口元をおさえた。瑠璃もよかったっと肩の力を抜いた。

「でもね。これって、ほんとうに私の力なのかしら?」とマールの方を見れば、マールは大きくうなづいた。

「うん。瑠璃さまの力です!絶対です!僕たち石の精でも、この状態になったこの子を助けることは出来ないと思うし、第一、僕はラリマーの石の精だから絶対に無理です。たとえクリスティだって、出来るかどうかわからないと思います」


 何故かマールが誇らしそうに宣言する。

 瑠璃は「そうなのかなぁ」と自信がない。それでも水晶が力を取り戻したことは嬉しかった。

「ここには、後どのくらいそんな石があるんですか?」

 月人が厳しい顔つきでセレスに問いかけと、セレスは暗い顔でさっき水晶を取り出した箱の方を向いた。

「そこに積んである箱、全部よ」

 そこには同じような木箱が三つ積んであった。

「そんなに!」と月人が立ち上がった。マールは絶望的な顔をして木箱の方に飛んでいく。

「実は切り出したばかりのものがこの状態で、まだ森にそのまま置かれているの。もしかしたら、森に置いておいた方が力が戻るかも知れないと思って。でもダメだったわ」

「一体、何が原因なんですか?」

「それがこの一ヶ月、みんなで調べてみても全くわからなくて……」

 セレスは苦しそうに表情を歪める。


 マールが厳しい表情で戻ってきた。

「原因がわかるまで、森での採掘は禁止する!このままの状態を見過ごすことは出来ない。むしろ何故今まで黙っていたんだ」

「そう言われてしまうと思ったからだ!」

 マールの叫びに、いつの間にか側にいたスピネルが苦しそうに返した。

「この状態のこの子たちは、死んだも同然の状態なんだよ。それでもみんな平気なのか」

 マールの強い言葉にスピネルは一瞬怯んだが、「それでも……」と口を開く。

「それでも、この村で生きていく為には、石を採掘するしかないんだ!」

 スピネルとその後ろに控えていた男たちはガックリと床に膝をついた。


 そんな中でもマールは首を振った。

「ダメだ!まず原因を徹底的に調べて問題を解決するんだ。それに力を失った子たちの力を取り戻す。森が採掘の許可を出すのはそれからだ。第一、問題が解決しなければ、被害が増える一方じゃないか!」

 今までと違う、石の精としてのマールの発言に瑠璃は驚いた。さっきまで自分の腕の中で泣いていた可愛いマールではなく、石の精としての責任ある態度を取っていた。きっと長い長い時間をかけて力を蓄えて、石の精の姿を取れるようになった。その誇りがあるのだろう。

 瑠璃がそんなことを考えていると、スピネルが急に瑠璃の方を向いて土下座をした。

「瑠璃さん、お願いです!私たちに力を貸してください。石の力を元に戻してください」

「お願いします!」と男たちは口々に頭を下げる。

 瑠璃は戸惑ったようにその場から一歩下がった。


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