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天然石に愛された娘  作者: 月森杏
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第18章

 

 みんなで扉をくぐると、そこはお店と言うよりも広めの倉庫で、一部が小売りスペースになっていた。大きな天然石の結晶や木箱に詰められた原石、『ブルームーン』にあるような丸く加工されて連に糸を通されたもの、美しくカットされて一粒一粒がケースに入れられたもの等、ところ狭しと置かれていた。

「こちらは倉庫ですので、奥の接客用の居間でお話しましょう」

 セレスが案内してくれたのは、大きなテーブルとたくさんの人が座れそうなソファがある、居心地が良さそうな部屋だった。壁には『水晶の森』の絵や地図が掛けられていて、飾り棚には様々な天然石の結晶が飾られ、天井からはカットの美しい水晶のシャンデリアが輝いていた。

「さあ、みんな、座って待っていてくださいね」

 そう言ってセレスが居間を出ていった。


 みんなが順番に座っていくので、瑠璃は月人の隣に座った。石の精の中でマールだけがついてきた。マールは瑠璃の膝の上に座って月人に睨まれていた。

「お待たせしました」とお茶の準備をしてセレスが戻ってきた。ルーナもしぶしぶと手伝っている。

 ルーナは、月人の隣に座っている瑠璃のことを、不満そうに睨みながらお茶を配ると、瑠璃とは反対側の月人の隣に腰を掛けた。

「そうだ。これ、お土産に持ってきた」と月人がリュックから『ラパン』の紙袋を取り出した。

「おっ、『ラパン』のお菓子か?」とみんなが嬉しそうに口を開く。

「まあ、月人。ありがとう。この籠に入れてくれるかしら」

 セレスが籠を渡すと、月人はマドレーヌやパウンドケーキ、レーズンサンド等の袋入りのお菓子を籠に盛ってテーブルの真ん中に置いた。


 お茶とお菓子を楽しみながら話し合いが始まった。

「改めまして。瑠璃さん、ようこそ『水晶の森』へ!」

 セレスがにこやかに歓迎の意を示した。それにしたがってスピネルたちも「ようこそ!」と口々に唱える。

「ありがとうございます」

 瑠璃はみんなに向かって頭を下げた。

「今日は仕入れのついでに、瑠璃さんに『水晶の森』を見せようと思って、ここに連れて来ただけだったんだ。それなのに石たちが、マールたちがはしゃいで力を発散させたから、何だか大事になってしまった。ほんとうなら、セレスさんに紹介するだけでいいと思ってたから」

 月人はそう言って、瑠璃とマールの方を見た。


「だって、すごく嬉しかったんだよ。僕たち、ずっと瑠璃さまに会いたかったし。それで実際に会ったら、すごく幸せな感じがして、体の奥から力が溢れ出してきたんだ。僕たちだって自分自身驚いてるんだよ」

 マールは少しもじもじしながら一生懸命説明する。月人がそんなマールの頭を撫でた。

「実際、瑠璃さんのことはマールたちから頼まれたことだったんで……」

「それじゃあ、月人は石たちに頼まれて、瑠璃さんに『ブルームーン』で働いて貰っているの?」

 セレスが尋ねると、月人はチラッと瑠璃の方を見てからうなづいた。

「はい。何よりあちらの世界の人間である瑠璃さんが、あの店に来れたと言うことに驚いたし、店にいる状態で、あれほど石たちの声を感じることは今までなかった。瑠璃さんが働くようになってからは、森から届く石たちの声も力も確実に増えていった。それに瑠璃さんの周りに与える影響もどんどん大きくなってきている。石たちに対してはもちろんのこと、俺やタマやラパンに対しても」

 瑠璃は自分のことが話されているのに、全然実感がわかなくて、ただただ月人とセレスの顔を不安そうに見ていた。マールはそんな不安そうな瑠璃の顔を見て、膝に置かれた手を優しく撫でた。


 スピネルが「ちょっといいですか?」と手を挙げた。

「瑠璃さんがこちらに来てからの石たちの力の増幅が驚くほど激しくなっています。これはどお言うことなんでしょうか?月人も森を抜ける間に、石たちの変化を感じていただろう?」

 スピネルの真剣な問い掛けに、月人は少し考えるようにして答えた。

「………凄い力だったよ。実際、その力に影響されてクリスティが石の精の姿を取れるようになった」

 それを聞いて、みんながザワザワし始めた。

「今、瑠璃さんがしている水晶とターコイズのブレスレットにも極限まで魔力が宿っている。『ブルームーン』で作った時はごく僅かだったのに」

「そうなんだよね。瑠璃さま自身や瑠璃さまの持ち物に、『水晶の森』にある全ての石の力が強く影響するみたい。僕たちが心地いいって感じる瑠璃さまの波動と、僕たちの持っている力の相乗効果で何倍もの魔力が引き出されていると思うんだ。だから、瑠璃さまにも魔力が宿るし、僕たちの石の力も満ち足りているよ」

 スピネルたちが「おおっ!」とどよめく。

「ただ」月人が口を開くと周りが急に静かになった。

「ただ、瑠璃さん自身は魔力が使えない」


 月人の言葉に、みんなが「シーン……」と沈黙していると、ルーナがソファから立ち上がって、月人の隣の瑠璃の方を向き直る。

「そうよ!この人はあっちの世界の人なんだもの。そんなの当たり前じゃない!使えないなら、この人が魔力を持ったって意味ないわよ!」

 瑠璃は突然のルーナの強い口調に驚いて、体をびくつかせた。突然ルーナから言われたことに混乱してしまった。

「ルーナ!失礼ですよ。お座りなさい」

 いつも穏やかなセレスに強く言われて、ルーナは口を尖らせ、すごすごと腰を下ろした。そんなルーナを瑠璃の膝の上でマールが睨み付けた。

「これは僕たちと瑠璃さまの問題だから、ルーナには関係ないよ!」

 瑠璃はマールの怒りのこもった言葉に驚いて、宥めるようにマールをぎゅっと抱き締めた。

「マールの言う通り、石の力とか魔力とか、そんなことは瑠璃さんとっては一切関係ない!俺が瑠璃さんと石たちがコミュニケーションを取れればいいと思ったから、瑠璃さんをここまで連れて来た。今日は仕入れに来ただけだから終わったらすぐに帰る。瑠璃さん、嫌な思いをさせてすみませんでした」

 月人は立ち上がって瑠璃に頭を下げると、瑠璃の手を引いて居間からで出て行こうとする。


 すると「待ってくれ!」とスピネルが慌てて呼び止めた。

「瑠璃さん、ほんとうに申し訳ない。しかし、もうしばらく付き合っていただけませんか。この村にとって、とても重要な話なんです。月人ももう少し話を聞いてくれないか」

 月人はスピネルの方をいったんは振り返ったが、ため息をついて首を横に振った。

「言いたいことはわかる。でも、それは瑠璃さんには関係ないことだ。セレスさん、店の方で石を見せていただいてもいいですか?」

 月人は瑠璃の手を引いて居間を出ていった。マールもパタパタとその後を追った。

「月人さん、いいんですか?お話だけでも聞いた方が……」

 瑠璃がそう言っても月人は答えなかった。月人もマールもすごく腹をたててるようだった。


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