第17章
月人は瑠璃のブレスレットをした方の手を両手で握り、目を瞑って石に意識を集中させた。
瑠璃はもう片方の手にマールを抱いて目を瞑る。月人の肩の上では落ちてしまいそうだったので、瑠璃が提案するとマールはすごく嬉しそうな顔をして、しっかりと瑠璃の腕にしがみついた。
瑠璃のブレスレットの石が眩しいくらいに輝き、月人と瑠璃とマールの姿がその場所から消えた。
瑠璃が少しの風と、綺麗なオルゴールやハープの音色に感じる石たちの声を感じていると、「瑠璃さん……」と月人に声をかけられた。
ゆっくりと目を開けると、月人とマールが瑠璃の様子を窺っていた。
「瑠璃さま、大丈夫ですか?」
マールが瑠璃の腕の中から心配そうに声をかける。
「ええ、大丈夫です。ここはもう、村の入り口なんですね」
瑠璃が周りを見回してみると、鬱蒼とした森は途切れ、白壁の可愛い外観の家々に囲まれた広場に続く道に立っていた。
「物語に出てくるような可愛らしい村ですね。私が考えていたイメージと違いました」
「そうだな。天然石を採掘していると言うと、もしかしたら鉱山とか採掘場のような荒々しいイメージがあったのかな」
瑠璃は月人の言葉に静かにうなずく。
「ほら、広場でみんな待ってるよ」とマールが小さな指をさす。広場には十人近い体格のいい男の人たちと、その周りをパタパタと飛び回る、マールと同じ姿の石の精たちがいた。
「お待たせ~!」
マールが手を振りながら広場に飛んでいくと、男たちはこちらに振り返り、石の精たちはマールの方に飛んできてくるくる回った。
みんなに注目されて恥ずかしくなった瑠璃は、月人の後を大人しく着いていった。その周りを石の精たちが嬉しそうに取り囲む。
「瑠璃さま~ようこそお出でくださいました~」
「会いたかったです~」
「瑠璃さま!」
「………瑠璃さ~ま!」
黒い瞳をうるうるさせて石の精たちは歓迎の意を唱える。石の精たちは鱗の色は微妙に違うけれども、瞳はみんな黒曜石のように黒く輝いている。
「みんなさん、初めまして。お待たせしてしまってすみません」と瑠璃が微笑むと、石の精たちは嬉しそうにくるくる回った。マールといい、石の精は嬉しいと回るのかなっと瑠璃は思った。
石の精たちの歓迎ぶりに、ひとり蚊帳の外の月人が苦笑いをしているのを見て、瑠璃は慌てて声をかけた。
「あ、あの、月人さん……」
ちょっと困った顔をする瑠璃に、月人は優しく微笑みかける。
「大歓迎だな。瑠璃さん」
その優しさの溢れた様子に、周りの石の精たちも近づいてきた男たちも驚いたように固まった。
「つ、月人が笑ってる!」
「俺、初めて見たかも……」
「お、俺も……」
「僕も初めて見たよぉ」
「エヘヘヘヘ、瑠璃さまといる時の月人は、ずっとこんな感じなんだよ」
マールが自慢したように言うと、周りのみんなが『ほお~』と感嘆の声を漏らした。
月人が余計なことは言うなと言うように、マールを片手で掴むと自分の肩に乗せた。
「みんな、久し振りだな!」
挨拶をする月人に男たちも「おう!」と片手を挙げて応える。その中のひとりが改まった様子で瑠璃の方を向いて話しかける。
「初めまして、瑠璃さん。私がこの村の代表のスピネルです。お話は石の精たちから聞いています。さっきから石の魔力が凄いことになっているのは、瑠璃さんの力なんですね」
「いえ、私は……」と口ごもる瑠璃を月人が庇うように口を開く。
「瑠璃さん自身は力を意識している訳ではないんだ。全て無意識で行っている。それに石たちが好意で力を貸しているから、パワーが凄いことになっているんだろう」
「そうか……」
スピネルはそうつぶやいて瑠璃の顔を見た。
「いや、瑠璃さん。こんなところで立ち話をしてしまって申し訳ない。続きは店でしましょう。セレスさんも首を長くして待っていることでしょう」
「ルーナのお祖母さんのことだよ」と月人が小声で教えてくれた。
スピネルに先を促されて広場に向かった。
男たちと石の精たちと一緒に進んでいくと、一同は広場を囲む家々の中で一際大きな家の前で立ち止まった。
その家は間口も広く、大きく『天然石屋』と看板を掲げていた。そのシンプルな店名に瑠璃は少し微笑んだ。
それじゃあ中でっと店に入りかけた時、突然両開きの扉が『バッターン』と凄い音をたてて開いた。
その時、瑠璃は『えっ?これってデジャブ?』と心の中で思った。
「月人!やっと来たのね!もう、ずっと待ってたんだから!」
飛び出してきたルーナは嬉しそうに月人にしがみついた。まるで他のものは目に入っていないようだった。
月人以外が呆然とその様子に固まっていると、「まあまあ……」と穏やかな声が響いた。
「何ですか。はしたないですよ、ルーナ。月人が嫌そうな顔をしているじゃないですか……」
銀髪を柔らかく結い上げた上品そうな老婦人が、店の扉から出て来てルーナを嗜めた。
「嫌そうな顔なんかしてないもん!」
ルーナが老婦人の方を向いて反論すると、月人が「いい加減放してくれ」といつもの無表情で告げた。
「月人は嫌だって!」と肩の上のマールが言ったので、ルーナはしぶしぶ月人から離れたが、後ろにいる瑠璃を見つけて凄い顔で睨み付けた。
「ルーナ、お客さまに失礼ですよ!躾がなってなくて申し訳ありません。ルーナの祖母のセレスと申します。よろしくお願い致します」
セレスに丁寧に挨拶されて、瑠璃も慌てて頭を下げた。
「天川瑠璃です。こちらこそよろしくお願い致します」
「取り敢えず中でゆっくりして貰おうと思うのだが」
スピネルがそう言うと、セレスは「こちらにどうぞ」と店の奥に案内した。




