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天然石に愛された娘  作者: 月森杏
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第15章

 

 ラリマーの石の精マールは「早く、早く!」と瑠璃と月人を急かせる。小川の飛び石を渡っている時も、月人の周りをパタパタと飛んでひたすら急かす。

「瑠璃さん、大丈夫かい?」

 月人は振り返ると、後ろをついてくる瑠璃を気遣って声をかけた。

「はい。大丈夫です」

 飛び石は思っていたよりも間隔が開いていて、瑠璃は慎重にひとつひとつを飛んでいく。

「マール、あんまり急かせて、瑠璃さんが川に落ちたらどうするんだ!」

 マールはハッとして瑠璃の近くまで飛んでくると、「瑠璃さま、落ち着いて!ファイトです!」と応援してくれた。丸っとした体に不釣り合いな小さな翼をパタパタさせているのが、めちゃくちゃ可愛い。


 向こう岸に辿り着いてホッとしたところで、月人が道の端の草地に敷物を拡げた。

「予定通り、ここで少し休んでいこう」

 月人が休憩の準備を始めると、またマールが騒ぎ出す。

「何で?なんでだよぉ~!もっと急ごうよ~月人!みんな待ってるぞ!」

「もともとここで休憩するって決めていたからな。喉も乾いたし。そんなに焦っているなら、お前、先に戻って俺たちがここまで来てるって伝えてこい」

 月人が珈琲をポットからカップに注ぎ、『ラパン』の紙袋からフィナンシェを取り出しながら言った。


 マールは明らかに動揺していた。月人が袋から出したフィナンシェと瑠璃をチラチラ見比べる。

「瑠璃さまが休むなら、僕も一緒に休憩する。もう離れない!」

 そう宣言すると、マールは敷物の上に腰を下ろした。

「さあ、どうぞ!」と月人が瑠璃に、珈琲とフィナンシェを手渡してくれた。

「ありがとうございます。月人さん、珈琲まで持参してくれてたんですね。まるでピクニックみたいです」

 瑠璃がフィナンシェを一口食べて、笑顔で答えた。

「それに少し糖分を採ると元気もでる。マール」

 月人は大人しく座っているマールにも声を掛けた。

「お前たちは人間の食べ物を食べられるのか?」

 マールは大きな瞳をうるうるさせてうなづいた。

「うん。食べれる」


 フィナンシェの個包装を開けてマールの前足に持たせてあげると、マールは瞳をキラキラさせて嬉しそうにもぐもぐ食べた。

「うんまい!」とマールはご機嫌だ。

「お前がお菓子好きとは知らなかったよ」

「実際に食べたことはなかったけど、『ブルームーン』に意識を向けた時に、瑠璃さまや月人たちから『美味しい』って気持ちが伝わってきて、それってどんなことなのかずっと気になってた」

「大丈夫か?食べても影響ないか?」

 月人が美味しそうに食べているマールの様子を、少し心配そうに見る。

「今、すご~く、幸せだよ。僕」

 マールは見ている瑠璃まで幸せになっちゃう笑顔だった。


 月人が珈琲が入っていたポットに小川から水を汲んで、自分でもカップで飲んだ。瑠璃もマールも飲んでみた。

「冷たくて美味しいですね。雪解け水みたいです」

「ああ、川底の水晶が水を綺麗にしてくれているからな」

 月人がそう言うと、マールは「フフン」と何処か得意そうに笑った。

「じゃあ、そろそろ行こうか」

 敷物とポットとお土産の入った『ラパン』の紙袋をリュックに詰めながら月人が立ち上がると、マールが「やっとか……」と言うように翼をパタパタさせた。

「マール。お前はあまり遠くまで飛んだ経験がないんだろう?俺の肩に乗っていろ」

「そう?別に疲れた訳じゃないけど、月人がそう言うならそうしようかな」

 マールは瑠璃の方をチラリと見てから月人の肩に乗った。


 石の道をまた歩き始めると、先程よりもさらにスピードが増している感じがした。

「さっきよりも速くなっている?」

 瑠璃がそうつぶやくと、マールが月人の肩から振り返った。

「みんな、瑠璃さまに早く会いたいなって思っているんです」

「私ね、みんなの声が聞こえないの。向こうの『ブルームーン』にいる時も、こっちに来てからも。どうしてみんなは、私に会いたいって思ってくれるのかしら?」

 瑠璃がずっと思っていた不安を口にすると、マールは少し首を傾げた。

「僕たちが瑠璃さまに会いたいのは、瑠璃さまが瑠璃さまだからで理由とかわからないです。瑠璃さまから感じる波動が、とにかく心地よくて懐かしくて、会いたいな、お話ししたいな、出来ればお守りしたいなって思うんです」

「そんな……」瑠璃は思わず手を口に当てた。


 瑠璃はマールたちの根拠のない好意が不安だった。瑠璃にはその『波動』と言うのが感じられないのだから。

「あまり気にすることはないんじゃないか?俺たち人間だって、初めて会うのに感じがいいって思うことがあるだろう?それと同じだ。石たちの方がより感じられると言うだけだ。ここの世界ではマールのように話せるモノもいるから、これから仲良くなればいいと思う。目に見えないもの、理由がわからないことは不安かも知れないけど、石たちが変わることはないよ」

 月人は優しく微笑むと、「そして俺も……」とつぶやいた。


 森はますます近づき、一本一本が見上げるような高さに感じられた。

 天然石の道は森の奥まで続いており、鬱蒼と繁る森の中でもキラキラと輝いている。

 森の入り口に立ってみると、木漏れ日が水晶の柱に当たり光を反射して、思っていたよりもずっと明るかった。巨大な木の根もとには、キノコのようににょきにょきと六角柱の水晶が生えていて、繁みには真っ赤な石が木の実のように生っていた。地表はふかふかの苔で覆われていて、所々に天然石の結晶が落ちていた。

「すごいです!ほんとうに『水晶の森』何ですね!水晶の柱がキラキラしてます。柱って言うか塔みたいですね。大き過ぎて見上げていると首が痛くなりそうです。あっちはルチルクォーツの柱ですね。金の針がいっぱいです。あの木の実みたいな石はルビーですか?ガーネットですか」

 瑠璃はいちいち反応して大興奮だ。そんなに様子を月人とマールは嬉しそうに見ていた。


「瑠璃さん、ここのは採掘前の石なんだよ。森を抜けると村があって、そこの人たちが計画的に採掘して加工している。それをルーナのお祖母さんの店で一手に扱っていて、俺はそれを仕入れに行っているんだ」

「ルーナのお祖母さん、すごい!大好き!」

 マールが嬉しそうにしっぽを振った。

「ルーナさんのお祖母さん……私も会ってみたいです」

 瑠璃がそう言うと、マールは少し顔を歪めて「でもルーナは我が儘!」とため息をついた。

『そうなんだ』瑠璃は店に来た時のルーナを思い出して、心の中で少し笑ってしまった。

「まあ、確かにな」と言って月人も笑った。


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