第14章
青空のもと、花が咲き乱れる草原の道を歩くのは、楽しく気持ちがよかった。道は緩やか登り下りを繰り返し、表面は平らで歩きやすく、キラキラと輝く極々細かい石が敷き詰められていた。
月人と並んで歩いていると、最初は遠くに霞んで見えた森の輪郭が、だんだんとハッキリ見えてきた。のんびりと歩いているのに、森に近づく速度があまりにも速くて、瑠璃は首を傾げた。
「これも石の力のおかげだよ。敷き詰められた石が、実際に歩くスピードより速く『水晶の森』に導いてくれてるんだ」
瑠璃が不思議に思っていると、月人が説明してくれた。
「『動く歩道』みたいな物ですか?」
瑠璃はイメージを膨らませて思いついた物を言ってみた。
「う~ん。近いけど、ちょっと違うね。これは、ゆっくりでも歩かないことには進まないから」
「じゃあ、はりきって歩きましょう!」
少し歩いたところで、月人が考えながら口を開いた。
「でも、石たちが瑠璃さんがこの世界に来たのに気がついて、早く会いたくて急がせれるのかも知れない。俺がいつも通っている時より、近づくスピードが速い気がする」
「そうなんですか。私には全然わからないです。でも、最初は森なんか全く見えなかったのに、もう森の木々がわかるくらい近づいてますね。これも石の力のおかげなんですよね。すごいなあ」
瑠璃は興味深そうに、ますます近づいてくる森を見つめた。
『水晶の森』は樹齢何百年の木が集まった大きな森で、木と木との間に、キラキラ輝く六角柱の水晶が塔のように顔を出していた。
「とっても、綺麗です。やっぱり、水晶にも色々ありますね」
「『水晶の森』と言ってもそれは総称で、場所によっては水晶以外にも、色々な天然石が採れるんだよ」
「わあっ、すごく楽しみです!」
瑠璃が嬉しそうに大きな声を出すと、月人も嬉しそうに笑った。
緩い起伏の草原を見下ろすと、道と交差するように水色に輝くリボンのような小川が流れていた。
「あ、あの小川を渡るんですね。川にジャブジャブ入って渡るんですか?」
瑠璃は少し心配そうに足元のスニーカーを見た。月人も瑠璃の足元を見て首を振った。
「いや、大丈夫だよ。今の時期は川の流れも浅いし、向こう岸に渡れるように平らな飛び石があるから」
「そうですか。よかった」
「川に着いたら少し休憩をしようか」
「えっ?もうですか?」
「じゃあ、川を渡ってからにしようか。水辺の方が気持ちいいと思うよ」
「はい。わかりました」瑠璃はまだ大丈夫なのに、と思いながら返事をした。
小川までの道は瑠璃が思っていたよりも遠く、着いてみると小川自体も川幅が広かった。
「やっと小川まで着きましたね」瑠璃がホッとしたように息を吐くと、月人が小川を指差した。
「瑠璃さん、川底を見てごらん!」
月人の声に慌てて川底を覗きこんだ瑠璃は「わあっ」と声をあげた。
「すごい!川底に天然石がいっぱい!」
川底の石は流されて角が丸くなった水晶やアクアマリン、翡翠、アメジストだった。所々にラピスラズリもあった。陽を受けて、水面だけではなく、川底の天然石もキラキラと輝いていた。
「綺麗ですね……」瑠璃がため息をついた。
思わず駆け寄って小川に手を入れると、水は冷たくて気持ちよかった。
底を探ると、いくらでも石を取ることができた。一粒一粒が色も大きさも形も違って、瑠璃は飽きることなく掴んだ石を光に翳した。
小川のせせらぎと共に小さな笑い声が聞こえた気がした。それがとっても心地いい。
「瑠璃さん、すごく歓迎されてるね」
近くで月人の声がした。今までで一番優しい声だった。
驚いて振り向くと、眩しそうに目を細める月人がいた。
「あ、月人さん、ごめんなさい。あんまり綺麗だったから夢中になってしまって」
瑠璃は恥ずかしくて頬が熱くなるのを感じて下を向いた。
その時、突然『ブゥン』と言う音がして、何かが瑠璃に体当たりしてきた。驚いて目を見開く瑠璃に、それは嬉しそうに叫んだ。
「瑠璃さま!お待ちしてました!」
キラキラした黒曜石のような瞳で瑠璃を見つめて、会いたかったと言うように、しがみついた瑠璃の腕に頭をすりすりしてくる。
「えっと……」困って月人を見上げると、月人はそれを瑠璃から引き剥がした。
「少し落ち着け!」
月人に片手で掴まれたそれは、手と足と翼をバタバタさせた。大きさは黒猫のタマくらい、見た目は竜に近いけれど、もっと丸っこくって縫いぐるみみたいに可愛い。ブルーグレーに光る鱗に覆われているのに、当たった感じは柔らかかった。
「こら!月人、放さぬか!は~な~せ~!」
「マール、暴れるな!とにかく落ち着け!瑠璃さんに嫌われても知らないぞ」
ジタバタと暴れていたマールは、月人のこの言葉でピタリと動きを止めた。月人が手を離すとマールは瑠璃の目の前にパタパタと飛んできた。
「瑠璃さま……」と涙目のマールに瑠璃は目をパチパチさせた。
「えっと……あなたは?」『何?』と言う言葉を飲み込んだ。
「僕はマール。ラリマーの石の精です。瑠璃さまに早く会いたくて、森から飛んできました」
「初めまして。瑠璃です。会いにきてくれてありがとう」
マールは嬉しそうにしっぽをブンブン振った。
「月人がついてるのに、あまりにも遅いから僕が代表で様子を見にきたんです」
「いつもより道のスピードが速いくらいだったぞ。待てなかったのか?」
月人が呆れたようにマールを見ると、マールはガックリしたように月人の肩で翼を休めた。
『可愛い。でも月人さん、重くないのかしら?』割りと丸々しているマールに瑠璃は心配になった。
『あっ、だからマール?』って思ったことは内緒だ。




