表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヤンデレ少女の弟子にされたんだが。  作者: ぱりぽり土鍋
第三章 二人の魔導士の弟子
56/168

次なる試練なんだが

「どうしたの?二人とも神妙な顔をして」


 不思議そうな顔で俺とセルティに聞くアリサ。

 エリーはアリサの背後でそっぽを向いていた。


 用事(・・)から帰って来たアリサとエリーに、俺達は早速話をつけに来たのだ。


「アリサ、セルティのことだが……」


 ――どう切り出すべきか。どうにかセルティのことをまずは形からでもいいから受け入れてほしい。


「いいわよ」

「確かにセルティは風の魔導士の弟子、だ。でもだからと言ってセルティに俺達をどうこうしようという気はない。俺達は共に生きていける」


 ――とにかくセルティは俺達の仲間だと言うことをわかってもらうのが一番だ。説得はその方向で行こう。 


「だから、いいって言ってるでしょ?」


 ――そうだ、セルティはいい(・・)子なんだ――。


「だからどうかセルティのことを……って、なんだって?」

「許可するって言ってるの。セルティ、貴方が私の研究所に滞在することを許します!」


 びしっとセルティを指差しながら、アリサはそう宣言した。


「あ、アリサ……!」

「ただし、ここの一員として、働いてもらうわ。この意味わかるわね?」


 アリサはちらりとセルティに視線を送る。 


「……はい。構いません。ですが、あくまで仲間として、です。私は、私の大事な人(・・・・・・)を最優先にして生きていくつもりですから。そこは何があろうと譲るつもりはありません」


 試すようなアリサの鋭い眼光に物怖じせず、そうはっきりと言い返すセルティ。


 その様子にアリサはふっと満足そうに笑った。


「……合格よ。わかってる(・・・・・)わね、あなた。

 ――いいでしょう。正式にあなたを我が研究所の一員と認めるわ。エリーはどうかしら?」


 それまで機嫌が悪そうにしていたエリーはちらりとセルティを睨む。


「そうだね、まぁいざって時の()くらいにはなるだろうし」


 その言葉には、あからさまな苛立ちという名の棘が含まれていた。


 ――前のあれか。エリーは、俺にセルティの匂いが染み付いてるとか言って怒っていたっけ。……獣人には気になる匂いなのだろうか?まぁ生理的に無理な臭いって誰にもあるからなぁ……。それを日常的に感じることとなったら、確かにそれはストレスになるだろう。

 あとでくわしく話を聞いとかないとな。フォローもしなくては。できるだけエリーにもセルティと仲良くしてほしい気持ちは嘘じゃない。


 などという俺の思いとは裏腹に。


「ええ、もちろん。私がエドガーさんを命に代えても守りますから、あなたは指でもぺろぺろ舐めながら、エドガーさんと私の物語を端の方で見ていればいいですよ?」


 してやったり、という風に僅かに笑いながらセルティは言い放つ。


 言い返されたエリーは一瞬呆気にとられたように固まると。

 徐々に自分が何を言われたのかを理解していく。


「な、な、な……そんなの私がゆるさない!エドガー!私が絶対守るからね!お前みたいなちんちくりんの出る幕なんてないんだから!」


 そう啖呵を切ったエリーは。

 ぐっと歯を噛みしめ、キラリと牙を剥き出しに。

 そして目は興奮で赤く染まっていく。


 ――本気で怒ってるじゃないか!


「そんなことはありませんよ?私とエドガーさんはもはや運命共同体。お互いに一生支え合おうと誓った仲なんですから。この身を挺してでもお守りしますとも」

「一生……誓った?え……ちかったの?えどがー……!そんな……ずるい……ひどいよ!エドガー!」

「エドガーさんは悪くないですよ?ただ私とエドガーさんの相性が良かった……お互いを求め合っていたことに気付いた……!ただそれだけのこと……!」

「うう……やっぱりお前なんかゆるせない!エドガー!このちんちくりん私きらいだよ!どうにかして!」

「そ、そんなこといわれてもな……」


 勝ち誇ったように俺との関係を誤解が生じるように(・・・・・・・・・)丁寧に言っていくセルティと、それを必死に涙目で否定するエリー。


 まずはエリーの誤解を解いて。

 セルティのその紛らわしい発言を止めさせる。


(……何よりもまず、これから始めなくては)


「くく……二人の相性ばっちりじゃない。これから楽しくなりそうね、エド」


 おなかを片手で抱えながら笑い、目頭を押さえるアリサ。


「そうだと、いいんだけどな……」


 しみじみと困ったようにそう呟く俺に、さらにアリサは噴き出した。



 ***



「……と言う感じだ」


“重畳重畳。丸く収まったではないか”


 ソファーに寝っ転がりながら自分の灰色の髪をくるくると回している一人の少女。

 そんな様子のベロニカを眺めため息を吐きながら、俺はぎしりと椅子の背に体重をかけた。


「なんとかってところだな」


“ふふふ、お疲れのようじゃな、エドガーは”


「そりゃそうさ。俺の弱さ、ていうのを思い知らされた。魔術が強いだけではいけないってな」


“それはそうだのう。この世にはいろいろな形の強さがある。武力。財力。権力。そして安っぽく聞こえるかもしれんが……愛の力じゃ。親子、兄弟姉妹の家族の絆。友人同士の信頼。恋人への思いやり。これらは時に、困難な状況を打開する一筋の光となりうる。その可能性を秘めておる”


 だが、とベロニカは続ける。


“それ故に途方もなく滑稽なものなのじゃ。この世というものは、の”


「……それはどういう意味だ?」


“気にすることはない。先達からの教訓じゃ”


 ――わけがわからん。


“まぁ妾からそんなところじゃ”


 ――それでは、とベロニカは言葉を続ける。


“もう今日は休むがいい。また余裕が出来た時に顔を見せてくれると、妾は嬉しいぞ”


「――待て」


 俺の前から消えようとするベロニカを、俺は引き止めた。


 ――ダメだ。そう、このままではいけない。このままベロニカに別れを告げてはいけない。俺の何かがそう告げている。


「まだ、ある。お前に用がな。俺達のゲームはまだ終わっていないだろ?」


 ゲーム。それが終わるまでは、俺の中でこの物語は完結しない。


“……そうか。そうじゃったな”


 ベロニカは思い出したかのようにそう小さく呟く。


“だが、これは権利(・・)じゃ。あくまで知る権利が、お主にはあるということ”


 淡々と。

 虚空を見つめながら。


 ――権利?

 もし。

 俺が今聞かなかったとしたら、ベロニカはどうしたのだろう……?


“覚悟を決めねばなるまいよ。お主も。そして妾も”


 そして感情の一切が抜け落ちた視線を俺にゆっくりと合わせると、それは始まったのだ。


“さぁ、悲劇の幕をあけようか(・・・・・・・・・・)



 ***



「――はッ!はぁ――はぁ――」


 やっと(・・・)――目が覚めた。

 外はまだ暗い。

 まだ夜中。


 ――息が上がっている。寝汗が気持ち悪い。頭痛が、吐き気がする。

 俺はベットから起き上がって、ふらふらと台所へと向かう。

 ――水が、欲しい。


 だが、俺は気付いていなかった。


 誤算――いや、俺の注意が散漫としていただけ。



「どうしたの、エドガー?」

「――ッ!」



 完全な俺のミス。

 エリーが既(・・・・・)にそこにいた(・・・・・・)


 

 ――しくじった。今の俺を見られてはいけなかったのに。誰にも気づかせてはいけなかったのに。

 

 俺のただならぬ様子に心配そうに駆け寄って来るエリー。


「ねぇ、顔色悪いよ、息も荒いし……大丈夫?アリサ様呼んでこようか?」


「ダメだ!」


 そう叩きつけるように言った俺の剣幕に、ふるり、とエリーが怯えるように震えた。

 

 ――思わず強く言ってしまった。だけど、だめなんだ。それが一番ダメだ(・・・)


 アリサにだけは――だめだ。


「エリー、今晩ここで会ったことは忘れてくれないか?」


 エリーの肩を掴むようにして、そう説得を試みる。


「え、でも――」


 『心配するな、俺一人で何とかする』――。


 とそう言おうとして。

 それこそだめ(・・)なんじゃないか、と気づいた。

 それでは今までの俺と同じ。

 ――俺には、仲間がいる。俺と困難に立ち向かってくれる、仲間がいる。


「また、話をしよう。俺の話を聞いてほしい。そして、俺の力になって欲しいんだ。いいか?」


 俺の必死な問いかけに、エリーはこくこくと頷いた。


「……わ、わかった。わかったからエドガー……痛いよ、肩……」

「――ッ!わるい」


 ぱっと手を離す。


 ――どうにも今の俺はだめだ。冷静さが欠片もない。

 あまりにもひどい。なっていない。


「ううん、べつに大丈夫だよ。また近いうちに聞かせてね。私でよければいくらでも力になるから」


 俺を安心させるように微笑んでエリーはすっと俺から離れた。


「それじゃ、おやすみ、エドガー。体調悪そうなのは確かなんだから、無理しちゃだめだからね?」

「ありがとう、エリー。お休み」


 軽く手を振り、別れた。


 俺はエリーを見送ると、ソファーに沈み込むように座り、自分の頭をぐっと押さえる。


 ――だが、なんて言えばいい?


 ――アリサが死んでしまうかもしれない、だなんて。



 ***



「エドガー……」


 エリーは不安だった。

 先ほどのエドガーの様子。

 見たことない、あんなに何かに心を掻き乱されたあの人は。


 ――でも。


 それと同時に、少し嬉しかった。

 あの人は私に助けて欲しいと言ってくれた。

 あの人が私に頼ってくれた。


 ――何なのだろう。


 この不思議な充足感は。万能感は。

 今ならなんだってやれる気がする。

 グラムに勝つことだって。あの男(・・・)を殺すことだって。


 でも、私がやるべきことは一つ。


 ――あの人の()となること。


 そう考えただけで、胸が歓喜で締め付けられる。 

 それに耐えられず、ぎゅうと布団を抱き締めた。


「心配しないで、エドガー。私が何とかして見せるから……!」



 ***



 狂った歯車(・・・・・)は、回り始めた。


 それをもう、誰も止めることはできない。


 エドガー。

 アリサ。


 二人を待つのは、ただの別れ。


 私達(・・)と同じ、ただの運命(ふこう)


 そしてそれは二人のみならず。

 周りを。世界を。

 巻き込んで広がっていく。


“さぁ、妾に見せておくれ。お前たちの物語を。救済による希望か。破滅による絶望か”


 ――この死に損ないに見せておくれ、お前たちの結末を。我が愛しの弟子、エドガーよ。








 第三章――二人の魔導士の弟子


 終

幕間を挟んだ後、四章は毎日不定期に夕方ごろ更新します。

ブクマ評価よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ