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ヤンデレ少女の弟子にされたんだが。  作者: ぱりぽり土鍋
第三章 二人の魔導士の弟子
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喧嘩なんだが


「それではどうぞ召し上がって下さい、エドガーさん」

「お、おお……!」


 朝御飯。


 俺の目の前のテーブルに並ぶ数々の料理。


 瑞々しい野菜のサラダに、柔らかそうなパン、甘い匂いのするパイ、ころころとじゃがいもやニンジンやサイコロ状の肉を煮込んだシチュー。


 どれも本当においしそうで、視覚と嗅覚、共に俺の食欲を誘う。


「いただきます……!」


 手を合わせることを忘れずに、俺はそれらへとがっついた。


 ***


「ふぅ……食った食った……!」

「ふふふ……おいしいかったですか?」

「ああ……うまかった……ごちそうさま、セルティ」

「お粗末様でした。それでは私は食器を片付けてきますので、エドガーさんはソファでゆっくりとしていてください」

「俺も手伝おう」


 それにセルティは手を振って応えた。


「大丈夫です、エドガーさん。私の水魔法なら、そんなに手間もかかりませんし、すぐに終わらせられますから」


 確かに水魔法を使うことが出来ればだいぶ楽になるだろう。

 というか俺はむしろ邪魔であるのを、セルティなりに気を使ってそう言ってくれたのかもしれない。


「なら、頼む。セルティ」

「はい。任せてください」


 ***


「セルティ、洗濯物は何かあるか?」

「あ、それも私がやっておきますから、エドガーさんは昼寝でもしてゆっくりしててください」

「あ、水魔法か……なら頼めるか?」

「はい、それではエドガーさん、失礼します」


(やることがなくなったな……)


 俺は大人しく昼寝をすることにした。


 ***


「う~ん、よく寝れたな……セルティ?」


 かすかに俺の布団の中に俺以外の温もりが残っている。

 先ほどまでここでセルティもいたのかもしれない。


「セルティ?どこだ?」


 そしてリビングまで辿り着いた俺が目にしたものは。


 ――夕飯。


「エドガーさん、おはようございます。丁度良かったです。今起こしに行こうと思っていましたから」


 エプロンを外しながら席に座るセルティ。


「あ……ああ」

「?どうしたんですか?エドガーさん」

「いや、なんでもない……う、うまそうだな、夕飯も!ありがとな、セルティ!」


 セルティとの生活一日目にして。

 セルティを支えなくてはと思っていた俺は、いつの間にか逆にセルティに頼りきりで生きていた……!


 ***


 セルティが沸かした風呂からでると、彼女は髪をタオルで拭きながら、ほんわかした顔でソファーでゆっくりとしていた。


「あ、エドガーさん。お風呂のお湯加減はどうでしたか?」

「ありがとう、いい感じだったよ」

「なら、よかったです」


 ニコリと輝く笑顔になんだか心が洗われる。

 俺もセルティの隣に座って、頭をタオルで拭いた。


 その間は、なんとなくお互いに話しはしない。静かな空間の中、お互いの様子をチラチラと確認する。


 何となく、予感があった。何かが起こる、予感が。


 そう、本当に(・・・)二人だけの夜が……来たのだ。


「あの……エドガーさん」


 ぽうっとした表情でセルティは俺を見上げる。その碧眼は僅かに潤んでいるように見えた。

 そしてコテリと頭を俺に預けるセルティ。


「な……なんだ」


 ぐいぐい来るようないつもとは少し違った感じのセルティが、俺には何となく新鮮だった。


「お風呂上がりのエドガーさんは……なんだかいい匂いがしますね。いつものエドガーさん全開の香りも大好きですけど、こちらは何だが頭がふわっとします……」


 ぎゅっと両手で俺の寝間着を恥ずかしそうに握りしめるセルティ。だがそのチカラは弱弱しい。

 俺の方も、お風呂上がりのセルティの暖かな香りで頭に少しずつもやがかかっていくような感じがした。


「あの……やさしく抱きしめてくれませんか?エドガーさん」

「……ああ」


 俺はほそくて折れてしまいそうなセルティをやさしく包み込むように抱き締める。


「ふぅ……」


 セルティはそれに満足げにため息をつくと。俺に全体重を預けてきた。


「……安心します、エドガーさんといると」

「……俺もなんとなくそんな感じがする」

「何ででしょうね」

「……それはわからん」


 俺の投げやりな答えに、くすりとセルティは笑った。


「私、ここに来るまでは生きることに不安しかなかったんです」

「生きることに?それはまた大層な悩みだな」

「はい。でもそんなことを本気で考えていました。ですが……」

「……」


 セルティは、笑みを浮かべる。まるで世界で一番幸せなのは私だと言うように。


「私、今人生で最高に幸せです。貴方と出会えたから。貴方が私といてくれたから、だからなんだと思います、エドガーさん」

「……!」

「ですから」


 とセルティは言葉を続ける。


「私を受け入れてくれませんか?私をあなたのものに……してほしいんです」


 真剣にセルティは問うていた。

 セルティの俺に対する大きすぎる信頼、そして愛情。

 痛いほどにそれが伝わって来る。


「大したものではないですが、この身を、この心を。私のすべてをあなたに捧げたいんです。私はあなたのために生きていきたい。そしてそんな幸せな生き方を、こんな私ですが、どうか許してはくれませんでしょうか?」


 まぎれもない本心。


 その真摯な言葉、態度。


 疑うまでもない。


 ――でも、違うんだ。


「それは――できない。セルティ」


 そう告げる。


「俺はそんな生き方を許すことはできない」


 そう、俺の。俺なんか(・・・・)のために生きるべきではない。


「君は君のために(・・・・・)生きるべきだ」


 ――俺は君を一生裏切らないなんて重い約束を、守れる自信がないんだ。


 俺は今の自分の在り方(・・・・・・)に、自信がないんだ。


「……!そんなもの……!」


 セルティはぐっと歯を噛みしめ、言葉を紡いでいく。


「違います!そんなこと何度だって考えました。だから今ははっきりと言えるんです!私が貴方と一緒にいたいと思う!一人苦しんでいるあなたを支えたいと思う!だから私はこの生き方を選ぼうと思った!何でわかってくれないんですか?」

「セルティこそそれは違うだろ!

 ならこう言ってやる!俺は苦しんでなんかいない!俺はセルティの助けなんて必要ない!セルティは自分の好きなように生きていけばいい!俺のできることならなんだって手伝ってやる!」

「嘘!エドガーさんは苦しんでる!貴方は私といるとき、いつも私のために泣いてくれるじゃありませんか!私の所為で、苦しんでるじゃないですか!」

「違う!そんなことはない!俺はそんなことで苦しんだりは……」

「エドガーさんは、わかってない!私が今、何が一番大切なのか!誰と一緒に生きていきたいと思っているか!誰の苦しみをわかってあげたいと思っているか!私の気持ちを全然わかってないじゃないですか!」

「そんなものはまやかしだ!だから俺は、俺は――俺なんか(・・・)のために生きる必要はないって言ってるんだ!」


 ――しまった、と思った時には、遅かった。



 ――パシリッ!



 乾いた音が部屋に響く。



 ……俺がセルティに頬を叩かれたと気づいたのは、少し経ってからだった。


「そんな悲しいこと言わないでください――エドガーさん」


 泣きそうな顔で、セルティは俺に語り掛ける。


「エドガーさん。貴方がなんと言おうと私は心を曲げることはありません。私はあなたと初めて会ったあの日、私を初めて抱き締めてくれたあの日、わかっていたと思います。その時貴方を好きになったんだと思います」


 ――どうしてなんだ。


「貴方との日々は本当に最高でした。私は今までで一番、誰かの温もりを感じることが出来た。安心して誰かに心を開くことが、そして愛することが出来た。初めて自分と言う存在と向き合ってくれる人と出会えた。貴方は私の特別なんです。貴方に変わる人を、私は絶対に見つけられません」


 ――どうして俺なんだ?


「だってあなたが、私が苦しんでいる時本当の意味で救ってくれた唯一の人なんだから。だから、私はあきらめません。貴方がなんと言おうと。絶対に支えて見せます。私がもらった幸せの何分の一を返せるかはわかりません。ですが、ダメダメな私でも、全力を尽くせばあなたのために何かができると、そう信じています」


 ――どうしてそこまで思ってくれるんだ?俺のことを――!



あなたを愛し(・・・・・・)ているから(・・・・・)



 ふわりと髪をなびかせながら、セルティが俺から離れる。


 そして一人の少女は、俺に一礼した。


「――それでは失礼します、エドガーさん。良い夢を」


 地下室へと向かうセルティの背中を、俺は言葉を何もかけられず見ていることしかできなかった。

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