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ヤンデレ少女の弟子にされたんだが。  作者: ぱりぽり土鍋
第一章 異世界召喚とヤンデレ魔導士
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初戦闘なんだが

「魔獣の骨のナイフ10、魔獣の牙20、非常食、飲み水、ロープ…」


 いよいよ魔獣狩り当日だ。

 入念に準備しなくては。

 俺は、マジックバックに武器など必要なものを入れていく。


 ちなみに、マジックバックとは、その見た目より多くの物を入れられる便利アイテムだそうだ。

 ただ、聖遺物と呼ばれる、現在の技術では再現できない技術が使われた貴重な一品であるとのこと。


「――あと、私のお弁当」


 どん、と俺の目の前にばかでかい弁当箱がおかれる。


「……」


 (……こんなにたくさん食う余裕は流石にないんじゃないか?)


 そう思って見上げると、アリサはもう準備が済んでいた。

 長い髪をサイドにまとめ、腰にマジックバックをつけている。


「今日は真っ黒なんだな」

「ええ、日差しは私の天敵だから。魔獣狩りの間、日傘をさしているわけにはいかないしね」


 アリサはその白すぎる肌を真っ黒なシャツ、ズボンで包んでいた。

 ところどころにある赤い刺繍がいいアクセントになっている。


「エドガー、準備はできた?行きましょう?」

「大丈夫だ。行こうか」


 マジックバックを腰にひっかけ、すぐに使えるよう装備してある、ベルト、肩、ズボンのナイフホルダーを確認する。


 ――そして、俺は異世界に来て1ヶ月にして初めて、アリサの結界から足を踏み出した。


 

 ***



 アリサの家には、森へ幾つもの道ができている。

 アリサが魔獣狩りに行く時や、ほとんど稀だが街へ出たり、魔術師協会なるものに研究成果を発表しに行ったりする時などに使うようだ。

 道といっても獣道のような荒れた道だが……。


 俺たちはその一つを通って、アリサの狩場の一つへと向かった。



 ***



 1時間ほど森を歩くと、湖を中心とした広場のようなところに辿り着いた。


 アリサはその全体が見渡せる茂みに隠れる。

 俺もそれに従い、近くの茂みに身を隠した。


「――エドガー、あそこよ」


 アリサが湖を指で示す。

 ターゲットはあそこに来ると言うことか。


「こんな見渡しのいいところでやれるのか?

 魔獣もこちらに気づくだろう。逃げられないか?」


 俺がそういうとアリサはちっちっと指を振った。


「魔獣は逃げないわ。

 やつらは人を見ると、絶対に襲い掛かる」

「…そりゃまた厄介なもんだな」


 でも、と俺は続ける。


「それなら逆に、その習性を利用して罠に嵌めたらどうなんだ?滅ぼすのも簡単だろう?

 ……まぁ、それができてないから今も人族は苦しんでいるんだろうけどな」


 アリサはそれに頷く。


「そう、それが魔獣の脅威の理由の一つであり、謎でもあるの。

 魔獣の性質を利用してあげれば罠にかけることは簡単よ。でもいくら殺しても、殺し尽しても、魔獣はいなくならないの。どれだけ殺しても、一時的に数が減るだけで、すぐに勢いを取り戻す。繁殖能力が高いのか、それとも私たちが知らない仕組みが生態系にあるのか……。

 まぁそんなことはどうでもいいわ。それより見て」


 アリサが指す方を見ると3匹の犬のような魔獣が広場の湖へと向かっていた。


「あれが魔獣か…獣と変わらないな」

「油断はだめよ。魔獣はその魔力で肉体を強化している。普通の獣と比べ、格段に力と凶暴性が高いわ。

 前に言ったでしょう、魔獣の素材が魔力の影響を受けやすいって。それも魔獣が強い理由の一つかもね」

「それで、どうする?」

「あの魔獣は湖に入って魚を捕るの。私が魔法であいつらの足元の水を凍らせるから、そこを狙って倒して。まず足を切り落とし動けなくしてから頭にとどめを刺す。これが一番安定してやれるはずよ」

「――やれなかったときは?」


 アリサは俺をじっと見つめ――口を開く。


「……死ぬわ」

「……」


 ぞくり、と背筋が震え、重い沈黙が俺達を包み込む。


 しばらく見つめ合うと、アリサはいたずらっぽく笑った。


「――()よ。そうなったら、あたり一面凍らして研究所まで逃げればいいだけ。結界までは魔獣も追ってこないしね」


 (脅かすなよな……)


 ほっと俺は胸を撫で下ろす。


「ひとまず安心した。アリサが凍らせたら俺が突撃して殺す。こんな簡単な作戦でいいんだな?」

「作戦の方はそれで完璧よ。エドは少し心配症なのよ」


 アリサはそう言うと、魔獣たちの方へと鋭い視線を送った。


 ちらり、とそんな彼女を見つめる。


 (……何が俺が心配症だ。アリサの方こそ一人で魔獣を狩っていた時は、今みたいな適当な計画ではなく、何重にも策を張り巡らせて慎重に戦っていたに違いない。その経験があってこそのこの余裕なんだろ?)


「――了解。タイミングは任せる、アリサ」


 魔獣たちが池で遊んでいる。

 俺達は池からギリギリ見えないところまで移動した。


「ええ、エドの周りは私が見てるから、安心して目の前の敵と戦ってきて」

「……ああ」


 俺はじっと息をひそめ、その時を待つ。


 ガウガウ、と湖で魚を探してはしゃぐ魔獣達。


 俺達がそれを観察していると、魔獣達が俺達が潜んでいる場所とは反対方向を向き、湖へその口を突っ込んだ――。


 それはつまり、俺達が死角から襲える瞬間であるということ。


「――いくわ」


 そのタイミングを逃さずアリサの魔術が発動し、湖の魔獣の周りの水が一斉に凍る。


『――ガギャッ……!』


 それに魔獣たちが驚きの声を出そうとした瞬間――――俺は、茂みから飛び出した。


 魔獣たちの死角から、俺は接近する。


 ――全力で走る。

 一秒でも早く(・・・・・・)

 一瞬でも早く(・・・・・・)


 全身に魔力が流れるのを感じる。

 ――今は走り、近付くことだけを考えろ。


『――ガァッ!?』


 俺の足音で、即座に魔獣達の意識は湖が氷凍ったことから()へと移る。


 (――遅い)


 だがもう既に、反応するには遅すぎる。

 この時、俺と犬共との距離は10m以下。

 今、お前たちは()に気づいたが――もうお前達は俺の『領域(・・)』内にいる。




 ――魔術(・・)イメージ(・・・・)だ。


 そして今、俺に必要なのは視覚のみ。

 視覚以外の感覚を完全に脳から遮断する。

 狙いを定めることにだけ、全意識を傾ける。


 犬の手足、首を見定める。

 両手には、4本ずつ、計8本のナイフ。

 俺の周囲の空中には、7本のナイフ。

 合計15本。

 一体に5本ずつ当てる。


 今、俺の思考はナイフで魔獣を殺すことのためだけにしか存在しない。

 俺の領域内のナイフが1本もぶつかり合うことなく、正確に魔獣を切り刻む。


 ――それだけをイメージする。


 ――ビュゴォッ!!!


 ――俺のナイフが飛んでいく。

 

 両手から、空中から。

 心配するな、外れない(・・・・)

 俺の魔術は――外さない(・・・・)


 俺のナイフ達が魔獣の首と手足をほぼ同時に切り裂いていく。

 一本もイメージからずれることはない。

 犬共の胴体がずり落ちる。


 俺のイメー(・・・・・)ジ通りの光(・・・・・)景が目の前(・・・・・)に広がる(・・・・)



「すごい……一瞬で……!」


 

 魔獣の首がこちらを向いた時――俺の合計15本のナイフは、既に魔獣の4肢と首を切断していた。


 そこに肉を切る感触はない――だが、命を断ったという感覚が、確かにあった。




 俺の人生初の狩りは、数秒にも満たず幕を閉じた。

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