表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヤンデレ少女の弟子にされたんだが。  作者: ぱりぽり土鍋
第一章 異世界召喚とヤンデレ魔導士
2/168

俺の魔法なんだが

「……エド、もう朝よ、起きて」


 眠い……あと少しだけでいいから寝させてくれ……。


「だめよ、朝ごはんが冷めちゃうでしょ。いいから早く起きなさい」


 わかった、わかった。わかったからあっちいってくれ……。


「あっち!?うぅ……そ、そっちがそのつもりなら……」


 ギシリ……と俺のベットがきしむ音。


 何だ……一体……。


「……ふー」

「――ッ!?」

 

 俺の耳元に熱い吐息。


 それに驚いた俺の目の前には、アリサがいた。


「や、やっと起きたわね、エド……」


 恥ずかしそうに見つめてくるそんなアリサの頭を、何とも言えない気持ちでもしゃもしゃと撫で、俺はベットから起き上がった。



 ***



 寝ぼけながらも俺は朝食を食べる。


 こう言うのもなんだが、アリサは料理がうまい。

 昨日もお世話になったが、その繊細な見た目通り、料理もとても丁寧だ。


 俺がうまいと言うとアリサは「やはり料理は愛だったのよ! 」とか言って喜んでいた。よくわからん……。



「ところでエド、今日からもう魔術の訓練始めたい?」

「ああ、頼む。だけどいいのか?研究とかは? 」


 アリサは食後の紅茶を用意してくれる。


「いいのよ、研究の方はひと段落ついているから。だからしばらく研究はお休みね」

「なるほどな……そういえばアリサってすごい魔法使いなんだよな?そんなアリサ()はこんな森の奥でどんな研究してたんだ?」


 若干おどけながら俺は言う。

 ……からかわれているばかりでは、な。


「本当に私はすごい魔導師なのよ!?……もう」


 そんな俺の態度に、アリサは少し不満気であった。


「私の研究は主に魔獣についてだったわ。魔獣の習性、特徴なんかを調べていたの。それもひと段落ついて自由な時間ができたから、エドに魔術を教えてあげられるってわけよ」


 ふふん、と胸を張るアリサ。


 俺はそれをすごいなー、流石はアリサだなー、と適当におだてながら、話を進めていく。


「キリがついたのなら、近いうちにここから出て行くのか?魔獣で危ないんだろう、この辺りは」

「……それはないわ」


 若干迷って、アリサは答えた。


 ……その態度からして、どうもきな臭い。


「何か理由でもあるのか?」

「……そうね」


 アリサの表情が、暗くなる。


「……ここが私の家だから、かしら」


 それを一瞬で消して、アリサは俺にうっすらと笑いかけた。


「また、いつか話すわ」


 アリサは、しっかり俺の目を見てそう言った。


「ああ、わかった。その時を待つことにする」


 (……誰にだって言いたくないことの一つや二つはあるよな)


 そのまま、二人並んで紅茶を飲んだ。



 ***



 食事の後は心機一転、アリサ先生(・・)の授業である。


 アリサは眼鏡をかけ、指示棒を持ち、白衣を着て、ザ・先生!という恰好をして俺をリビングで待っていた。

 ……アリサ先生の背は俺の首元にもとどかないが。


「さぁ、エド!楽しい楽しい授業の時間よ!魔導士たるこの私の個人レッスンなんて、滅多に受けられないんだからね?」


 アリサ先生は自慢気に無い(・・)胸の前で腕を組む。


「いやーありがたいなー、ほんとなー」


 アリサ先生(・・)に合掌しながら適当感満載でそう言う俺。


「またそうやって茶化して!……まぁいいわ、さっそく始めるわよ。まずはエドの魔力、魔法特性を調べるわ。この水晶に手をかざしてくれる?」


 頬をぷりぷりさせながら、アリサは机の上の大きな水晶を指差した。


「何だこれ?」

「魔力の性質、量を図る魔道具よ」

「……魔道具(・・・)?」

「魔力さえあれば機能する道具のこと。まぁそれはどうでもいいから、とりあえず手を出して?」

「あ、ああ」


 俺が手を水晶にかざすと、水晶はポゥ……と光り始めた。


「そんな感じで大丈夫よ。すぐにわかるから、少しそのままでいてね」


 むむむ……とアリサは水晶を見る。


 しかし。


「……ん?おかしいわね……」


 首を傾げるアリサ。

 しばらく水晶を見ていた彼女はハッとして、突然忙しそうに何やら分厚い本を引っ張り出してくる。


 “なにこれ……?”とぶつぶつ呟きながら、水晶と分厚い本を見比べる。

 その表情に、先ほどまでの余裕はない。

 焦り、混乱、困惑。

 それらに彩られた、カオスなものとなっていた。

 それを見ていると、俺の中でのアリサ先生(・・・・・)威厳(・・)は、ガンガン削れていってしまう。

 

 その光景に、若干の不安を抱く俺。

 アリサ先生(・・)大丈夫か……?


「……どうした?アリサ?」

「エドガー、ちょっと静かに!」


 アリサはくわっとこちらを向くとそう言い放ち、ぶつぶつと何か言っている。


「……これはどういうこと?ええとこの属性は……あった!これよ!でもこんなの初めて見るわ……」

「……アリサ」

「異世界人だから?生まれた場所や育った環境、そして思考、視点の違いのような精神的な部分が原因かしら?」

「……アリサ!」

「それとも体の構造の違いが原因かしら?異世界人はそれがこの世界の人間とは全く異なる所があるから、新たな属性が発現したってことになる!?」

「……アリサぁ」


 考え事をしていて返事をしないアリサに、俺は途方に暮れた。



***



「ごめんなさい、エド。少し考え事をしていたわ」

「気にするな。そういうこともある……」


 あれから10分ほど呼びかけ続けると、アリサはやっと戻ってきた。


「で、俺の結果は?」

「……はっきり言って、私も見たことない結果よ」


 彼女は右手で眼鏡を掛け直す。


「おお、本当か!?」


 正直、こういう展開には思わず心が躍ってしまう。

 あれか、瞬く間に激強魔法使いになってしまう系の奴か……!

 

 ……だが、俺の期待とは裏腹に。

 アリサは微妙そうな顔をしていた。


 (う、うそだろ……待ってくれ……そんなにやばいのか?)


 結果を聞くのが急に不安になる。


「エド、あなたの属性は――『空間』

 主に物質操作の能力よ」

「くうかん……空間か!それに物質操作!か、かっこいいじゃないか!絶対強いだろ、それ!」


 ……とりあえず俺は喜んだ。何もわかってはいないが。


「念力みたいなもの……と言った方が分かりやすいかしら。

 珍しい属性で、文献とかの資料がほとんどないからわからないけど……念じれば物を動かせるのよ、きっと。そうね、例えばタンスとか動かしたりとかすれば、お引っ越しとか部屋の模様替えの時に便利そうな能力ね……!」


 アリサは分厚い本をぱたんと閉じ、ウインクしてそういった。


「……魔物倒せたりできるのか?」


 俺から眼をそらすアリサ。


「さぁ……ものをぶつける威力とか、動かせれる物とかで全然変わるし何とも……。ナイフ飛ばしたりすれば戦えるんじゃないかしら?あ、でもそれって普通にナイフ投げればいいわね……。

 と、とりあえず簡単なのでいいから、魔術使ってみたら?どの程度のものが動かせるとかまだわからないしね」


 地味だ……。

 炎柱で敵を消し炭に!――とか、真空刃で敵を切り刻む!――みたいな派手なのとは程遠い。

 ……応用はいろいろできそうだがな。


「属性もわかったことだし、早速、魔術の訓練をしてみましょうか」


 それに期待と不安を共に抱きながら、俺は頷いた



***



 アリサに連れられ庭に出る。

 ちょうど日影があったのでそちらへ向かった。

 アリサの皮膚が日差しに弱いからだ。


「エド、はいこれ」


 アリサは腕輪を取り出し装着すると、それと同じものを俺に渡した。


「これは?」

「これは共感覚の腕輪よ。

 聖遺物の一種で、この二つの腕輪を付けた者同士の感覚を共有できるの。私がこれで魔法を使う感覚を教えてあげるわ」


 (聖遺物、そういうものがあるのか)


 俺はそれを腕に嵌める。

 特にこれといった変な感じはない。


「これでどうすればいいんだ?」

「こ、これはね……」


 アリサは俺から僅かに目をそらし、明後日の方向を向いている。

 その頬は真っ赤に染まっていた。肌が白いのでわかりやすい。


「……どうした、アリサ?」


 アリサが俺の言葉にビクッとする。


「えっ?……えぇ。えっと……これはあのね……」

「なんなんだ?そんな説明しにくいものなのか?」


 俺がそういうと、アリサはふるふる、と首を横に振った。


「これはね、手をつないだ者同士の感覚を共有するってものなの!

 だからねこれはつまりいろいろな感覚が……」


 わたわたと手を振りながら、早口でしゃべるアリサ。


 感覚共有の機能を持ったレアアイテム。


 アリサが何を考えているかだいたい想像はつく。

 魔術を使用する感覚を、それを通じて俺に教えようとしてくれているのだ。

 

 しかし、もじもじとして一向に始めようとしないアリサ。

 やらなくては話が進むまい……。


「――。わかった、手を(つな)げばいいんだな?」


 俺はさっとアリサの手を握りしめた。


「……ッ!?」


 ――突然跳ね上がる、俺の心拍。そして、急に苦しくなる胸。

 その感覚に開始早々、俺は驚いていた。

 と、同時に気付く。


 ――いや、これは俺じゃない。アリサの心臓の感覚が伝わっている……!


「……アリサ、もうちょっと落ち着てくれないか?

 俺も変な気分になってしまうんだが……」


 俺も驚きはしたが、アリサはその程度ではなかったようだ。

 アリサの顔は、今にも爆発しそうなほど赤くなっている。


 (これでは訓練どころじゃないじゃないか……。頼むぞアリサ先生……)


「ご、ごめんなさい!す、すごく恥ずかしくて……自分の鼓動をエドガーも感じていると思うと……。それに私もエドガーの鼓動も感じられ」


 ぺらぺらと勢いよくしゃべるアリサを横目に、すっと俺は手を放す。


「とりあえず腕環外すぞ。手をつないでもある程度落ち着いていられたら、また腕環つけよう」

「うう……」

 

 アリサは涙目で腕環を外した。



*** 

 


 それからしばらくの間、俺とアリサは手をつないでいた。


 アリサの手は小さく、柔らかかった。

 アリサは恥ずかしいのか、うつむいてこちらを見ようとしない。


 しばらくして、俺は聞く。


「……アリサ?もう落ちついたか?」


 コクリ、とアリサは頷く。


「なら腕輪をつけよう」


 俺とアリサは腕環をつける。


 さっきよりは鼓動が落ち着いているみたいだ。アリサ自身《・・》もほっとしている。


「さぁ!私が魔法を使うから、その感覚を覚えるのよ?」


 さっきまでの態度は一変して、突然元気になるアリサ先生。

 ……どーよ私、とドヤ顔だ。


「イメージを伴った魔力が、そのイメージ通りに現象を引き起こす。

 これが魔術。とりあえず簡単なものをやってみるわね」

 

 そう言うと、アリサは深い紅の瞳を閉じた。


「まず、おなかのあたりで魔力をぐるぐるするの。

 そして頭で自分の属性でできそうなことを想像して、そしてイメージができたら、おなかでぐるぐるした魔力を手からバーっと放出する。簡単でしょ」


 臍のあたりで熱っぽいものが渦を巻きながら集まり、それが指先まで移動する感覚があった。そして、アリサは手を握っていない方の手の指先から小さな炎をともした。


 (説明曖昧すぎだろ……?感覚共有しているからまだわかるが……)

 

 なんとなく魔力を集めるような感覚は伝わって来た。

 これを何回もやればそのうち身に着けられるかもしれない……それにしても。


「すごいふわっとした説明だな。それで今まで教えてきたのか?」


 若干呆れながら、アリサにそういった――その時。

 

 俺達は魔法に集中して距離を知らぬ間に縮めていたのだろう――俺の息がアリサの耳にかかる。


「――ひゃっ!?」


 アリサがびくっと体を縮め、驚いたように俺を見た。


「――わ、悪い、不注意だった!」

「――べ、別に気にしてないから!むしろいいから!」


 アリサと俺は、そろって訳の分からない言い訳を始める。


「……そうだな、心臓がすごいバクバクいってるもんな」


 そして、またしてもアリサの心臓が激しく飛び跳ねていた。


「……」


 アリサの顔は、赤くなったり青くなったり大忙しだ。


 (――これじゃ訓練全然進まないぞ……?)


 アリサが落ち着くまで少し待って、練習を再開した……。



***



 数日後、アリサとの特訓のおかげもあって、俺は簡単な魔法なら使えるようになっていた。


 今、リビングの俺の目の前のテーブルには獣の髑髏がある。

 アリサが両手の拳を握って、傍で俺を見守っていた。


「エド、頑張って!」

「うおおお!」


 ――物質を浮かべることをイメージする。

 そして、練り上げた魔力を、目の前の髑髏(魔獣の物らしい。魔獣の素材は魔力の影響を受けやすいとのことだ)に向け、掌から魔力を放出した。


 ピクリ、と俺の魔力に当てられた髑髏が動くと、ふらふらしながらも上昇していった。

 次にイメージを髑髏を下ろすことに切り替える。

 髑髏はゆっくりと下落ち、そっとテーブルに戻った。


「くはぁ……」


 髑髏がテーブルに着いたことを確認すると、思わず全身から溜め息が出た。


 ――これは、常に魔力を切らさず、イメージを絶やさないトレーニングだ。

 イメージを切らすか、魔力の放出が止まれば、水晶は勢いよく落ちてしまう。スポーツで言う筋トレのような基礎トレみたいなものだ。


 どうやら俺の魔法は『物を動かせる』らしい。

 今のところ、メロンくらい大きさの物を一定の距離、高さまでは自由に動かすことができるようになっていた。

 この距離、高さは俺の魔力が到達できる距離だ。いまのところ半径5メートルぐらいが限度といったところか。


「エドの魔術は、考えようによってはかなり応用できるんじゃないかしら?

 一定の範囲内なら物質を自由に操れる…魔力がありさえすれば労働力の代わりに使えるし、戦闘では敵の死角からナイフを飛ばしたりとか、対人戦ではものすごく厄介だわ……」


 考え込むように頬に手を当てながら、アリサがぶつぶつと言う。

 確かにこの魔法を使いこなせるようになれば、生活面でも便利になるし、戦闘面でも役に立つだろう。


「弱点のわかりやすい魔獣なら、エドでも倒せるかもしれないわね。万一倒せなくても、私がフォローしてあげればいいし…。そういえば魔獣のお肉も足らなくなってきたし……」


 アリサが何か恐ろしいことを言っている…。

 というかいつも食っている肉は魔獣のだったのか?

 ――大丈夫なのか、それは。


「ねぇ、エド。

 もう少し魔術の練習をしたら、行きましょうか――魔獣狩りに!私がサポートしてあげるから!

 たくさんお弁当を作っておくわね!」


 (――そんなピクニックに行くような感じでいいのか!?)

 ひくひく、と震える俺の頬。


「……まだこんな魔法しかできないのに、実戦で戦えるのか?」


 髑髏をふらふらと空中で動かしながら、俺は若干の不安を抱く。


「そこは、私がみっちりしごいてあげるから大丈夫!」


 アリサは満面の笑みを浮かべ、俺にぐっと親指を突き出した。


 (――元の世界に、帰りたい……)




 そんなこんなで訓練地獄の2週間後、俺はこの世界に来て初めて、魔獣と戦うこととなった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ