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ヤンデレ少女の弟子にされたんだが。  作者: ぱりぽり土鍋
第八章 再会と未来
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別れ

「エドガーさんは任せますよッ!」


 アリサとレティシアの到着にパッ、とエドガーから離れ、展開していくセルティ達四人。


『――何だ?』


 示し合わせていたようなその動きにエドガーは掌に黒色のキューブを作り出す――。


 と、同時に。


「――おっと。だめですよ、よそ見なんて。ずっと私を見ていてください」


 ――ギュゥゥゥン……。


『――!』


 レティシアの腕に凝集する黒色の魔力。

 回転する黒の円盤。


「彼女らに攻撃したいのならば、どうぞ?」 


 ――死にますけど。


 次の瞬間、エドガーに飛んでいくレティシアの攻撃。

 それはランダムに位置を変え、しかしエドガーを逃すまいと彼の胴体を真っ二つにせんと飛翔する。


『……ちっ』


 ちょうど四方にその位置を固定したセルティ、ネム、アンジェ、チェルシー。


 エドガーは彼女らにキューブを放つのではなく――それを円盤にぶつけ弾くのを選択する。


(避けてる――)

 

 アリサは魔力を練りながら静かに観察していた。

 

 ――今、鎧で攻撃を受けながらもキューブを放っていたら四人を止められた。

 それが意味するのは、既にエドガーの鎧は私達の攻撃を受けられないほど脆くなっているということ。。

 

 ――やっと。

 やっとあの人を救う準備ができたということ。


「……さて」


 ――シュリン……。


 アリサの周囲に展開される氷の刃。


『――ぐおおおおおおおおおおッ!』


 ――跳躍するエドガー。

 

 そして。


 ――ジャギィンッ!


 エドガーは自身の周囲に黒色の剣を十本展開。

 ずらりと空を舞うそれらは、ぽろぽろ、と破片をまき散らしながらも、その主のために役目を全うしようとしていた。


(――これを凌げば――)


 エドガーに目掛けて飛んでいく黒色の線と氷の剣。


 しかしそれを素早く剣で弾き、回避しながらエドガーはアリサ達ととの距離を詰めていく。


 そして――衝突。


 ――ギィィィィンッ!


『――』

「――くっ」


 レティシアと、壊れた兜から覗くエドガーの赤眼が交錯する。

 レティシアの掌に展開されているのは、暗黒の盾と衝突する黒剣。

 しかし、黒剣はずずず……とそれに沈んでいき――。


 ――ザパッ!


「――クッ!」

『……シッ」


 ざっくりと切り裂かれたのは、レティシアの盾。


 二の太刀。

 エドガーの周囲にずらりと並ぶ剣が流れるように振るわれ、レティシアの体を切り刻まんと迫る。


 しかし、それと同時にエドガーのすぐ頭。

 そこに氷のナイフを握り振り降ろすは白銀の髪の女――アリサ。


 ――ガッ!


『――グッ』


 それをじっと露わになった紅の目で視認しながら、その場で体を回転させるエドガー。


 それと共に振るわれた黒剣はアリサの氷のナイフを弾き飛ばすが、同時にその剣も氷に取り込まれる。


『――チッ』


 衝突した瞬間黒剣を侵食する氷に、即座にそれを手放すエドガー。


 それと同時に大地より突き出す一本の黒剣。

 エドガーはそれを素早く握り――。


「――ぁあッ!」


 ――ガギィィィッ!


 アリサへの追撃ではなく、防御。

 レティシアが繰り出した黒の掌底を、剣の腹で防御。


 エドガーは左手から黒色のキューブを作り出すが――。


 ――ガギュッ!


 エドガーがキューブ完成させる前には――アリサの氷の剣が、エドガーの左腕を切り落としていた。


「――クソがッ――!」


 とっさに土を盛り上げ、反動で自身を転がし二人から離れるエドガー。


「――逃がしは――ッ!」


 追い打ちをかけようとするレティシアだったが、それを阻むように次々に地面から突きあがる土の槍。


 それをレティシアは黒の光線で薙ぐように破壊する。


 そして――。


「……エド」

「……とうとう、か」


 土の壁の向こう。


 そこには、一人の男がいた。


 膨大な魔力を行使してきた反動で根元まで色素を失った白髪。

 どっぷりとその瞳の奥まで魔力で染まってしまった紅の隻眼。

 細胞の一片まで自分の物ではなくなったのを示すかのような黒色の肌。

 肘から先をバッサリと失われ、どくどくと常に血を流してきた左腕。


 ――それらは、()だ。


 すべての傷が、一人の男がこの世界で生きた証。

 彼が、彼の大切な人達のために戦った証。


「――アリサ」


 ぼろぼろ、と崩れていく黒い鎧。

 しかし、その眼は赤いまま。


 ――彼に残された選択肢はたった一つ。


「……これで終わりにしよう」


 エドガーが、右腕をふっと持ち上げた。


 ――ギュン。


 凝集する魔力。

 それは今までで最も強大で、膨大な最後の一撃。


 それに対し動くは――レティシア。


「――私が」


 抑えるようにアリサを止め、彼女もまた、両腕に魔力を凝集させていく。


 そして、アリサが頷くよりも早く――。


『――らぁあああああああああああああああああああああああああ!!!!!』


 エドガーの右腕より、極太の熱線が放たれる。

 そして、それを打ち消すようにレティシアから放たれるのは、極太の黒線。


 しかし、足りない。

 エドガーの攻撃を打ち消しきるには、足りない。


 ――ならば、彼女が選ぶのは一つ――。


「――行ってください!アリサ!」


 ――レティシアが黒線が形を変える。

 それは、道。

 トンネルの様にエドガーへの道が、レティシアの空間魔術による透明の道が出来上がっていく。

 彼女に頷くよりも前に、アリサはそこへ飛び込んだ。


「――エド!」


 道の先には、血涙をこぼしながら魔術を放つエドガー。


 レティシアがそれをできるだけ打ち消すも、まだ勢いは失われない。

 膨大な魔力の流れに逆らい、アリサは進む。

 ただ、愛する人の元へ。

 自分を救ってくれた人を、救うために。


『ガァァァァァァァァァァ――――――――!』


 その道の先。

 エドガーからさらに数多の黒線が、黒の物質が飛んでくる。


 でも、すべてを止める。

 凍り付く、エドガーの攻撃。 

 時間を止め、アリサは進む。


 ――ガンッ!ガギンガギンッ!


 エドガーの魔術を止めるのに消費される圧倒的な脳の容量と魔力。

 どぼどぼ、とアリサの目から流れる血。


 ――でも止まらない。

 私が、歩みを止めるわけがない。

 

 魔術は、イメージだ。

 私が込めるのは、ただ一つ。


 ――未来(・・)

 エドガーと共に笑い合う、そんな幸せな光景。


「――エド!」


 全ての魔力を、想いを纏わせ右手を突き出すアリサ。


(――破れ、破れ、破れ!殻を!壁を!エドと私を分け隔てるすべてを!)


 ――ギィィィィィィィィン……!!!


 アリサの掌が、ついにエドガーの胸に突き刺さる。


「――ぐうううおおおおおおおおおおおお!」

「――あああああああああああああああああああ!」


 アリサの腕が割れて、再生し。

 裂けて、元通りになり。

 壊れて崩壊してバラバラになって砕けて。

 それでも、骨になっても肉片になっても神経だけになっても。


 ――彼女の想いは、止まらない。 


「――エドォォォォォォォォォォォォォォ―――!」


 ぐじゅぐじゅとエドガーの肉体をかき分けるアリサの腕。

 幾千もの螺旋を描く魔力。

 アリサの想いが描かれたその掌は黒い魔力の殻を突き破り――。


「――がッ……」


 ――パキン……。


 その奥底に、届いた。

 エドガーの中心――赤い核が、アリサに握りつぶされ、割れる。


「――起動してくださいッ!」


 その瞬間、戦場に響き渡るセルティの掛け声。

 チェルシー、ネム、アンジェの魔力が、赤色の魔石に込められていく。


 起動されるは、この時のために用意した時間遡行の術式。

 エドガーの周囲の大地に張り巡らされる赤色の魔法陣。


 それはつまり、終わったと言うこと。

 エドガーの敗北であり、彼女らの勝利でもあった。


「あぁ……」


 エドガーは自身の胸に突き刺さったアリサの腕を見て。

 自身の腕を足を、胴体に浮かび上がる幾百もの魔法陣を見て。


「……アリサ」


 最後に、アリサを見て。


 ――()は、静かに笑った。


「――今まで、ありがとうな」


 ――そう、俺が最後に思ったのは、この少女との日々。


 暗い納屋での、美しい少女との出会い。  

 アリサと俺の、笑顔に満ち溢れた生活。

 二人で初めて、本音を語り合った夜。

 一緒に食べる食事は美味しかった。

 一度だけ、デートをした。本当に楽しかった。


 楽しいことだけじゃない。

 喧嘩したこともあった。

 傷つけあった時もあった。


 でも、彼女のことが、俺は本当に大好きだったんだ。

 

 彼女の心の底からの笑顔。

 もっと見たかった。


 彼女の純粋な笑い声。

 もっと聞きたかった。


 彼女の暖かい温もり。

 もっと傍にいたかった。


「じゃあな、アリサ……」


 ……いつの間にか、俺の瞳からは涙が溢れていた。

 アリサを見れば見る程、どれだけでも溢れてきた。

 

 アリサとの思い出。

 アリサの様々な表情。

 アリサとの穏やかな時間。


 そして最後に思い出したのは――。





『――エド!』 


 ――大好きな人が振り返り、心の底から嬉しそうに、俺を呼ぶ声。





「うん……うん……」


 無理やりに笑顔を作ろうとしてる癖に、アリサの顔も涙でぐちゃぐちゃだった。 


 アリサの手が、ごぼっと俺から抜けると――。


(――ああ、これで、お別れか)


 意識が薄くなっていく。


 ――キュィィィィィィィィィィィィィン。


 高速回転する全身の魔法陣。


「……会えて、よかった」


 自身のために命を懸け、救ってくれた彼女達との出会い。

 それの一つ一つに、感謝する。


「うん、私もよ……」


 でも、最後。


 ……それを見て、俺はとても悔しくなった。


 アリサは、涙で、泥で、血で汚れながらも。




 ――今までで一番、綺麗な笑顔を浮かべていたから。




 そして俺は紅の閃光に包まれ――。


「…………またね、エドガー」 


 ――後には何も、残らなかった。

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