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ヤンデレ少女の弟子にされたんだが。  作者: ぱりぽり土鍋
第七章 女王と一人の男
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始まった少女達との生活なんだが

「と、いうわけでだ、エドガー!今後は私達がエドガーの面倒を見る!」

「お、おお」


 今、俺の寝室には、バーン!と効果音が聞こえそうなほど得意げな表情を浮かべるネムと。


「――う、うっす!あ、改めてヨロシクお願いします、アニキ!」 


 両手を握りしめ気合を入れる、オレンジの髪の少女。


「――おにいちゃんの面倒は、私が見てあげるからね!」


 そして、鼻からふすん、と息巻く紫髪の幼女。


「チェルシーちゃんに全部お任せー!」


 最後に、黒と白のメッシュの髪の少女。


 ――三人の少女が、俺のベッドの前で綺麗に並んでいる。


 レティシアは、()を取りに部屋を出て行っている。


 しかし、まぁ……俺はこの少女たちとの記憶は失っているわけで。


「……悪い、自己紹介を頼めるか?」


 俺がそう聞くと、三人はしばらくの間不思議そうな表情を浮かべた後、はっ!とする。


「――アニキの一番の舎弟(・・・・・・・・・)、ライカ!」


 両腕を胸の前で組んでそう宣言する、オレンジ色の髪の少女――ライカ。


「――おにいちゃん一番の妹(・・・・・・・・・・)、リリム!」


 ライカをチラッと見てしばらく考えた後、結局自身も両腕を胸の前で組むことを選択し、そうビシッ!と宣言した紫髪の幼女――リリム。


「――チェルシーちゃん!!!」


 こちらもまた、二人にならって両腕を組む――のではなく、きゃぴっ!とピースを決め、ぺろっ!と舌をのぞかせるチェルシー。


「……こ、コホンっ!」


 その三人にネムはしばらくの間呆気に取られていると――軽く咳払いした。


「エドガー。少なくともこの三人は常ににお前の側にいさせる。何でも言ってやってくれ」

「チェルシーちゃん闘いも得意だから、心配しないでね!」


 シュッシュッとその場でシャドーボクシングを始めるチェルシー。


 ――ヒュゴォ!ヒュゴォ!


 その拳からは、今まで聞いたことのないほどの重い破裂音。

 その細腕から発せられているとは考えられない程の、衝撃。


「……」


 ぶはー……ぶはー……とその風圧で数メートルは離れている俺の前髪が持ち上がった。


 ――ま、魔力的な何かで強化する的なアレだろう。


 俺はあまりにも適当な理由でとりあえず、納得しつつも、その現実離れした一人の少女の力に戦慄していた。 


 そして。


 ――バギン。


「――あ」


 チェルシーの、『やってしまった……』と言う青ざめた表情と――何かが、割れる音。


「……ぅ」


 ……近くの棚の水差しが、バラバラに砕けていた。


「あちゃー……やっちゃったね、チェルシーおねえちゃん……」


 リリムが、苦しそうに俯いて、ちっちゃな(・・・・・)両掌で顔を抑える。


「オ、オレは知らないからな……」


 リリムに続き、ぷいっ!とそっぽを向くライカ。


「そ、そんな!……チェルシーちゃん大ピンチい……」


 二人に見捨てられ、うぇっ(・・・)……と涙目になるチェルシー。


「…………」


 その一瞬で、それまで明るかったその部屋は、ずーん……とした暗い雰囲気で包まれる。


「……ネム、ネム。ちょっといいか」

「……なんだエドガー?」


 俺は、ベッドの傍で微妙そうな顔をしているネムに、そっと耳打ちした。


「どうにかならないのか、あれ」


 暗い雰囲気で割れた水差しを囲む三人を、俺は指差す。


「……わかったよ、エドガー」


 するとネムは、仕方がない……というようにため息をついた。


「……レティシアには私から言っておく、三人とも気にするな」


 その言葉を聞くと、三人はほっと胸を撫で下ろす。


「……感謝するぜネムのアネキ……!」

「……よかったぁ……怒られずにすむかも……」

「……うっうっ……チェルシーちゃん助かってよかったよぉ……」


 三者三様がネムへ送る、感謝の嵐。

 そんな()の中、ネムは掃除道具を取り出していた。


「……悪いな、手間かけさせて」

「気にするな、エドガーはそこで踏ん反りがえっていればいい」


 その水差しの残骸に向かいながら、ネムは苦笑する。

 そして、喜びの舞を舞っている三人の少女をじろり、と睨んだ。


「三人とも、仕事があるだろう!ほら、早く働け!」

「「「は、はい!」」」


 びしぃ!と敬礼する三人の後ろから、ネムが目でサインを送って来る。

 

 ――あとはエドガーに任せる。


「……なるほどな、三人ともちょっと来てくれ」


 そう言いながら、少女達をちょいちょい、と右手で呼ぶ。


「?」


 三人は、とてとてと揃って歩き、俺の前に綺麗に並んだ。


「三人に頼みたいのは……そうだな……」

「!」


 俺の指示を今か今か、と待つ少女たちの眼は、やる気に満ち溢れている。

 いい子達だな――そう、何となく思った。


「とりあえず顔を洗いたい。それとだな……」

「――あとは、メシだな!」

「ああ、そうだライカ。頼めるか?」

「オレに任せてくれ、アニキ!」


 ガッツポーズをするライカは、意気揚々と部屋の奥のキッチンへと向かって行く。


「待ってよライカおねーちゃん!おねーちゃんがご飯作るのだけはだめ(・・)だよ!私に任せて!」

「チェルシーちゃんもいくー!」


 ずいずいとライカはリリムと、チェルシーを連れて奥へ行く。


「……ふ、ふむ。頃合いか……」


 そうこうしていると、ネムがベッドの側に戻って来た。

 掃除を終えたのだろう――その頬は、赤い。


「さ、三人は行ったようだな……」


 ゴチャンガチャン!とキッチの奥から騒がしい音が聞こえる。

 そちらを気にするようにチラチラと見つつも、ネムも確信したのだろう。


「エドガー……いいな?」


 ネムはそれまでとは少し変わった、熱の籠ったまなざし(・・・・)で俺を見つめた。


「では、始めるか」 

「……ネム?」

「………えだ……」


 ごにょごにょ、とネムが何かを言う。


「……三人が忙しいなら。私はお前を着替えさせてやろう、エドガー」


 そして、ネムはゆっくり……ゆっくりと俺へとにじり寄って来る。


「な、ちょっとま」

「――待たない」


 ――そのまま俺は、無抵抗のまま、ネムに下着まで着替えさせられた。



 ***



「……ま、まぁ気にするんじゃない、エドガー。な、なかなか立派なもの(・・・・・)だったぞ?」


 口の端がによぉ……と崩れているネムの言葉と。


「……ぺろっ……!これはっ……!チェルシーちゃんがいない間に何かあった味……!」


 お湯の入った桶を枕元に置いたチェルシーがそんな風にふざけているのを聞き流しながら、異世界に来て早々、新しい階段を一つ上ってしまった……と俺は思う。


 その時、ガチャリ――と扉が開き現れたのは、黒髪の美女。


「あら……どうされたのですか?」


 部屋へと戻って来た不思議そうな顔のレティシアに、俺はただ、何もない、と答えたのだった。

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