魔法についてなんだが
次の日の朝。
アリサと朝飯を食べながら早速ドラゴンについて聞いた。
俺は魔獣の肉と研究所の近くでとれた野菜のサンドイッチにぱくついていた。
「アリサ、結局ドラゴンはどうなった?倒せたのか?」
アリサはもう朝飯は済ませてあるのか、テーブルに頬杖をついて俺が食事するのをじっと見ている。
「もちろんよ。でもあの後、その場でドラゴンの死骸をひとまず凍らせておいて、エドだけ抱えて帰って来たの」
「ということは……」
にっこり、とアリサは笑う。
「今日から少しずつ、ドラゴンの死骸の回収に行くわよ。ドラゴンといったら、頭のてっぺんからしっぽの先に至るまで優秀な素材の宝庫。しばらくは毎日ピクニックに出かけることになるわね」
今日のお弁当はもう作ってある、と俺の頭より大きな弁当箱をドン、と机に乗せる。
「……そうか、頑張ろうな」
苦笑いする俺。
……昨日のようにゆっくりできる日は、当分来なさそうだ。
***
結局、今日からドラゴンの死骸を回収する日々が始まる……と意気込んだはいいものの、俺の空間魔法を利用することで休憩を挟みながらではあるが、一往復でかなりの量を運ぶことができた。
そんなこんなでその日のうちにはドラゴンの死骸全てを納屋に保管できてしまったのだ。
その日はひたすらアリサの氷のソリの上に、パーツごとに分解されたドラゴンを載せ続ける作業をすることとなった。
***
「はぁ~」
思わずため息がこぼれる。
俺は仕事の疲れを風呂で癒していた。
脱衣所の方から度々アリサが。
「……エ、エド?お湯加減はどう?疲れているでしょ?背中流してあげるわよ?」
と言ってきたが、丁寧にお断りしておく。
アリサが来たら絶対ただでは終わらないだろう――そんな気がする。
今はゆっくり、休みたいのだ。
「……もう上がるか」
気持ち良くて、すっかり長湯してしまった。
頭がふらふらする。
のぼせそうになった俺は、風呂から上がって、寝間着に着替えると、怪我の治療用の魔道具を使う。
ちなみに俺用の寝間着は俺が召喚された時には既に用意されていた。
……理由は聞いていない。
「――ッ!」
背中がもぞもぞする。
……何かが這い回るような感触。
「……くすぐったいな」
リビングで俺が悶えていると、風呂上がりのアリサがそれを見てクスッと笑った。
「背中が痒そうね?でもだめよ。ネズミさん達が必死にエドの怪我を治しているんだから」
「……ぅぐ」
そうなのだ。
今俺はドラゴンとの戦闘できた怪我の治療に、「治癒ネズミ」という魔道具を使っている。
ネズミ型の魔道具で、怪我の近くに自動で移動し治療してくれるのだ。
アリサが言うには、これは使用者から魔力を吸い取ることで動くため、誰でも扱える優れた魔道具とのこと。このネズミ達には日々の訓練後も度々世話になっているが、このもぞもぞとした感じだけはいつまで経っても慣れない。
背中から意識をそらすため、俺はアリサに質問を投げかける。
「これを作ったのって、アリサとは別の魔導士なんだっけ?というか魔導士ってなんだ?魔術師とは違うのか?」
アリサはそれに少し考える。
「魔導士が何か……ね。
そいえば私以外の魔術師に会う機会がなかったから、それらについてはあまり話していなかったわね。せっかくだし話しておきましょうか」
話が長くなるから、とアリサは紅茶と、皿に盛ったクッキーを用意した。
(……夜に食べ過ぎたら太るぞ?アリサ)
そう思いはするが、口には出さない。
「とりあえず、魔術師というのは、自分の魔力を届かせることのできる『領域』内において自分のイメージ通りに魔術を行使できる者のことを言うわ。そして魔術師の中でもその能力に応じていくつかに分類することができる。
まず、属性。
魔術の属性は基本的に4つ。エドの『空間』は例外ね。
私が使う『火』。
これは自分の『領域』内の温度を変化させる。
高温にも、低温にもできるわ。
だから私は炎も氷も操ることができる。
まぁ氷の方が使い慣れているけどね。
次に『土』。
これは前のドラゴンが使っていたわね。
土は『領域』内の物質の形態を変形させる。
質量がそのままならほぼどんな形にも変形させられるわ。
この属性は戦闘よりは金属細工だったり、技術者にはとても重宝される属性よ。
戦闘の方も、地形や、相手や自分の武器、防具を変形させたりしながら十分戦えるわね」
俺は前のドラゴンとの戦いを思い出す。地面に足をついて戦っている以上、その脅威は十分にあった。
「3つ目は『風』。
この属性は空気中の物体の流れを操ることができるわ。
空気の塊を相手にぶつける、というのはもちろん、相手の周りから空気を奪い呼吸の妨害をしたり、熟練した魔術師なら空気すら存在しない空間を作り、目に見えない刃を作り出すこともできるらしいわ。
船乗りなんかは、この属性が使える使えないで雇用条件が大きく変わってくるそうよ。
最後は『水』
液体の操作を得意とするわ。
これはほかの三つとは違ってあまり戦闘向きではないわね。威力が低いの。
もちろん水場では水流を自在に操り、それを武器に戦うわね。
そしてこの属性一番の特性は治癒能力。
人間には当然、血液が流れている。水属性の魔術を使えば、止血や毒抜きを正確に行うことができる。
直接怪我を治す力ではないけれど、水属性の魔術使いの治療を受ければ、普通の数倍の速さで怪我が治ると言われているわ。……もちろん逆に怪我を悪化させることもできる。
とまぁ、それぞれについてはこんなところね」
「風と水っていうのもあるのか」
どれもはっきりとした特徴があってわかりやすい。
「そう?それならよかったわ」
とアリサはドヤァっと満足気な笑みを浮かべると、クッキーをひとつ自分の口に放り込んだ。
「それで魔導士っていうのは?」
「魔導士はその属性を極めた者に送られる称号のことよ、それぞれの属性に一人ずついるの。
私は『火』の魔導士」
話しながらクッキーをぱくつくアリサを見る。
――アリサはまだ若い。
その年で魔導士の称号を持っていることが如何に凄くて大変な事かは今の短い説明を聞くだけでも容易に想像できた。
「それはどうやって決められるんだ?」
「基本的に前代の魔導士が指名して、指名された者が魔術師達の代表である魔術師協会に認められれば、晴れて魔導士となるの」
面倒くさい手続きが必要そうだ。
「アリサもそうだったのか?」
「そう。私、アリサ・フェオ・アステリアは、師匠であるジーコ・フェオ・アステリアの指名を受けて……魔導士となったのよ」
アリサは、自分に言い聞かせるようにそう言う。
……表情が、少しだけ揺れていた。
「その師匠……いや名前から見るに親父か?その人は今どうしてるんだ?」
アリサは、すっと目を閉じる。
「――死んだわ。もう何年も前にね」
「……。すまん、嫌なことを聞いた」
「いいの。今の私にはエドがいる、それで私は幸せだわ」
無理やりな笑みを、アリサは俺に向ける。
その言葉と表情から、アリサにとって俺が大切な存在であるというのが伝わって来た。
それと同時に、アリサにとって師匠も、大切な人だったのだろう。
少なくともアリサはその人といて、幸せであったはずだ。
「――ああ、俺もだ」
俺はアリサの頭を慰めるよう、優しく撫でる。
「……うん」
アリサは黙り込み、しばらく俺にされるがままだった。




