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ヤンデレ少女の弟子にされたんだが。  作者: ぱりぽり土鍋
第六章 女騎士と新たな魔導士
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ネムという女なんだが

「エドガー」


 会議室に入った瞬間、ネムはきりっと俺を見る。

 ちなみに今この部屋には俺達二人だけだ。

 双子は締め出しておいてある。

 ……いろいろいらないこと(・・・・・・)を言うからな、あいつらは。


「今回の戦争、卿らのお陰もあって、我らセントマリア王国はガルガンチュア帝国に歴史的な勝利を収めることができるだろう」

「まぁ、そうなるだろうな」


 これ以上俺が手出しをするつもりはないが、その必要もなくあとはセントマリア王国軍だけで終わらせることが出来るだろう。

 それだけのダメージを俺達は敵軍に与えた。

 数の面でも、そして士気の面でも。


「さすが漆黒の悪魔様だ。その鬼神の如き活躍は、その名に違わず敵味方両軍に轟くことだろう」


 ネムは俺から視線をそらす。


「……ネム」


 ……様子が少しおかしい。何かに不満げな様子だった。


「一人敵陣に勝手に突っ込み、近付くものすべてを切り裂き粉砕し破壊する。まさに百戦錬磨。その敵を敵とも思わないその戦場の支配者の如き姿は一騎当千。どうりで一時的とはいえ《《仲間》》である私に何も言わず、一人死地へと飛び出せるわけだ!」


「……ね、ネム……?」


 間違いない。ネムは俺に怒っているのだ。

 俺が単独行動したことによる軍への混乱……ではなく。

 俺達が仲間など必要ないなどというように敵陣に突っ込んでいったことを。


「エドガー!」


 ずいっとネムはその顔を近づける。

 そしてしばらく俺の瞳を穴が空くほど見つめた後、すっと視線を逸らした。


「……エドガー」


 ぎゅっとネムは俺の手を掴む。


「そんな辛い戦いを続けなくちゃいけないのか?エドガーはなんでそんなになりながらも戦い続けるんだ……」

「……辛くはない」

「嘘だ」


 ネムの吸い込まれそうなほど透明な瞳は、まるで俺の内に入り込んできそうなほど透明だった。


「卿の闘い方とその背中を見ていればわかる。エドガーには及ばないが、こう見えても私はそこそこの使い手なんだ。エドガーの闘い方は、まるで自身を顧みない闘い方だ」


「……ネム」


 そして、ぴとり、とネムの手が俺の眼帯に触れる。


 俺の左目があった場所。

 アリサとの闘いで潰れてしまって、もうそこには何もない。


 そこにネムの触れた瞬間、俺の中で何かがブワッと湧き上がる。


 それは――怒り(・・)

 その傷は、間違っても会って一日程度の人間に触れさせて良い場所ではなかったのだ。


「……触らないでくれ」


 ぐっとネムの腕をつかむ。

 ――ぎろり、と右眼でネムを睨みながら。


 しかし、ネムはそれでも腕を収めはしなかった。


「……気にすることはない、エドガー。ここも戦いで負った傷だろう?

 私はそれでお前に憐みを抱いたり、お前をかわいそうなどとは思ったりはしない。同情を寄せたりもしない」


 視線は真っ直ぐ。

 言葉も行動も、全てがどこまでも真っ直ぐな(ヒト)だ。


「……悪い」


 俺はこの(ヒト)が悪戯で左目の眼帯に触れているわけではない、と悟りすっと手から力を抜く。


 俺の腕から解放されたネムの指がするする、と俺の眼帯を撫でる。

 柔らかい指先が眼帯の上から皮膚を伝う。

 ――その手つきは優しく、今までの闘いの痛みを癒すかのよう。


「私はお前の今までの闘いを否定したくてこんなことを言っているのではない。お前は今まで、お前の大切な物のために闘い、殺してきたのだろう?それの何を恥じることがある?この目の傷だって勲章だ。お前が戦ってきた証だ。

 私はお前を尊敬している。

 だけど……」


 すっとネムの指が俺の眼帯から離れた。


「こんなすべて背負い込むような闘い方を、これ以上続けるのはだめだ。いつかおまえが壊れてしまう……」


 そう言っているネムは、泣きそうだった。


「今までも多くの屍を積み上げてきたのだろう?そしてこれからもそうなのだろう?

 ――だめだ。そんなものはだめだ。何のためであろうと、どんなに正当な理由であろうと、いかに自分自身に折り合いをつけていようと、お前は気にしていないようで罪悪感を感じている。

 自分のために死んでいく人々に。自身が殺す人々に」


「……」


 俺はその言葉に答えはしなかった。

 ただ静かに耳を傾けているだけ。


「でもそれでもお前がそんな闘いを続けていくというなら……」


 ネムは少しの躊躇いもなく、次の言葉を口にした。


「――私にも、その罪を背負わせてほしい。お前が殺すというなら私も共に剣を奮い、お前がその罪に苦しむのなら、それを共に抱えると誓おう」

「…………!?」


 ――正直俺は、訳が分からなかった。

 ネムが言っていることはつまり、そういうこと(・・・・・・)だ。

 この戦争で初めて出会った女性にこんなことを、これほど真剣に懇願されたことなどなかった。

 

 俺は今ここで頭を抱えたい衝動に襲われる。


「……待ってくれ、ネム。そんなことを突然言われても困る。それになんでお前がそこまでしようとする?この戦争であったばかりの、こんな得体のしれない男に?」


「……!」


 それにハッとしたようにネムは俺から離れると、うつむいた。


「そ、そうだ、エドガーの言う通りだな。全く、突然なんてことを言っているんだろう、私は……」


 自分が何を言っているかに気付いたのだろう。

 ほんのりとその頬が赤く染まっている。

 

 そして俺を見つめ直し、宣言した。


「だ、だがお前は私の命の恩人なのだ。私にできることがあれば何でも言ってくれ。命の代価分は働くと誓おう」


 そんな風にあからさまな気丈な振りをするネムに、なんとなく胸の奥が熱くなる。

 こういう人が皆に慕われ、騎士団長という地位まで押し上げられるのであろう。


「そう言ってくれるだけで嬉しいよ、ネム。ありがとう」

「……あ、ああ」


 照れるようにそっぽを向くネム。

 素直にかわいいと思った。

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