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ヤンデレ少女の弟子にされたんだが。  作者: ぱりぽり土鍋
第六章 女騎士と新たな魔導士
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戦争の終わりなんだが

「……いい調子だ、二人とも」


 ゴリゴリ、と俺の魔力がパスを通じて二人から放出されていく。

 今回の戦争でかなり余裕が出来そうだ。


「おっと」


 ――目の前から突き出された槍を空間魔術で捻じ曲げる。


「――ふっ」


 背後からの打撃に空気の塊をぶつけ打ち返し。

 その列ごと兵士たちをそのまま押しつぶす。


『おべぇ!』


 ぐちゅぐちょ、と俺の背後で次々に人間が潰れていく音。


「……勿体ないな」


 ……死ぬまで魔力を注ぎ込んで殺してやらなければ。


 俺は武器を取り出した。

 効率的に敵を殺しつつ、大量の魔力を注ぎ込むことが出来る武器だ。


 ファラには魔力の伝導効率の高い鎌を、フェリには同様の刀渡している。それに魔力を注ぎ込みながら奮えば、それは一撃必殺の攻撃となる。大量の魔力を消費することで、だが。


 俺の物は―――。


『何をしている!相手は一人の魔術師、丸腰ではないか!妙な魔術に気を付けさえすればよいだろう!』


 群の奥の方から偉そうな声。

 それに意気込むように、兵士たちは武器を握り直して俺の挙動を注意深く観察しながら陣を詰めていく。


「丸腰ね……」


 その時、何かがぽとり、と何かが地に堕ちた。


 ―――ブシャァァァァァァ……


「……」


 俺に降りかかる血しぶき。

 そして、俺を囲んでいた兵士全てが膝をつく。

 ――その足元に、自身の()を転がしながら。


『あ……が……何が……?』


 次の獲物たちが、目の前の仲間に起こった惨劇に、固まっている。


 その次の瞬間――。


『おゴッ』


 ――その首も飛んでいた。


「……」


 俺はその武器(・・)を獲物へと、次の獲物へと伸ばしていく。


 俺の武器――それは()だ。


 魔獣の毛で編んだ、細いワイヤーのように頑丈な糸。

 魔力伝導率が最高クラスのそれを獲物に巻き付け――。


『……おぎゃッ!』

『ゴッ!』

『ウグッ!』


 ――首を切断しつつ魔力をその器に注ぎ込められるだけ注ぎこむ。


「……」


 俺は次々に上がる叫び声を聞き流しながら、俺は戦場をゆっくりと歩いて行く。

 血しぶきを上げて倒れる死骸の間を、苦悶の表情で声にならない叫びをあげている首に見つめられながら。


 その間も()を操り、次の獲物の首を絞め、魔力を注ぎ込み、殺していく。


 相手の攻撃はその縦横無尽に張り巡らされた俺の糸が通さない(・・・・)


 圧倒的な魔力を含んでいるそれは、ただの魔術や鋼鉄などでは切断はおろか曲げることことすらできない。

 

「……きたねぇ」


 びしゃびしゃ、と俺の顔にかかる血。

 それに構うことなく、戦場を、獲物を狩るために制圧していく。


 ――それが今の俺の、闘い方だった。


 折に閉じ込め、一つの空間(・・)も残すことなく俺の武器を張り巡らせ、殺す。

 土の壁に包まれた時点で、敵は死ぬのを待つのみ。


『お……が』


 足元で豪華な装飾の鎧のおっさんが死んでいる。

 先ほど何やら指示を出していた人かもしれない。


「――まぁ、どうでもいいか」


 逃げようとする兵士達に糸を巻き付け殺しながら、俺はそう嘯いた。



***



 場所は移り、サキエル城。

 そこにも当然、天の光が消失したことに驚き、城の外を覗いた者たちがいた。

 もはや戦いですらない、一方的な蹂躙を。

 




「お……おげおげおげ……」


 その光景に参ってしまい、吐いてしまう者。


「う……」


 その惨状から眼をそむけ、耳を塞ぐ者。


 私の周りの騎士が、一人、また一人と脱落していく。


『――ぎゃぁぁぁぁぁあ!!!』

『助けて、助けてくれぇぇぇ!!』

『くるな、バケモノ、バケモノぉぉぉっぉお!』


 敵軍から上がる悲鳴、絶叫、命乞い。

 そこは正しく、地獄(・・)だった。


 三人の悪魔が、その魂を喰い尽くさんとするよう、暗闇の折に閉じ込め、一人ずつ喰らっていく。

 そこには慈悲も容赦も存在しない。

 苦しみに満ちた死が待っているだけ。


『ぁあァァァァァァァアア!』

『腕!俺の腕がァッ!」

『嫌だッ!死にたくない!死にたくない!』


 ――人の悲鳴は、なぜこうも不安を煽るのだろう。

 敵軍の悲鳴であるというのに。

 今まで我らが軍の兵士を、民を殺し続けてきた者達の悲鳴だというのに。


「……団長、少し休まれては」


 青い顔をした副官がそういう。


「……私にはこの城を任された責任がある。見届けなくては」

「ですが、あの方々なら……」

「それでもだ」


 私は地獄(・・)に目を戻す。


「戦場は私が見ておく。お前達は討ち漏らしが流れてきた場合に備え休んでおけ」

「……はっ」


 下がる副官を横目に、私は幽鬼の様に戦場を彷徨うエドガーをただ見つめた。


「戦場を闊歩する、敵の血で染まった漆黒の衣、ひたすらに死を振りまくその死神のような姿……。

 漆黒の悪魔(・・・・・)とはよく言ったものだ」


 その屍に満ちた戦場に一人、立っているエドガー。

 その天を仰ぐ後ろ姿に、私の胸がぎゅっと締め付けられる。


 ……その背中は、恐ろしい程見覚えのある物であった。



***



 ゼノビア戦争。

 

 ガルガンチュア帝国がゼノビア平原において全滅し幕を閉じたその戦争は、後にそう呼ばれることとなる。


 その戦争において、新兵器である魔獣兵、そして魔導兵により快進撃を続けていたガルガンチュア帝国は、たった三人の魔術師により全滅。


 これを機に交渉に入ったセントマリア王国は、ガルガンチュア帝国との間に停戦協定を結ぶことに成功し、これを機に今後数百年は破られることのないその友好的な関係が始まることとなる。


 ……その裏でセントマリア王国、ガルガンチュア帝国両軍において、漆黒の悪魔の名が一気に広まることとなったのは、また別の話である。

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