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ヤンデレ少女の弟子にされたんだが。  作者: ぱりぽり土鍋
第六章 女騎士と新たな魔導士
100/168

フェリ1

「……いつになく姉さん、張り切ってるなぁ~~」


 城の反対側に視線を送る。


 ……右手で敵兵の頭を握りつぶしながら。


『おゴッ……ごがッ……ごはぁッ……』


 必死にフェリの腕から逃れようともがくガルガンチュア帝国兵。


「――うざいよ、雑魚が」


 ――ごちゅり。


 何かが潰れる鈍い音を最後に、それは静かになった。


 ファラが敵兵の軍勢の中暴れまわっている間、双子の片割れ――フェリもまた遊んでいた(・・・・・)


 その最中、火箸で頭をかき回すかのようにフェリの脳内にはファラの激情が暴れまわっている。

 

 ――このゴミ共を殺したい。

 ――あのお方の役に立ちたい。

 ――あのお方に愛されたい。


「――ま、気持ちはわかるけどね」


『お、おごッ!』


 ――グゴッ!


 次の兵の頭を捻り潰す。

 パシャパシャッと降りかかる血しぶき。


 それに顔をしかめながらフェリは思う。

 ――全然楽しくない(・・・・・・・)、と。


「――エドガーと一緒にいる方がいいや」


 前はあんなに楽しかったのに――と少しだけエドガーのことを恨めしく思うフェリだった。

 


 ***



 エドガーは二人にとって特殊な人物である。

 ただ、エドガーが契約上二人の主、というだけではない。

 ファラとフェリにとってエドガーとは親であり兄であり恋人であり。

 エドガーとは自分たちを飼う(・・)にふさわしい人物。


 そう――ファラとフェリは、エドガーのことを自分たちにふさわしい飼い主(・・・)だと思っているのだ。



 ***


 ファラとフェリは、魔人である前に、もとは奴隷である。

 その種類は、実験奴隷(・・・・)

 あらゆる魔術の実験の被検体にしてもよい、という、最も待遇が悪いと言われる奴隷であった。


 当然、二人も魔術的なあらゆる実験の被検体にされることとなった。

 ただ、二人の扱いは他の被検体たちとは違う。

 研究者たちが目を付けたのは二人が双子(・・)だという点。


 双子の場合、魔術的に何が一般的な人間と異なるのか。

 それは、相互に魔力の見えないパス(・・)をつないでいる、ということだ。


 生まれながらにして、エドガーとベロニカの様に互いに契約を結びあっているような状態――それは魔力や感情、その他あらゆる要素をそのパスをつないで共有していることになる。

 それ故に、一般的な双子は能力、性格、容姿など様々な点で多くの類似点が存在する。


 ――そこに、研究者達は目を付けた。

 研究者達は、双子の差異(・・)を広げる実験を行うこととしたのだ。


 ***


 まず、二人を別室に隔離し、それぞれに強力な精神的刺激(・・・・・)を与え続けた。それにより、二人の性格に違いを生み出そうと考えたのだ。

 それを一ヶ月続けた頃、徐々に二人の性格に差異(・・)が現れ始めた。


 もとはどちらも無口(・・)であった双子の奴隷は、姉はより無口に、もう妹はよりしゃべるようになったのである。

 それと同時に、二人の魔力の属性にも変化が表れ始めた。

 もともと風属性だった二人は、姉の方は風属性がより強力な物となり、妹の方は風属性が使えなくなっていた。

 

 これに研究者達は大変驚いた。性格の変異がこれを招いたのか、それとも双子の姉妹が全く別の性格になってしまったことがパス(・・)を通じて魔力の属性に影響を及ぼしたのか。

 

 研究者達はさらにこの双子に興味を示していった。


 ***


 実験開始100日後。

 ついに姉の方も風属性を失った。日を追うごとに風属性が強くなっていた姉が、ある日を境にピタリ、とそれが使えなくなったのだ。

 それと同時に、姉妹の総魔力量が跳ね上がっていた。

 それは1.5倍~数倍、というような差ではなく、50倍(・・)

 これは明らかに人の域ではなかった。研究者たちは自分達の実験が失敗してしまったことを悟り、双子を処理することを決定する。


 しかし、その判断はあまりにも遅過ぎた(・・・・)

 その日の晩、姉妹は魔獣として覚醒(・・)したのだ。


 双子はそれまで自身らを弄り続けてきた研究者達を殺し尽し、同胞達を苦しみに満ちた生から解放し、研究所を破壊した。

 悪魔のような姿で暴れ回る双子はただの人間にはどうすることもできず、上級魔獣の一つ上に位置する魔神獸――人の手ではどうにもならない魔物、と認定されることとなる。

 

 エドガーと出会うのは、それから五十年後。

 双子という実験奴隷(・・・・)にとって生まれて初めて、絶対強者たるエドガーの契約魔獣というこの世で唯一心休まる居場所が与えられることとなる。

 


 ***



「ぁぁ――つまんないつまんないつまんない!」


 ぐちゅり、とフェリの腕に伝わる、()の心臓を握りつぶす感触。


『おご……おがぁぁぁぁあ』


 びくびくびくッと震えた後、それは動きを止めた。


 ―――バシャッ……!

 そして、破裂。


「うぇぇ……」


 フェリはそれに思わず顔をしかめる。

 血しぶき(・・・・)を一身に浴びてしまった。

 ――こういうとき、エドガーならこういう。


「……きたねぇきたねぇ……なんてね!」


『――うぉぉぁあァアアアア!!!』


 ――突撃して来る敵兵。

 ……雑魚の癖に、絶対に勝てるわけがないのに。

 ただ自分の意思を殺して戦おうとする滑稽な者たちにフェリは思わず笑みを浮かべてしまう。


「――元気だねぇ、君ら!」


 自分へと剣を構え突撃して来る兵士を横目に、フェリはゴちゅり、と腕を足元の死体に突き刺した。


「――ほら、爆弾(・・)の出来上がり」


 それに暴発寸前になるまで魔力を込めて、雑魚共の集団目掛けて投擲。


『防御――!!!魔術師、防壁を!』


 兵士たちはフェリの人間爆弾を『脅威だ』と判断したのか即座にその掛け声が上がる。


「無駄だよッ!雑魚共ッ!」


 ゴゴゴ……と土が割け、盛り上がり、壁が形成されるが。


 ―――ギュゥゥゥゥゥン……。


 それは壁にぶつかる寸前――重い音と共に、死体の内側から空間のひずみ(・・・)が発生する。


『な、なにがぁぁァガァあァアアあああ!!!』


 膨れ上がる空間のひずみはその全てを削り取り、吸収し、膨れ上がる。


 重力爆弾(・・・・)

 空間魔術の応用である。

 ゴミ掃除に最適な魔術。 


 空間のひずみ(・・・)が急速に広がり敵を地面を、すべてを飲み込んでいく。


「……はぁ、弱すぎ弱すぎ、つまんない」


 ごきゅごきゅ(・・・・・・)とその重力爆弾は辺り一帯を平らげると、自然に消滅。エドガーのものの何十分の一の効果しかないそれ(・・)だったが、あっけなくその場は丸裸になってしまった。


つまんない(・・・・・)

『ひ……ひぎ』


 足だけ飲み込まれたのだろう、地足の付け根から血を垂れ流している兵士が、地面を虫のように這い回っている。

 それにぐしゃり、とお気に入りのエドガーから(・・・・・・)盗んだナイフ(・・・・・・)を突き刺して、止めを刺した。


「……ほかにいいの(・・・)ないの?」


 フェリはもう、この戦場に楽しめるものなどないと悟っていた。

 これでは雑魚処理でしかない、と。

 こんなのただの時間の無駄。

 エドガーの横顔を見ていた方が何倍も生産的(・・・)だ――。


『ギ……ゴ……』


 ――ガチャガチャガチャ。

 敵陣の奥から金属がこすれ合い、組み合わさる音。


「――ん?」


 フェリのつまらなそうな溜め息に呼応したかのように戦場に響く、新たな音。それは、新たな敵が現れた合図だった。


 ――機械仕掛けの人形達が、そこにはいた。


 それに気付いたフェリは、顔を輝かせる。


「――お!新しいおもちゃ見っけ」


『ギ……ガァ!』


 機械人間達はぐきり、と首を回してフェリを補足した。


『――行け、魔導兵!』


 その言葉と共に、空気を圧力で軋ませながら魔導兵は空へと飛翔する。


 ――右腕には巨大な刀。

 その刃は奇怪な音を立てながら動いている。

 ――左腕には先端に穴の開いた筒。

 それはフェリを照準に収めている。


「なんだよ、それ!だっさいなぁ!」

 

 飛びかかって来る玩具たちを見上げながら――フェリはついに自身の武器を手に取った。


 それは一本の刀。

 少女の何倍もの背丈のある、一本の巨大な刀。

 ――エドガーがボクにくれた、最高の武器。


 少女は重心を落とし、その刀を下段に構え――。


「――きひッ!」


 弾丸のようにその魔導兵たちの目の前まで飛び出した。


「一匹目ェ!」


 まずは空中で回転しながら一体目の魔導兵の脳天から縦に両断。

 ズバン(・・・)、とそれは空中で左右に分かれる。


「二匹目ェ!」


 少女は次の獲物を見定めるとそちらへ向けて横に凪ぐ。

 刀の先から生み出される斬撃の籠った一閃。

 それは背後から飛びかかろうとした魔導兵を横に切断する。


「三匹目ェ!」

 

 少女は空中を蹴って方向転換。

 こちらに筒を構えていた一体の左腕を素早く切り落とし。

 そのまま二撃、三撃と続く斬撃でその胴体をバラバラにした。


「もっともっともっと!こんなんじゃ全然楽しくないよ!もっともっともっと遊ぼう!もっともっともっと!」


 ――少女は切り刻み続ける。

 敵を。

 遊び道具を。

 自身の欲望のため。

 自分の主のため。


「――キャハハハハハハハハ!!!」


 ――自身が飽きる、その時まで。

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