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ヤンデレ少女の弟子にされたんだが。  作者: ぱりぽり土鍋
第一章 異世界召喚とヤンデレ魔導士
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召喚されたんだが

「腹減ったな……」

 

 それは夜、コンビニからの帰り道だった。

 

 夜食に何かと思い冷蔵庫を見ると、我がボロアパートの食料が尽きていた。

 それで何か買いに行こうと俺はアパートを出たのだ。


 コンビニではカップ麺、お茶、おにぎりを買う。


 「これで今晩は乗り切れるか……」


 ――そして、それは、コンビニから出た直後。


 ――キキィィィィィィ!!!


 車の急ブレーキの音。そして俺の視界を遮る、車のライト。


 突如、トラックが俺目掛けて突っ込んで来たのだ。

 それに気が付いた俺は、とっさに避けようとするが、間に合わない。

 ぶつかる直前に見えた運転手は、居眠りをしていた。


 走馬燈が流れる間もない。

(……最後までクソだな)

 体がばらばらになるような衝撃を受けた俺は、そう思いながら意識を失った。



***



 ――腐臭がする。何も見えない。

 じめっとした気持ちの悪い空気。


 (――ここは……どこだ?俺はどうなった?

 死んでないのか?ここは死後の世界か?)


 とりあえず俺は重い体を起き上がらせようとしたが……。


 ――ガシャッ!

 

 ()の揺れる音。

 そして、俺の手足にひんやりとした何かの感触。


 ……俺の足、手首に金属の何かがついている。


「――ッ!?」


 (――枷だ!俺の腕、足に枷がついていて、身動きが取れない!)

 

 嫌な予感が俺の頭を駆け巡る。


 (拉致か?トラックは事故に見せかけた、俺の拉致が目的だったのか?そんな馬鹿な話があるか?誰が何の目的で……?)


 俺がガチャガチャと枷をいじっていると――。


「――気づいた?」


 暗闇に響く、鈴の音のような綺麗な声が聞こえた。

 

 (――声色からして、女か?)


「誰だ!姿を見せろ!」


 声は、俺の後ろから聞こえた。

 そして、衣服が擦れ合い、じゃり、と土を踏む音も。

 背後に何かが、いる――。


「私は魔導師、アリサ・フェオ・アステリア。

 はじめまして、異世界人さん」


 そのまま息が触れるくらいまでその女が近づいてくると……。


「――うッ!?」


 思わず俺は声を上げてしまう。

 後ろから突然、愛おしそうに抱きしめられたのだ。

 そのまま彼女の手が俺の体をまさぐる。


 (――何だこいつは?やめろ、突然触るな!)


 俺の全身を虫のように這う細く、ひんやりとした指。

 逃げようとしても、拘束具のおかげで逃げられない。

 耳元には熱っぽい彼女の吐息がかかる。


 「大丈夫。私に身を任せて。

 悪いようにはしないから……ッ!」


 その女の熱、甘い匂いに目眩(めまい)を感じながらも俺は必死にそれへ抵抗する。


 そんな突然の状況に混乱しながらも、俺の頭で言葉がぐるぐると回っていた。

 (死んだんじゃないのか?俺は?

 どういうことだ?後ろのこいつは何だ?)


「ここはどこだ?俺はなぜ生きている!」


 彼女の手から逃れようと必死に暴れる俺。

 しかし、彼女の手は俺の体を少しずつ刺激し、力を抜けさせていった。


「そう焦らないで。

 すべて説明してあげる。

 私にはあなたが必要だから」

 

 彼女は耳元でそう囁く。

 ぞくぞく、と震える俺の背筋。


 ……気色悪い。


「ふざけるな!俺をどうし…ッ!?」


 口を手でふさがれた。


「落ち着いて聞いて。

 私があなたを召喚したの。

 あなたが死にそうになっていたから。

 あなたなら私を見てくれると思ったから」

「召喚?俺を?」

「そう、あなたを」


 そいつはクスリと笑った。


 そうこうしている内に、次第に周りが明るくなってくる。


 そして、ようやく俺は見た。見ることが出来た。

 俺を呼んだ、その女の姿を。



「もう朝ね」



 雪のように真っ白の肌、

 滑らかでキラキラと輝く銀髪

 ぷりぷりと柔らかそうで桜色の唇。

 そしてルビーのように真っ赤な瞳。


 美しくて儚げな、アルビノの少女だった。


「君、私に見惚れているの?

 ……ふふ」


 そして少女ははらり、と笑った。


 

***



 あれからしばらくたったが、アルビノの少女は、まだべたべたと俺の体の隅々まで弄っている。怪我の確認でもしているんだろうが、流石に触りすぎだ……。


「……もう離れろ、それに俺の枷をいい加減はずせ」

「そうね。突然襲い掛かられたらと思ってつけておいたのだけど、冷静さも取り戻したみたい。そろそろ外してあげるわ」


 少女は名残惜しそうに俺から離れると、ガチャガチャと俺の枷を外す。


「……割とあっさり枷を外すんだな。俺は男でお前は女だ。警戒しないのか?」

「君はそう思うかもしれないけど、正直その程度あってもなくても変わらないわ。やろうと思えばいつでも魔術で君を即座に拘束できるし」

 

 そして悪戯っぽい笑顔を見せた。


(……それ枷つけなくても良かったよな?)


 ……そんな笑顔を見たら、拘束した理由を聞く気も失せてしまう。


「それじゃ、我が研究所に招待するわ。異世界人君」

「……」


 俺が黙ってそいつから背を向け逃げようとすると――。


 ――ジョギンッ!


 俺の足元に、氷柱(つらら)が生える。


 そいつは俺を見てニコリ、と無言で笑った。


 (――ほんの少しの抵抗も許してくれなさそうだ)


 溜め息をつきながら、俺は少女について行った。



***



 俺が囚われていた場所は納屋のようなところだった。


 そこから出てすぐの所に石造りの、現代日本の一般的な一軒家ほどの建物がある。


 だが、納屋とその建物の周りは深い森に囲まれていた。


「何だここは……?見るからに怪しい場所だな。

 こんなところに家構えるか?普通」


 胡散臭そうな目で少女を見つめる俺。


 ……真正面から改めて見ると、そいつはやはり美しかった。


 白を通り越して銀色に輝く髪。

 ルビーのように輝く瞳。

 陶磁器のように白く透き通った肌。


「――ッ!?そ、そんなにじっと私を見ないでくれないかしら」


 俺の視線に気付いたその少女はそう言って、恥ずかしそうにちらちらとこちらを見る。


「……悪かったよ。それより随分怪しそうな所に住んでいるんだな」


 俺がそう言うと、そいつは悪戯っぽくクスリと笑う。


「ふふ、どうしてもって言うならいつまでも見てていいのよ?

 あとここのことね、いずれわかることだから言っておくわ」


 その少女はビシリッ!と人差し指で森を指す。


「周りの森は魔獣の住処なの。魔獣っていうのは人間を襲う、魔力を持つ獣のこと。私は今魔獣の研究をしているのよ。というか、理由がなければこんな殺風景な所にいるわけないでしょ?」


 その少女はフフフとこちらを馬鹿にしたような笑みを浮かべた。


 (この世界のことを何も知らない俺がそんなことわかるか……!)

 

 そんな少女を見た俺は少しイラっとしつつ。


 (……いや、ここはスルーだ、スルー。冷静になれ、俺。

 例え異世界に召喚されて混乱しているとはいえ、こんな高校生にもなってもいないような少女の言動に惑わされるな……!)


 俺は右手を強く握りしめて、極めて自然(・・)な笑顔を浮かべた。


「よくわからんことはよくわかった、さっさとお前の家に案内してくれ」

「そうね。何せ、我が研究所へ久しぶりに人が来たんだもの!

 少し舞い上がっていたみたいだわ」


 そいつはキラキラとした笑みを浮かべながら俺の手をつかみ、ずんずんと引っ張っていく。

 建物の玄関に着くと、俺の手を離し、こちらに振り返って、こう言った。


「――ようこそ、私の魔導研究所へ!」


 いや、研究所つってもただの家だろ……と外見は普通の一軒家を見上げながら、俺はそう思った。



***



 リビングに通されると、早速俺は話を切り出した。

 (建物の中は想像通り一般的な日本の民家である。研究所とは……と考えることをその時俺はやめた)


「まず、ここはどこだ?」

「――?私の研究所だって言ったでしょ?」

「……俺はそういうことを聞いているんじゃない。この世界は何処だってことだ、わかってて言ってるよな、お前?」


 ……その上げ足の取り方、小学生か、お前は。


「……はいはい、そっちからね。

 召喚直後で聞きたいことが沢山あるのはわかるけど、少し落ち着きなさい。あと一番大事なことだけど、私の名前はお前じゃなくてアリサ(・・・)よ!」


 少しむっとしながらそう言うと、その少女――アリサ(・・・)は地図らしきものを持ってきた。


「…コホン、薄々気づいてると思うけど、この世界は君が今までいた世界とは別次元に存在しているわ。人は魔法を使い、日々魔物と戦っている。そんな世界。

 国とか大陸とかは色々あって話が長くなるから置いとくけど、一応私たちがいるこの場所はアーデルハルト王国」


 アリサは真ん中のそこそこ大きな国を指差す。


「豊かな国で、王政が敷かれている。王も善良で、国民からの支持も厚いわ。戦争しか頭にない帝国やセントマリア王国なんかと比べたら、いい国といえるでしょうね。そして私たちがいる場所はここ」


 アリサはいかにもヤバそうな赤字で書かれた、アーデルハルト王国のど真ん中を指差した。



魔神獣の森(・・・・・)



「……なんでお前はこんなヤバそうなとこにいるんだ?」

「言ったでしょ、研究よ。私は魔神獣の森に棲む、魔獣の研究をしているのよ。

 あと魔獣のことは心配しないで。結界が張ってあるからここは安全よ」


 


 (……結界がどんなものかわからないが、こいつがそう言うならいいか。

 実際召喚された夜から、危険なことは何もないし――それより、気になることがある)


「アリサ、お前さっきから魔法やら魔獣やら言ってるが……この世界には魔法があるのか?」


 魔法。

 魔力。

 魔物。

 

 ファンタジーの王道も王道。

 俺の興味の全ては完全にそちらへ向いていた。


 俺の問いに答えるように頷くと、アリサは指の先に小さな炎を灯す。


「――うおッ!?」


 突然現れた小さな炎に、俺は思わず声を上げてしまう。

 そんな俺を面白そうに見ながら、シュッ!とアリサは火を消した。


「あるわ。あなたをこの世界に呼んだのも召喚魔法って呼ばれてる魔法よ」


 (……あるのか、魔法が。

 何もないところから火を出したり、水を出したりみたいな)


 ファンタジーである。

 マジのマジにファンタジーの世界である。


 (いや、待て。俺を呼び出したのが魔法なら――)


「――魔法で元の世界へ帰るのも可能なのか?」


 俺が何気なくそう聞くと――。




「……帰りたい(・・・・)?」


 


 ――俺は気付いた。

 目の前の少女が、

 どうしようもなく悲しそうで、

 どうしようもなく寂しそうな表情を浮かべていることに。


 


「……いや、別にいい。言ってみただけだ。

 前の世界に特別未練があったわけでもない。

 それに魔法ってのも使ってみたいしな」


 アリサは、それを聞くと満面の笑みを浮かべ、顔をぐっと俺に近づける。


「――そう、そうなのね!魔術は私が教えてあげる!

 こう見えて世界に4人しかいない魔導士の一人なんだから!」


 アリサは俺の手を強く握り、ぶんぶんと上下に振る。

 俺はされるがまま、上下に体を揺らされる。


 (まぁ、未練がない……のは本当だし、こいつの助けなしではこの世界で生きていけそうもない。しばらくはアリサの元で魔法の特訓でもして過ごさせてもらうとしよう)


「わかった、しばらく厄介になる。よろしくな、アリサ」


 俺が手を握り返しながらそういうと


「こちらこそよろしくね、あ、えーと」

「あぁ、そういえばまだ名前言ってなかったな。俺は……」


 前の世界での名を出そうとしたが。


 ――この少女を安心させたい。


 先ほどの寂しそうな少女の表情に、そんな思いが俺の脳裏に浮かぶ。 


 悩んだ挙句こう言った。




「――アリサ、お前が俺の名前を考えてくれ」

「……いいの(・・・)?」


 アリサはおずおずと俺を見上げた。


 ――そう、名を捨てるということは、前の世界の俺を捨てるということ。

 今までの俺との決別だ。

 アリサは何となくそれを分かった上で俺に聞いている。

 そして前の世界のことを捨てて、こちらの世界で生きていくのか、と聞いているのだ。


いい(・・)


 はっきりとアリサの目を見て答える。


「……わかったわ」


 アリサは少し考えると俺に言った。


「エドガー。愛称はエド。

 どう?昔よく聞いたお話に出てくる、英雄の名前からとったの。

 英雄の名前から付けるのはよくあることだし……それに君も気に入ると思ったんだけど」


 そう言えば、俺の世界にもそんな名前が主人公の漫画があったな。

 今となってはどうでもいいが。


「……いいな、それにしよう。ありがとう、アリサ。今日から俺はエドガーだ」


 そういうと、アリサは優しく微笑んだ。


「うん、よろしくね、エドガー」




 ――こうして、エドガーとしての日々が、そしてアリサとの生活が始まった。

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