合宿④―冒険者の絆―
合宿の6日目は、冒険者の細かなノウハウについて色々と話を聞くことになった。
冒険者は単にモンスターを倒したり、素材を売ったり、レベル上げをするだけではなく、クエスト受給に達成、冒険者ランク上げやパーティランク上げなど結構やることが多いのだ。
あと、武器や防具の買い取り、素材ランクの買い取り具合、冒険者御用達の宿や冒険者用のアイテムショップなどについても教えてもらえるのは地味に嬉しいことなのだ。
「さて、ここで重要なステータスについて話すとしよう」
「ステータス…ですか?」
「俺たちのステータスは、ゲームに比べるとかなり簡略的なものだ。これには理由があると言われている」
「理由があったんだな…」
「ああ。ステータスはあくまでモンスターと戦うのに必要な要素だけでできているってことだな」
詳しく説明するとこうだ。
腕力だの知力だの精神力など細かな数値があっても、結局は『攻撃力』や『防御力』に集約されるだろう…と言うこと。
素早さは、回避行動に必要な情報と言うことらしい。
あと、それぞれのスキル項目にタッチすると使えるスキルが見れる仕様になっている。
「あと、固有スキルについてだが…専門誌が出ている。これは買っておくべきだな」
「そうですね。固有スキルは他のスキルと違いレベルがあります。レベルごとにスキル能力も変化するので本を買っておくのは俺もお勧めしますよ」
「固有スキルにはランクがあり、希少価値の高い固有スキル持ちは狙われる傾向がある。しかし、1つだけ回避できる方法がある」
「そんな方法があるんですか?」
「ある。固有スキル持ちが狙われる原因は『ソロの冒険者』だってことだ。だから仲間を見つけパーティを組むことで狙われなくなる。…と言うより、狙えなくなるわけだな」
「簡単に言うと、固有スキル持ちが狙われるのはソロのうちに騙して仲間にしようとする連中がいるってことなんだ。パーティを組んでしまうと、個人だけで脱退することができない。仲間の承諾があって初めてパーティを抜けられるんだ。だから、パーティを組めば無理やり脱退させることは不可能になるんだよ」
「パーティを組むって言うのは単なる仲間ってだけじゃない絆で繋がれた親友ってことだな。一生もんだと考えて良いんじゃないか?」
「それって結構重いですよね…」
「だが、価値のある重みだと思うよ」
軽い気持ちでパーティを組む気だった光太にしてみれば、この重みはかなりの重量だ。
しかし、よくよく考えればパーティと言うことは命を預け合う仲なのだから、キッドたちの言う言葉はあながち間違っていないわけで…。
そう考えると、ゼノとフィリィの考えが気になりだした。
「2人はどうなの?俺とパーティを組むのって…」
「妾はかまわぬぞ。パーティを組むと決めたときから覚悟しておったのじゃ」
「初めは人族とか…と思ったが、この3人でならやってみるのも良いと思うぞ」
「なんか思ったよりも軽くない?」
「そうは言ってもじゃ。パーティを組むのは今では冒険者の中ではポピュラーなことじゃしのう」
「それに、パーティの平均人数は5人~7人。ダンジョン攻略組のパーティだと二桁パーティはざらだからな」
「そ、そうなの…?」
大手のダンジョン攻略組のパーティになると20~30人規模のパーティも存在している…とのこと。
政府直轄の自衛隊パーティ班は100人態勢だとか。
もはや、パーティ戦略の方がポピュラーでソロの方が稀らしい。
長野県では、大規模パーティが存在しないためダンジョン攻略には小規模パーティの連携組みで行っているのだ。
今回の秋太郎もこの関係で招集されたのである。
「パーティへの考え方は人それぞれだ。ただし、相手の命を握っていると言う事実も忘れるなと言うことだな」
「パーティでの攻略が当たり前になっているからこその落とし穴ってことだね。パーティには一定の信頼関係は必要だと言うことさ」
「当たり前に慣れてしまうのも良し悪しがあるってことだな」
つまり、パーティを組むことが当たり前になってきているからこそ、基本的な相手の命を預かっていることを忘れるなと言うこと。
重いようにも思えるが、これがシリウスの言っていた『価値のある重み』なのだろう。
「相手を信頼し、信頼に足る行動をとるのがパーティの本来の姿なんですね」
「それ…忘れるなよ」
「はい」
キッドの言葉に光太は頷く。
光太は決意していた。
仲間とやっていくなら固有スキルについて知ってもらおうと。
元々、固有スキルの希少性は光太にとってそれほど重要とは思えなかった。
そこにきてのパーティポピュラーの話し。
なら隠す必要はないのでは?と思えたのだ。
「パーティを組むのなら言っておきたいことがあるんだ」
「なんじゃ、改まって」
「欲しいフィールドがあるって話なら聞いているぞ」
「まあ、それも言っておきたいことではあるけど…もっと重要なこと。俺の固有スキルについてなんだけど…」
この後の言葉に、全員が絶句したのは言うまでもない。
「…ランク『SSS』の固有スキル3つ持ち……」
「そりゃあ、迂闊に口出来ないわけだな」
「しかし、固有スキル3つ持ちと言うのも聞いたことが無いですね」
「初めてだそうです」
「その上全てのスキルが『SSS』だものな。僕でさえ、1つが『SSS』でもう1つが『SS』なのにな」
「妾は『SSS』と『S』が1つずつじゃ」
「お前ら全員、凄すぎだろう…」
「確かに、全員が『SSS』の固有スキル持ちと言うのは凄いですね」
「あの…気になっていたんですが、固有スキルのランクってどうやって決められたんでしょうか?」
「そうですね。その説明をしましょう」
実のところ、固有スキルにはそれほど優劣はないらしい。
たとえランク『C』であっても能力的には差はないらしい。
では、ランクはどのような理由でつけられたのか…。
それは、スキルレベルに関係している。
固有スキルのみにあるスキルレベルの上限によってランク付けられているのだ。
『C』ランクのスキルレベルの最大値は『3』、『B』ランクのスキルレベルの最大値は『5』、『A』ランクのスキルレベルの最大値は『7』、『S』ランクのスキルレベルの最大値は『10』、『SS』ランクのスキルレベルの最大値は『30』、そして『SSS』ランクのスキルレベルの最大値は、現状では『55』以上あることまでは確認されている。
専門家の予測ではレベル99まであるのでは?と言う話である。
「固有スキルとは『神の恩恵』ですからね。どの能力もチートスキルには違いないわけだ。ただ、その効果範囲や効果対象などが多いか少ないかだけなんですよ」
「それが、ランクとして表されたわけですね」
効果範囲や効果対象が増えるというのは、ある意味これ以上にないほどランクの低い固有スキル持ちよりも有利になるわけだ。
「ちなみの俺の固有スキルは、『スカウトスキル』と『解体スキル』と『調合スキル』の3つです」
「僕のは、『天雷魔法スキル』と『魔法力増強スキル』だ」
「妾は、『獣化スキル』と『意思疎通スキル』じゃ」
ちなみに、ゼノの『SSS』は『天雷魔法スキル』で、フィリィの『SSS』は『意思疎通スキル』である。
ゼノの『天雷魔法スキル』は特殊な系統で『呪文』と『効果範囲』と『効果ダメージ』が増えていくというモノである。
フィリィの『意思疎通スキル』は小動物から猛獣…最終的にはモンスターとも意思疎通できると言うモノらしい。
ちなみに、『魔法力増強スキル』はレベルが上がるごとに魔法力が+(プラス)%増加していくと言うものである。
『獣化スキル』はレベルが上がるごとに獣化の進化形態が増えるだけでなく、能力や姿自体も変化すると言うものだ。
「聞けば聞くほど固有スキルって本当にチート能力なんですね…」
「いや…『SSS』の固有スキル3つ持ちが言うことじゃないからな」
「じゃがのう…光太の言うことももっともじゃ」
「ちなみに、現在確認されている固有スキルの種類は157種類ある。うち、『SSS』の固有スキルはわずか18種類、『SS』は21種類、『S』は24種類で『A』が29種類、『B』は31種類、『C』は34種類となっているらしいが、まだまだ増えるかもしれないとい話だ」
光太たちのもっともな意見にシリウスがとんでもない事実を口にする。
「神の恩恵ってどんだけあるんだろうな…?」
「まあ、ランクが違うだけで似たようなスキルが多数あるらしいから、系統別にするともっと減るらしいよ」
キッドのボヤキにシリウスはさらなる事実を口にするのだった。
結局、この日は冒険者に必要な情報の摂取と仲間の絆を深めるための1日なるのだった。
さあ、明日はOFF日。
それが終われば合宿後半の1週間が始まる。
次回で合宿編終了です。
早ければ水曜日中に掲載します。